貞操逆転世界の童貞辺境領主騎士   作:道造

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第242話 火をくべろ!

 

 

 火をくべろ! 火をくべろ!!

 我らランツクネヒトなり。

 偉大で勇敢なレッケンベルからの神のお恵みを!

 彼女の下、一つの騎士団が現われ出で笛や太鼓で諸国を廻る、これぞランツクネヒトと申すもの

 決して死を恐れぬ強者なりて!

 ゆえに火をくべろ!

 ファウスト・フォン・ポリドロなる憤怒の騎士の怒りに火をくべろ!

 

「ポリドロは怒ったか!」

「当然の如く激怒したであろう! 市民参事会のコネを使って情報を集めたのだ! それだけの手配もした! ぬかりは一切無いぞ!!」

 

 最高級のリート(歌)を。

 ポリドロの、彼の、怒りをかき立てるために全身全霊を尽くしたのだ。 

 あのいけ好かない雇い主である市民参事会を暴力交じりに『くまなく』使いて、彼のネガティブになるもの。

 センシティブで秘すべきものの全てについて。

 どのようにすれば彼が怒り狂うかをどこまでも調べ上げて、その侮辱に全身全霊を尽くしたのだ。

 それが正々堂々の一騎打ちにて破れたレッケンベルを侮辱する行為と同じであると知ってまで。

 これで怒り狂わねば我らが困ってしまう。

 火をくべろ!

 火をくべろ!!

 最大限の殺意を!

 我らランツクネヒトなり。

 誰よりも猛き愚か者ども。

 

「何がしたい」

 

 バウマンが呟いた。

 誰にも聞かれぬようにして、それでいて誰の耳にも聞こえるような呟きであった。

 私は答えた。

 

「ポリドロの怒りを買いたい。それ以上の目的などない」

「何故?」

 

 バウマンが答えた。

 このもの、実に頭が悪い。

 そんなことわかりきっていよう。

 

「ヴァルハラへの死を乞い願うためには、全身全霊に怒り狂ったポリドロでなくてはならない。神聖グステン帝国最強の騎士へと立ち向かわねばなるまいのだ。それが我らがヴァルハラへと出向く権利を得る最低限の条件よ」

 

 他に理由などありはしない。

 殺されるためだ。

 全身全霊のファウスト・フォン・ポリドロと相対して殺されるためにやるのだ。

 彼を殺そうとは思っている。

 だが、それ以上に本気で我々を殺してもらいたいのだ。

 全身全霊を発揮した戦士である彼と相対したいのだ。

 

「そのためにこんな安い挑発をしたのか? 私を騙したのか? 私は世間に噂で流れるような挑発じみた手紙を送るつもりなどなかった。このような内容はレッケンベル様への侮辱につながる」

 

 バウマンがまた呟いた。

 彼女の手は怒りに震えている。

 彼女の親しい下士官に、手紙の詳細を聞いたのであろう。

 イングリットの反応から、自分の望んだ内容ではないと知ったか。

 不服のようである。

 なるほど、彼女には説明しなかったが。

 

「おうよ。ポリドロには怒り狂ってもらわねばならぬ。そうしてもらわねばならぬ」

 

 そうでなければ。

 そうでなければ、だ。

 本当に全身全霊から全力を発揮したポリドロ卿と相対せねば。

 

「我らがヴァルハラに行けぬ。ヴァルハラへの扉は真に勇敢であった者のみに開かれる」

「そうだ!」

 

 誰かが私の告白に答えた。

 そうだ!

 もう、そこにしか我らの行き場所は無い。

 どこまでも賛頌して限りない勇者に殺して貰って、戦いの末にヴァルハラに行くのだ。

 その相手としてファウスト・フォン・ポリドロは相応しい相手であった。

 何せ、レッケンベルを殺した本物の勇者であるのだ。

 ならば、彼と勇敢に死ぬまで戦いさえすれば、レッケンベルの御許へ我々を導いてくれるに違いない!

 

「貴様らは私に嘘をついた。アレが、あの手紙が一騎打ちの決闘状などと」

「嘘は言っていない。結果的にはだが。皇帝は、マキシーン皇帝陛下は受けた。天覧試合にてお前との決闘を受け付けると」

 

 嘘は何も言っていない。

 結論はこうだ。

 

「お前が約束したのは別に良い。天覧試合だったか? コロッセウムの大観衆の中で、ポリドロと闘いたくばそうしてもよい。強要はしない。できればポリドロを殺して欲しいが・・・・・・そこまでは求めないさ。殺してくれればよい、八つ当たりを加えてくれれば良い。そう思うが、調べれば調べるほど無理がある」

「私が負けると?」

「少なくとも我らは死ぬだろう。仮に万が一にお前が勝ったとしても、その様子を見届ける気など我らには一切無いぞ!」

 

 そうだ。

 我々は死ぬだろう。

 最初からその価値観の上で話を始めているのだ。

 ハナから犠牲なしに勝てると思っているどころか、最低限我々の死が確定の上で話を始めているのだ。

 我々をみくびるな。

 

「バウマン。お前は今回の話の結末をどのように思っている」

「簡単だ。ポリドロを殺して終わりだ。それで終わりだ。先に何もない。八つ当たりをして終わりだ。その後は、どうでもよい。殺されようが、肉や皮を貝で剥がれようが」

「違うな。我らも最初はそう考えた。そこが発端だ。だが、もし我らが死んだ後をと考えれば違うのだ。我らは猛き愚か者なれど、文盲で空気も読めぬ馬鹿ぞろいでもない」

 

 違うのだ、バウマン。

 そうなればよいが、私は、私たちは、それ以上のことを目指している。

 史上最強の騎士たるポリドロを罵倒するなんて邪悪だし、正気なんかじゃない。

 だけど彼には、私たちを殺めてくれる役目が必要だった

 

