【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い― 作:双子烏丸
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それから私と『ワタシ』は、互いに向き合ったまま沈黙していた。
どっちとも何も言えなくて、ただ鏡合わせみたいに。……けど。
「……はぁ」
向こうの『ワタシ』の口から、小さくため息が零れた。
「それが貴方の決めた事なのね」
私は頷く。
「うん。どう言われても、私はヒロトが大好きだから」
「――そう」
一言呟いた『ワタシ』は、一瞬悲しい目をしたように見えた。そして彼女は私に背を向けると……。
「ならそうするといいわ。今はもう、何を言っても貴方の心は変わらないでしょうから」
『ワタシ』は歩き去る。
奥の暗闇の中に、彼女の姿は溶け込もうとしていた。
「待って! どうして私の姿をしているの? あなたの正体は!?」
その背中に私は声をかけた。
足を止めて『ワタシ』は少し振り向いて、視線を投げかける。
「言ったでしょ、今の『ワタシ』は貴方――もう一人のムカイ・ヒナタ。それ以上でもそれ以下でもないわ。
でも、お別れする前に最後の忠告はしておくわよ」
『ワタシ』はにいっと、凍るような冷酷な笑みを浮かべる。
「あまり希望は持たない方がいいわ。
貴方の想いなんて、きっと裏切られ踏みにじられ、絶望へと変えられてしまうのだから。
貴方にとって大切な、大切な、クガ・ヒロトにね。……ふふふっ」
最後の最後で、彼女はまた鋭い言葉の刃を私に突き刺した。
「――」
私は答えない。答えたくなんてなかった。
「あらあら、冷たいわね。まぁいいわ。ワタシは『私』とお話が出来て嬉しかったから」
そして『ワタシ』は、今度こそサヨナラと言うように。
「じゃあね『私』。またいつかお話しましょう。
その時には『ワタシ』の言うことをちゃんと理解してくれると、心から――願っているわ」
洞窟の奥の暗い闇へと。『ワタシ』はその真っ黒な姿を暗闇に溶け込ませて、消えた。
――――
私はただ一人そこに取り残された。
――何なのか、訳が分からないよ――
あの私と同じ姿をした『ワタシ』。あれは一体何なのか結局、分からず仕舞い。
『今の『ワタシ』は貴方――もう一人のムカイ・ヒナタ。それ以上でもそれ以下でもないわ』
ああは言ってたけど、訳が分からない。
それに今じゃ、本当に私はもう一人の『ワタシ』と話していたのかも……怪しいんだ。
実際はあんな物は存在しなくてそんな幻を見ていただけかもって。
――でも確かに、話した気がするんだ。自分にそっくりな、誰かと――
姿も声も同じだけど記憶だって。
私の事をあんなに知っていて、まるで自分の事のように話していた。
そして……私に対して、ああ構うなんて。
何でなのか、どうしてなのか分からない。
本当に不思議な出来事。
「――ああ! こんな所にいたのか!」
「探しましたよ、ヒナタさん。だっていつの間にか姿がありませんでしたから」
駆け足と一緒に聞こえて来た声。
見ると、カザミさんとパルくんが、私のもとにやって来るのが見えたんだ。
「あっ、二人とも。……私」
どれくらいここにいたんだろう? 私、カザミさん達に迷惑をかけちゃったかな。
「ごめんなさい、一人ではぐれちゃって」
私は謝った。けど二人とも気にしている様子はないみたい。
「いいってことよ! それにこっちも、ちょっと妙な事もあったって言うか、手間取ったしな。
ずいぶん一人ぼっちにさせちまった。謝るのは俺たちさ」
「……? カザミさんたちも、何かあったんですか?」
「ええと、その、大したことではないのですが少しだけ」
どうやら二人の方でも、何かあったみたい。
でも今は……。
「とにかく! 俺たちはコピーを無事倒してミッションクリアだ。
こうして三人揃ったわけだし、まずは一度戻ろうぜ。ここは殺風景でいけないぜ!」
カザミさんの言う通り、ミッションはクリアしたみたい。
なら私も戻るのに賛成かな。
……だってこれ以上ここには、いたいって思わないから。
――――
ミラーミッションから、GBNのロビーに戻って来た私たち。
……すると。
「三人とも、まさかミラーミッションを受けていたなんて。
……お帰り」
戻った私たちを、ヒロトが出迎えてくれた。
「おう! ただいま戻ったぜ!
