貞操逆転世界の童貞辺境領主騎士   作:道造

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第261話 皇帝の地位は誰に?

 

「アスターテ、未だにマキシーンが皇帝の地位に相応しいなどと考えているのか?」

 

 アナスタシアの疑問。

 それに対して、私は素直に答えた。

 

「少なくとも、今のままの方がやりやすくはあるね。私の予想では結局、マキシーンの一族の力が必要になるんだよ。それこそモンゴルと真面目に対抗するためには兵数が足らん。それを彼女の存在は補填してくれるんだ」

 

 皇帝の一族。

 親族の裏切りにより、一度は泥が付いたが。

 それでも皇帝という至尊の地位まで上り詰めた一族であるのだ。

 一声かければ、三万の兵を集めることができる。

 場合によっては神聖グステン国内の兵を集めるだけではない。

 国外と交渉して、他国の兵を雇い入れることさえ可能にするかもしれない。

 金銭による傭兵団、騎士団の雇い入れ、あるいは他国そのものを友軍にすることさえも。

 それを考えれば、どうしてもマキシーンから皇帝の地位を簒奪するというのは悪手であった。

 

「カタリナとて『やる気があるならマキシーンが皇帝のままでも全然かまわない』とは言うだろう。だが、本人にやる気がない。それが一番の問題なんだ。やる気のない奴が皇帝のままで戦争など出来るか? その覇気の無さは必ずや指揮下に伝播するぞ。勝てる戦も勝てなくなる」

 

 アナスタシアは執務室の机にて、頬杖をつきながらに口にする。

 机には資料が山のように積まれていた。

 アンハルト選帝侯としての継承式を行うための費用の用意・人の手配、準備を一つでも怠れば面倒なことになる。

 貴族としての面子が潰れるのだ。

 招待する側も、招待される側も。

 だから、アナスタシアはしばらく身動きが取れない。

 しばらくはこの執務室に閉じこもりになるだろう。

 

「彼女の父親を殺したのは、皇帝という地位だ。親戚を狂わせた魔性の地位に、嫌気がさしているのだ。疎んでいるのだ。正直言えば、私も気持ちだけはわからんでもない。時々、選帝侯の地位など、何もかも放り出したくなる時だってある。例えばファウストと二人で、国外へ逃避行なんていいかもな。貴族としての責務があるので、決してやらんが」

 

 私がマキシーンの立場であっても、やはり皇帝の地位を忌避するだろうな。

 そう言いたげに、アナスタシアは天井を眺める。

 書類を立て続けに読んで、目が軽く霞んでいるのかもしれない。

 

「さて、ヴァリエールとファウストが呼ばれているとのことだったが? このまま座視すべきかね?」

 

 アナスタシアの問い。

 それに笑顔で答える。

 

「私も一緒に出向くつもりだ。私はヴァリエールの配下として、一時的にだが貸し出されたことになっているだろう?」

「まあ、そうしてもらえると有難い。妹の補佐を頼む。あの子は確かに成長したが、足らんところは相変わらず足りないままだ」

「承知」

 

 最初は市民参事会を滅ぼすまでの間のつもりだったのだがな。

 そう苦笑して、アナスタシアは椅子から立ち上がった。

 大きく背伸びする。

 

「少し休もう。茶を淹れるように頼んでもらえるか?」

「承知した」

 

 私は扉をノックして、顔を出した従者に茶を持ってくるよう頼む。

 従者は快く承知してから、少し席を外した。

 

「さて――皇帝の狙いはなんだと思う?」

「というと?」

「ヴァリエールを呼んだのはもちろん慰労だろう。あの子は皇帝がやって欲しくて仕方ないことを実行した。市民参事会の虐殺だ。それに対する褒美の一つでもくれてやるつもりだろう。しかしファウストは? 何のために呼ぶんだ?」

 

