たまには脳筋プレイも悪くない 作:カマンベールチーズ
久し振りの投稿なので初投稿です。
第一回イベントから二日後。
学校から帰ってきた純義は、事前に頼んでいた通り珍しく家にいる母親に夕食を任せて、大急ぎで二階の自室へと駆け込んだ。
制服に皺が付かないようにハンガーに掛け、今日の授業で使った教科書やノートを纏めて机に積んでおく。今夜復習するためにも予め出しておけば忘れる心配はないのだ。
それから水分補給とトイレを済ませたら、早速『New World Online』にログインした。
何故こんなに慌ただしいかと言えば、今日は漸く母親から許可を得た理沙がゲームに参入してくる日だからだ。
しかも、それに合わせてキースともう一人の幼馴染の楓、メイプルとも合流することになっていた。勿論、純義と理沙の企みによって楓本人は純義も同じゲームをしていることは知らない。サプライズである。
まだ待ち合わせの時間には余裕はあったが、今日の大規模アップデートなど、諸々確認したいことが山ほどあるので早めにログインしたかったというわけだ。
今回の大規模アップデートの内容で、なにより一番の目玉は新たに追加マップが導入されることだろう。現在のマップを一層として、二層が追加されると言えばわかりやすいかと思われる。
一層の最北端に新しく出来たダンジョンのボスを倒すことで二層に進めるようになるらしい。これは昨日の時点で確認済みだった。
どちらにしても理沙が今日から参入する関係上、キースも直ぐに二層へと進むつもりはなかったので、一般的には一番の目玉でありながら正直なところ今すぐ関係のある内容ではないのだが、ゲーマーの端くれとしても気になるところではあった。
更にキースにとって一刻も早くログインして確認したいことは、このアップデートによって追加されたスキルやアイテムである。
当然ながら【錬金術】のレシピにも幾つか新アイテムが追加されており、更にモンスターからのドロップアイテムなども増えているとあってはコレクター気質のキースとしては見逃せないのだ。
という訳で、街中で品揃えの良い複数の店を探し回り、幾つか見覚えのないアイテムとスキルを購入・確認したキースが、いつのまにか待ち合わせ時間ギリギリになっていることに気づいて猛ダッシュで噴水広場へと向かう羽目になったのはご愛嬌である。
「これはちょっと……あっ、メイプルみっけ。目立つなぁ〜」
そうして辿り着いた広場近辺はログインしてきたプレイヤーたちで溢れ返っていた。
この人集りの中では二人を探すのも大変だと思ったのも束の間。明らかに一人だけ存在感の違う黒を基調とした装備に身を包んだメイプルが目印になり、直ぐに見つけることができた。
その隣には初心者装備の理沙らしき人物もいて、不意に視線が合うと彼女はニヤリと悪戯っぽく笑った。キースも同じように笑って返す。
「? サリー、どうしたの?」
「んんっ……おっほん。いやいや、なんでもありませんことよ。ところで、メイプルさんや」
「むっ……なんですかな? サリー殿?」
「うむ。実は紹介したい人物がおるのじゃよ……ヘイッ、カモン!」
突然始まった即席漫才を人混みに紛れて隠れながら見ていたキースは、ふと懐かしい気分が込み上げてきて思わず笑ってしまいそうになるのを慌てて堪えた。
キースが、いや純義が引っ越してから数年、携帯端末やパソコンの画面越しに話すことはあっても、直接会う機会はなかった。気軽に会いに行くには遠すぎたし、なにより学生の身ではお金の問題は如何ともしがたかった。
高校生にもなって少しばかり恥ずかしいとは思うが、どうやら寂しかったらしいと自覚して、こうしてまた三人で遊ぶ機会を作ってくれた理沙に感謝の気持ちが湧いてくる。
それはそれとして、アイコンタクトを受けてメイプルの背後に忍び寄る。ニヤリと悪どい笑みが交差する。漸く背後に誰かいることを察したメイプルが振り返ろうとした瞬間を狙い────。
