たまには脳筋プレイも悪くない 作:カマンベールチーズ
────ブオン!
「──負けたぁー!うぐぐ、悔しいー!」
「どんなレアスキル持ってるのかわからないけど、それにしても魔法の威力高すぎだよー!」
「…………まあ、所詮は負け犬の遠吠えなんだけどねー?」
────キョロキョロ
「ところで、ランダムスポーンしたのはどこかなー。廃墟みたいに見えるけどー」
「うー?………建物に囲まれてるから、あまり視界が良くないねー。ちょっと危険だけど、上から確認した方がいいかなー?」
「よーし、それじゃあ周囲には気をつけながら…………【フライ】!」
────フワッ………ヒューン
「…………おー、やっぱり廃墟だったかー。景色が良いとは言えないなー」
「プレイヤーの姿も疎らに見えるけど、建物の中に隠れてる人とかも結構いそうだよねー?」
「…………こんな時、キースならエリアごと纏めて吹き飛ばすんだろうけどー。というか、初めてあった頃から一人だけおかしいよねー?」
「【多重詠唱】なら少しは拮抗できることがわかったのは幸いだけど、どうやってあんな火力出してるんだろー?」
────フワフワ
「………キースとフレンドになったのはサービス開始から三日後くらいの時だっけ?」
「そんな早い段階に取得できるレアスキルって、どんな条件なのかなー?クエストなら見つかってるだろうし、もっと別のなにかだよねー」
「うーん、なにかヒントになりそうなことあったかなー?………あっ、乱闘中のプレイヤーだ!ーーーー【多重炎弾】!」
────グワァーッ!?……ナ、ナンダ!?ソラカラヒノタマガ!
「ふふーん!あんまり固まってると漁夫の利されちゃうよー。ちょうど今みたいにね?」
運営の予想以上に内外問わず盛り上がりを見せながら、イベントは漸く折り返しの時間である。
先程の派手な戦闘もあってか更にキースへと注目は集まっていたが、頭一つ抜けている強力なプレイヤーは他にも沢山いるのだ。
こうして第一回イベントは様々な思惑を超えて混迷を極めていくことになる。
最強のプレイヤーと名高いペイン、神速と呼ばれるドレッド、炎帝という異名に相応しく数多のプレイヤーを率いるミィと優勝候補は多い。
その中でキースの名前を挙げる声が大きくなっており、徐々に異常性を垣間見せるメイプルも注目されるようになってきた。
そして、開始から二時間が経過、要するに残り一時間となった時に状況は大きく加速していく。
突如として運営からのアナウンスが鳴り響いた。参加者のプレイヤーは勿論として、観戦しているプレイヤーにも届いていた。
「現在の一位はペインさん二位はドレッドさん三位はキースさんです! これから一時間上位三名を倒した際、得点の三割が譲渡されます! 三人の位置はマップに表示されています! それでは最後まで頑張って下さい!」
ここからはイベントも遂に大詰めとなる。
まだ十位以内に入ることを諦めていないプレイヤーは挙って三人の元に押し寄せるだろう。
アナウンスの通りに参加者のプレイヤーの視界に表示されているマップには赤色の光点が三つ灯っていた。
「どうにも簡単には終わらせてくれないようだ」
「うぇーめんどくせーマジで?」
「ふーん……『飛んで火に入る夏の虫』になるだけでは?」
だが、何万人ものプレイヤーの中で頂点に立つ化け物たちはこの程度の苦境では揺るがない。
それこそ逆転を狙って押し寄せるプレイヤーたちを一網打尽にすれば、更なるチャンスとなる可能性もあるのだ。
彼等が気を付ければいけないのは同格のプレイヤーと遭遇することのみだった。
「────おかしいな。このバトルロイヤルは彼の得意とするイベントのはずだ。レベル差はあっても俺が一位というのは違和感がある」
そのアナウンスを聞いて、縁があってキースのことを知る故にペインは当たり前の疑問を持った。
