たまには脳筋プレイも悪くない   作:カマンベールチーズ

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────シュン

「ふふっ、やっぱり予想通りだったわ!」

「火属性は『赤の宝珠』、水属性は『青の宝珠』、風属性は『緑の宝珠』、土属性は『黄の宝珠』………光と闇はどこにあるのかしら?」

────シュッ………ピピ………

「それはそうと………レア素材だからドロップ率は渋かったけど、掲示板に載ってないのは隠しているから?」

「まさか誰もドロップしたことがないなんてことはないわよね。私が三日間の殆どを採掘に費やしたとは言っても、一種類につき二桁は確保できるくらいには落ちたし………………」

「仮に私以外は手に入れたことがないとしたら、いつのまにか取得していた【鍛冶神の加護】ってスキルしか思い当たるものはないけど」

────フォン

「────レアスキルの恩恵だとしたら公にはしない方が良さそうね。折角のアドバンテージを手放すのは惜しいもの」

「そうなると販売も慎重にしないと駄目かしら?本当は性能の確認もしないといけないけど………………まだ魔法使いのフレンドはいないのよね」

「………うーん、悩ましいわねぇ。取り敢えず明日は屋台を出して様子見、あとは良さそうな魔法使いのプレイヤーがいたら相談してみましょう。上等な装備を身につけたまま物色している人が狙い目ね」

「そうと決まれば、今日は屋台に出す商品を作らないとね!ふふふ………全く毎日忙しくて困っちゃうわ!」

────トンテンカン、トンテンカン………








知力特化と【深淵の呼び声】③

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『レベルが36に上がりました』

『スキル【空蝉】を取得しました』

『スキル【挑発】が【誘引】に進化しました』

『スキル【威圧】が【威光】に進化しました』

【スキル【誘引】と【威光】を取得したことにより、統合されて【王者の威光】に進化しました』

 

 

 

 クエスト【深淵の呼び声】のボス『クイーンイービルアント』との大激闘を終えたところで、そんなログが流れた。

 新たにスキルを一つ取得して、元から持っていたスキルが二つ進化した上で統合されて更に強化されたようだ。

 これ以外にも途中に幾つかスキルを取得できたので最初は成り行きだったが、結果的にはキースにとっても得る物の多いクエストになった。

 

 

 

「…………か、勝ったの? あの怪物に勝ったんだ! ありがとうございます! これで仲間を助けることができます!」

「ん? ……ああ、どうしたしまして」

 

 

 

 へたり込んだ体勢から立ち上がったNPC少女が凄い勢いで頭を下げてくるのに対してキースは適当に言葉を返す。

 それよりもキースは戦闘開始時点で女王蟻がいた場所に出現した巨大な宝箱に目を奪われていた。

 華美な装飾が施された縦横二メートルの現実にはあり得ないサイズの宝箱に近寄れば、改めてその威容に圧倒されるだろう。

 

 

 

 本来ならばここまで大きな宝箱にはならないはずだったが、パーティーではなくソロでクリアしたことで全ての報酬を独り占めした結果である。

 例えば四人のパーティーでクリアすれば五十センチ程の宝箱が人数分出現するというわけだ。

 ワクワクを隠そうとしない表情で見た目相応に重たい宝箱を開けると、その中には長大な槍、純白の長杖、無骨な大盾、闇色のローブ、紺碧色の宝石の嵌った指輪、深緑色の腕輪、最後に巻物が二つ入っていた。

 

 

 

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『致命の槍』

【STR +40】【致命の一撃】

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【致命の一撃】

 スキルを発動したプレイヤーのHPの半分と引き換えに一度限りの超強力な攻撃を行う。三十分後、再使用可。

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 全長二メートル以上は確実にある長大な槍。血を彷彿とさせる赤と黒の二色のみで見るものに禍々しい印象を与える。

 詳細を見てみた感じでは性能は高い。スキルにしても効果の程は不明だが、シンプルで使いやすそうだ。

 しかも、デメリットは結構キツイので威力も期待できることだろう。クールタイムも長いのでただの自爆技ではないはずである。ステータスの関係上、キースが使用することはないと思うが。

