【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い―   作:双子烏丸

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暗闇の向こう側に

 ――――

 

 カザミさんの提案で、ミラーミッションって言うものに参加した私。

 

「何ていうか、まるで小さい頃に探検ごっこをしているかのような気分になるぜ!

 パルやヒナタもそう思わないか?」

 

「洞窟の中……ですか。少しだけ怖くて気味が悪いですけど」

 

「大丈夫大丈夫! 俺がついててやるからさ!」

 

 私たち三人は暗い洞窟の中を歩いていた。ここがミラーミッションのエリアみたいだね。

 

 

 

 洞窟の狭い道を歩いていて、右横には澄んだ綺麗な川がせせらぎながら流れている。それにどこからか水滴の音も。

 岩肌はうっすらと輝いていて、たぶん発光するコケか何かがあるのかな。おかげで懐中電灯がなくても辺りはよく見えるんだ。

 

 

「私はカザミさんの気持ち、ちょっと分かるかも。小さい頃にヒロトと二人で街中を冒険した感じ、たぶんそれに近いのかな」

 

「ヒナタは分かってくれるか! そうそう、まさにそれだよ!」

 

 カザミさんはキラキラした目で私に顔を近づけた。

 

「……うわっ、と」

 

「俺も子供の頃、空き地や林で探検ごっこだとかやったりしたんだよな!

 このワクワク感! ガンプラに乗るのもいいが、こうして歩いて進んでいくのも冒険って感じでとてもいいさ」

 

「そうですね。だけど……」

 

 私はつい道の左側に視線を向けた。

 

「パルくんの言う怖いって気持ちも、私は分かるな」

 

 

 

 右には綺麗な川が流れていたけど、左にあるのは大きな深い崖があるの。

 もちろんここは仮想世界で危険がないのは分かるけど、光の届かない真っ暗な崖の底がすぐ近くにって。怖い気だってするよ。

 崖の向こう側には岩場がいくつもあって、そっちも暗くてここからだとほとんど見えない。

 そこは暗闇ばかり。上手く言えないけど……ゾクッてするの。

 パルくんの言うとおり怖くて、不気味なんだ。

 

「やっぱり怖いですよね」

 

 パルくんはふと立ち止まってそう、ぼそっと呟いた。

 それでもカザミさんはいまいちな感じみたい。彼も足を止めると、ちらと横の断崖を横目に眺める。

 

「どうも分かんないなー!

 そりゃ……左横にある崖だとか暗闇だとか、俺だって少しは思わなくはないぜ。

 けどそんなのは所詮見た目だけじゃないか。別に取って喰われるわけじゃないし、GBNだから全然安全だろ?」

 

「それは……そうかもですけど」

 

 

 

 

 言うべきか、言わない方がいいのか。

 自分でも悩んでいる感じで、だけどパルくんは言葉を選ぶかのようにこんな事を話してくれた。

 

「あの、もしかしたらカザミさんもヒナタさんも変に思われるかもしれませんが。暗がりを見ると、つい僕は思ってしまうんです。

 

 ――こんなに闇が広がっていると、まるであの中に僕たちの全く知らない、得体の知れない『何か』が潜んでいるかもって。

 きっとそんなのってあり得ないと思うけど……多分それが僕にとって、一番怖いのかもしれません」

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 私もカザミさんも、パルくんの思いのよらない告白に固まった。

 それにパルくんもあれから口を閉ざして、三人とも沈黙したまま。だけど。

 

 

「…………ぷっ!」

 

 その沈黙を破ったのはカザミさん。彼は噴出したかと思うと、いきなり大爆笑した。

 

「わはははははっ! なーに言ってんだよ、パル! いくらなんでも想像力が豊かすぎるにも程があるぜ!」

 

「えっ、カザミさん」

 

「ようはお化けだとかそう言ったのが怖いって言うのと、似た感じだろ? パルの言っている何かだって、実際はいもしないものじゃないか。そんなのにビクビクしてちゃ仕方ないぜ」

 

「そう……でしょうか」

 

 と、カザミさんはパルくんに親しげに肩を組む。

 

「パルだって俺たちとエルドラで命懸けの戦いを乗り越えて来たじゃないか。なのに今更それで怖がるなんて、らしくないじゃないかよ!」

 

「あはは……なのかな」

 

「おうとも! 

