頭の中にAI住んでる系輪廻転生TS病弱少女のガールズ&パンツァー 作:文月フツカ
逃げねば。
「どこ行くの」
みほさんといい愛里寿といいどうしてこんなに馬鹿力なのか。っていうか押さえつける場所よりによって折れた右足!?
「いだだだっ……ちょ、あの二人とも一旦手を放してください」
どういう事か、会長も止めてくれる気配はない。
だがいい加減に痺れを切らした西住しほさんが二人に注意をしてくれた。
「いい加減にしなさい。話の邪魔をするようであれば二人とも出ていきなさい」
二人は右足から手を放すと一歩下がり、下を向いた。東西二大流派の娘が揃いも揃って怒られてるってこの状況やばない?
「まずは茂野ちゃん。目が覚めて数時間しか経ってないのにいきなりごめんね。私が色々と話す前に、このお二人からのお話を聞いてね」
「改めまして、西住しほです。娘がいつもお世話になってるわね。それでこちらは……」
「久しぶりね夕姫さん。愛里寿の母の島田千代です。本当……どうやって消えたのか」
確か島田家の養子になるって話がガチ進行してる時にドロンしたもんな。そりゃ方々に色々と迷惑を掛けてしまったか。
「まず今回の事故だけど、左目の失明は避けられなかったわ。破片が中に入らなかったのを奇跡と呼ぶべきね」
本当にな!
自分の判断ミスとはいえ、入りっぱなしだったら面倒な事になってた。脳がやられて植物状態になると、自分で行動できなくなるから、寿命尽きるまで延々とハイエと会話するだけの人生になってしまう。
「右足の骨折はこのまま安静にしていれば2か月で治るわ」
しほさんと千代さん二人の説明を聞いていくと、今回の事件は結構な騒動になっているらしい。大元の元凶は俺の戦闘中の不用意な行動だが、そもそも明確に禁止していなかった為に起きた事でもあるらしい。
よって、今後は戦闘中は極力外に上半身を出さないようにルールが追加された。また曖昧なと思うのだが、完全に禁止するとそれはそれで戦術の幅が減少するため出来ないらしい。
因みに怪我に対する保険手当も無い。戦車道連盟やらは抗議してくれたのだが、文科省は自己責任の範疇と突っ撥ね、文部科学大臣もあの場面で出る方がおかしいとの事。
いやー、全く以て仰る通り。マウスなんぞ主砲は駆逐艦並みなのに、それの前で生身晒すとかアホ以外の何者でもないよな。
『破片が飛び散るまでは私も確実な事は言えなくてね。まぁ飛び散ったらもう手遅れなんだけどね』
あとさっきからみほさんと愛里寿が両手を握ってきて痛い。でも絶妙に文句を言えない痛さなので余計に困惑する。
「で、今回の事は以上よ……さて、本題に入りましょうか」
ほわっつ?
これ以上に何の本題があるというのだ。
『おやおや、今からカバーストーリーの補強間に合うかな』
はい?
「今回の事で、改めてあなたの経歴を色々と調べました。それも含めて、長くなるけど島田家元が説明をして下さいます……訂正箇所があれば最後に申し出るように」
まーずーいーぞー! この体の過去と現況に至るカバーストーリーなんぞ何も考えてない!
みほさんに話した内容なんて本当にハイエで読み取れた一部だというのに。
「茂野夕姫。199x年10月10日生まれ。生後直ぐに両親が借金を残し蒸発。孤児院に入れられるも、体罰などが当たり前の劣悪な環境で幼少期を過ごす。食事、衣服共に最低限も与えられず小学校に通う。法にはギリギリ触れないグレーな仕事を隠れてこなしつつ生活する中、愛里寿が居眠り運転のトラックに轢かれそうになった所を助け、身代わりに轢かれて入院。三年後突如として失踪……よくもまぁ」
何だろう。改めて聞くとこの体すごい人生歩んでんな。まず両親に捨てられ孤児院で虐待され、グレーな仕事をしてる時に人助けでトラックに轢かれた? 君前世鬼か何かだったのってぐらいヤバい。
「件の孤児院は摘発されてもうありません。ご両親は、残念ながら見つかりませんでした」
『見つかってはいる。ただ東京湾に沈められてたってだけで』
ダメじゃん両親。
「ねぇ夕姫。失踪していた三年間何をしてたのかはどうでもいいの。何で、何で勝手に居なくなったの」
愛里寿の目、光がありません。島田家の養子になるのが嫌とかでは無くて、この恵まれた環境が滅多に無い状況だったから、久しぶりに普通の人生が送りたかっただけです。
これ言えたらなぁ!