 

 

 

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『癒しの杖』

【INT +20】【MP +100】【癒しの波動】

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【癒しの波動】

 スキルを発動したプレイヤーのMPの半分と引き換えにパーティーの味方と自分に対して十秒で最大HPとMPの1%を回復する効果を付与。効果持続時間は五分。一時間後、再使用可。

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 新雪のように穢れのない純白の杖。装飾は殆どなく、その無垢さが杖の美しさを更に引き上げる。

 槍と同じく性能は高い。スキルの効果も破格だが、魔法使いとして最大MPの半分を一度に消費してしまうのは大きなデメリットだ。

 この杖はソロではなくパーティーでこそ初めて真価を発揮するタイプのものだろう。所有者だけだと【HP】は兎も角として、【MP】の消費と回復とで採算が取れないのだ。

 

 

 

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『騎士の大盾』

【VIT +20】【HP +100】【騎士の誇り】

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【騎士の誇り】

 スキルを発動したプレイヤーは一度のみどんな攻撃を受けても【HP 1】で耐えることができる。一時間後、再使用可。使用回数は一日三回。

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 余計な装飾のない青色を基調とした大盾。無骨だが見るからに重厚な造りをしており、生半な攻撃ではビクともしないことがわかる。

 前述した二つと同じく性能は高い。大盾のプレイヤーが装備に悩んでいたら取り敢えずコレにしておこうと思うような安定した数値である。

 特にスキルは一日三回と使用回数に制限はあるがどんなに強力な攻撃を受けても確定で耐えられるという効果を持つ。盾役のプレイヤーは喉から手が出る程に欲しいスキルだろう。

 

 

 

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『邪蟻の法衣』

【INT +15】【MP +100】【闇の衣】

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【闇の衣】

 スキルを発動したプレイヤーは全ての物理ダメージを半減する。毎秒MP10消費。効果持続時間は一分。一時間後、再使用可。使用回数は一日三回。

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 全身をすっぽりと覆い隠せる闇色のローブ。不思議なことに風もないのに裾が揺らめいており、まるで女王蟻が最後に纏った闇のオーラをローブとして具現化したような形状と仕様だった。

 防具としての性能はキースが初めて見る程に頭抜けて高い。現状ではこれ以上の防具を手に入れるのは同じように高難易度のクエストやダンジョンをクリアしないと無理だ。

 ただスキルの評価は難しい。毎秒MP消費は痛いし、なによりも【VIT】の低い魔法使いが物理ダメージを半減したところで効果は薄い。100%の状態で受けるダメージが1000と100とでは半減したところで前者の場合は死を免れないだろう。

 

 

 

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『技巧の指輪』

【DEX +30】

 強化成功率上昇:生産品の強化成功率を一.五倍増加

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『俊足の腕輪』

【AGI +30】

 跳躍強化:跳躍力を強化

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 紺碧色の宝石が嵌っている、近距離で見ないとよくわからない程に精緻な意匠が施された指輪。

 アクセサリーとしては破格にすぎる性能だが、生憎とキースに【DEX】は必要ない。これから生産スキルや趣味スキルを取得すれば話ば別だが。

 特殊効果も付いているがやはり生産者用のアクセサリーなのだろう。キースとしてはイズにプレゼントするのも悪くなかったが、もう暫くは手元に置いておくことにした。

 

 

 

 深緑色の美しい意匠が施された腕輪。不思議と草原に吹く風を想起させる金色のラインが随所に走っており、それによって全体に高貴な雰囲気を醸し出している。

 これもまた破格の性能であり、超火力固定砲台という浪漫とは方向性が異なる超火力移動砲台にシフトチェンジする可能性を秘めていると言えるだろう。装備を含めて【INT】極振りを突き詰めるならば必要ないが、一考の余地はあるはずだ。

