早朝ヨコヅナは森の中で四股を踏んでいた。
「今日も良い感じだべ」
ヨコヅナの相撲の稽古は町中だと近所迷惑になるので、住宅地から離れて森まで来て行っている。
「フォフォ、精が出るの」
そこへやって来たのは、
「鉄心学長、おはようございますだ」
川神学園学長、川神鉄心である。
突然の学長の登場ではあるが、ヨコヅナはさして驚かない。
稽古しているこの森は勝手に入って良い場所ではないのだが、その許可を申請してくれたのが鉄心なのだ。
「うむ、おはよう」
「今日はオラに用だか?」
「いや何、お主が交流戦を頑張っておったからの。要らぬ連中が近づきやせぬかとな」
「あぁ、何か観られてるだな」
ヨコヅナは自分の対する不穏な視線には意外と鋭い。
「ほほぉ、気づいておったか。長くなると嫌じゃろ、わしから言っておいてやるぞ」
「ありがとうございますだ、助かりますだ」
「多少お主の過去を話すことになるが…」
「構いませんだよ、話されて困る過去なんてないですだ」
「そうじゃな」
ヨコヅナが川神に越してきた際、少々鉄心にお世話になっており、事情も知っている。
「稽古続けていいだが?」
「おぉ、すまんの。わしのことは気にせず、続いてくれ」
ヨコヅナは四股を再開する。
「……見事じゃの~」
すり足、張り手、ブチかまし、と基礎鍛練をこなしていくヨコヅナ。
その後、ヨコヅナが相手を想定しての投げ技を練習をしていると…
「ふむ……基礎鍛錬はともかく、投げ技の練習は一人ではモノ足らぬじゃろ、川神院の稽古に参加せぬか?」
鉄心がヨコヅナの鍛錬を見て、そんな提案をする。
「オラは相撲を辞めた身だべ、鍛錬しているのは体が鈍らないようにする為ですだ」
この場合の辞めたは、角界に入る気はないという意味である。
「そんなオラが稽古に参加したら迷惑になるだよ」
「迷惑にならぬとわしが判断したから、誘っておるのじゃがの」
川神鉄心は武術の総本山ともいわれる川神院のトップ。
そんな鉄心の見立てでは…
「寧ろ、他の者達の良い刺激になると思うのでな、どうかの?」
「……う~、どうだべかな」
「そんなに嫌かの?」
正直に言えばヨコヅナは嫌だった、しかし、鉄心には世話になっているのも事実…
「今は色々大変なので、いずれ都合が合えばで良いだべか?」
先送りにする言い方(遠回しに断る時にも使われる)の返事をするヨコヅナ。
「まぁ、無理強いはせぬ……嫌がる理由を聞いても良いかの」
投げ技の練習には相手がいた方が良いとはヨコヅナも思っているし、別に川神院の稽古が厳しそうだから参加を嫌がっているわけではない。
「……怖そうな先輩がいるからだべ」
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054922126022
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