実は私……俺、転生者なんです!
はぁ?
ダメだこんな事言われる未来しか見えない。
ならこっちはどうだ。
実は、前世があるんです!
精神にも疾患有ね。
おおっと詰んでる。
「私は、生まれも育ちも良いとは言えません。あのまま病室で島田家の養子に頷いてたら、余計な面倒を持ち込んだでしょう。愛里寿や千代さんにそんな迷惑は掛けたくありませんでした。生意気に聞こえますが、私は独りでも生きていける自信はありました」
会長もみほさんもうーんと唸って天井を見た。
そんな二人を見て家元たちは会長に説明を求めた。
「あーっと、この子は確かに一人でもやっていけるとは思います。知識を始め、生徒会業務の代行や各関係各所への根回し、有識者とのパイプなど。戦車道を始めてからもそうですが、始める以前からも学園長らが舌を巻くほどでした」
戸籍の偽造などに必要な人員とのコネクションや先立つ物の金、そういうのはハイエが全部調べたから俺は何もやってない。
関係各所への根回しも、実際は横領の証拠とかチラつかせただけです。
有識者へのパイプはまぁ……うん。
それを聞いてコイツマジかみたいな表情のしほさんと千代さん。
「でも夕姫さん、練乳の為だけにふらふらになるし」
それは言わないお約束とかに出来ませんか。
「聞きたい事はまだあります。どうやって証拠も無く消えることが出来たのかと、どうやって隠蔽し続けられたのかです」
「アングラな仕事の伝手で金を積みました。詳細は話せませんが、まぁそれなりに費用は掛かりました」
しほさんと千代さんが蟀谷を押さえてため息。愛里寿は何やら聞き入っているし、みほさんはジト目で俺を見ている。
会長は出入り口付近の壁に凭れながら、何やらファイルを見ている。
『あれは君の健康状態だとか診察結果だとかだ。医者曰く、なぜこの状態で普通に生活出来たんだとの事』
お前のお陰だよ。感謝してるよ本当に。
「あぁもう……こんなの誰にどう報告すればいいのよ」
孤児です。でも余裕で独り立ち出来ます。戸籍とか諸々アウトだけど大丈夫です。だって金があるから。
うん確かにこんな地雷扱いづらい。
「まぁ問題になってないから今の所はコレでいいでしょう……さーてさて、三年前に止まっていたお話の続きを始めましょうか」
その千代さんの発言と同時、しほさんとみほさんと愛里寿の雰囲気が激変した。
「夕姫、今度こそちゃんと家族になろう。大丈夫夕姫がどんな過去を持っていても私はちゃんと受け入れられるし体が弱い夕姫を一生診てあげられるし食事だって夕姫の大好きな物をちゃんとあげるし服も欲しい物を私が買ってあげるから何も心配しなくてもいいよ夕姫も独りじゃ寂しいもんね私もとっても寂しいよ今度は逃げないでね家族になろう」
「夕姫さんは普段はしっかりしているけどいざという時や自分の衣食住は本当に無頓着だから放ってはおけないよ沙織さんも言っていたけど変に吹っ切れてないで私と姉妹になろう大丈夫お姉ちゃんにもコレを言ったら喜んで頷いてくれたよ大丈夫西住の偉い人が文句を言ってきても私やお姉ちゃんが頑張って偉くなって何も言わせないから安心して」
「「は?」」
……。
『……ほーらやっぱり。私は知らないよ』
愛里寿とみほさんの言い合いはそれから10分も続いた。
「落ち着きなさい愛里寿。そう一気に事を荒立てないの」
「貴方もよみほ。病人の耳元で捲し立てる人がありますか」
「じゃあお母さまは夕姫が西住の養子になってもいいの?」
「じゃあお母さん夕姫さんが島田の子になってもいいの?」
「……元々この話は島田と夕姫さんが行っていた話ですので、確かにいきなり西住が入ってくるというのは些か問題があるように思えますが」
「ですが当の本人はまだ島田の養子になるとは一言も言っておりません。決まってから言うのは非常識でしょうが、まだ問題ではありません」
こ、今度は保護者の舌戦が始まった。
「プラウダ戦で見せた砲弾迎撃を始め、作戦立案や指揮能力は、島田の流派を体現したような物です。愛里寿の良きパートナーになります」
「西住の王道を支える人材としても申し分ありません。まほやみほが全体指揮を為す中で、指揮を臨時に引き継げる稀有な人材といえるでしょう」
