川に放り込まれた竜兵は、
「……服脱いどいて正解だったな。……チっ」
じゃれ合いであったが少し悔しいそうな顔をする。
「また負けちまったか…」
賭け試合でもヨコヅナと竜兵は戦っている。壮絶な激闘の末、その時もリング外に投げ飛ばすという形でヨコヅナが勝利していた。
竜兵にとって、本来であれば腸が煮えかえるほど悔しい事実なのだが、今ヨコヅナと仲良くしているのは、全力を出し切っての敗北だったことと、ちゃんこが美味いからだろう。
「うっしゃ!次はウチと戦おうぜヨコヅナ」
「オラが女性を殴らない事を知ってるはずだべ」
ヨコヅナが賭け試合で連勝ではなく不敗なのは、女性が対戦相手の場合ダメージのある攻撃をせず、時間切れで引き分けになるからな。
「別に良いぜ、ウチが一方的に殴るからよ」
「何も良くないだよ」
天使との手合わせには応じず、服を着て荷物をまとめるヨコヅナ。
「なんだよ!もう帰るのか?」
「用事あるのかい?」
「さっき言った代行業のバイトがあるだよ」
今から一旦帰って準備すれば、丁度いい時間になる。
「そう言えば~、師匠がヨコヅナ君もまた稽古に参加しろって言ってたよ~」
「…嫌だべ、前回参加した時ボコボコにされただけだったべ」
「師匠との五分間手合わせで膝をつかなかっただけでも大したもんだよ」
板垣三姉妹に武術の師事をしている、釈迦堂刑部は元川神院師範代で壁越えの実力者。
成り行きで一度だけヨコヅナも稽古に参加した事があるのだが、特に技などを教えてもらうようなことはなく、手合わせでボコられただけだった。
ヨコヅナは荷物を背負い、
「それじゃ、オラは帰るだよ」
「おう!またちゃんこ鍋作ってくれよ」
「次は負けねぇからな」
「バイト頑張んなよ」
「まったね~」
板垣家に見送られ、ヨコヅナは帰路につく。
その日のバイトで忠勝と顔を合わせたおり、
「井ノ中…何か顔腫れてねぇか?ひょっとして喧嘩か?」
「軽く手合わせしただ、たいした事ないだよ」
ヨコヅナの顔は確かに腫れているが、言葉通りたいしたことはない。
だが、忠勝は訝しげな表情をする。
「……ちょっと小耳に挟んだんだが…」
そう前置きして、
「少し前まで親不幸通りで賭け試合が行われていたんだ。今はもう九鬼財閥のおかげでなくなったけどな」
「そうだべか」
「そこに褌一丁で力士のように戦う奴がいたそうだ」
「そうだべか」
「そいつは期間こそ短いが不敗だったらしい、でも試合であっても女性は殴らなかったそうだ」
「そうだべか」
ヨコヅナは隠し事が得意ではない。
「この春に地方から出てきた奴だろうって言われてたんだが、…井ノ中は何か知ってるか?」
「……オラは賭博は好きじゃないだよ」
嘘は言っていない。質問に対する答えにもなってないが…
「……フ、そうか。変な事聞いて悪かったな……ちょっと待ってろ」
しかし、忠勝は深く追求するような事はせず、
「ほらよ、変な事聞いた詫びだ」
冷えた缶ジュースをヨコヅナに渡す。
「ありがとうございますだ」
「腫れてるところに当てとけ」
「はははっ……源先輩ってほんと良い人だべな」
「勘違いすんなボケ。腫れた顔を依頼人に見られてたら俺が困るからだよ」
ほんとに良い人でほんとにツンデレである。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054922126022
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