 ――それじゃ、これ以上辛気臭い話題はなしだ。先に進もうぜ。

 たしか聞いた話だと、この先で千本ノックのミッションがあるんだよな。パルやヒナタは体力に自信あるかい?」

 

 そうだったな。まだミラーミッションはこれからだったんだ。

 ここで気を取られるよりも先に進まないとね。

 

 

 

 

 カザミさんたち二人は、もう歩き出している。

 じゃあ私も。そう思って歩み出そうとした……

時だった。

 

 

 ――えっ?――

 

 

 崖の向こう側から何かの視線を感じた。

 あの先が見えない暗い闇の向こうから。じっと見て来るような、そんな……。

 

 ――ううん、たぶん気のせいだよね。さっきパルくんの変な話を聞いちゃったから。 

 でも――

 

 さっきは言わなかったけど、パルくんのあの気持ち。たぶん私も近い感じだったと思うから。

 

 ――ああして真っ暗だと、もしかして――

 

 ……いや、まさかあり得ないよ。

 それよりも私も先に行かないと。二人は少し先に行ってるし、ね。

 

 

 あーあ、本当に……何だろうな。

 

 

 

 ――――

 

 私もここに来るのは初めてなの。

 だけどミラーミッションって、やっぱり変なミッションだな。

 

「うわわわ……っと!」

 

 勢いよく飛んできたボールに、パルくんはバットを空振りした。

 

「おいおい、そうビビッてちゃボールが打てないだろ?」

 

「だってボールの勢いが強くて、僕には……」

 

 今私たちがいるのは、洞窟の中にある野球場みたいな所。あれから道を歩いてたらこんな場所に出てきちゃった。

 カザミさんの言っていた『千本ノック』。何のことだろうって思ったけど、まさか本当にそのままやるんだ。

 

「よぅーし! なら俺の腕前、とくと見せてやるぜっ!

 二人ともよく見ていてくれよな!」

 

 今度はカザミさんがバットを握り、バッターボックスに立つ。

 

「よーし! 来い!」

 

 そしてピッチャーをつとめるSD体型のジムが、ボールを手に降りかぶって投げた! 対してカザミさんは自信満々、迫って来るボールに向けてバットを……。

 

「……あれ?」

 

「空振り……ですね」

 

 勢いよく振ったのは良いけど、綺麗に空振り。やっぱり難しいよね。

 

「ははは! んなのたまたま調子が悪かっただけさ。

 今度こそ見ていてくれよ、次は満塁ホームランってやつだ!」

 

 でもカザミさんはめげないで、相変わらず自信たっぷり。けど大丈夫かな?

 

 

 

 ――――

 

 

 そして、どうにか千本ノックを終えた私たちを待っていたのは。

 

「これは、ええと……どうすりゃいいんだ!?」

 

 今度は知恵の輪を解いていた、私たち。こんなに大きな知恵の輪……見たことないよ。

 

「だあぁぁっ! 訳分かんねえ! 俺はこうして頭を使うのは得意じゃないんだ。いっそ力ずくで 」

 

 向こうでは力任せに引っ張っているカザミさん。だけど、多分それじゃ無理だよね。

 ちなみに私は。

 

「知恵の輪と言うのは全体の形を見てどこから外せばいいのか、落ち着いて考えれば大丈夫なんです」

 

「うーんと、こう……かな」

 

「惜しいです。ヒナタさんは少し難しく考えている感じですから、もっと簡単に考えれば、きっとすぐ解けると思いますよ」

 

 こうした事はパルくんが得意みたい。彼は先に自分のを解いたあと、私に解き方を教えてくれているんだ。

 パルくんの教えてもらいながら私は知恵の輪を頑張ってみた。そして……!