そんな過大評価されても困るぞ。それに俺の意見とかが全然聞かれないんだが。もしかして一回逃げたから変に駄々こねる前にやりきるとかかな……。
『もしかしなくてもそうだよ』
「お話し中すいません。担当医から総合的な診察結果が出ましたのでお聞きくださいますか」
もしかしてこの場で一番大人びているのは会長なのではなかろうか。
「会長、私の診察結果は」
「……まぁその貧弱な体が眼と骨折の手術に耐えられたのは奇跡だってさ。それ以前から体のあちこちがズタボロで、幼少期に栄養が得られなかったから、細胞も正常に分裂されてない。極度の栄養失調の所にトラック事故……それだけでもヤバいのに、過度な偏食と失明、骨折。この状態でなぜ普通の生活が出来ていたのか分からないってさ。ましてや今後は戦車道も禁止だと」
あれ、そんなにやばかったか。ハイエに補助してもらっていると自分が不健康なの忘れてくる。
「夕姫……」
「夕姫さん……」
そんな目で見ないで。トラックに轢かれてからは俺の行動が原因なんだから自業自得です……。
「家元のお二方は茂野さんが戦力になるであろうから勧誘してる部分も大きいかと思います。ですがご報告の通り、もう彼女は戦車に乗れません……それでも養子に迎え入れたいとお考えですか」
「「それが娘の望みなら」」
いつの時代でも子を思う母は強い。時としてその子すらドン引きさせる行動を取るのだ。略奪しようとした兵士に対して、銃とか手元にあったら迷いなく撃つぐらいには強い人もいる。
「まぁ最終的には本人の意見次第です。茂野ちゃん……茂野ちゃんが決めるんだよ」
おおぉん。こんなのどっち択んでも禍根残らないか。
二人と姉妹になったらそりゃ掛け替えの無い人生を送れるだろうよ。そりゃもう夢一杯希望一杯だろうけどもさ……。
『まぁ、君なりの方法だよね。他人と親密になり過ぎない。愛着を持ち過ぎず、嫌いにもなり過ぎず。適度に無関心である事。次の生に執着を持ち越すと辛いだけだもんね』
何回目だったかな。かなり初期の転生で、本当に仲良くなり過ぎた奴らとの関係が、俺の死で唐突に終わった事がある。俺の場合は死が終わりではなく、ただの状態異常に過ぎない。ハイエに名前も聞かないと思い出せなくなった奴らは、もう戻ってこないのだ。
ハイエが居ないととっくに狂ってるね俺。
4人の顔を見て悩んだ……はぁ。ハイエ、何とかならないか。
『周りを見る事だね』
どっちを選んでも禍根が残る。ならどっちも選ばない訳か。俺は今のままがいいです!
…………はい。誰の家の養子になるか、俺は改めて決意した。決して愛里寿とみほさんの圧に負けたとかではない事をここに宣言したい。
俺は、愛里寿とみほさんを、千代としほさんを……そして最後に角谷さんを見て答えを出した。
「私は―――」
少し時が経って。
エキシビションマッチという名の交流試合が行われる事になった。奇跡を成した大洗女子学園は戦車道界からも注目の的である。
それと同時に、3年の時期に一人転校生が入って来た。俺は別のクラスだからよく知らないのだが、今日から練習に参加するらしい。
ガレージでは戦車道履修のメンバーが転校生が来るのを待ちわびていた。
因みに俺はあれから戦車には乗せて貰えず、作戦立案の仕方などの裏方でやっていた。そんな風に皆がワイワイ騒いでいるのを見ながら、転校生が来るのを待っていると。
『来たよ……あっ』
河嶋さんの案内でやってきた転校生が入って来た。
自己紹介で転校生の事を聞くために、しんと静まり返った。
「それでは通達していた通り転校生を紹介する」
河嶋さんがツイっと顔を動かし、前に出て自己紹介をするようにした。
俺も改めて転校生の顔を……顔を―――は?
なんで??????????
「Guten Tag. ドイツより留学してきたエルメンヒルデ・ツェーゲン・ハーゼンクレファーです」
ばなな
終わり! 閉廷!
有機物の生態を活動報告に載せました。暇なら見ていってね。
まぁ見ても何も無いんですがね。
いつも誤字報告とかありがとうございました。
感想も全て読ませていただいております。
因みに完走するまでに評価:☆0を受けないという目標は失敗しました。