「私たちは、我ら古きランツクネヒトはレッケンベル以外に仕えることなどできない。仮に娘のニーナ・フォン・レッケンベルが手を差し出そうが、納得することなどできない。全てを忘れて新しい戦場に出向くことなどできはしない。囚われているのだ。もう私たちはクラウディア以外に仕えることなどできない」

 

 クラウディア・フォン・レッケンベルという輝きに囚われているのだ。

 私は、私たち古きランツクネヒトは、今回の落とし所がどこに向かっているのかわかる。

 無知無能の愚かな輩ばかりというわけではない。

 きっと、ポリドロの強さを我らの骨身に染みこませて、落とし所をさぐるのであろう。

 だからこそ納得できないのだ。

 きっと、カタリナは、レッケンベルが育てた娘は我々を導こうと考えている。

 新しい居場所を与えてくれようとしている。

 どこか、きっと新しい良い戦場を与えてくれようとしている。

 それはとても良いことであるのだろう。

 私たち古きランツクネヒトには不幸なことだけど、多くのランツクネヒトはとても幸運だった。

 だが、我らは違うのだ。

 火をくべろ!

 

「ランツクネヒトを炎の中に戻すために、生贄が必要なんだ。それが私たちだ。ヴァリエールの落ち穂どもを観たか、あれがかつての我々である。そして、かつての我々にランツクネヒトが舞い戻るためには、我らはもう邪魔でしかないのだ」

 

 ならばせめてその生け贄として、勇敢に死ぬのだ!

 真に怒り狂ったポリドロを相手に回し、手加減などされることなく無慈悲に我らを殺して欲しい。

 臓物を地面にぶちまけ、力なき手を天に伸ばす!

 ヴァルハラへと導かれるために!!

 彼にとっては迷惑なことかもしれないが、我々は彼のせいで、もがき苦しんでいる。

 彼がレッケンベルを殺したゆえに。

 我々はニーナ・フォン・レッケンベルの伸ばした手を握ることなど、もはや出来ぬ。

 もしポリドロが我らに同情的であり、殺す価値もないと見放したならば。

 それこそ屈辱的なことだと思わないか。

 死んでも許されないことだと思わないか。

 どこまでも醜く見苦しく死を請うた我らに対して。

 どこまでも怒り狂って貰わねばならぬ。

 そうしてヴァルハラへの死を与えて貰う。

 運が良ければ、最後まで我らが勇敢であればそれが叶おう。

 

「貴様らは狂っている」

「元より正気でやっていることではない。正気の者などいるものか。我らは完全に死に向かっている」

 

 見栄えの良いズボンを縫う暇を作らねばなるまい。

 ポリドロに殺され、ヴァルハラへ出向きレッケンベルに愚か者めと唾吐かれ叱られる時には、ズボンのほつれなどを見咎められてはたまったものではない。

 それこそ大金を支払って、自分の全財産一切合切を使って見窄らしい格好など見せずに、ポリドロに我々を殺して貰わねばならない。

 ランツクネヒトの死に装束にて、派手な色のズボンと靴(シュー)で踏み足慣らせ!

 自分の靴(シュー)の中を自分の血で血塗れにせねばならぬ。

 そうして。

 そうして。

 眠れる獅子(ポリドロ)を走ってたたき起こせ!

 

「これ以上に怒らせるには何をすればよいか?」

「決まっている。市民参事会からも命令されている――あんなものは無視するつもりであったが、都合が良いならばやればよい」

「アレか」

 

ポリドロをおそらく最大限に激怒させる行為を。

彼の婚約者であるヴァリエール・フォン・アンハルトを拐ってしまおう。

 

「ポリドロの婚約者を拉致する。警戒をかいくぐり、我ら死兵となったランツクネヒトを以てして、ヴァリエールを拐っちまうのさ」

「よかろう。死人はいくら必要か?」

「100人も死ねば叶おう。生け贄を注げば叶おう。あのヴァリエールの行動は市民参事会が完全に把握している。チャンスは必ずや訪れる。我ら猛き愚か者どもの死を等価として、目的は叶おう」

 

今は市民参事会の言うとおりに動いてやろう。

もちろん、動くだけだ。

ヴァリエールに怪我一つ負わせるつもりはない。

市民参事会の交渉材料に利用するつもりなど欠片もない。

それは不純物だ。

ポリドロとの決闘に紛れが生じるからやらない。

 

「バウマン。お前は天覧試合に参加したいのであろう? レッケンベルへの名誉と共に、ポリドロに一騎打ちにて立ち向かいたいのであろう? 我らの望みとは違うが、道は違えたが、そうしたければそうするがよい。そこまで強要すべき権利は我らにない」

 

バウマンが黙り込むのを見届けて。

我々は叫んだ。

 

「金も命も惜しむな! 我ら最後の花舞台である! ヴァルハラへ出向く前に、さぞかしポリドロには我らのレッケンベルを殺した分の迷惑を背負って貰おうじゃないか!!」

 

未来などないし、望んでもいない。

我らは全員、傍迷惑な存在として、前のめりに死んでやろう。

ランツクネヒトが生まれ変わるための生け贄ぞ!

それだけを叫び終えて、どこか虚しさを覚えて。

私はかつてレッケンベルに剣で叩かれた、左肩を撫でた。




「次にくるライトノベル大賞2023」にて文庫部門3位でした。
ご投票いただきました方は有り難うございます。

Twitterにて頂いたヴァリ様とザビーネのイラストを連絡します

https://twitter.com/soba_3sai/status/1760999999993958815

また、短編漫画も描いて頂いたのでpixivのURLを貼り付け致します。

https://www.pixiv.net/artworks/115723379

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