火力に特化してる上に広域殲滅を得意とするキースが何故三位に甘んじているのか。彼をよく知るプレイヤーならばこの疑問も不思議ではない。
まあ、実際には途中からのんびりと徒歩で山に向かい始めた所為なので特に伏線でもないが。
「おいおい、マジかよ。このタイミングで来るのか。…………ったく、勘弁してくれよな」
しかして、ここに確率は収束する。
例えば、ガチャで絶対に欲しいと思ったキャラに限って当たらないようなものだ。
本気で嫌だと思っていることを起因として、それを逆に惹きつけてしまうという世界の真理が最悪のタイミングで発動した。
「────あの野郎、真っ直ぐこっちに向かって来てるじゃねーか…………!」
「んんっ? おっと、これはまさか……マップの光点の一つ、あの山にぴったり重なってるじゃんラッキー!」
顔を引攣らせて露骨に嫌そうな顔をするドレッドに対して、キースの行動は実にシンプルだった。
スキルもアイテムも使って可能な限り【AGI】を強化した上で【フレアアクセル】などの移動を補助する魔法を駆使して、恐ろしいまでの速度でドレッド目掛けて走り出したのだ。
「くそっ! ペインとキースの二人だけは戦うのはごめんだぜ! まだ逃げられるはず…………!」
完全に狙われていることを理解したドレッドは余計な危険を冒す前に逃亡を図る。
だが、この場合は正しく間が悪かったとしか言えないがキースは既に山の麓の近くまで辿り着いていたのだ。
まだドレッドを捕捉することができておらず、なおかつ一人のプレイヤー探すにはあまりにも見通しの悪い山を前にしてキースが取った行動はある意味では最適解と言えるだろう。
「うーん、どこにいるのかわからんなぁ。…………面倒だし諸共焼き尽くせばいいかな」
一位のペインも二位のドレッドも、どちらであったとしてもキースより【AGI】が高いことは確実であるのだ。
実際に赤色の光点が逃げていく速度はキースが追い掛けるよりも速く、このまま普通に走っても追いつけそうにないのだから山諸共という判断をするのは当然の帰結だった。
キースは油断なく【乾坤一擲】以外のバフを惜しみなく盛っていく。
またしても【INT】の怪物と化したキースはマップを確認して未だに目標が山の中を移動していることを確認して、ニヤリと悪辣に笑った。
「ペインかドレッドか知らないけど、恨むなら精々俺が近くにいた不運を恨んでくれよ。【プロミネンス】────!!」
そして、ここに原初の地獄が誕生する。
杖の先に赤色の極大魔法陣が展開されて見る間に輝きが増していき臨界点を超えた瞬間、真紅の豪炎が魔法陣から迸った。
莫大な炎は一度魔法陣を中心に収束してから熱閃の如く解き放たれて、一瞬のうちに燃え広がり山を真紅一色に染め上げてしまった。
「おぉー! 燃えろ燃えろっ! 全部跡形もなく焼き尽せー!! 万象一切を灰燼と為せ! ────あっ。やばいこれ凄い楽しい癖になりそう。よしっ! これから毎日山を焼こう!」
まるで自然災害のように引き起こされた地獄の如き様相を前に場違いな大笑が響き渡る。
ドレッドはここに留まっているのはやばいと警鐘を鳴らす直感に従い退避を試みたが、純粋に速さが足りなかったのか憐れ間に合わず塵と化した。
「──────まあ、そう簡単に倒せるわけないよ、なっ! 【ヴォルカニックブラスト】!!」
いつのまにか背後まで回り込んできていた何者かに向かって溶岩を散弾の如く撒き散らす。
しかし、突然の反撃に対しても襲撃者はキースとは比べ物にならない程に俊敏に動いて回避すると今度は側面から斬り込んでくる。
両者間の速度差は明確だったが、生憎と目視できる程度の速さなら見切るのに支障はなく、斬撃に合わせて的確に杖を添えるようにして受け流して呪符を使用する直前で範囲外に逃げられる。
