貞操逆転世界の童貞辺境領主騎士   作:道造

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第232話 皇帝からの手紙

 

 会議室。

 私が茶を喫しながら、愛しい妹へ用件を促した。

 こくりと頷いて、ヴァリエールが手紙を渡す。

 

 「皇帝からの招待状が届いたんですが、姉さま」

 

 手紙の封蝋は確かに皇帝の紋章と一致している。

 ヴァリエールから受け取った手紙の文をちら、と一読して、そのまま返した。

 丁寧な文章が綴られており、好意を隠さない様子であることが理解できた。

 

 「招待に応じてもかまわんぞ」

 「殺されたりしませんか?」

 

 相変わらず何故か無意味にオドオドとしている――こればっかりは直る気配がない。

 そんな妹を見てニコリと笑い、安心させてやる。

 

 「何を勘違いしているのか知らんが、皇帝は間違いなくお前に好意的さ。自分の代わりに怨敵を痛めつけてくれるからな」

 

 帝国を売って逃げ出す前に、特等席で怨敵の惨劇を楽しめるなら不満は何もないはずだ。

 だから、むしろヴァリエールにとって味方となってくれるはずである。

 どこまで協力してくれるかはわからないが。

 そう言い放ち、むしろ穏当に皇帝位を『簒奪させてくれるように』、ヴァリエールを通すことで話が出来ればと考える。

 別に皇帝を強いて殺したいわけでもないのだ、こちらは。

 裏で話を通せるに越したことはない。

 

 「ファウストも呼ばれているのだな」

 「拙いですか? 今はセオラの逃亡を阻止するために監視をしているはずで――」

 「少しであればかまわん」

 

 別に他に監視要員がいないわけでもない。

 テメレール公率いる『狂える猪の騎士団』もいる。

 それに、これからヴァリエールが挑む戦いにはやはりファウストが必要になるはずだ。

 そう言い含めて、部屋の椅子に座っている彼に視線を向ける。

 

「ファウスト。ヴァリエールの婚約者として参加してきてくれるか」

「構いませんが・・・・・・食事会ですか」

「何か疑問が?」

 

 なんとなく乗り気ではないファウストを観て訝しがる。

 

「皇帝は拒食症と伺いました。素っ気ない食事会になりそうですな」

「それはな。パンとスープしか口にしないと聞いた」

 

 だが、内容は濃密なものになるはずだ。

 グツグツと鍋で長時間煮込んで、野菜が溶けきったスープのように。

 ピン、とファウストが指を一本立てた。

 

「気になっていることがあります」

「何か」

「市民参事会との戦いですが、ヴァリエール殿下に全てお任せするつもりですか。アナスタシア様からの手助けがあってもよろしいような?」

 

 なるほど、ファウストの意見は尤もである。

 じーっとヴァリエールがこちらを見つめている。

 助けて欲しいらしい。

 だが駄目だ。

 

「ヴァリエール、脳みそが二つ以上あっても混乱するだけだ。ザビーネやベルリヒンゲン卿がしかと機能するのであれば、わざわざ私が手伝う理由はない。私が指示を出しても、連中は聞かないことが明白だしな。アレはお前の部下であって、私の部下ではないのだから」

 

 別に意地悪したいわけではないのだがな。

 あのザビーネ、悪辣ではあるが、やるべきことはキッチリやっている。

 まして、強盗騎士のベルリヒンゲン卿が補佐となれば私は必要ない。

 ヴァリエールは見事に市民参事会を打ち破り、価格交渉を勝ち取るだろう。

 そう信じている。

 私はそこまで考えたところで――

 

「ああ、私は協力しないが、アスターテなら貸してやれるぞ」

「え」

 

 ヴァリエールがちょっと嫌そうな顔をするが、良い考えだと思うぞ。

 暴力装置は多ければ多いほど良い。

 

「新しく入手した武器の実地試験がしたいそうだからな。荒事とあればアイツの使い道もあるだろう」

「素直に私に協力してくれますか? 嫌われていたような」

「ヴァリエール」

 

 私はぽん、と妹の肩を叩く。

 我が妹は自分の凄さを理解していない。

 

「お前は今や、マインツ選帝侯を打ち破った立派な選帝侯家の子女だ。名声では私やアスターテを遙かに上回っている。今更、アスターテがお前を嫌うことは絶対にない」

 

 というより、甘さも極まればあそこまでいくのかと感心さえしていた。

 今のアスターテはヴァリエールのことを十二分に認めている。

 わざわざヴァリエール本人には口にしないだろうがな。

 

「自信を持て、我が妹よ」

 

 ただ、それでもヴァリエールの指示をちゃんとアスターテが聞くかどうかだ。

 アイツは独断専行型の人間だからな。

 信頼とは別に、それだけが問題なのだが、ザビーネもベルリヒンゲン卿もどうせ言うことをちゃんと聞いていない。

 問題児がもう一人増えたところで、大差なかろう。

 ただ相手を殴る手がもう一本増えたと思えば良いだけだ。

 

「はい、姉さま」

 

 キラキラとした瞳で私を見る妹に、そこのところを言い出せずに居たが。

 ファウストがまた口を開く。

 

「アスターテ公爵が手を貸してくれるというなら心強いですが。もう一つ、ナヒドの連中も使えませんか?」

「暗殺者を使うのか?」

 

 いい考えだとは思うが。

 妹の顔を見ると、ぶんぶんと首を振っている。

 いくらなんでも市民相手に暗殺という手段をとるのは嫌らしい。

 

「駄目でしょうか?」

「駄目よ! 一人でも暗殺したら報復合戦になるでしょうが!! 穏便に、なるべく穏便に済ませたいってわかってるの?」

「いえ、逆です。暗殺防止のために護衛に付いて貰おうかと思いまして」

 

 ああ、そっちか。

 確かに必要かもしれない。

 皇帝の興味がヴァリエールに向いている中、強いて暗殺教団を遊ばせておく理由もない。

 別に暗殺しても個人的には良いと思うがな。

 

「いいぞ、連れて行け。アスターテとナヒドにはこちらから話しておく」

「ええ・・・・・・」

 

 ヴァリエールの心底げんなりした顔を見る。

 短剣と毒薬の使い方を知る必要のなかった子が眼前の妹であるのだが。

 今回ばかりは仕方ない。

 良い機会であるので、今回使い道を知ってもらおうという姉心だと理解してくれ。

 

「まだ何かあるかな?」

「いえ、ありません。市民参事会が動き出す前に、皇帝に会っておくとしましょう」

 

 ファウストは強く頷いた。

 自分の膝をぱんと叩いて、立ち上がる。

 

「ところで、ヴァリ様」

「何、ファウスト」

「このファウスト、とてつもなく嫌な予感がしております。今回の件、絶対に簡単には落着しませんな。念のためにアスターテ公やナヒドの協力を頼みましたが、それでも足りぬと考えております」

 

 ほう。

 ファウストの勘は良く当たる。

 

「足らないかね」

「足りない気がしますね。まあ、これから皇帝とお会いすることで埋まるかどうかですが」

 

 そう発言して、楽しそうに笑うファウストを見て。

 まあ大丈夫だろう。

 最悪はファウストを突撃させて、交渉のテーブルを引っくり返せば良いだけさ。

 私などはそう笑ってしまうのだ。




今回も準備回で短いです。申し訳ありません



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