たまには脳筋プレイも悪くない   作:カマンベールチーズ

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ギリギリ間に合った!


知力特化と秘境の主

 

 

 

 

 

 

 

 門の中は外から見るよりもやけに広けた空間だった。

 敷地が大きいのは確かだが、それに不釣り合いなほど小さな家がより広く見せている。目の錯覚というやつだ。

 いや、実際に門の外からの印象よりも全体的に随分と広々としているようにも感じられる。これはただの錯覚で済ませていいものなのだろうか。

 そんなキースの疑問を遮るようにして声が掛けられた。

 

 

 

「何を立ち止まっておる? 早く中に入らぬか」

 

 

 

 そう言われて、つい入り口前で止まっていた足を動かす。

 小さな家の前には一人の老人が佇んでいた。キースの見る限り、如何にも魔法使い然とした姿をしている。

 右手には捩れた長杖を持ち、ローブを身に纏っている。

 白い髭は短く刈り込まれており、すらりと背が高く姿勢も良いためか後ろ姿からは年齢を読み取れないだろう。

 顔つきそのものは柔和だが、目つきは鋭く笑っていない。先程の戦闘も踏まえての印象になってしまうが、色々な意味で手強そうな人だとキースは感じた。

 

 

 

「ふむ」

「えっと……?」

「ほれ動くでない。少しの間だけ我慢せい」

 

 

 

 突然老人が近づいてきて、至近距離から瞳を覗き込まれる。

 反射的に仰け反りながら何をしているのか聞こうとするが、残念ながら取り合ってはくれず、そのまま無遠慮にキースの全身をぐるりと回って隅々まで値踏みするように観察された。

 それから正面に立って再び瞳を、その最奥まで見透かしそうな鋭い目つきで見詰められて、暫くすると老人は納得したように距離を離した。

 

 

 

「中肉中背。黒髪黒目。極めて高い魔力の質に対して量は心許ない。装備もまあ、及第点ってところかの」

 

 

 

 やはり値踏みされたようだが、この評価はどうだろうか。キースとしては少々辛口に感じた。

 とはいえ、老人からの印象は悪くなさそうだった。

 最初に比べると鋭い目つきも幾らか和らいだように見えるし、よく思い返せば寸評の中でも褒められている部分はある。極めて高い魔力の質というのは間違いなく良い評価のはずだ。

 むしろ現状で賢者から及第点をもらえる装備を作るイズはヤバくないだろうか。流石は生産職のトッププレイヤーと言われるだけのことはある。

 

 

 

「既に察しているじゃろうが、ワシの名はオレニュー。賢者なんて呼ばれ方もしておるが、実際にはただの老い先短い魔法使いじゃがな」

「あっ、先にも言いましたがキースです。史上最強のロマン砲をブッ放すのが目標のただの魔法使いです」

「うむ。では、キースよ。話を聞かせてもらうとしようかの」

 

 

 

 互いに挨拶を交わして、長い話になりそうだということで家の中へと入っていく。

 かくかくしかじか。この後めちゃくちゃ説明した。

 

 

 

 

 

 ◆□◆□◆□◆□◆

 

 

 

 

 

 それから暫くして、現在キースは切り立った崖の上に立って、遥か遠く底の見えない崖下を覗いていた。

 ビュウビュウと心胆寒からしめる風鳴り音。生唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえる。【フライ】の魔法があるからこそ平静を保っていられるのだろう。

 

 

 

「うへぇ……」

 

 

 

 あまりの高さに心底嫌そうな呻き声が漏れる。

 現実なら絶対に近づかないであろう場所に何故キースがいるのかと言うと、それは賢者オレニューとの会話が発端だった。

 キースが話したのは主に祠とその下に隠された礼拝室のことや『魔神の影』が復活したこと。ルルゥから預かったペンダントのお陰で期せずして大きなダメージを与えられたが、【カタストロフィ】という魔法の後に何処かへと消えてしまったこと、最後に汚染された魔結晶についてである。

 

 

 

