ヨコヅナが紋白の専属従者として働き出して五日が過ぎた。
どのような業務をヨコヅナが行ったかというと、
一番多いのは直江大和の協力のもと、紋白と川神中を回っての九鬼で将来働く人材集めだ。
他は、
ちゃんこ鍋屋の経験になると言われ、梅屋の厨房でヘルプ要員として働いたり、
期末テスト成績発表後に言われた英語の学習だったり、
従者部隊の希望者と格闘訓練をしたり、
などなど、四日目までは細かいミスは多々あれど、ヨコヅナは問題なく働いてた。
しかし五日目、ヨコヅナは問題を起こす。
「痛ぇだろうが!このデブ!」
「オラは止めてくれと言っただよ!」
ステイシーと喧嘩になったのだ。
「オラッ!」
ヨコヅナの顔面を殴るステイシー。
「痛っ………この…」
ヨコヅナは拳を喰らいながらもステイシーの腕を掴み、
「ちょっと強くいくだよ!」
腰投げでステイシーを投げ飛ばす。
「ぐっ……テメェ」
受け身を取りはしたが、結構背中が痛かったステイシー。立ち上がり直ぐにヨコヅナに殴りかかる。
ヨコヅナも今度は回避しつつ捕まえれるよう動く。
しかし、
「ぐっ!?」
「がっ!?」
お互いが相手に触れる前に、一時停止したかのように動きが止まる。
「何を暴れているのですか?」
九鬼家従者部隊序列3位、クラウディオ・ネウロの糸によって捕縛されたからだ。
「それで、喧嘩の原因はなんなのだ?」
廊下で正座しているヨコヅナとステイシーの前で仁王立ちして聞く紋白。
脇に、クラウディオとヒュームがいる。
「ステイシーさんがオラを銃で撃つだよ」
「実銃じゃねえよ、弾もゴム弾だ」
「銃は銃だべ」
「お前にとってはデコピンぐらいの…!」
「ステイシーお前は黙っていろ」
「うっ…」
ヒュームに殺気の籠った声で注意され言葉止めるステイシー。
「ヨコ、続けよ」
「はいだ」
事の発端は英語の学習時、教師役を務めたのは時間が空いていたステイシーだった。
ヨコヅナは英語が苦手だ、というか苦手だからわざわざ紋白が学習の時間をもうけたのだが、ステイシーはお仕置きと称してヨコヅナを銃で撃った。
ステイシーの言うとおり、実銃より威力の低い特殊な銃で、弾もゴム弾ではある。ヨコヅナはそれで撃たれて痛がりはするもデコピンを喰らった程度だ。
英語学習時は、仕事なのに勉強を教えて貰っている立場と、間違える自分が悪い、と考えて我慢していた。
だがそれ以降、からかい半分でステイシーは銃でヨコヅナを撃つようになったのだ。
「オラでも銃で撃たれるのは嫌だべ」
撃たれてもデコピンを喰らった程度だが痛いモノは痛いし、銃で撃たれるというのはダメージ以上に恐怖がある。
止めて欲しいとは言ってもステイシーは聞かず、
ヨコヅナが「これ以上撃つなら力ずくで止めるだよ」と言ったら、「やってみろよ、ノロマなお相撲さん」と答えたステイシー。
「だから、銃を持つ手を張り飛ばしただ」
ステイシーは、ヨコヅナのパワーと頑丈さは一目置いているが、スピードはないと認識していた。
しかし、威力よりも速さを重視したヨコヅナの張り手は、油断していたステイシーの予想を超えたスピードで、銃を持つ手を張り飛ばした。
そして逆ギレしたステイシーが「痛ぇだろうが!このデブ!!」と殴りかかり、
「ステイシーさんは強いから、仕方なく投げ飛ばしただ」
というのが喧嘩の原因からの全貌である。
「……ふむ、なるほど。ヨコの話は分かった。次ステイシー、何か事実と違っている点や補足する点はあるか?」
「あ、えぇ~と、その、銃は威力の低い特殊なやつでして、怪我をしないように尻を狙ってますし…」
「では、ヨコの話に嘘はないわけだな……その銃はあるか?」
「銃はこちらに」
回収していたステイシーの銃を見せるヒューム。
「我は銃に詳しくないので、弾を確認してくれ」
「………、確かに弾はゴム弾です」
「もちろんですよ、実弾だったら今頃ヨコヅナの尻はハチの巣に」
「そうか。…ヨコは我の専属だから我がやるべきだが…慣れてなくては狙いが定まらず逆に危険か」
「お任せください紋様」
「そうだなヒュームに任せる、ではクラ」
「分かっております、紋様」
クラウディオは糸を操作し、正座しているステイシーの態勢を変える。
