たまには脳筋プレイも悪くない 作:カマンベールチーズ
────ガン、ゴン………ギンッ!
「ふんっ………はぁあああっ!」
「よし、良い感じだな。攻撃は真正面から受け止めずに斜めに受け流してっ………まずは隙を作る!」
「そんで隙ができたら見逃さず────そこだっ!【シールドバッシュ】!」
────ズガッ!
「ノックバックで怯んだところを畳み掛けるっ!」
「うぉおぉおおおおっっ────!!トドメだ、喰らえっ!────【炎斬】ッ!!」
────ザン!ビシュ!………ズバァン!
「………ふぅ。ここら辺にいるモンスターとの戦闘はだいぶ慣れてきたな」
「これならパーティー組んでも迷惑かけなくて済みそうだ。………最初の頃は散々だったからなぁ〜」
「一日の間に二桁死に戻るなんてざらにあったからな。その所為で装備も壊してばっかりだったのが少し懐かしいぜ」
────ズシン!………ピシピシッ
「そんな奇襲なんて喰らうかよ!────ふんっ」
「………うん?今なんか嫌な音がしたような。具体的には大盾から致命的な感じの耳慣れた音が………………」
────ズズン!………ピシ、バキンッ!
「──げっ!?このタイミングで壊れるのかよ!」
「あっ、やべ………流石に盾がないのは────くそっ、ただでやられて堪るか!」
「はっ、大盾がなくても俺は結構しぶといぜ!だから、お前だけでも道連れにしてやる!………はぁぁああああっっ──!!」
その日、キースは先日に知り合ったばかりの生産職のイズと共に岩山のフィールドを歩いていた。
ログインした際にメッセージに気づいてイズからの誘いを快諾したのだ。勿論彼女の真の狙いには気がついていない。
まあキースとしては無理に隠蔽するつもりはなかったにしても、昨日の今日で自分が取得したばかりのスキルについての情報が拡散しているとは思っていないので仕方のないことだろう。
それはさておき、今日のキースは普段と少し装いが違った。
具体的には、杖ではなく手には槍を持っており、防具の類にしても体にはローブではなく胸部プロテクターを着用して手足にはサポーターとまるで戦士のような出で立ちだった。
別に杖でなければ魔法が使用できないわけでもないが、【MP】【INT】の補正がないので威力は当然ながら落ちてしまう。
では何故かと言うと、昨夜休憩を挟んだ後に再度ログインした際に行った検証の続きである。
検証するのは、主に昨日のクエストで取得した【召喚術】と【王者の威光】、そして【錬金術】で作り出した幾つかのアイテムが対象となる。
護衛を依頼してきたイズには一言断ってあるし、いざという時には魔法を使えば大抵はどうにかなるので問題はない。むしろイズからしてみれば飛んで火に入る夏の虫のようなものだ。
「そういえばキースはもう昨日の臨時メンテナンスの内容は確認してあるかしら?」
「…………あー、魔法使いのプレイヤーに対する修正が中心だったからな」
真面目に周囲の警戒をしていたキースに向かって、イズからそんな質問があった。
それに対して素直に頷いた後、少しだけ表情を苦いものに変える。今回の修正内容が明らかにキースを狙ったものだったからだ。
臨時メンテナンスの修正内容は大まかに纏めると、まず『魔法の威力・規模などに【INT】の値が関与する範囲の修正』と『幾つかのスキルの効果を修正』するというものである。
他にも細々と修正はあったが、キースに関係のある部分はこの二つだけだ。正確には魔法使いプレイヤーにというべきかもしれないが。
因みに、スキルに関してはキースだけではなく何人かのトッププレイヤーも対象になっている。
実際にキースもログインしてから魔法を使ってみたところ、魔法の威力は目に見えて差がわかるものではなかったが規模は明らかに縮小されていた。
修正前は【ファイアボール】の一発だけで九メートル程が焦土になったが、修正後には半分以下の三メートルまで落ち込んだ。
それでも未だに単体指定の魔法とは思えない範囲だが、実はこれ以上の弱体化をすると他のプレイヤーが使用する魔法の規模がショボくなりすぎるという問題が起きるのでこれが限界である。
スキルにしても弱体化の対象になったのは【マジックフォートレス】【インテリジェンスアタック】【マジックブースト】と各種ステータスアップ系の魔法、あとは【乾坤一擲】と【召喚術】の二つだった。
まだ取得してから間もない【乾坤一擲】とクエスト報酬とも言える【召喚術】が修正されたのは釈然としないが、現状でも即戦力なのですぐに切り替えた。