 さて。

 私は首をひねるが、まあアナスタシアは誤魔化せないだろう。

 諦めて、首の位置を元に戻して正直に答える。

 

「まあ、マキシーンの一族にとっての懸念。その解決策になるかもしれないからな。そりゃ呼ぶだろうさ」

 

 遠回しに言う。

 率直に言えば、アナスタシアの機嫌を損ねるかもしれないからだ。

 

「超人としての血か。稀血欲しさか。要するに、ファウストとの子が欲しいと」

 

 不愉快そうに回答を導き出す。

 アナスタシアは、大きくため息を吐いた。

 

「あの痩せっぽちの身体で、子を孕むつもりか?」

「まあ、そのつもりだろうな。それこそ子供が産めたら、母体である自分は死んでも構わないぐらいの考えで」

「阿呆らしい。あのマキシーンとやら、初恋も知らんのだろうな」

 

 皇帝に対する侮辱。

 それこそ一人の小娘を侮辱するかのような口ぶりで。

 それを隠そうともせずに、鼻で笑う。

 

「私のように、ファウストへの強い恋心は全くないのだろうな。結局、口説く暇もなくおざなりになっているが」

 

 元々、この帝都に来たのは選帝侯の継承式が理由であるが。

 それ以外に、ファウストを口説くというのも一つの目的であった。

 そんな状況ではなかったので、放置されているが。

 それを想い出したかのように、アナスタシアは呟く。

 

「私の想いを伝えるのは、継承式の後になるかな。まだ時間はある」

「まあ、そうなる。継承式までは仕事に専念して頑張ってくれ」

 

 そう口にして彼女を慰めた。

 それで会話は終わりかと思ったが、ふと、アナスタシアは眉をしかめた。

 

「アスターテ」

「なんだ」

「まさか、あのマキシーンがファウストに惚れることを期待していないか?」

 

 気づかれたか。

 そうハッキリとは口にせず、曖昧な笑顔でそれを誤魔化そうとするが。

 まあ、無理だった。

 

「まさか、色恋沙汰で皇帝を釣ろうと考えているのか? 皇帝に対するハニートラップを企んでいるのか? 本気か?」

 

 正気を疑うような目で、アナスタシアはこちらを見るが。

 私はといえば。

 

「さあ、どうなんだろうな。私としては手の一つではあると思っている」

 

 曖昧に応える。

 実のところ、自分でもよくわからないでいるのだ。

 そんなことが可能かというと、わからない。

 

「ファウストに惚れさせて、やる気を出させようと。自分の惚れた男をただ死地に出向かせるのは嫌だとばかりにやる気を出させようと。馬鹿馬鹿しい。そんな計画上手くいくものかよ。ニンジンを目の前にぶら下げたからといって、馬が走るとは限らん」

「そうだな」

 

 嫌悪。

 はっきりとその感情を示して、アナスタシアは突っぱねるが。

 理解はしているだろう。

 

「……」

「……」

 

 奇妙な沈黙が漂う。

 わかっているはずなのだ。

 普通の男ならば確かに無理だろう。

 どんなに美形な男を使おうとも、ハニートラップなど成功するわけがないと。

 だがファウストの場合に限っては、可能性があると。

 ファウスト・フォン・ポリドロ。

 アンハルトの価値観では美しいとは呼べない、身長2m、体重130kgを超える筋骨隆々の領主騎士。

 いや、アンハルトどころか神聖グステン帝国中でも認められないだろう。

 尚武の国であるヴィレンドルフを例外とすれば、容姿は醜いと思われるだろう。

 あまりにも男らしくない。

 だが。

 心根は本当に優しく、悲しいぐらいに実直であった。

 金や権力を必要とはしているが、それは自分のためではなくポリドロ領という小さな領地の領民のためで。

 本当の意味では出世にも、権力者からの庇護にも、贅沢にも興味はない。

 領地以外の何物にも縛られない。

 あの男の存在は、ある種の人間にとっては魔性といっても良い。

 

