東方閻魔帳 作:妖念
「待って、魔理沙」
箒をくるくると回しながら、意気揚々と中有の道に乗り込もうとする魔理沙を霊夢が制した。
「何だ?」
「結界が張ってあるわ」
大量の幽霊に紛れて分かりにくいが、中有の道を塞ぐように張られている大規模な結界を感じた。
これに阻まれて幽霊達は中に入れず溜まってしまっているのだろう。しかし、通り1つ丸ごと塞ぐほどの規模の結界を誰が張ったのだろうか?少なくともそんじょそこらの妖怪にできる芸当ではない。
「そうか。じゃあ、いつもの"ズル"でちゃちゃっと解除してくれ」
「分かってるわよ」
霊夢は指を交差させると、結界をそっと軽くなぞった。
冷たい風が吹いた。
幽霊が一斉に中有の道になだれ込む。
「なるほど、中有の道が結界で塞がれてたから外に亡者があんなにいたのか。......それでも分からん部分はあるが」
建ち並ぶ屋台。賑やかさそのものは普段の中有の道とかわりない。人の往来そのものはそれなりにある。しかし、営業中の店は見当たらなかった。
「その辺は直接犯人に聞きましょうか。ちょっとあんた」
霊夢はもとから中にいた亡者を適当に見繕うと呼び止めた。
「ああ?何だい?......あれ、あんた生者だな。何で生者がここにいるんだ?おかしいぞ、外に看板立てといたって......」
「看板?今、看板って言ったわよね?あのおかしな看板はあんたの仕業だったの?」
「え?ちょっと待て、霊夢。看板って......これが書いてある奴か?」
魔理沙は霊夢に紙切れを差し出した。多少乱れてはいるが、看板に書かれていたものと一致している。
「え、ええ」
「鈴奈庵で解読してもらったんだがな。これ、"立ち入り禁止"って書いてあるらしい」
「はあ?で、あんたが立てたの?何のために?」
「い、いや、違う!あんたらの言ってる看板かは分からねえが、ここの入り口付近の奴なら立てたのは俺じゃねえよ。他の奴だ。理由はほら」
亡者は親指で奥を指した。
多くの亡者がバタバタとせわしなく行き来していた。あるものは木材を担ぎ、あるものは工具のようなものを運んでいる。
「今、うち改装工事してるんだよ。看板にも書いてあったらしいんだけどなあ」
「そうなの魔理沙?」
「あー、小鈴がそんなことも言ってたな。"改装中につき立ち入り禁止"って」
「で、何であんな大袈裟な結界まで張ってたのよ。こっちは風邪引いてんの。返答次第じゃ薬代だけじゃあ容赦できないわ」
霊夢はじりじりと亡者に詰め寄った。ただでさえ顔色の悪い亡者がどんどん青ざめていく。
「か、風邪?何のことだ?ちょっと待て......ひょっとして、あ、あんた、は、博麗の巫女様か!?勘弁してくれよ!俺たちだってここ数週間、てんやわんやなんだよ」
「ごたくは結構、結界張って幽霊を神社に集め、幽霊行列なんて趣味の悪いもの作ったのは誰?」
「ついでに魔法の森にも、だ」
「そ、そんなの知る訳ねえよ。ただ......」
「ただ、何よ?」
「新しく来たお偉いさんが関係してるかもしれねえ。言ったろ、数週間バタバタしてるって。俺たちもその御方に急に改装工事を命じられたんだ。これ以上は知らねえよ!ホントだ!」
亡者は一気にまくしたて、ダッと駆け出すと、たちまちガヤガヤとした喧騒に紛れてしまった。
「あ、待ちなさい!そいつはどこにいるの!?」
「霊夢。霊夢。その質問はもう必要なさそうだぜ」
亡者をなおも追おうとする霊夢の肩を魔理沙は軽く揺すった。霊夢は振り返り、魔理沙があごでしゃくる方になおった。
一人の女がいた。
ゆっくりとしかし、確実にこちらへ歩みを進めている。
「...結界が壊されたと報告を受けて来てみれば。やんちゃなお嬢さん方ですねぇ」
青みがかった黒髪。
黒を基調としながら、金色の柄をあしらった着物。
赤くゆらめく彼岸花の髪飾り。
その全てが異様に写った。
「前にどこかで見たような気がしてならないのですが......目的はなんですか?」
「魔法の森はボロボロだが人里は何ともなかった。霊夢の話を聞いた感じだと神社にも幽霊は集まっていた......や、集められてたらしいな。ピンポイントで」
「改装だか何だか知らないけど幽霊を操って、妖怪の山を黙らせて......あんたこそ、何者?」
「なるほど、私の質問には答えてもらえませんか......なら、私もあなた方の質問に答える必要はありませんねぇ」
女は透き通った水晶玉をかざした。水晶越しに女がニヤリと笑うのが見えた。
「博麗の巫女に霧雨のお嬢さん?」
「こいつ、私達のこと......」
霊夢は大幣を構え、懐のお札に手を伸ばした。間違いなく異変の核心となる人物が目の前にいる。
「何者なの......あんた?」
「こう、話が通じねえときは実力行使が手っ取り早いぜ!」
言うが早いか、魔理沙は箒で飛び上がり、懐から八卦炉を取り出した。
ゆっくりとミニ八卦炉を前に構えた。八卦炉が赤く発光し始めた。ぐんぐんと光度が上がっていき、そして─
─恋符「マスタースパーク」─
とてつもない爆風とともに白く輝く光の帯が魔理沙の前方を吹き飛ばしていく。
八卦炉の直線上がたちまち光に塗り潰された。
女はすんでの所でそれをかわした。地面が抉れ、土煙が舞う。
「ちっ、避けたか」
女は少し焦げて黒っぽくなった自分の髪の毛を面白そうに摘まんだ。
「ほう、これがスペルカードルールというやつですか......いいでしょう。かかってきなさい!この