【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い― 作:双子烏丸
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「――それは」
彼女の言葉から目を反らすように、私は俯く。
ずっと前。私とヒロト、それにメイさんとエルドラに行った時だった。私はそこで初めて彼からイヴさんの事を教えてもらったんだ。
あんなに辛くて悲しい事を抱えていたヒロトに、私も同じ想いだった。けど――私は『ワタシ』の言う通り、どこかでそんな後ろめたい思いを抱いていた。
だってきっと、彼にとってとても大切な人だって分かっていたから。
ずっとヒロトが私よりも誰かの事を思っているのだって知っていて、それがイヴさんだって分かったから。……もういないって分かって安心してしまった。
これで私の事ももっと見てくれる、想ってくれるかもって、そんな考えがあったから。
――自分勝手で、最低だって分かっていたんだよ。でも私は少しだけそう思ってしまったんだ。……いけないことなのに――
私はそんな自分が嫌で、その思いを心の奥底に隠していたけれど、あの『ワタシ』もそれを知っていたなんて。
「気に病む事はないわ。だって、誰だって好きな人には一番に想ってもらいたいもの……誰だってね」
まるで『ワタシ』は、いかにも分かっているかのような、そんな感じ。
「――けどムカイ・ヒナタ、貴方の想いは叶わないわ。
例えもういなくなっても、だからと言って貴方を一番に思うことなんてない。何しろヒトの心にはいつまでも大切な人への想いが、留まり続けるものだから。
イヴがいなくなって代わりに、貴方がクガ・ヒロトにとって特別な、大切な人になれない。彼女のように好きになってくれるわけないじゃない」
言われなくても、分かっているよ。ヒロトは今でも、イヴさんの事を想ってることくらい。
――でも。
「今彼と仲が深まったって感じるのも、所詮はただ優しさで付き合ってあげているに過ぎない。失った彼女の代わりやその寂しさを誤魔化すだけのものかもしれないのに。
……それなのに彼を想い続けるの?」
どれもこれも黒い『ワタシ』の言うことは、冷酷で辛いことばかり。
――だけどふいに彼女の冷たい雰囲気が、少し薄らいだ。
「実らない想いを抱き続けるなんて、きっと辛いことだわ。
だから『ワタシ』はね…………『私』にクガ・ヒロトへの想いを、すべて捨てて諦めて欲しいのよ!」
まるで良い提案だと言いたいかのように、『ワタシ』は両手を合わせて私に微笑む。
「ヒロトを諦めてって。そんな」
「ええ、もちろんよ、その方がきっと楽になるわ。
いくら想っても気にも留めない、それどころか別の相手ばかり好きになる彼なんて酷いでしょう?
どう、同じ『ワタシ』からの話を聞いて『私』も目が覚めたんじゃない? ……そしてこれからは別の相手を見つけるべきよ。ちゃんと貴方を本当に一番に想ってくれる人を、ね」
私はそんな事考えた事がなかった。
ヒロトへの想いを捨てて、別の人を好きになるなんて。でも……
「――ねぇ、それがムカイ・ヒナタのためでもあるのよ。彼の事なんていっそ忘れてしまえば、苦しまなくて済むのだから」
ぐらつく想い。少しだとしてもヒロトの事を諦めてしまえばいいって、頭の中にはついそんな事までよぎってしまう。
――本当に、そうすれば楽になれるのかな――
どこかであの『ワタシ』の言う事が、もしかすると正しいのかもしれないって思う自分がいた。
だって『ワタシ』が話している間、私はほとんど俯いたままで、言い返す事も出来なかった。多分それは私もそう思っていた所があったから。
「そうかもしれない……けど」
顔を上げて目の前の『ワタシ』を真っ直ぐ見据える。
「私はね、ただヒロトが幸せならいいんだ。
もし想いが届かないとしても、それでも」
それはずっと、私がヒロトに抱いていた気持ち。
だからこそ彼の心が傷ついたままだった時は辛かった。それから元気になって、また前を向けるようになった時は嬉しかったんだ。
自分がどれだけヒロトに想われているかいないかなんて、関係なかった。
でも『ワタシ』は今度は憐れむような視線を向けた。
「……どこかでそう言うと思ったわ。
今はそれで良いって思っているみたいだけど、それは貴方が本当に幸せになんてなれないわ。
いい、貴方が相手を想うのなら、同じくらい相手に大切に愛されるべきなの。
ムカイ・ヒナタ、貴方だってそう願っているはずよ」
それは違う。――なんて私には言えなかった。
だってヒロトが他の誰かを想って居るときに、辛いって思ったし、もういないって知った時には安心もしてしまった。
私も好きな人に一番に想ってもらいたいと、きっとどこかで強く願っている。
「それは確かに、貴方の本心かもしれないわ。
ただ彼を想うだけでいいと見返りを求めない愛。優しい『私』らしいわ。……けれど哀しいじゃない。
貴方の愛はもっと、ふさわしい相手に向けるべきよ。あんなクガ・ヒロトなんて――」
「ヒロトの事を、悪く言わないでっ!!」
「……っ!」
抗議するように強く『ワタシ』に叫んだ。これ以上私の姿で、声で、彼を否定なんてされたくなかったから。
これには彼女も意外だったみたいで、僅かに驚いた風だった。
『ワタシ』の言葉は正しいのかもしれない。本当は私の想いなんてヒロトに届いてなくて、彼にとって特別な存在なんかじゃないかもしれない。
けどそうだとしても。希望だって、ちゃんとあるんだから。
「ヒロトは全く私を無視したり、相手にしてないわけじゃないんだ。たとえ幼馴染としてかもしれないけど私のことをちゃんと想っていてくれていたの。イヴさん程じゃないかもだけど、それでも!
だからこれ以上否定なんてしないで」
「けど、結局はそんなの――」
「それに、今は少しずつヒロトとも前より分かり合えている気がするの。
あなたの言う通り、もし願いが叶うのなら、もっとヒロトにとって大切な人になりたいから。だから私なりに勇気を出して踏み出した、そのおかげなの」
「……」
『ワタシ』はもう何も言わずに私を見据えている。
「今までは見守ってばかりだったけど、今は出来る限りのことは頑張っているんだよ。
『ワタシ』なら分かるでしょ? あと少しでそれが叶うかもって所に来ているの。
自分で決めた道だから、だから……」
そう、私が決めたことだから。私は『ワタシ』にその答えを伝える。
「私はヒロトを諦めない。例えどんな形だとしても私は――彼と一緒にいたいから!」