「メェイ〜プゥ〜ルゥ〜〜!!」
「うわひゃぁぁああああ──!?!?」
────ドッキリ大成功である。
急に背後から肩を叩かれて大声で驚かされたメイプルと言えば、それはもう見事なリアクションを見せてくれた。
兎のように飛び跳ねて、【AGI 0】とは思えない素早さで理沙、改めサリーの背後に隠れる。第一回イベントで大暴れした無敵の『
当然ながら仕掛け人側のサリーもバシバシと自分の膝を叩きながら涙を零すレベルで爆笑している。
そんなサリーを見て、キースを見て、もう一度サリーを見ようとしてキースを二度見。じっくりと観察するようにその姿を上から下まで確認してメイプルは…………真っ赤に染まった頰をぷっくりと不満げに膨らませた。*1
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「もうっ! 二人して、あんな人がたくさんいるところで…………むぅぅっ!」
あの後、予想以上に目立ってしまった三人はそそくさと退散。サリーが必要なスキルだけをササッと購入して、現在はフィールドを猛スピードで全力疾走していた。
極振りの二人だが、片や清々しいほどの鈍足と片や装備の補正と魔法込みで【AGI】特化のサリーより僅かに速いくらいと両極端。
結果、サリーの提案によってメイプルをキースが背負う形で街道を爆走しているのであった。勿論キースの魔法で移動速度を上昇させているので、現実ではあり得ないほどに速い。
しかし、キースに背負われている
柔らかそうなほっぺは餅のように膨らんでおり、なにやら「むぅーむぅー」と唸っている。無言で抗議するようにグリグリとキースの背中に頭を押し付けているが、隣り合って走るサリーの目には未だに赤く染まった耳がチラリと見えていた。
「あははっ! ごめんごめん、メイプル。折角だからサプライズしたくて、悪ノリしちゃった」
「くくくっ! いやぁ〜、恥ずかしい思いさせて悪かったな。謝るよ、ごめん。あと、すごく可愛いかったよ。ごちそうさまでした」
「…………こらっ、二人とも! 全く悪いと思ってないでしょ! 私とっても恥ずかしかったんだからね!? キースくんも、かわいいって言えば誤魔化せると思ったら大間違いだよっ! このこのっ!」
「いっ……ちょっ、痛い痛いっ!? 頭叩くだけならともかく、髪引っ張るのは反則だって! いやっ、マジでごめん! 本当に反省してるからっ、許して…………アイタタタッ!」
当然だが、反省の色が見られない悪戯小僧には天誅が降った。*3
そんなこんなで、久し振りに再会した三人は目的地に着くまでの間、今までの時間を埋めるようにワチャワチャと騒ぎながら親交を温めたのであった。
そうして幼馴染三人組は目的地としていた場所に無事到着した。
街から南の方角にある地底湖で、現実ではなかなかお目に掛かれないような綺麗な湖である。
どうやら昨日からメイプルが新しい大盾のためにここで釣りをしているということで、特に目的のない残り二名も一緒に来ることになったのだ。ステータスの問題で釣りが捗っていないらしいメイプルのお手伝いも兼ねている。
だが、いざ釣りを始めようというところで、キースは以前クエストで手に入れてから、そのままずっとインベントリの中で放置している大盾の存在を思い出した。
「……という訳で。メイプルこれあげる。コレクションにしたままにするには惜しい性能だから」
「い、いいの? 本当に!? …………わあ〜! これすっごい強いし、騎士みたいでカッコいいね! キースくん、ありがとう! 大事にするね!」
「おやおやぁ〜? キースさんや、メイプルにはプレゼントがあるのに、初心者の私にはなにもないのかな〜?」