まず【マジックフォートレス】は壁の耐久値を【MP】と【INT】の値を足して二分の一にする計算だったところ、修正後には【MP】だけが適用されることになってキースの場合は耐久値が大幅に下がった。
これに関しては通常の魔法使いのプレイヤーにしてみれば強化に等しい修正になっている。
ステータスポイントを【HP】【MP】に割り振る場合は1ポイントで20増えるような仕様になっているからだ。普通の魔法使いは【INT】よりも【MP】を高く、なるべく魔法系スキルの回転率を上げることで火力を出すようにしている。
次に【インテリジェンスアタック】は一度だけ【INT】を丸ごと【STR】に置き換えて物理攻撃として算出するところ、【INT】の値を半分にした数値に減少してしまい威力が落ちた。
これは賛否両論だが、元々このスキルは魔法使いにとって接近された際の切り札や奥の手に当たるものなのであまり問題はなかった。
ただし、割と近接戦も熟すキースのようなプレイヤーは肩を落とすことになったが…………。
また【マジックブースト】は一度限りINTを二倍にして計算するところ、INTを一.五倍と再使用に掛かる時間が十分後から三十分後とシンプルに弱体化された。
これについてはかなりの非難が殺到しそうな内容だった。なんと言っても魔法使いのプレイヤーからしてみればメイン火力になるスキルなのだから当然である。
しかし、現状ではキースしか取得まで至っていなかったこともあって結果的に黙殺された。
【ブースト】系の魔法は強化率は25%のままに効果時間だけ一分間から三十秒間に減少した。
最もプレイヤーからの不満が多かったのはこのスキルの弱体化だろう。だが、運営もバランス調整に必死だったので許してあげて欲しい。
これによって戦闘開始から使用するのではなく、重要な場面を見極めた上での運用が求められることになり、密かに魔法使いプレイヤー全体のPSが微かに上昇する効果があったとか。
それから【乾坤一擲】は一度限り全てのステータスを五倍にするところ、修正後は三倍になっていた。
まあこれに関してはキースも納得せざるを得ない。常識的に考えて五倍はやりすぎなので少し安心したくらいだった。
というか、それこそ三倍でも現状で可能な全てのバフを重ね掛けすることで一時的にINTの値は五桁の大台に乗ることになり、既に過剰火力であることは否めなかった。
ここからが問題である。【召喚術】はその名の通りにモンスターを一時的に召喚するスキルだ。一度に召喚可能なモンスターの数には特に制限は設けられていなかった。
何故なら一体につき最大MPを50消費し続けるという、召喚している間は消費した【MP】が回復しない仕様になっているからである。
だが、モンスターのステータスは基本的に【INT】に依存し、具体的にはHPとMPは召喚者のINTの値として、他の五つのステータスに関してはモンスターの種別ごとに異なるので一概には言えないが、大抵は合計値を召喚者の【INT】の十割を割り振る形になっていた。
修正されることになった理由は言うまでもなく【INT】極振りという暴挙を犯したキースである。
前述の仕様に沿って使用した場合、たった一割の配分だとしても100以上のステータスになるという恐ろしい事態が起きてしまう。
というわけで、修正後は一体につき消費MP100で召喚可能な数が十体までとなり、更にモンスターのHPとMPは召喚者の【INT】の値の二分の一。他の五つのステータスに関しても五割を割り振る形になり、一つの項目につき限界値として三割以上にはならないように制限を設けた。
結局のところキースがこの先も【INT】を上げ続ける限りは再び浮上してくる問題であるし、これ以上は弱体化させるわけにはいかなかった。
他のプレイヤーが取得した場合だと【INT】の値が100あったとして、HPとMPは50で他のステータスは合計値が50になる。要するに初期レベルのプレイヤーより低いステータスなので、これ以下だとぶっちゃけ弱すぎるのだ。
全ての基準をキースのような破天荒なプレイヤーに合わせるとクソゲー待った無しなので弱体化するにしても限界があったわけである。
こうしてキースは下手なプレイヤーと比較しても勝るとも劣らない高ステータスのモンスターを最大で十体まで召喚できるようになった。
他のプレイヤー達はこの理不尽の権化に文句を言ってもいいと思う。運営は既に諦めた。