 全てを聞いたオレニューからは様々なことを教えられた。

 あの祠は正式には『封印の祠』という名称で呼ばれていたこと。遥か昔に初代賢者が『魔神』の欠片を封じた場所らしい。

 人型を保てないほどのダメージを受けたのであれば暫くは動きがない可能性が高いこと。しかし、キースは間違いなく『魔神』のターゲットになっているので気をつけるようにと言われた。

 残念ながら【カタストロフィ】についての詳細は教えられず、曰く()()()()()()()やら()()()()()()とのこと。

 汚染された魔結晶は『邪結晶』と呼ぶらしく、賢者にのみ連綿と受け継がれてきた特殊な術でしか対処できないということだったので、一つしかないアイテムに惜しみながらも全て渡した。

 

 

 

 それから『魔神の影』の動き次第では遠からず復活するであろう『魔神』の本体を抑制することが可能なアイテムがあるのだとか。

 賢者であるオレニューは封印の維持のためにも下手に動く訳にはいかない。だが、丁度良く想像以上の結果を以って試練を乗り越えた者がいるではないかと言って笑っていた。

 また随分と都合の良い人物がいたものだとキースも笑った。キースのことだった。

 それはもう立派な白羽の矢が突き立っているのが幻視できるほどに、これでもかと存在を主張していた。

 

 

 

 結果は見ての通りである。

 オレニューから懇切丁寧にアイテムの正体と場所を伝えられて、報酬と引き換えに依頼を受けたのだ。

 目的のアイテムは『魔結晶』で、目的地は秘境と呼ばれるような常人では辿り着けない場所、または強力なモンスターに守られている空間とのことだった。

 そして、現在キースが見下ろす崖下には、稀に大きな魔結晶が採れる秘境があるらしい。

 

 

 

「……よし、行くかっ!」

 

 

 

 意を決して、キースは崖下へと身を投げ出した。

 勿論暗視(ノクトビジョン)は忘れず掛けており、念のため【ブレス】で状態異常の対策を、【マジックファーニィス】で魔力回復速度を上げておく。

 あの『魔神の影』から連続して発生したクエストなのだから、どれだけ警戒しても無駄ということはないだろう。

 そんなキースの慎重な判断は正しかったことがすぐに証明された。

 

 

 

「──!」

 

 

 

 そこは幻想的というには不思議すぎる空間だった。

 キースは途中で【フライ】を発動すると落下速度を抑えて、ゆっくりと地面へと降り立つ。

 崖の上からは一寸先も見えない暗闇に覆われていたのにも関わらず、この空間は()()()()()()()()()()()()。暗視の魔法など要らないほどに。

 光源となっているのは主に苔と茸だろうか。仄かに発光している胞子が空中に漂い、苔と茸は地面や壁面などに所狭しと群生しており、更に周囲には多種多様な草花や樹木が無秩序に生い茂っていて、それでいて自然の調和とでも言うべき美しさがある。

 まさしく秘境と呼ぶに相応しい光景だった────()()()()()()()()()()()()()()()()()さえいなければ。

 

 

 

「なんだ、これ……」

 

 

 

 神秘的で美しく、幻想的で物悲しい風景の中に、強烈な違和感をもって混ざる無数の人骨の山。

 どれだけの人間がここで亡くなったのか。そんな想像すらできないほどに、右も左も、前も後ろも、何処もかしこも埋め尽くさんばかりの人骨に緊張で喉が引き攣りそうになる。

 よく見れば骨だけではなく、装備の成れの果てと思われる布切れや錆びついた金属塊もあった。

 否応もなしに、キースにも理解ができてしまった。────紛れもなく、()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

突如として虚空が裂けると、それは姿を現した。

光り輝く白銀の体毛に琥珀色の鋭い眼光。

人間なんて一息で丸呑みにできそうな大きな口の中、巨大な杭のように並ぶ尖った歯を剥き出しにして不届者を威嚇する(嗤う)