「…………チッ! あー、もう、マジでダルいぜ…………しくじった」
キースの前に姿を現し、奇襲に失敗した徒労感を誰にともなく気怠げにぼやく襲撃者。
その正体は、第一印象では忍者のように見える。全体的に緑を基調として、森などに紛れるのに適した装備に身を包む細身の男性だった。
気怠げな雰囲気を漂わせながらも隙はなく、自然体で佇みつつ特徴的な三白眼はキースの一挙手一投足を見逃さない。
彼の名前はドレッド。イベント二位にして『神速』という異名を持つトッププレイヤーの一人である。
どうやら彼は先程の近年稀に見る暴挙もといダイナミックキャンプファイヤーの薪として焚べられる前になんとか逃げ切っていたらしい。
何故か戻ってきた上にキースの首を取ろうとして失敗したので、あと残るは真正面からのガチ戦闘のみとなってしまったが。
「というかさ。フレデリカもそうだったけど、ドレッドまで揃いも揃って背後から奇襲してくるのやめてくれない? なにそれ流行ってんの? 俺もバックスタブした方がいい?」
「いや、知らねぇよ。てか、フレデリカの奴は負けたのか。まぁ、仕方ねーよな、キースが相手なら」
どこか気の抜けるような会話の中で既にフレデリカを倒していることを仄めかす。
実を言うと、今回のイベント首位に輝くペインとドレッドとキースの三人は全員フレンドである。
たまに時間が合えばレベル上げを一緒にやることもあったし、フレデリカなども含めて互いの戦い方もある程度は知っているのだ。
だが、特にキースはソロプレイに拘りがあるのでは?(ぼっち略)と噂されるくらいパーティーを組む頻度が低いので基本的に情報が少ない。
そこで敢えて互いの知り合いのフレデリカと戦って勝利したという事実を話すことによって、未知数な戦闘力を強調してドレッドに精神的な圧力を掛けているのだ。
ある一定以上の実力を持つプレイヤー同士の戦闘は一瞬の気の緩みや僅かな油断などで勝敗が決することも珍しくはないので、こうして何気ない会話を装いながら相手を揺さぶるのは別に不思議なことではなかった。
「それよりドレッドはなんで戻ってきたんだ? あのまま俺のいる方向とは反対側に行けば逃げられただろう」
「そりゃー、あれだろ。あんなド派手に喧嘩売られておいて、一目散に尻尾巻いて逃げるほど臆病になったつもりはねーし? ────俺にも相応のプライドってもんがあるからな」
「くくくっ…………なるほど。無粋だったか。ゲーマーなら持っていて当然の矜持だな」
「そういうこと。こっちも質問いいか? どうして背後からの奇襲に気付いた? 直前までバレてないと思ったんだけどな?」
「ドレッドらしくないな。まさか気付いてないのか? あるじゃないか、マップに特大の目印がな」
「あー……そういや、そうだったぜ。予想以上に取り乱してたのか。これはマジで血迷った、なんて言われても仕方ねぇくらいのミスだな」
他愛のない話に興じながらも言葉による揺さぶりだけでなく、僅かな手足の動きや視線によってフェイントを掛けていく。
流石にトッププレイヤーと言うべきか。観戦客は二人の駆け引きが高度すぎて理解できない者も結構おり、一向に動かない状況に焦れて騒ぎ立てる観戦客も一定数いる。
けれど、この状況下に於いて最も平常心でいられないのはドレッドだった。
基本的にドレッドというプレイヤーは、というか短剣使いのプレイヤーは奇襲から反撃を許さずに連続攻撃で倒すのがセオリーである。
その短剣使いの中でも特に有名なプレイヤーとしてドレッドの名前は知れ渡っており、本来なら瞬間的な火力は低いはずの短剣使いでイベント二位まで上り詰めたのには彼の特殊な技能が大きく貢献していたのだ。
このNWOに限らず、ドレッドは数多のゲームをプレイしてきた実績を持っている。