 更に特殊効果も付いているが、正直なところ大して期待できない。この部分に関しては素直に期待外れだった。

 

 

 

「…………まあ、使える使えないに限らず取っておくんだけどさ」

 

 

 

 槍と大盾はキースにとって無用の長物ではあるが、コレクター気質なので捨てるつもりも売るつもりも端からない。

 二つの巻物はどちらも面白いスキルだった為、その場で取得してしまった。またしても手札が増えたことでキースの機嫌は正に有頂天である。

 

 

 

 あとは地面に落ちているドロップアイテムの類を回収したら一旦休憩の為にログアウトしようと考えていた時に、ふとボスドロップの中に紛れていた首飾りを見つけた。

 因みに、ボスの『クイーンイービルアント』からドロップしたアイテムは捻じ曲がった角が二本と悪魔の羽と虫の羽が各二枚ずつ、禍々しい漆黒の甲殻が三個と薄黄色の透明に近い色合いの液体が入ったガラス瓶が五本の計四種類だった。

 

 

 

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『邪蟻女王の首飾り』

【HP +30】【MP +30】

 指揮:パーティーの味方全員のステータス微上昇

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 シンプルな金属製の鎖に蟻の入った琥珀が嵌っているリングを通した首飾り。

 ドロップ品として考えればかなり性能は高い。基本的にキースには【HP】は必要ないが、【MP】の補正値もなかなかである。

 特殊効果はパーティーならば有用だろう。微上昇というのが実際にどの程度の効果なのかは検証してみないとわからないが、有ると無いとでは違うはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではここを出ましょう! あの子を早く魔神の呪縛から解いてあげないといけませんからね!」

 

 

 

 取り敢えず、この場でやることは終わったのでNPC少女に話し掛けると、そんな言葉が返ってきて広間に一つの魔法陣が出現した。

 この魔法陣で『試練の蟻塚』を脱出できるのだろう。キースと少女が魔法陣に乗ると徐々に光り輝いて、次の瞬間には見覚えのある歪な形をした岩の目の前に立っていた。

 あとは恐らく最初に少女と出会った場所まで戻ってクエストは終了である。

 

 

 

「これで、やっと…………いえ、感極まるのは終わってからですね。では、行きましょう。どうぞ中へ入ってください」

「よ、漸く着いた…………疲れた」

 

 

 

 なにやら感慨深げに路地にある家を見つめて覚悟を決めた表情でキースを促す少女だったが、生憎とキースは疲れ果てて上の空だった。

 というのも、少女は行きと同じで町に帰るまでの道中でも少しでも早くと言わんばかりにモンスターに突撃していったので、キースはそのフォローに四苦八苦していたのだ。

 新たに入手したアクセサリーの『俊足の腕輪』によって【AGI】が大幅に強化されているので行きよりは楽だったかもしれないが、長時間の探索と短くても密度の高いボス戦を経て疲れていたキースからしてみればトドメを刺されたようなものだろう。

 

 

 

「はあ、はあ…………」

 

 

 

 そんなこんなで少女に連れられて入った家の二階にあった部屋には一人の少女がベッドで眠っていた。

 しかし、それは安らかな眠りなどでは決してないようであり、唯一露出している首から顔に掛けてある黒い痣のようなものが脈動する度、苦しそうに喘ぐような荒い息が聞こえてくる。

 そんな少女に対してNPC少女が近づいて、いつのまにか手に持っていた淡く光り輝く液体の入った小さな瓶から一滴だけ、少女の口に含ませた。

 

 

 

「う、あ…………ぐぅぅぅっ…………!」

「頑張って! あともう少しで呪いは解けるよ!」

「あ、ぐっ…………うぅぅあぁああぁああああっっ…………!!!」

 

 

 

 謎の液体を飲んだ眠る少女の体が淡く光り輝き、呼応するように黒い痣が明滅しながら薄くなっていく。

 どうやら痣が消える際に痛みが生じるのか目を見開いてガクガクと体を痙攣させており、その側で少女が必死に励ましている。

 暫くして、一際大きく痣が脈動した瞬間に悲痛な叫びをあげたが、まるで最後の抵抗だったかのように次の瞬間には光に塗り潰されて黒い痣は掻き消えていた。

 