大木のように厚みのある手脚に大型トラックを連想させるほど巨大な胴体が見えて、最後に柔らかそうな銀毛を靡かせた尻尾が虚空の裂け目を撫でると幻のように消えた。

 

 

 

それは、白銀色の巨大な狼だった。

全長にして七、八メートル以上は確実で、高さだけでも四メートル近いため自然と見上げる形になる。

薄らと体毛そのものが光を放っており、現実にはあり得ない体躯と人語を解するどころか話すという特異性もあってか、この世のものとは思えないほどに神々しく見えた。

けれど、その神狼と表現する以外にない存在がキースを忌々しげに睨み据え、悍ましいまでの殺意を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

『アオォォォォ──────ォォォンッッ!!!!』

 

 

 

 開戦の合図は、空間全体に響き渡るような巨狼の遠吠えだった。

 ただ吠えるだけ、なんて甘く考えをキースは持たない。風壁(ウィンドウォール)を展開して、まずは遠吠えによって発生した衝撃波を防いだ。

 続いてゲーマーとしての直感に従い、消費アイテムを出し惜しみせずに使用してステータスの強化を図る。

 

 

 

「【フィジカルブースト・ウィンド】! 【メンタルブースト・ダーク】! 【メンタルブースト・ライト】!」

 

 

 

 更にAGIとINTを25%上昇させて、あらゆる状態異常への耐性を高める。

 これらの本来の効果時間は三十秒だが、キースに限り【理外の叡智】の効果の一端によって二倍の一分間に増えており、更にクールタイムも1/3まで減っている。

 何よりこの系統の魔法は使用者のINTに依存していないため、『呪符』でも代用可能なのが素晴らしい。AGIとINTが各四枚ずつあるので、最低でも十分近く強化状態を維持することができるだろう。

 

 

 

『グルァアア!!』

 

「──!? 【フレイムアクセル】! 【跳躍】!」

 

 

 

 神狼は遠吠えを止めると、キースの眼前を塞ぐ風壁を睨んで苛立ったように叫び飛び掛かってきた。

 その瞬間、背筋を走った悪寒のままに移動速度を上げる魔法を発動して、爆炎を推進力として使って【跳躍】スキルと併用することで十メートル以上の大跳躍をする。

 そして、キースは跳んだ直後、神狼の巨大な牙が紙屑のように風壁を貫き呑み込んだ様子を目撃した。当然の権利のようにノーダメージだ。

 

 

 

「うっそだろお前……!?」

 

 

 

 現状のキースが可能なフルパワーモード、【乾坤一擲】を除く全てのバフが乗った状態の風壁が紙切れのように破られた。

 一瞬の拮抗も不可能なくらいにステータスの差があるとすれば勝ち目はないに等しいし、そうなるとあり得るのは魔法無効などの能力を持っているか、何かしらギミックがあるかのどちらかだろう。

 

 

 

「離れろ! 【ヴォルカニックブラスト】!」

 

 

 

 取り敢えず距離を空けないと危険だと判断して、爆炎を背に走りながら溶岩を散弾のように撒き散らすことで牽制する。

 それに対して神狼は無数の溶岩を軽やかに躱してキースを追いかけてきた。

 

 

 

 なるほど、とキースは一つ頷く。

 魔法を無効化するのであれば、今の攻撃を避ける必要はないはず。

 そうしなかったということは、逆説的に避けなければいけなかったのだと推測することができる。

 推測を確定させるため次にキースが取るべき行動は、巨狼が避けられない状況を作り出して魔法を無効化する条件を探り当てる。少しずつ強敵の情報を詳らかにして攻略していくしかない。

 

 

 

「【タイダルウェイブ】!」

 

 

 

 キースの杖先に巨大な青色の魔法陣が展開される。

 すると、その魔法陣から夥しいほどの水が溢れ出してきて、この秘境の端まで埋め尽くす広さと十メートルを超える高さを備えた大波が神狼へと襲い掛かった。

 左右も正面も背後も、下にも逃げ場はない。あるとすれば、高波を超えて上空に逃れるしか方法はなかった。

 そうなるように誘導したキースは次の手を打つ。

 

