たまには脳筋プレイも悪くない 作:カマンベールチーズ
オリチャーは悪い文明(白目)
(あっ……これ、マジでヤバいやつだ)
なにが起きたかと言うと、実のところキースも理解していなかった。
ただ、尋常ではない速度で飛翔した『魔神の影』は衝突の直前に虚空で溶けるようにしてキースの身の内に吸い込まれ、次の瞬間にはキースの全身が黒い炎に包まれていた。
視界の端に見えるHPがジリジリと減少していくのが見えて咄嗟に【ヒール】を発動しようとしたが、何故か声が出ない。
それどころか、インベントリを開いて『ポーション』を使おうとしても、まるで身体の制御権が奪われているかのように全く動かすことができなかった。
『ククク……業腹だが、我の
キースの内側から、嘲るような『魔神の影』の声が響く。
どのような方法によるものか、先程の衝突の際にキースの中に侵入して攻撃しているようだ。
ぶっちゃけ抵抗したくてもできず、目に見えてわかる影響としてはHPが減っていることだけ。そのHPも元々が少ないので残り僅かである。
(あ〜あ、これが初デスか〜。なにがダメだったんだ?)
明らかな強制敗北イベント的な展開に諦めの境地に達して、早くも次に挑む時のことを考える。
ここまで奇跡的に一度も死なずにやってこれたが、メイプルと違って紙装甲で回避も装備補正頼りの火力特化では、そう遠からずこうなっていたことだろう。
来るべき時が来ただけだと、初の敗北を受け入れようとしたその時────キースの胸元にルルゥから渡されたペンダントが現れると、突如として凄まじい光を放ち始めた。
『──な、に……? この、魔力は、賢者の……!』
装備品ではなくアイテムだったので、インベントリの中に入れっぱなしだったペンダントが勝手に装着されていることはともかく。
時間が経つにつれて、光量は際限なく増していく。
しかし、不思議なことにキースにとってペンダントから放たれる光は眩しいと感じることはなく、HPの減少が止まるどころかジワジワと回復し始め、全身を包み込んでいた黒い炎は少しずつ身体の外へと押しやられていく。
『グ、ヌゥ……ァ、ァァァアアアアア────!!』
そして、HPが全回復したタイミングで『魔神の影』が苦悶の叫びと共にキースの体外へと完全に弾き出された。
同時に、キースの身体に自由が戻る。
やはり実際に燃えていた訳ではないらしく、装備品には焼け跡一つ付いていない。貴様の全てを奪う、という言葉からするとHPドレインのような効果があったのかもしれない。
『スキル【理外の叡智】を取得しました』
『スキル【神降魔闘法】を取得しました』
『スキル【リバイヴ】を取得しました』
『オ、オォノレェェ……! 忌々しい賢者め……またしても我の邪魔をするか……!!』
なんか大量に取得したスキルの確認もそこそこに、強制的にキースの中から弾き出された『魔神の影』は、それまでと違い輪郭が不規則に歪み、人型を保てなくなっているようだった。
更に、賢者の魔力に触れたことが原因なのか、或いは無理矢理弾き出されたことによってダメージを受けたのか。実際の理由は定かではないが、一目でわかるほどに弱体化している。
今なら攻撃が通る可能性は高い。そう判断したキースの行動は早かった。
「【メンタルブースト・ダーク】! 【マジックブースト】!」
リスクの大きい【乾坤一擲】を除き、現状可能なバフを積んだ上で逆転の一撃を放った。
杖先から小さな白色の魔法陣が生成されると、連動するように『魔神の影』の真下に巨大な魔法陣が出現する。『魔神の影』も魔法発動の気配に気づいて逃れようとするが、それは少しばかり遅かった。
「────【フラッシュバースト】!」
閃光。爆発。衝撃波。
まるで小型の太陽が生まれたかのような現実離れした光景。
何故かいつもより倍近い時間、小さな広間を蹂躙していた魔法だったが、程なくして途切れる。
無事なのは祭壇だけであり、他は軒並み酷いことになっていた。綺麗に整列していた長椅子は跡形もなく消し飛び、吹き飛んで粉々に砕け散り、壁には大小様々な亀裂が走って地面には瓦礫が散乱している。
最初にこの礼拝室のような広間に入ってきた時よりも酷い状態で、これにはキースもニッコリである。
しかし、すぐに表情を引き締め直すことになった。