「あー、確かにちょっと不公平か。まだ初心者装備だし、折角だから一式いるか? サリーが装備できそうなの適当にピックアップしとくから、好きなの選んでいいぞ」
「やった! キース太っ腹! 愛してる!」*4
高難易度クエスト『深淵の呼び声』のボスを倒した際に手に入れた『騎士の大盾』を持ってご満悦なメイプル。
実際性能は高く、純粋に盾としての性能だけを見れば現在メイプルのメイン盾でもある『闇夜ノ写』よりも優れている。最低値の【HP】の底上げや装備スキル、どちらも大きな優秀な一言だ。
それを補って余りある凶悪な【悪食】があるので精々サブの盾くらいの扱いになるだろうが、全く使われないよりマシなのは間違いない。
あと、それとは別に目的の盾は作るらしい。なんでも見た目重視のオシャレ装備だとか。
また、一連の様子を見ていたサリーからも催促を受けて、いっそのこと頭から靴まで含めてプレゼントすることにした。
ノーダメ回避盾というコンセプトでやっていくとキースも聞いていたので、その手助けの意味合いが一番強いが、サリーの性格から暫く初期装備で我慢しそうと予想したことも理由の一つでもある。
キースは二人が釣りをしている姿を横目に、見た目や装備同士の取り合わせなども考慮して作ったリストをメッセージでサリーに送った。
メインウェポンの短剣は予備も含めて複数欲しいという申し出にも快く頷いて、一気にサリーのステータスは上がった。ぶっちゃけダサい初期装備と早くもオサラバできて、サリーもご満悦になった。
途中からキースも釣りに参戦。
しかし、一時間の釣果はサリーが二十一匹、キースが十三匹、メイプルが五匹という結果に終わった。
サリーは新装備によって【AGI】が大きく上昇、キースも釣りをするにあたって【AGI】【DEX】の補正が大きい装備に切り替えて、メイプルはキースに泣きついて装備を貸し出してもらい漸くこの釣果である。
更にこの時点でサリーが【釣り】のスキルを手に入れたことで、続けて一時間後の釣果は三十匹まで増えた。
その後はサリーが素潜り一時間で百二十匹の魚を仕留めたり、湖の底にダンジョンに繋がっていると思われる横穴を発見したり、ユニークシリーズの存在をキースが知ったりと色々あった。
結局メイプルはログアウトまでの間に六十匹を釣り上げて、キースは素潜りに挑戦するも成果は芳しくなく、予定もあって先にログアウトしたが、サリーは二人がいなくなった後も時間が許すまで只管に【水泳Ⅰ】と【潜水Ⅰ】のスキル上げを続けたという。
「早く、あの二人に追いつかなくっちゃね……!」
しかし、その苦行とも言える作業の中でありながら、サリーの顔には難問に挑もうとするかのような、自信に満ちた不敵な笑みが浮かんでいたのであった。
作者のイメージ
今回はキース含めた幼馴染三人組を書いてみました。
久し振りに直接顔を合わせて舞い上がってちょっと悪ノリしすぎてしまったり、照れ隠しとか諸々で一杯一杯になって髪を引っ張ってしまったり、高校生の子供らしい部分を強く押し出したので、原作とはキャラが少し違うかもしれません。
でも、そもそも二次創作だし、原作にキースはいないから男の幼馴染が増えれば多少は変わるものだよね、と言い訳してみたり。
本当は読み応えのことを思えば、この倍くらいは書きたいところですが断念しました。
アニメ二期を見てやる気が出たとは言え、すっかり書く方からは離れていた弊害で長文を書くのが大変で……モチベ下がるくらいなら短くていいやと諦めちゃいました。
それにしても本当に久し振りの投稿で若干キースのキャラが変わっているような気もしますが、多めに見てくれると助かります。
あと、この作品のことなんて忘れてしまっている人が大半かと思いますが、もし良かったらまたお付き合い頂ければ嬉しいです。
最新話以外も大幅な変更はありませんが、気になる部分とか少し添削してあるので気になる方はどうぞ。