とはいえ、今のところは最大MPの関係上、十体召喚は不可能なので安心だ。…………時間の問題ではあるが、気にしてはいけない。
「ところで、検証したいという話だったけれど、なにか私にも手伝えることはあるかしら? これでもゲーマーだし、それなりに知識は豊富だと自負しているわよ」
そんな臨時メンテナンスの裏側にあった運営陣の苦悩と懊悩、濃密な議論の末の修正話についてはこの辺りにしよう。
キースの【気配察知】のスキルによってなるべく戦闘にならない道を進んでいる為に暇なのか、そわそわと妙に落ち着かない様子のイズが検証の手伝いを買って出た。
実際には暇どころか欲望に忠実なだけで善意の申し出ではなく、有り体に言ってしまえば我慢の限界に達しただけである。
そんなことは知らないキースは純粋に善意で言ってくれていると勘違いして、少し申し訳なさそうに断ろうとする。
しかし、ふと思い直してイズにもできる検証を頼むことに決めた。もしかしたら拒否した直後の惨劇を直感的に察知して回避したのかもしれない。
女性を怒らせると怖いという世界の真理をキースは身に染みて知っていたのだ。
「それなら幾つかのアイテムを渡すから使ってみて欲しい。自分以外が使用した時の感想が知りたい」
「ええ! 任せてくれていいわよ! それでどんなアイテムなのかしら!?」
「いや、そこまで気負わなくても…………ええと、試して欲しいのはこの二種類のアイテムなんだ」
「あら? これは、なにかしら? 御札とか小石みたいに見えるけど…………『ファイアボールの呪符Ⅰ』と『爆弾(小)』!?」
結局はイズの熱意に負けるような形でキースが二種類の物体を差し出した。
一つは縦が二十センチと横が十センチ程の長方形をした御札のような物体であり、もう一つは一見すると道端に落ちている小石と変わらないように見えた。
しかし、その正体はイズが思わず叫んでしまったように呪符と爆弾だった。どちらもNWOではまだ見つかっていない類のアイテムである。
実はこのアイテムは昨日キースが魔女っ子のルルゥから渡されたクエスト報酬の【錬金術】というスキルによって生産した物だった。
二種類とも消費アイテムだが、『ファイアボールの呪符Ⅰ』は特定のキーワードを唱えることで使用可能。使用時に【ファイアボール】が発動し、威力や規模は誰が使用しても変わらない。
キーワードは製作者が設定可能ということだったので、キースはシンプルに【起動】と言うだけで使用できるように設定してある。
『爆弾(小)』はなんらかの衝撃が加わった際に起爆するようになっており、対象の防御力や耐久値に関係なく固定ダメージを与えることができる。
ただし、名前の通りに威力も規模も小さく、現状では牽制くらいが使用用途になるだろう。
呪符とは違って生産者の方でダメージを増加させる代わりに範囲を狭くしたり、爆発によるノックバック性能を高くする代わりにダメージを減少させたり、ある程度のカスタマイズが行えるのでそれ次第で有用性は大きく変わってくる。
「────というのが、私が使ってみた上での感想になるかしらね。今の威力だと正直心許ないけど、それでも戦闘能力のない生産者からしてみれば是非とも欲しい類のアイテムではあるわ」
「なるほど。いや、参考になった。イズに手伝ってもらって良かったよ。ありがとう」
「ふふっ。私としても面白い話が聞けたから別にいいのよ。…………【錬金術】のスキルが取得できそうにないのは残念だけれど」
ぼそりとキースには聞こえない程度の小さな声だったが、心底から無念そうにイズが嘆く。
何故ならキースから検証を手伝う報酬として【錬金術】の取得方法を教えてもらっており、同時に生産職ではクエストクリアが難しいということも伝えられていたからだ。当然ながら他には口外しないことを約束した上での話である。
とはいえ、仮に掲示板などで話が流れたとしても現在のレベルではトッププレイヤーがパーティーを組んでも攻略が可能か不透明な程の難易度だとはキースも知る由のないだった。
そしてこれもキースの知らないクエストだが、実はあのクエストは誰にでも受けられるものではなかった。
発生条件は【DEX】【INT】の合計値が150以上であることを満たしている場合のみになっており、現状ではキースの他には片手の指で足りる程度の人数しか届いていない。
勿論条件は装備やスキルの補正値を抜きにしたステータスで到達していなければならないのだ。レベル40で初期の100を含めても合計ステータスポイントは220しかなく、運営的にはもっと後に発見される予定だったことが窺えた。