 

 

「──【ヒール】」

「あっ…………ありがとうございます! 図々しい申し出だとはわかっていますが、もう何度かお願いしてもいいですか?」

「別にいいよ──【ヒール】」

 

 

 

 何も言わずに一連の光景を眺めていたキースは呪いが解けたであろう少女を【ヒール】によって回復してあげる。

 すると、NPC少女が驚いたように振り返ってキースに継続して回復しくれないかと頼んできたので快諾して、都合十回程の【ヒール】で漸くもう一人の少女は目を覚ました。

 

 

 

「────あ、れ…………私、なんで…………?」

「あ、あぁっ…………! 良かった、本当に良かったっ!! もう大丈夫だからっ…………!」

 

 

 

 長いこと眠っていたのだろう。ぼんやりと天井を眺めるもう一人の少女に対して、その姿を見たNPC少女が感極まって抱きついて号泣し始めた。

 そんな二人を見てキースはそっと部屋を出て、一階にあった居間に向かう。感動の再会の場にただの協力者でしかないキースが同席するのは無粋にすぎる。

 居間にあったソファに腰掛けたキースはぐっと大きな伸びをすると、心地よい疲労感に体を委ねながら目を閉じて二階から聞こえてくる微かな声に耳を傾けた。

 

 

 

「あっ! ここにいたんですね! 良かった…………まだお礼も申し上げていないのに、帰ってしまったのかと思いました」

 

 

 

 三十分程、キースが居間で待っていると、そろそろ帰ってしまおうかと考え始めたタイミングで二階から降りてきたNPC少女がそんなことを言った。

 その後に続いて、魔女っ子のような格好をしたもう一人の少女が居間に入ってきて、綺麗な金髪を揺らしながらキースに向かって頭を下げた。

 

 

 

「……話は聞いた。……私だけじゃない……あの子が無事だったのは、貴方のお陰。……本当に、ありがとう……!」

「ソウデスネ。……まあ、どういたしまして」

「……見たところ……貴方は、優秀な魔法使い。……これを受け取って。……職人でなくても、優秀な魔法使いなら……無駄にはならないはず、だから……」

 

 

 

 特徴的な話し方でそう言った少女に手渡されたのは、一つの巻物だった。

 スキルの詳細を見て、キースはすぐに取得した。これがあればかなり面白いことができそうだと、つい黒い笑顔が浮かんでしまっていた。

 それにしても、またしてもスキルである。一つのクエストで何個取得するんだろうか。

 

 

 

「……あと、これもあげる……」

「ん? …………なんだこれ?」

「あっ! その紋章が刻まれた板は…………賢者様にお会いする為に必要な証!? い、いいの? 恩人とはいえ渡しちゃっても」

「……構わない。……師匠は言ってた……試練を乗り越えし者に、この『鍵』を渡せと……」

「うーん、魔神の次は賢者かぁ〜」

 

 

 

 キースはぼやきながらも『鍵』と呼んでいた銀色のカードのようなアイテムを受け取った。

 どうやらこのアイテムがあれば賢者とやらに会うことができるらしい。仰々しい名前ばかりにキースは乾いた笑いしか出てこなかった。

 とはいえ、まだ賢者に会うことは無理そうだった。なんでも賢者はここから遥か遠方で隠遁しているとのことであり、キースは意味を理解できないなりに要はフラグが足りないのだと解釈した。

 

 

 

 あとクエストを再度受けるようなことは不可能なようだが、それとは別にここに来れば二人とアイテムの交換などができるようだ。

 NPC少女、改めミリア…………漸く名前が判明した…………はドロップアイテム同士で物々交換を行えるらしく、何故か彼女一人では倒せそうもない例の蟻系モンスターの素材もリストに入っていた。