「気に食わん。ファウストを餌にするなど」

 

 アナスタシアは、ハニートラップが成功する可能性はあることを、正直に認めた。

 自分ならば引っかかる可能性が高いからだ。

 心底惚れた男である。

 どうして自分以外の女が興味を示さないと言えようか。

 

「まあ、どうなるかわからんといってるだろ。これはあくまでも手の一つだ。実際にはケルン派の用意した新兵器の数々を見せて、マルティナと会話をさせて。色々な餌をぶら下げつつ、少しずつ『揺さぶる』つもりだ」

 

 アナスタシアは悩んでいる。

 苦渋の表情を見せながら、それでも結論を出した。

 選帝侯としてふさわしい、あるべき回答をである。

 

「好きにしろ。気に食わんが、有効な手の一つとは認める。だが、あくまでもマキシーンを皇帝としたいなら、それはお飾りとしてではない。それこそ死に物狂いでのやる気を出してもらわねばならん。それが駄目なようなら、さっぱり諦めろ」

「そのつもりだ。どうにもならなきゃ、まあさすがにカタリナに皇帝になってもらうさ」

 

 それでも、マキシーン一族から兵を出させるぐらいの交渉はするつもりだけどね。

 アスターテはそう口にして。

 とりあえず、許可が取れたことに胸を撫でおろした。

 

「さて――どうなることやら」

 

 自分の愛しい親戚で、同時に主君でもあるアナスタシアからの許可は得た。

 それは良いが、アスターテ自身にもこの先は読めない。

 ケルン派の新兵器で納得するか?

 マルティナとの会話で揺さぶられるか?

 ファウストという男に、マキシーン皇帝が魅了されるものか?

 そして、マキシーン皇帝が仮にやる気になってくれたとしても、何処まで神聖グステン帝国を一つに纏めきれるものか。

 不確定要素だらけである。

 だが、少しずつだ。

 少しずつ、戦争に勝つためのパズルのピースが集まってきているような気がして。

 今の私は、決して悪い気分ではなかった。

 

 

 

 

 

 第十二章 完

 




諸連絡

 まずは、第十二章までお読みいただきありがとうございました。
 
 書籍の方ですが、売上良好で続巻(6巻)確定との連絡を頂きました。
 御購読頂きました皆様のご芳情に、重ねて御礼を申し上げます。
 今後ともよろしくお願いいたします

 というわけで6巻の書籍化作業に入ります。
 5巻までは本編内容にはそこまで手を加えず書下ろし外伝に注力しておりましたが、編集様と相談のうえで帝国編となる6巻以降はガッツリ本編を直した方がいいんじゃないかとなり、大きく手を加えることになりました。
 (作者も常々「ここは直した方がいいんじゃねえかなあ。でも今手を加えたらエタるしなあ」と言う不満点が沢山ありました。異端審問編とランツクネヒト編は特に)
 ゆえに、今後の書籍版はかなりWeb版の内容から改稿されることになります。具体的には読者評判が悪かった部分。
 これを機会に書籍版の方もお買い上げいただけますと嬉しいです。


 また、「7 Knights To Die」も本作品6巻よりも先に出版予定見込みとなりました。
 こちらも書籍化作業中ですが、応援よろしくお願いします。 
 https://syosetu.org/novel/364051/


 ここまでお読みいただいた読者様にどうか御納得いただけますように
 書籍化での改稿作業を進めさせていただきます。
 そのためしばらく休みますが、書籍化作業含めてほぼ毎日5000字ペースで書いておりますので
 興味がある方はXをフォローして頂くか、カクヨムの近況ノートでも覗いていただければ幸いです。書籍化作業しつつ、何か色々と書いてます
 まあ最終的にブラッシュアップしたものをハーメルンに掲載するので、「それ読むから別にいいよ」という方は見ずとも、もちろん大丈夫です。
 それでは失礼します

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