そうしてキリのいいところで検証を切り上げた二人は本来の目的に戻った。
キースはイズの護衛、イズは鉱山での採掘である。元々この目的はイズにとってカモフラージュだったが、そこに触れてはいけない。
「それにしても、今のキースを見ていると魔法がメインのプレイスタイルだってことを忘れそうだわ」
「そうか? 俺は別に槍が使えないなんて言った覚えはない────ん? 漸く【槍の心得】が取得できたか。むしろ他のゲームでは【AGI】特化でプレイすることの方が多いんだがな」
「え? その話が本当なら素直に驚きね。トッププレイヤーからすれば普通なのかしら」
「その言い方はどうかと思うが、ある程度はどうにかなるんじゃないか?」
「私みたいに戦闘が苦手なプレイヤーからしてみれば信じ難いことだけれど。────あら? またレアだわ。今日は運が良いわね」
二人はそれぞれ別のことをやりながら他愛もない雑談に興じていた。
イズは自作のピッケルで採掘ポイントを一心不乱に叩いており、キースは採掘の音に反応してリンクしてきたモンスターを排除する。
NWOに限らず様々なゲームをしてきた二人にはこの手の並列思考は慣れたものであり、特に意識した様子すらなかった。
普段とは違い槍を手にして戦っているキースだったが、極振りの所為で【INT】以外の装備による補正値を抜きにしたステータスがゴミ同然なので専用の戦闘スキルは取得できなかった。
槍を装備するだけなら可能なので、現在は『致命の槍』の補正値と最大まで上昇した【剣の舞】によって強化された【STR】で戦っている。
「キース? 少し場所を変えようと思うのだけど…………それは一体なんなの?」
「見ての通りだ。試しに『ゴーレム』の核を槍で串刺しにしていた。魔法で拘束すれば抵抗もされないし、時間は掛かるが放置していても継続ダメージだけで倒せるようだな」
「うーん、私が聞きたいのはなにをしているのかではなく、どうしてそんな真似をしているのかということなのだけど」
「特に深い意味はない。ただの暇潰し…………だったのだが、たった今スキルを取得した。【串刺し公】とはまた物騒な名前だな」
「物騒なのは貴方よ。今まさにやっていることじゃない。…………自覚なし? 天然なのかしら?」
『ゴーレム』は鉱山などのフィールドに出現するモンスターであり、岩を押し固めたような見るからに固そうな外見をしている。
だが、誰でもわかる明確な弱点として胸の中心に露出した核のようなものがあって、その部分を攻撃すれば余程に攻撃力が低くない限りは大ダメージを与えることができる。
キースはその核を槍で突き刺し、背中側の少し外殻も貫いて串刺しにした上で継続ダメージで倒すという暇潰しをしていたのだ。
───────────────────────
【串刺し公】
このスキルの所有者は全ての物理攻撃が防御貫通攻撃になる。また急所へのダメージが増加、装備破壊効果が付与される。
取得条件
武器で串刺しにすることで与えられる継続ダメージによってモンスターを規定回数倒すこと。
───────────────────────
このスキルは一見すると地味だが、やられる方からすれば非常に性質の悪い効果になっている。
急所への攻撃を警戒すれば装備の耐久値があっという間になくなってしまい、それに気を取られると防御貫通の急所攻撃が入る。
全ての攻撃に防御貫通と装備破壊の効果があるのでなるべく攻撃を回避する必要がある。こんなスキルを真面な物理アタッカーが取得した日には大変な事態になるだろう。
そういう意味では魔法アタッカーのキースが取得したのは運営やプレイヤーにしてみれば不幸中の幸いと言えるかもしれない。
とはいえ運営としては悪ふざけで設定したスキルであり、取得条件からしても普通のプレイをしているなら取得する機会はないはずのスキルなので効果は折り紙つきであった。
例えばキースのように悪知恵の働くプレイヤーによって運営側の思いもしない形で改悪される程度には幅広く解釈できる設定がされていた。
「…………まさかこんな条件で取得できるスキルがあるなんて思わなかったわ。私もこれからは色々と試してみようかしら?」
「いいんじゃないか? それより試したいことを思いついた。上手くいけば面白いことになりそうなんだが、少しイズに協力してもらいたい」
「あら? まだ今日は時間もあるし、私は構わないけれど……なにをすればいいの?」
「ああ、このスキルなんだが…………」