ジャンルを選ばず様々なゲームを遊んできており、それはデータではなく確かな経験値としてドレッド自身に刻まれていた。
いつしか膨大な経験と知識は未来予知にも等しい直感となってドレッドのプレイを支える柱となり、あの大火災を免れたのも呪符を発動される前に飛び退ったタイミングの良さも、全てが経験則による直感が警鐘を鳴らしたからだった。
こうして説明しただけなら無敵のようにも聞こえなくはないが、この特殊なPSには残念ながら致命的な弱点がある。
まず危険を察知できても避けられる程に敏捷のステータスが高くなければいけないし、なによりも回避不可能な広範囲攻撃を受ければ躱すとか躱さないの話ではなくなってしまう。
どこぞの大佐が「当たらなければどうということはない」という名言を残したが、逆に言えば「当たったらどうしようもない」と受け取ることもできてしまうわけだ。
そして、現在ドレッドが対峙している相手はNWOの中でも屈指の範囲攻撃を得意とするプレイヤーである。
こうして互いに隙を窺い睨み合っている間にも常に直感は激しく警鐘を鳴らし続けており、必然的に嫌でも集中力を高めて短期決戦を狙わなければならないのだ。
だからこそ、この二人の戦闘の結末は必然のものだったのかもしれない。
ドレッドは自分でも知らず知らずのうちに焦りが募ってきており、焦燥に身を焼かれることで集中力にも乱れが生じていた。
それ故にキースがほんの一瞬だけ垣間見せた…………けれど絶好の隙を見逃さずに動こうとして、未だかつてない首筋に氷柱を突き立てられたかのような嫌な予感に体の動きを中途半端に止めてしまった。
「逸ったな、ドレッド。────【起動】【起動】【起動】【起動】【起動】」
そんな致命的な隙をキースが見逃すはずはなく、立て続けに呪符を発動していく。
だが、ドレッドも簡単にやられるような弱者ではない。雷槍を躱して、落とし穴から逃れ、鞭の如き蔦の一撃を避け、蒸気の壁を振り払い、横合いから叩きつけられる熱風を身を捩って潜り抜ける。
流石に無傷とは言わないが、殆ど間を置かずに放たれた魔法を決定打だけは喰らわないように立ち回っていた。
「ぐっ……なんだこれっ…………!」
「呪符だ。威力は低いが、発動は早い。なかなかに使い勝手はいいぞ? ほら、爆弾もやろう」
「おまっ、ふざけんなっ…………うぉおおおっ!?」
初めて見る攻撃方法に瞠目しながらも、ドレッドは決して足は止めない。
キースから呪符に加えて無造作に爆弾を次々と放り投げられることで、想定以上の爆風に煽られ吹き飛んでは地面を転がってまで致命打は避ける。
しかし、この爆弾が意外にも曲者であり、ノックバックが強烈なだけでなく【串刺し公】の効果によって防御貫通の物理ダメージがジワジワと嵩んでいき、気が付けばHPバーは残り一割となった。
何度か反撃に転じようともしたが、まるで未来予知でもしているかのようなタイミングでドレッドの進行方向に壁系魔法が発動され、やはり思うようにいかなかった。
作成時のコストが高い呪符をふんだんに使用して的確に追い詰めていき、カスタマイズして限界まで爆風を強めた爆弾も随所に投擲してくる。
完全にキースの術中に嵌ってしまい、最早このままドレッドが負けてしまうのではないかと観戦していた多くのプレイヤーは予想したが、総じてトッププレイヤーになるようなゲーマーは諦めが悪いだけでなく極度の負けず嫌いである。
「くそっ、こうなったら、せめて一矢報いてやる…………! 【神速】!」
あと少しでHPを削り切られるという矢先にドレッドはなんらかのスキルによって姿を消した。
まだキースは見たことがなかった。最強の短剣使いと目され、現在イベント二位にまで上り詰めた要因の一端であるドレッドの切り札。