『────認めよう。貴様の魔法は、確かに我が身に届いた。我の司る理を用いた人間相手に、影とはいえ魔神である我が斯様に消耗させられるとは…………この感覚、久しく忘れていた』
すり鉢状のクレーターになっている爆心地には、『魔神の影』が名前通り影の如く揺らめいていた。
あれほど激昂していた姿が嘘のように穏やかな様子で、敵であるはずのキースを讃えてすらみせる。そこには先刻とは異なり、弱者を嘲るような響きは含まれていなかった。
未だに賢者の力を受けた影響は残っており、まともな人型を取ることもできないほどに弱っていながら、キースの渾身の魔法で無視できないダメージを負っているのにも関わらず…………そんな『魔神の影』を見たキースは頰を引き攣らせた。
『──故に。我が魔法の真髄で以って、貴様を無へと還そう…………死に物狂いで足掻けっ、人間!』
『────【カタストロフィ】』
『レベルが51に上がりました』
──ガタンッ。
「……しっ、死ぬかとっっ……けほっ……!!」
無人となった礼拝室で、不意に瓦礫の動く音が聞こえた。
無秩序に散乱していた瓦礫の山の一部が浮き上がり、その下から未だ嘗てなく疲労感を滲ませた声のキースが現れた。
【フライ】の魔法を使用しているのだろう。重力を無視したような動きで浮遊し、この中で唯一傷一つない祭壇の上で大の字に寝そべって全身の力を抜いた。
「…………はぁ……我ながら良く生きてたなぁ……ハハッ」
キースは寝転がったまま、視界の端に見える赤く染まったHPバーを見て思わず苦笑してしまう。
最後の攻撃で死なずに済んだのは運も含めて、様々な要因が重なったが故の偶然にすぎない。同じことをもう一度やれと言われても難しいだろう。
キースにとっての好条件が揃って五分五分、悪ければ九分九厘の確率で敢えなく死亡することになるはずだ。
あの時、即死クラスの攻撃が飛んでくることを直感的に察したキースが咄嗟に【詠唱破棄】を発動。まず【トンネル】で地面に穴を空けた。
そのまま穴に自然落下する直前に【イリュージョン】で穴を隠して自分の幻影を生み出し、それを尻目に落下するのではなく【フライ】で急降下。同時に、ずっと手に握っていた【ストーンウォールの呪符Ⅷ】で頭上の穴を塞ぐ。
大穴の行き止まりまで降りたタイミングで何故か再び使えるようになっていた【トンネル】で穴を広げて、更に急転直下しようとして『魔神の影』による魔法が発動した。
その瞬間に『空蝉』でダメージ無効化、AGI 50%上昇で移動速度が上がり、継続的な多段ダメージによって『身代わり人形』が秒で溶けたのを見て即座に【マジックフォートレス】を発動しても儚く砕け散り、ガクンと減ったHPを【ヒール】と『ポーション』で回復して、それでも先にHPが尽きそうになったところで…………ギリギリ攻撃の範囲外に脱出できた、という経緯で奇跡的に生き残った。
この間、僅か十三秒の攻防である。
「……あ"ぁ"ー……脳がとけるぅ〜……」
瞬間的ではあるが、極度の集中状態の影響でぐったりと祭壇の上で倒れ伏していたキースは、ノロノロと手を持ち上げてリザルトを確認する。
戦闘に関しては一応『撃退』扱いで、敵が阿呆みたいに強かったお陰かレベル47からレベル51に上がっており、更に戦闘中にスキルを新たに三つ取得していた。
取り敢えず、ポイントは全部【INT】にブッパして、新スキルの詳細を見ていく。
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【理外の叡智】
このスキルの所有者が使用可能な魔法系スキルの効果時間・使用回数が二倍、再発動までに必要な時間が1/3になり、消費MPが25%減少する。
取得条件
『魔神』『魔神の分身』『魔神の影』のいずれかによる特殊攻撃を受けた後、アバターの支配権を奪い返すこと。
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【神降魔闘法】
発動後、【STR】【VIT】【AGI】が50%上昇する。効果持続時間は十分間。再使用は一時間経過後。使用回数は一日五回。消費MP100。
取得条件
『魔神』『魔神の分身』『魔神の影』のいずれかによる特殊攻撃を受けた後、アバターの支配権を奪い返すこと。