ヒュームに尻を向けるような態勢に、
「え!?あ、ちょ…」
ステイシーが何か言う前に、パンっ!とヒュームは銃を撃つ。ステイシーの尻に向けて。
「痛がぁぁっ!!?ちょ、ちょっ」
「どうした?デコピン程度なのだろ」
「いやそれは、ヨコヅ…」
パンッ!とまた言い終わる前に撃つヒューム。
「ぎゃぁぁぁあっ!!!」
ヨコヅナだから撃たれてもデコピンを喰らった程度の反応だが、常人が撃たれれば尻であっても痛くて転げ回るぐらい威力がある。
「尻をハチの巣にするには何発必要だろうな?、どう思うクラウディオ」
「そうですね…50発程でしょうか」
「いやいや、この赤子の尻はデカいからな、100発は必要だろう」
悪魔のような老執事二人の会話にステイシーは震えながら、
「ハチの巣は言葉の綾で、そんなに撃ってな…」
「貴様には聞いていない」
さらにパンッ!とステイシーの尻に向けて弾が発射される、しかし、
「オラはそんなことは望んでないだよ」
ヨコヅナが庇うように手を射線上にいれ、弾を手の平で受ける。
「ヨコヅナ……」
「今後オラを撃たないでくれたらそれでいいだよ」
銃で撃たれ喧嘩になったとは言え、別にステイシーに同じように撃たれて欲しいとまではヨコヅナは思っていない。
「まったくヨコは甘いな。しかしそれは駄目だ」
紋白はあえて感情を殺したような声で言う。
「明らかに非はステイシーにある、信賞必罰は重要だ。誰もやりたくてやっているわけではない」
「それはそうですだが…」
「女性相手だからとそれを蔑ろにしていては組織は成り立たん。将来店を持ちたいなら憶えておけ」
「…分かりましただ。でも本当に100発とかは撃たれてないだよ。過剰な罰は良くないと思いますだ」
「フハハ。確かにな、では何発撃たれた?」
「え~と……無意味に撃たれたのは…5発ぐらい、ですだ」
英語学習の時を含めるともっと撃たれているが、それは除きからかい半分で撃たれた数を言うヨコヅナ。
「ふむ、分かった。後のステイシーへの罰は任せて良いか、ヒューム」
「ええ、お任せください」
「場所は変えて頼む」
その言葉を聞いてクラウディオは拘束の糸を解き、
「畏まりました紋様。行くぞステイシー」
ヒュームはステイシーの襟後ろを掴み引っ張っていく。
「赤子に免じて、銃で撃つのは30発にしておいてやろう」
「え、30だべか!?、3発じゃないんだか?」
ヨコヅナが撃たれたのが5発で、既にステイシーは2発撃れているので、残りは3発だと思ったヨコヅナだが、
「何事にも利子はつけないとな」
「10倍になる利子とか暴利すぎだべ」
「それに、銃での30発は罰のみの話だ」
ヒュームは理由を聞く前から殺気立っていた。確かに、普通会社で新人と喧嘩で暴力など理由関係なく問題行動ではあるがそれだけではない。
ヒュームはステイシーに鋭い視線を向ける。
「最近ステイシーは調子に乗っているようだからな」
「い、いえ、そんなことは…」
「俺の事をポンコツだと言いふらしてると聞いたが」
「そそ、そそれは…」
「今回の赤子へのパワハラといい、しっかり再教育してやる。こんな銃がデコピンに思えるほどな」
「ひいぃぃっ!!」
悪魔そのものの笑顔を浮かべながら、
「さぁ、ロックンロールにいこうじゃないか!」
「いぎぃやぁぁぁぁぁあっ!!!」
ヒュームはステイシーを引きずりながら去っていった。
「……「誰もやりたくてやっているわけではない」、は嘘だと思うだ」
「ヒュームも心を鬼にしているのだ」
「ほほ、そうです。ヒュームも
その後、明らかに非はステイシーにあるものの、事前に紋白なりあずみに相談していれば問題は起こらなかった可能性は高いと判断され、
ヨコヅナは罰として、1週間の便所掃除を言い渡された。
小説投稿サイト『カクヨム』にて、
ヨコヅナが主人公のオリジナル小説、
『なんでオラ、こんなとこにいるだ?』を投稿しております。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054922126022
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