「…………ふふふっ! 確かにそれができたら一気に選択肢が広がるわね! 早速試してみましょう! ここでやるつもりなんでしょう?」
「勿論だ。このフィールドには御誂え向きなことに高防御力のモンスターがいることだし、な」
二人して悪巧みをしている時の笑みを浮かべながら坑道の奥から姿を現したモンスターに獲物を見るような視線を向ける。
────心なしか、二人の視線を受けた憐れなモンスターが怯えるように身を竦ませた気がした。
流石にそれは錯覚だろうが、この日は不思議なことに鉱山のフィールドの奥から絶え間なく爆発音が鳴り響いていたとかで、なにかのイベントの予兆かもしれないと掲示板で話題になったらしい。
因みに、これ以来キースは気分転換と称して槍を装備することが増えた。
物理、魔法ともに安定した火力を出せる恐るべきアタッカーとして覚醒したことを知るのは生産職のイズだけであるのは幸か不幸か。
そしてなによりも、この日の何気ない閃きこそが、後に『
◆□◆□◆□◆□◆
それから月日は流れて──────。
NWOは特に大きな問題が起きることもなく、正式サービスが開始した日から早くも二ヶ月以上の時が経っていた。
まだ大きなイベントは開催されていないが、そろそろ運営側も動くだろうと予想されている。
世間からの評判も良く、積極的にCMを出していることもあって報道番組でも頻繁に『昨今大流行の没入型VRMMORPG』として取り上げられていた。
初期ロットは瞬く間に売り切れたので増産した第二ロットも即日完売し、現在は第三ロットの予約購入が行われている程だ。
ゲームの中でも古参プレイヤーと新規プレイヤーの交流はなかなかに盛んであり、普段からゲームに慣れ親しんでいない人でも楽しめる環境が自然と作られている。
そして、今日も今日とて新たなプレイヤーがNWOの世界にやってきた。
絶妙に地味な全身茶色の初期装備を身を包んでいるのは黒髪黒目で一五〇センチないくらいの可愛らしい少女だった。
その背には見た目にそぐわない無骨な大盾を背負っており、少女の整った容姿も相俟って周囲からは好奇の視線が向けられている。
どうやら少女はゲームに不慣れなのか、明らかに辿々しいとわかる手つきで青色のパネルに目を通してはなにやら首を傾げている。
恐らくステータスを確認しているのだろう。本来ならその行為に首をかしげる要素はない。
暫くなにか悩むような仕草を見せていたが、数分程経つと開き直ったのか考えるのをやめて不安が残る表情のまま歩き出した。
そこで周囲のプレイヤーは気がついた。
彼女が歩く速度は異様なまでに遅かったのだ。本人も気がついたらしく、頰を赤くして恥ずかしそうな面持ちである。
あらゆる意味でスレていない反応をする少女は多くのプレイヤーに微笑ましく見守られる中、亀よりも遅い歩行速度で町の外にあるフィールドへと半ば逃げるように向かっていった。
この時はまだ誰も知る由もなく、態々記憶に留めることもない数多いる新規プレイヤーの一人でしかなかった。
しかし、今から二週間後には知らない人の方が少ない有名人になる。本人の自覚は皆無だが。
その少女の名前はメイプル。またの名を本条楓。ステータスは【VIT】の極振り。
キースこと桐島純義の現実に於ける幼馴染の一人であり、遠くない未来にNWOを恐怖と混乱の坩堝に叩き落とすことになる張本人だった。
もっと言うと事あるごとに運営を発狂させることになる。繰り返し言うが、本人に自覚はない。
『スキル【絶対防御】を取得しました』
「兎さあああああああああああん!」
────NWOは今日も平常運転である。
こうして後に『ラスボス』と呼ばれることになるメイプルは産声を上げた。
作者のイメージ
防振りの原作キャラってみんなキャラが立っていて好きです。
二次創作ではよく原作のキャラを踏み台にしてオリジナル主人公TUEEEEE!ってやりますけど、それならもう普通にオリ小説書いた方がいいですよね。
折角の原作キャラを活かさないの勿体ないですし、自分で細かくキャラ付けしなくても良いんですから楽でしょう。
大体二次創作なんてリスペクト精神の表れなんですから、プロットの都合上で結果的に踏み台みたいな描写にしてしまうにしても原作キャラの魅力が伝わるように書くべきだと心掛けています。
次の更新はまた今週末の土曜日の深夜零時になる予定です。
この作品は息抜き兼リハビリを兼ねた作品ということで常に評価、感想、批判等々を募集してますので、お気軽によろしくお願いします!