 

「やった! ようやく解けたよ」

 

 私はやっと、自分の知恵の輪を解くことが出来た。パルくんのおかげだね。

 

「パルくん、ありがとうね。おかげで助かったよ」

 

「どういたしまして。ヒナタさんの助けになれて良かったです。

 ……カザミさんも、良かったら僕が手伝いましょうか?」

 

 今度はカザミさんにパルくんは教えようとしていた。

 

「いやいやいや! 俺は平気だぜ。これくらい自分で……ぐぎぎぎっ!」

 

 意地を張っているもたいなカザミさん。彼はあくまで自分で解こうとしているけど、やっぱり力任せ。

 

「あはは……仕方ありませんね。じゃあ僕たちはしばらく待ちましょうか」

 

 パルくんはそう言って苦笑い。でも時間はまだ大丈夫だし、ゆっくり待ってもいいかも。

 

 

 

 ――――

 

 こんな感じで、あまりガンプラと関係ない内容ばかりのミラーミッション。

 今はアスレチックのミッションの途中。

 ロープをくぐったり、ロッククライミングみたいな所や、湖に浮かぶ足場を飛び移ったり。……ははは、楽しいけどやっぱり大変かも。

 

「ここで一回、休憩にしようぜ。さすがの俺でも疲れてヘトヘトだ」

 

 アスレチックの中間地点、川の傍にある静かな岸辺。私たちはそこで休憩を入れることにしたんだ。

 

「アスレチック、あんなに大変だなんて。……ヒナタさんもお疲れ様です」

 

「女の子だし、俺たちよりもキツかったかもだな。……ミラーミッションを提案したのは俺だから悪いことしたかもだな」

 

「ううん、カザミさんが気にしなくても。だってとても楽しかったから!」

 

 私は笑って、二人にそう答えた。

 

 

 でもこの場所。静かで綺麗で、とても良いな。……そうだ。

 

「ねぇ二人とも」

 

「ん? どうしたんだ?」

 

「ちょっとだけ、一人でこの辺りを散歩して来ていいかな?

 ゆっくりしたくて……。少し待たせちゃうかもだけど、どうかな?」

 

 そんな私のお願い、カザミさんとパルくんは。

 

「もちろんいいぜ! 何せヒナタの頼みだもんな」

 

「僕たちのことはお気になさらず。どうかゆっくりして来て下さい」

 

 ……良かった!

 私は二人にありがとうと伝えると一旦別れて、一人散歩に出てみることにした。

 

 

 ――――

 

 洞窟を流れる小川に沿って、岸辺を歩く私。

 

 ――落ち着くな。こうして川が流れる音を聞きながら、ゆっくりと歩くのって――

 

 気分だって気持ちいいな。こうしていると、嫌なことなんて忘れられる感じ。……でも私には嫌な事なんてなんてないんだけどね。

 

 

 川沿いを歩いて、その先には小さな丸い湖がある。

 そこはとっても綺麗な澄んだ湖。私はその傍に座って、おもむろに水面を覗き込んだ。

 底まで見えるくらいに透き通って、水中を泳ぐ魚まで見えちゃうくらい。それに波の立たない水面はまるで鏡みたい。

 

 

 そんな水面に映る自分の顔。

 鏡写しの私。私が笑うと……向こうの私も、同じように笑う。

 

 ――良い笑顔。自分で言うのも変かもだけど――

 

 こうして座って湖を眺めて、私は色々と考えが頭に浮かぶ。

 いつもの日常や学校やGBNの事、それに……ヒロトの事。

 

 ――ヒロト、今どうしているのかな――

 

 メイさんと用事があるって、今は二人でいる彼。私はちょっと気になった。

 でももしかすると、そこまで大した用じゃないかもしれないし。それより――

 