レアスキル【神速】の効果は『姿が見えなくなる』こと。神の如き速さを目視できるはずがないという運営の発想によって生まれたスキルで、ここに【AGI】特化のステータスを合わせると途端に驚異的な力を発揮する。
「────消えた? まさか逃げ…………くっ!?」
唐突に姿が見えなくなったことで即座にスキルによるものと推測するが、今のドレッドは正しく死に物狂いである。
真面に考察される前に短期決戦を狙ってか再び背後から首を狙うが、豊富な対人戦の経験値、足音と風切り音、【気配察知】のスキル、あともう一つの要因によって位置を割り出し、咄嗟に頭を下げて回避する。
とはいえ、純粋な攻撃速度に於いて魔法使いが短剣使いに敵うはずもなく、続く二刀目を胴体に喰らってしまい──────しかし、確かな手応えとは裏腹にキースの頭上に表示されたHPバーは微動だにしなかった。
「なっ──!?」
今度こそ予想外の事態にドレッドは驚愕を露わに声を上げて、つい動きを止めてしまった。
ドレッドが足を止めたのは僅かな時間。本来ならばキースからの反撃を受ける前に退避することも可能な程に【AGI】のステータスに差はあったが、キースは普段よりも明らかに機敏な動きで以って振り向き様に杖を薙ぎ払った。
「【インテリジェンスアタック】──!!」
「しまっ…………ガハッ!?」
キースの杖に確かに伝わる手応え。
一撃のみ【INT】の値を【STR】として参照して物理ダメージを与える魔法使いの切り札。
非力な魔法使いとは思えない会心の一撃を以って、姿の見えないドレッドは思い切り地面に叩きつけられた。
「【起動】! …………漸く捕まえたぞ、ドレッド」
あらゆる意味で受けた衝撃によるものか、すぐには動けなかったドレッドの体を氷の棺桶に閉じ込めてこれ以上は逃げられないように拘束する。
そこで漸く事態を飲み込めたのか、未だ僅かに呆然としながら体を包み込む氷を見て、耐久スキルのお陰でHP1だけ残っている自分の状態を確認して…………諦めたように力なく笑った。
「あー、まぁ…………やっぱダメだったか」
「最後は危なかったけどな。それにしても、あれがドレッドの異名にもなってる【神速】か。対人戦ならかなり強いスキルだな」
僅か十秒間とはいえ
実際にキースも一撃目は類稀なPSを駆使して回避したが、続く二刀目は直撃をもらってしまったのだから効果は疑いようもない。
【神速】というスキルは間違いなく対人戦に於いて最強に近いスキルの一つだと思われた。
因みに、直撃したにも関わらずノーダメージだったのは【空蝉】の効果によるものだ。
致死ダメージを一日に一回だけ無効化し、更に三十秒間【AGI】を50%増加するという効果のお陰で直後の反撃も間に合った。
取得条件がレベル35になるまでノーダメージであることなので、本来ならば【AGI】が高く回避能力に優れた短剣使いなどが取得することを前提としているのだろう。
また、仮に続く三撃目を受けていても『身代わり人形』という一定ダメージまで肩代わりしてくれるアイテムがあったので、現状のドレッドのSTRなら連続で三、四回くらいなら直撃してもノーダメージだったことは秘密である。
「なぁ、キース。参考程度に聞きたいんだが……いいか?」
「スキルとかに関わらないことなら別に話してもいいぞ。例えば攻撃を受けたのにノーダメージだったのは企業秘密だからな?」
「いや、そうじゃねー。どうして一撃目は反応できたのか、と思ってな。今度は悠長にマップを見てる暇なんて、流石になかったと思うんだが?」
その質問はドレッドからしてみれば当然の疑問だろう。自信があったのだから尚更である。
あの時ドレッドの姿は間違いなく見えていなかったし、実際にキースも見失っていた。ということは【神速】のスキルに不備はなかったはずなのだ。
仮にただの勘と言われてしまえば話は終わりだが、切り札を破られたドレッドにとっては納得のいく理由が欲しいと思ってもおかしくはない。