 

 

「【ダークヴォルテックス】!」

 

 

 

 脅威の跳躍力によって高波を飛び越えようとした神狼の眼前に闇色の小さな球体が出現した。

 それは見る間に膨張していき、罠に掛かった哀れな獲物を捕らえ、閉じ込め、押し潰して闇に染めようとする。一度球体の中に捕まれば無事ではいられない。

 空中で身動きの取れない神狼にできることはない。抵抗もできず球体の中に囚われる、はずだった。

 

 

 

『──ガウッ!!』

 

 

 

 瞬く間に闇の球体が膨張していく。

 もう間も無く神狼も取り込まれそうになった寸前、大口を開いて球体に牙を突き立てた瞬間────飴細工のように跡形もなく砕け散った。

 ほんの僅かな抵抗もなく、あっさりと魔法は噛み砕かれて無効化された。

 

 

 

 キースは目を細めてその光景を注視する。

 今のは先の風壁を突き破った時と同様の現象に違いない。どちらも噛み付く、というよりは牙が触れたタイミングで魔法が破られているような気がした。まだ確証はない。

 けれど、もし口または牙にしか魔法無効化の能力がないのだとすれば、この戦いに負ける要素はないだろう、と。

 そもそも今の一手は無効化されると想定していたもの。つまり、()()()()()()の攻撃。神狼が着地する瞬間を狙って、その魔法を発動した。

 

 

 

「──そこだっ!! 【詠唱破棄】! 【ピットフォール】! 【ラーヴァフロー】! 【ボールダートス】! 【アースクエイク】!」

 

『ギャンッ!?』

 

 

 

 スッ、と神狼の姿が悲鳴と共にシームレスに消える。

 代わりに本来着地していたであろう場所にあったのは、神狼が入っても余裕のあるほどに巨大な落とし穴だった。

 しかも、直後には【詠唱破棄】の効果で魔法を連発し、滝のような勢いで降ってきた溶岩が穴の中に海を作り、その上から更に巨石が落下してきて全てを押し潰した。

 最後のダメ押しとばかりに局所的な大地震を発生させて、衝撃で割れる巨石、蜘蛛の巣状に罅割れる地面、氾濫する溶岩という光景は、まるで小さな火山が噴火したかのような恐ろしい惨状になっていた。

 史上類を見ない最悪の着地狩りである。

 

 

 

「これで終わってくれるなら楽なんだが…………まあ、そう簡単にはいかないよな」

 

 

 

 しかし、これで倒せるような敵ならば、あれだけの数の人骨が地面に散らばっていることはなかっただろう。

 地獄のような惨状を眺めながらも、決して油断することなくキースが『ポーション』と【メディテート】によってMPを回復させていると、すぐに状況は変化した。

 

 

 

『グルルルルッッ!!』

 

 

 

 キンッ、という甲高い音が鳴る。次の瞬間、落とし穴を中心にして()()()()()()()()()()()()()()

 一気に空気が冷え込んでいく中、地面に張られた氷の大地が砕けると、そこから恐ろしいほどの冷気を纏った神狼が傷ついた身体も無視して凄まじい怒気と共に姿を現した。

 HPバーは五割を切って三割強という瀕死に近い状態だが、追い詰められた獣は死の気配を感じ取り、真の力を解放した。

 

 

 

 

 

 

 







オレニュー師匠、登場!

同名の別人だけど、この世界でもキースくんに早速色々なことを教えてくれたのは、流石は師匠の面目躍如というしかありませんね。
因みに、キースと師匠が全力で魔法をぶつけ合った場合、現時点だとキースが負けるのでクッソ強いです。
賢者の異名は伊達じゃないってことですね!

アンケートのご協力ありがとうございました!
結果はメイプルの話が27票、メイプル&サリーの話が22票、運営の裏話が16票ということで、この三つに決定です!
恐らく次の次辺りが幕間になると思いますので楽しみに待っていてください!
高評価、お気に入り登録、感想お待ちしています!
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