 現状では蟻系モンスターの素材は腐る程に持っているので交換する価値は低いが、他にも色々な素材があるので品揃えとしては充分である。

 

 

 

 魔女っ子の方はルルゥと言うらしく、彼女の場合はゴールドでの遣り取りになる。

 一般的な回復ポーションを筆頭に、一時的にステータスアップが可能なポーションや状態異常に耐性をつけるレジストポーション、他にも攻撃を受けた際に一定のダメージまでを肩代わりしてくれる身代わり人形といった変わった商品が並んでいた。

 まだ確認していないからはっきりとしたことは言えないが、恐らくキースはこれと同じ物を作ることができるようになっている。ヒントは先程もらっていたスキルである。

 

 

 

「ご利用ありがとうございました! 今日は良い取引ができました。また来てくださいね!」

「……貴方は、特別……待ってる……」

 

 

 

 この日は幾つかの素材を物々交換したり、目に付いた珍しいアイテム、または便利そうなアイテムなどを買った。

 まだ肝心のスキルレベルが低いので、暫くは『ミリアの交換屋』は兎も角として、『ルルゥの錬金術店』には非常にお世話になることだろう。何故か半額割引が付いてるのも大いにある。

 キースはスキップを踏みそうな勢いのまま、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆□◆□◆□◆□◆

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃────

 

 

 

「ヴェアアァァァアアアッッ!?!?」

 

 

 

 ちょうどキースが『クイーンイービルアント』を倒した直後のこと、NWOの運営管理室に人とは思えない奇妙な絶叫が響き渡った。

 それはNWOのクエスト関連を担当している部署の一人であり、連日の激務の所為で徹夜した時のノリになっている周囲から「なんだなんだ?」と好奇に満ちた視線が集まる。

 因みに、NWOの運営管理室は現実世界ではなくゲームの中にある。時間を加速させた特殊な空間を用意してあり、そこでリアルタイムでプレイヤーの様子やシステムの異常を観測しているのだ。

 

 

 

「おい、どうした。バグでも見つけたか?」

「てか、なんだよさっきの絶叫は…………お前人間をやめたのか?」

「ち、違う! 冗談言ってる場合じゃないぞ! 【深淵の呼び声】がクリアされた! しかもソロでだ!」

「は? それって、あの鬼畜クエストか? あれは単独でクリアできる物量じゃないはずだろ!?」

「いやいや! それ以前の問題だろう!? まだリリースから二週間だぞっ!? 現状のトッププレイヤーがパーティーを組んだとしても不可能だ! それをソロだなんて…………そんな馬鹿げた話信じられるかっ!」

「誰がクリアしたんだっ!? モニター映せっ!」

 

 

 

 一気に阿鼻叫喚と化した運営管理室の中心にある巨大モニターに、キースが【エンチャンテッド・ファイア】を付与した杖で『ソルジャーアント』を殴り倒す姿が映し出された。

 

 

 

「げぇっ!? またキースかよ!」

「ああ……何故か納得してしまった。初日に【一騎当千】を取得するような化物だしな。そういえば【詠唱破棄】も持ってたはずだよな?」

「…………持ってるな。というか、どうして殴ってるんだ? ちょっとログ遡ってみるか」

 

 

 

 その後はキースのクエスト中の動きを最初から映像として流すことになり、いつのまにか運営陣は前のめりになって鑑賞してしまっていた。

 最初のフラグである悪ふざけのラブコメ衝突の神回避の時点で惹き込まれ、暴走NPC少女に対する鮮やかなフォローと的確なモンスターへの対処、イベントエリアに移ってからも検証を重ねながら常に冷静に立ち回り、ボス戦に於けるド派手な浪漫砲では大盛り上がりを見せた。

 

 

 

「ははぁ……なるほどなぁ〜。【挑発】と【威圧】のコンボは想定内だが、このタイミングで既に【マジックブースト】とは恐れ入った」

「ですねぇ。思わず感心してしまうくらいスキルを使い熟してますね。あの土壇場で【詠唱破棄】から壁系魔法連発で凌ぎ切った瞬間、つい歓声を上げちゃいましたよ」

「全く同感だけどさ…………これは少しまずくないか? 本来パーティーでの攻略を前提としているクエストを単独攻略された場合、報酬は彼の独り占めになるわけだろう?」

「「「「「あ"っ!!?」」」」」

 