 ――私はヒロトの事が隙なんだ。うん、とっても――

 

 自分でもそれは分かっていること。だけどその好きって思いは、難しいんだ。

 

 ――難しいけど、私がヒロトを好きだって。誰よりも一番好きだって言う思い。

 それは自分でも、よく分かっているから――

 

 一番……大好き。それさえ分かっているなら、きっと大丈夫な気がする。

 あとはその想いを上手くヒロトに伝えれば。

 もう、それだけの所にまで来たんだ。

  

 

 ――私が伝えられたら、ヒロトは私の事をもっと想ってくれるかな。

 だってヒロトの事を、私は誰よりも想っているから。ヒロトだって私を一番好きだって――

 

 

 

 

 一番好きだって、思って…… 

 

 …………

 

「……」

 

 本当にヒロトはそう思ってくれるのかな。

 だって告白しても彼にはもう、特別に思っている人がいるんだから。

 誰にも負けないくらい特別な――

 

 ――どうして私は、ああじゃないんだろう。ヒロトにとってやっぱり私は――

 

 そんな思い、もしかして……私は妬いているのかな。こんなのって……。

 

 ――自分がとても嫌になるよ。ずっとそんな風に思う事はなかったのに、今になって――

 

 水面に映る私の顔も暗い表情になっていた。 そんな自分の顔なんて。私は近くの小石を投げ込んで、その波紋で打ち消した。

 

 一度は落ち着いて、ヒロトに振り向いて貰おうと頑張って来た。なのにまた私は、何処かで後ろめたい思いに囚われている。

 

 ――とても苦しい……な。いっそ、こんな心なんて消えちゃえばいいのに――

 

 

 

 

 見ると水面の波紋も消えかかって、また私の顔が現れて来る。

 やっぱりまた暗い表情の私。でも、水面に映るのはそれだけではなかった。

 

 ――私の後ろに、誰か――

 

 水面に映っていた私の姿、その後ろにもう一人の人影が。

 それは一緒にいたカザミさんやパルくんとも違う。

 だって、水面に一緒に映っているのは――。

 

 

 

 すぐに私は後ろを振り返る。

 

 ――その瞬間、一瞬だけ顔が直接見えた気が――

 

 だけど次の瞬間に私の意識は、もう……途切れていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 ――――

 

 再び意識が戻ると目の前にはカザミさんとパルくん、二人の顔が見えた。

 

「カザミさん……? パルくんも……いつの間に」

 

「目覚めたみたいで良かったです。ヒナタさんはさっきまで、気絶して倒れていましたから」

 

「私、気絶……していたんだ」

 

 確かに私は倒れていた。自分では知らない間に、いつの間に。

 場所はさっきの湖、もちろん今は私たち三人だけ。

 

 

 

「あれから戻りが遅いって思って、様子を見に行ったら湖のそばで倒れていて……驚いたぜ。

 何かあったのかよ?」

 

「えっと……」

 

 カザミさんに聞かれて、私はどう答えようか考えた。――けど。

 

「ううん、分からないよ。気が付いたらいつの間に気を失ってたんだ」

 

 私は考えた末にこう答えた。

 対して二人は……

 

「そっか。ヒナタも分からないのか。なら、一体原因は何だろうな」

 

「恐らくGBNとのリンクで、エラーが生じたんじゃないでしょうか。システムの異常でリンクが途切れたから、ダイバーも気絶した感じになってって……僕はそう思います。

 ヒナタさんは、今は身体の異常は大丈夫ですか?」

 

 二人とも私の答えを受け入れてくれたみたい。

 

「……うん! 私は全然平気だよ。心配かけちゃったみたいでゴメンね」

 

 

 

 いきなり気絶したのは、本当のこと。だけど、あの事はカザミさん達に話してもきっと信じてもらえないもの。

 

 

 だってあの時水面に一緒に映っていたのは。

 ――――全く同じ姿をした、もう一人の『私』だったんだから。 

 

 

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