「ああ、そのことか。姿が見えなくなっても、そこにいることには違いないだろう。勘と言えばそれまでだが、他にも微かな足音と風切り音────あと、これは偶然だが、エリア一帯が明るくなっていたお陰かな」
「明るく? ……!? あー、そういうことかよ……俺の影を見て位置を割り出した、ってわけか。めんどくせー。そこまで気にしてらんねーよ!」
「だろうな。実際、俺が気づいたのも運が良かっただけだからな」
そう、答えはすぐそこにあったのだ。
この記念すべき第一回イベントに際して、運営は張り切って専用エリアを用意した。
結果としてダイナミックキャンプファイヤーされた山に限らず、森や草原なども延焼して一定時間経つと鎮火して元どおりになる仕様になっている。
現在もキースたちの側にある山は轟々と音を鳴らして大炎上し続けており、炎は周囲を赤く照らしていたのだ。
光源が近い為に二人の影は非常に長くはっきりと地面に落ちていたので、ドレッドが背後に回り込んだ時に不自然に重なる影はなによりも確実に所在を明らかにしていた。
「次があるなら、今度こそ負けないぜ」
「いや、その時もまた俺が勝つ。またな。【カーズドシャドウ】」
昏い闇色の魔法陣が浮かび上がり、不可視のなにかによってドレッドの影が切り刻まれると同時に氷の棺桶に包まれた体に血のような赤色のエフェクトが走った。
この魔法は影の見える場所であれば射程はなく回避は不可能、また影が濃い程に威力を増すという特殊な効果になっている。
既にHP1しか残っていなかったので完全にオーバーキルだったが、これはキースなりに楽しい戦闘を提供してくれたドレッドに対する謝礼代わりとして手札を一つ見せたのだ。
「さて、この後はどうするかなぁー?」
こうしてドレッドは体をポリゴンの光に変えて消え去り、またどこかで復活していることだろう。
戦闘の終了に合わせてイベント二位のドレッドを倒した報酬として、彼の集めたポイントの三割がキースのポイントに加算される。
他にも山に放火したことで百人以上ものプレイヤーを一網打尽にしており、一気にポイントが加速した。もうこれ以上は誰かに負けない限り十位以内は確定になっただろう。
「フレデリカにドレッド。二人共強くて結構疲れたし、もう戦闘はしなくていいや。適当にここら辺に隠れてようかな」
トッププレイヤーとの戦闘は短時間でも濃密であり、対人戦を得意とするキースにしても流石に疲労が溜まってきていた。
というわけで、この後は【トンネル】で地面に穴を掘って隠れると【シャドウボディ】によって【気配遮断】の効果を高めて、穴を塞ぐ直前に外に向かって【デッドリーポイズンミスト】を筆頭とした状態異常系の魔法で妨害工作を施して誰も近づけないようにした。
そのままイベント終了まで残り三十分以上もの間、キースは穴の中で過ごすことになった。
当然ながらマップにはキースの所在地に赤色の光点が灯っているので場所はバレているが、地上は猛毒の霧、酸性の雨、灼熱の蒸気、溶岩の海などが猛威を振るう地獄と化している。
そして、結局のところ最後まで誰一人としてキースの元に辿り着けた者はいなかったとか。
作者のイメージ
vsドレッドでしたが、なんだかんだで初めての被弾描写を書きましたね。
流石のキースもPSだけで全部対処できるわけないので、死に物狂いで敏捷のステータス差を押し付ける連続攻撃は回避しきれません。
終始キースのペースだったので結果的に圧倒された形になるドレッドですが、ダイナミックキャンプファイヤーの後に少しでも油断があれば最初の奇襲だけで戦闘は終わってました。
トッププレイヤー同士の戦闘はどれだけ自分のペースを押し付けられるか、または相手の思考から冷静さを奪えるかという話でした。