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【リバイヴ】
スキル使用から一時間以内にHPが尽きた時に発動し、一度だけ死の淵から蘇り、HP・MP・状態異常を含めて完全回復する。一分間、被ダメージを50%減少させる。使用回数は一日一回。消費MP1000。
*一人につき一日一回のみ効果が適用される。同一対象に使用した場合、スキルは不発する。
取得条件
クエスト【嘗ての栄華】でルルゥから『復活のペンダント』を預かること。その上で弱体化していない『魔神の影』による特殊攻撃を受けてアイテムの効果で復活すること。
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「……うわあ……」
流石のキースもドン引きである。
どれもこれも紛うことなきブッ壊れスキルだった。
【理外の叡智】は魔法メインのプレイヤーには垂涎物の効果だし、これでパッシブというのが本当にイカれている。
先程の戦闘で【フラッシュバースト】の効果時間が長かったり、何故か【トンネル】のクールタイムが短かったのは、このスキルの影響だったわけだ。
【神降魔闘法】も色々おかしい。
三種のステータスが1.5倍とか意味わからないし、なにより効果時間に至っては十分間とか破格にもほどがある。
消費MP100というのも、明らかに効果に対してコストが安いだろう。
偶に気分転換で槍をぶん回しているキースにとっても魅力的なスキルで、これがあるなら本格的に近接戦闘用の装備を用意しても良いかもしれない。
そして、【リバイヴ】はぶっちゃけヤバい。
なんだこれは、たまげたなあ……なんて、ついネタに走ってしまいそうになるくらいにはゲームバランスを壊しかねないスキルだった。
つまり、このスキルは所謂
そして、キースにとって最も注目するべき部分は【リバイヴ】が魔法系スキルだということ。【理外の叡智】の効果も乗るし、
「またサリーにイジられそうだなぁ」
初めてサリーにステータスを見せた時のこと。
まず清々しいまでの極振りに笑われて、スキルの数に唖然とされて、取得したスキルのチート加減と噛み合わせの良さにドン引きされた。
純粋・純朴でほぼ素人ゲーマーのメイプルには言えないため、キースは「頭おかしい」「ズルい」「チート」云々と冗談半分ではあるが散々に文句や愚痴を受ける羽目になったのだ。
今では同じ魔法を使用した時の圧倒的な火力差を比較してイジられている。*2
「というか、これは……クエスト大丈夫? あっ、大丈夫なんだ。……うーん、複雑」
それはさておき。取り敢えず、ルルゥには謝らないといけないだろう。
元々古めかしい雰囲気のペンダントだったが、篭められていた力を使い果たしてしまったのか、すっかりボロい感じになっていた。骨董品とゴミくらい別物な見た目で、借り物をこんな風にしたと思うと居た堪れない。
イベントアイテムだったっぽいが、これもかなり謎アイテムではある。賢者の魔力、という言葉はキースも覚えていたが。
「そう言えば、結局この祭壇はなに? なんで無傷なの? …………ちょっと調べてみるか?」
謎と言えば、この場で最も異質な物は間違いなく祭壇である。
キースの放った【フラッシュバースト】の余波で吹き飛んだ長椅子が衝突した時も、一方的に椅子が粉々に砕け散っただけで無傷。
ギミック的に壊れないように設計されているのだとすれば、恐らくなにかしらの仕掛けがあるはず。ルルゥに謝りに戻るのは、それを探してからでも遅くはないだろう。
「………………もし戦闘になったら【乾坤一擲】使って一瞬で終わらせてやる」
完全に疲れ切った状態でフラフラしながら祭壇周りを探索すること数分、
難産でした。
前話を深夜テンションに任せて書いたことで無事プロット崩壊。
どうしたものかと悩んでましたが、もう開き直ってノリで行けるところまで行くことにしました。
諸々の悩み事や体調不良も重なり、ちょっと文章とか展開とか荒くなってるかもしれませんが多めに見て頂けると助かります。
次話も時間掛かる可能性が高いです。
完全にエタるような展開にならないよう頭を捻りながら頑張ります。
一部修正しました。
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