にしてもまさか、こうしてヒロトが迎えてくれるとは、よく分かったな」
「たまたまさ。俺もさっき散歩から戻って来て、そしたら」
カザミさんにそう話す彼。パルくんも会えて良かったって、そんな感じ。
「散歩、いいですね。
ミッションもいいですけれど、エリアを自由に散歩してまわるのも楽しいですいから」
「なぁおい、一体どこに行って来たんだよ。俺に教えてくれよ?」
ヒロトは少しだけ困った感じだったけど、こう答えた。
「ちょっと……昔の思い出の場所に。昔を懐かしんでいたんだ」
ヒロトはどこかに行ってたみたい。
――思い出の場所か。それってイヴさんとの――
名前は言ってないけどたぶん、大切な人との思い出がある場所なんだって、そう思った。
それと同時に、私はある事も頭に浮かぶ。
『何しろクガ・ヒロトにとって大切なのは、あのELダイバーの少女、イヴなのよ。それに比べれば貴方への想いなんてほんの少し程度』
『一緒に過ごしていても、彼の心には貴方の事なんて殆どない。そんなのって……放って置かれたのと同じなのよ』
それはミラーミッションで出会った『ワタシ』の言葉。
あの時に言った言葉はどれも、辛いものばっかりだった。けれど……
――全部否定出来ないんだ。やっぱり私は――
「……ヒナタ」
「あっ」
するとヒロトが、私に声をかけて来る。
「ヒナタはミラーミッション初めてだったよな。どうだった、楽しめたかい?」
彼は私に、優しい表情を向ける。
「……うん。ちょっと変わったことがあったけど、楽しかったよ」
でも、そんな難しい事は別に後でいいんんだ。こうしてただヒロトと一緒に過ごせて、笑顔だって見られたら。
『ただ彼を想うだけでいいと見返りを求めない愛。優しい『私』らしいわ。……けれど哀しいじゃない』
……余計なお世話だよ。
――――
するとカザミさんは、何か思い出したように言った。
「ああっと、そうだった。
なあヒロト、俺たちはミラーミッションで妙な出来事に出くわしたんだよな」
「ん? 妙な事って?」
ヒロトも気になるみたいで、そうたずねた。
「実はな、ミラーミッションで俺たちはコピーのイージスナイトとエクスヴァルキランダーと戦ったんだ。
もちろんコピーらしく俺たちの戦い方そっくりに襲い掛かって来たんだけどよ、途中から妙な真似をしやがった」
思い返して不思議な表情で、カザミさんは続ける。
「最初は普通に戦っていたんだ。
だけどいきなり二機とも、戦うよりもなぜか別方向に逃げ出した。
ヒナタちゃん、それこそ君がいる場所から離れるみたいにな。おかげで合流にも遅れっちまった」
「僕も変に思いました。僕たちの攻撃を避けたり防いだりばかりって感じもしましたし、まるで……時間稼ぎをしているみたいな」
カザミさんもパルくんも、不思議そうにそんな話をしていた。
「しばらくはそんな調子だったんだけどさ、するとまたいきなり元に戻って襲って来たんだ。
もちろん、それからすぐに撃破したけど、あれはおかしかった。パルは時間稼ぎをしているって言ったが、俺としては誰かが操ってもいるような風にも思えたぜ」
二人が話した体験もちょっと不思議。
「それはまた変な話だな。
ミラーミッションのコピーがそんな、勝手な行動に出るだなんて聞いたこともない」
話を聞いたヒロトも同じ気持ちみたい。
……そうだ、私の話もしてみようかな。
「あの――みんな」
三人は、私の方に視線を向けた。
「どうしたんだ? ヒナタも何かあったのか」
私はうんと答える。
「私もね、ミラーミッションで変な体験をしたんだ。
……自分そっくりの、もう一人の私――多分、コピーと出会ったの」
「えっ! それって本当ですか!?」
パルくんは目を丸くして、驚いていた。
「うん。黒い姿をした私が現れて、話しかけて来たの。
性格は違ってて、でもまるで自分の事みたいに私に詳しくて、変な感じだったの。
……ヒロトはどう思うかな?」
私はヒロトにそう尋ねてみた。
だってGBNには詳しいから、もしかするとって思ったから。……けど。
「さすがにそんな話なんてあり得ないよ。
ミラーミッションではガンプラのコピーはしても、ダイバーのコピーなんてしない。それにコピーが人格を持って話すなんて、それこそ考えられない。
多分、何か幻か見間違いじゃないかって、俺は思う」
ヒロトも知らないみたい。
こうなると猶更気になる。けれど、ヒロトがそう言うならやっぱり私の考え違いかな、
そんな風に私は思った。……思うことにした。
だってそれ以上考えても分からないから。
けれど、もしかすると。
『じゃあね『私』。またいつか、お話しましょう』
もしかすると、どこかでまた会うのかもしれない。その時には――。
「ま! ミラーミッション云々は過ぎたことだしさ、気にすることないぜ。
そんなの忘れて気楽に行くのが一番さ」
カザミさんは私たちに、そう言ってくれた。
うん。彼の言う通り、もうあんな事どうでもいいんだ。
それよりも遊園地だよ。
私はヒロトに想いを伝える。私にとってはそれが、一番大切なこと。
「……ヒナタ? 今度はまた別の事を考えてるのか? さっきとはまた違う感じだから」
ヒロトは私に、気に掛けるように話してくれた。
「ちょっとだけワクワクと言うか、そんな事をね」
私にはちゃんと願いが……希望があるんだから
――ちゃんと私は、伝えるんだ。そしたら――