 

 

 まるでアクション映画を鑑賞した後のような心地の良い感覚に浸っていた運営陣の現実逃避は、不意に溢れた誰かの言葉によって一気に現実へと引き戻されてしまった。

 

 

 

「や、やばいっ! そういえばソロクリアの限定報酬として【錬金術】があったよな!? 通常の生産スキルと違って例外的に【INT】値が適用される、あの万能生産スキルっ! 彼奴【INT】の極振りだろ!? このままだと市場が壊れる!」

「それだけじゃない! 【召喚術】と【統率】の両方とも持っていかれる! 仕様上【INT】依存で召喚モンスターのステータスが高くなるだけでもやばいのに、そこに【統率】まで加わったらシナジー効果で大変なことになるぞっ!? 一人で戦争でもする気か!?」

「待て待てっ! スキル以外にも初期クリア限定で強力な装備を沢山用意してあっただろ!? あれ一人で総取りとか、槍に大盾は使わないとしても売却すればひと財産になる!」

「────って、おいっ! これどうするんだよっ!? 【乾坤一擲】と【王者の威光】も取得してやがる! 【無慈悲ナル者】もキースの場合は基本的に殆どの状況で四倍で計算されるはずだろ!? 無理無理無理っ!! あーもう滅茶苦茶だよ!」

 

 

 

 再び現実を直視してしまい、運営管理室は少し前のように喧喧諤諤の有様と化してしまう。

 それこそトッププレイヤーの筆頭と目されている現状最高レベルのペインというプレイヤーと比べても、この一連のクエストによってレベル差なんて容易く引っ繰り返せる事態が起きてしまった。

 このまま運営がなにも対応しなかったとして、最悪の場合NWOのパワーバランスはキースの一極化という憂き目に晒されるかもしれないのだ。

 

 

 

「────仕方ないか。みんな聞いてくれっ!」

 

 

 

 絶望感に包まれた室内に管理室長の怒鳴り声が響くと、ピタリと雑音が消えた。

 謎の緊張感が支配する中、一心に視線を受け止める管理室長は苦渋に顔を歪めながらも覚悟を瞳に灯らせて告げる。

 

 

 

「……あまり望ましい対応とは言えないが、今日の深夜に臨時メンテナンスを行う。そこで幾つかのスキルを弱体化しよう」

「そ、それはっ……! ですが、いいんですか? 特定のプレイヤーを狙い撃ちするような真似なんてしたら……」

「勿論いいことではないがね。キースは別に不正を行っているわけでもなく、相応の苦労を経て強力なスキルを取得しているのだから本来は当然の権利と言える。安易な弱体化はできない…………それを踏まえれば多少の補填は考えるべきだろうな」

 

 

 

 こうして今日も運営管理室では様々な意見が飛び交い、結果としてその日の深夜に短時間の臨時メンテナンスが行われた。

 どのような話し合いが成されたのか。それはプレイヤーには知る由のないことであった。

 因みに、極少数のプレイヤーにはメンテナンスが解除されたのと同時に本来ならば課金アイテムである取得経験値増加アイテムが届くというような補填があったとか、なかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







作者のイメージ
今回の装備は本当に滅茶苦茶悩みました。
実際に何回も修正を繰り返してこの性能に落ち着きましたが、原作を見ても指標となる情報が少なくて難しかったです。
ユニークシリーズみたいに強力な装備とかはゲームの公平性を考えればどうかと思いますけど、そうでもしないと没個性になってしまうので主人公としては最低限の必須項目になりますよね。
そんな私の考えの元に幾つか装備を用意しましたが、まさかこんなに頭を悩ますことになるとは思っておらず、若干ながら後悔したのは秘密です。


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