【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い―   作:双子烏丸

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―もういいのー(Side ヒロト)

 ――――

 

 イヴが生き返るかもしれないと俺は知った。

 二年前GBNを救うために消えてしまった、俺にとって大切な人。……それがイヴだった。

 

 

 その事を知ってから数日間、俺の心は満ち足りた感じだった。

 この瞬間にもメイと残ったイヴのデータを元にして、復元作業が行われているんだろうか。

 俺は今、自分の部屋で……写真を眺めながら、彼女の事を思っていた。俺とイヴの二人でコアガンダムを背景に撮影した、GBNでの写真。

 

 ――いつかまたイヴと会えるのか――

 

 復元するにしても、何年も長い時間がかかる事だってもちろん知っていた。そして復元も上手く行くかどうかも、定かでない事だって。

 けれど俺は。

 

 ――ずっと俺はその事を願っていたし、彼女を探し続けていた。メイがイヴの生まれ変わりと分かって、それで十分だとも考えたけれど――

 

 もしまた会えることが、共に過ごせることが叶うのなら。俺はきっと幸せだって、そう思う。

 

 

 ――けれど。

 

 

 俺はイヴとの写真の、横に置いてあったもう一つの写真に視線が行った。

 隣の写真は俺とヒナタ、それぞれの家族と一緒に撮った家族写真だった。

 

 ――ヒナタの事は、俺はどれだけ想っているんだろうか――

 

 イヴを大切に思っている事も自覚していた。もちろんヒナタに対しても俺は大切にしていると、考えてはいる。

 だけど俺は。

 

 

 ――上手く考えがまとまらないな――

 

 自分でも、今考えようとしても上手くいかない。

 こうしてずっと部屋の中にいるからか、なら……。

 

 

 

 俺は席を立って出かける支度をする。

 

 ――気晴らしに少しだけ散歩でもするか。何だかモヤモヤするし、多分スッキリするかもしれないから――

 

 それに、さっきの事も考えやすくなるかもしれない。

 何しろ、俺はまだ――決めきれてはいないから。

 

 

 

 ――――

 

 街の中を一人で歩く。

 今日は別にGBNをしたりとか、そう言うことはない。本当にただの散歩だ。

 通りを歩くと何人もの人とすれ違う。そんな中で俺は考え事の続きをしていた。

 

 ――俺は昔からヒナタとは一緒だったんだよな――

 

 彼女とは小さい頃から共に過ごしていた。

 家が近くて家族ぐるみの付き合いで、互いによく家を行き来したり遊んだりもしていた。それに、学校が始まってからは小学、中学、そして高校までずっと一緒でもあった。

 

 

 

 ――あっ――

 

 俺は目的もなく、ただ適当に歩いていたつもりだった。けれど……。

 

 ――いつの間に、ここの近くにまで来ていたのか――

 

 いつの間にか俺は、遊歩道の入り口にたどり着いていた。

 街の海沿いにある遊歩道、そこは俺とヒナタが小さい頃からよく遊びに来ていた場所だった。

 

 

 ここに来たいってそこまで思っていたわけでもない。

 けれどここまで来たのなら……。俺は遊歩道の入り口をくぐった。

 

 

 

 ――――

 

 ――ここはほとんど変わらないな――

 

 新緑色の林に白い石畳、そして海沿いに見える俺たちが暮らす街。

 

 ――今でも通いなれたこの場所だけど、やっぱりいいな――

 

 そんな遊歩道を歩きながら俺はそんな風に思っていた。

 歩いていて落ち着くと言うか、気持ちが良い。

 何しろここは……。

 

 ――思い出のある場所だから。俺と、それにヒナタとの――

 

 そう考えた瞬間胸の奥が傷んだ。

 

 ――俺はヒナタの事も大切にしているつもりだった、けれど――

 

 

 

 数日前、遊園地で二人で過ごした時。

 俺はヒナタから……告白された。

 

『私はヒロトの事を、誰よりも一番に大好きなの。

 ずっとその気持ちはよく分かってなかったけど、今はよく分かる気がするんだ。きっと友達よりも幼なじみよりももっと好きで、だからヒロトとはもっとそんな絆を作りたいんだ』

 

 初めて直接伝えられたその想い。

 もちろん、これまでからヒナタは、いくらか変わっていた部分もあった。俺に対して幼なじみとまた違う意識を感じて、もしかするととも少しは思っていた。

 

 ――だが直接言われた俺は、想像以上に動揺した――

 

 本当にヒナタがそこまで俺を想っていたなんて、そしてイヴの事もあった。遊園地に行く前にキョウヤさんからその事を、イヴが生き返る可能性があると知った。

 最初はイヴとヒナタとの想いはまた違うと割り切ろうとした。俺なりに彼女の願いに、ちゃんと応えようとしたんだ。

 

 

 けれど最後の最後で。

 

 ――ヒナタの想いを、俺は裏切ってしまった――

 

 彼女の俺に対する告白。それを俺は最後の最後になって拒絶した。

 受け止めずにただ突き放して、目を背けて逃げた。

 

 ――こんなのは最低だよな――

 

 その後の俺も、あんな事をした後でまともにヒナタと付き合うことも出来ず、いくらか距離を置いてしまっていた。

 ヒナタも同じ感じで、本当なら俺の方から謝るなり、ちゃんと話をするべきなのに。……今日だって。

 

 

 イヴの事を知りに行くと言うことで彼女が、複雑そうなのは感じていた。例え普通そうに振舞って、一緒について行くと言っていたとしても実際は……。

 

 ――ヒナタは一人寂しそうにして、途中で抜け出しもしていた。きっと内心ではとても辛いのだって分かっていたのに――

 

 それさえも、俺はどうすれば分からずにずっと彼女から目を反らしていた。

 

 

 

『もちろんヒロトがイヴさんの事を大切に考えているのは知っているよ。

 イヴさんよりを大切に想って欲しいなんて言わないから、せめて同じくらい私の事も……想ってくれたら嬉しいの』

 

 ヒナタの言った言葉。イヴと同じくらいに想って欲しいとも。

 

 ――やっぱり俺は、ずっとイヴの事を特別に考えていたんだよな。

 だから俺はヒナタよりも結局は彼女を優先させた―― 

 

 ヒナタとイヴ。俺は二人とも大切に思っていると考えていた。それぞれ違う別の意味で大切にしていると、そう考えていたけれど……。

 

 ――いや違わない。本当はどっちとも、同じ意味でもあったんだ。

 一番大切な相手、それはどちらか一人だけだ。だから俺はずっと――

 

 ……分かっていた。

 俺がずっと大切に思っていたのはイヴで、ヒナタの事はそれに比べたら二の次にしていたのだろうと言う事を。

 二年前にイヴと過ごしていた時も彼女との思い出ばかりで、そして消えた後は――世界全てが、何もかもどうでもいいとも思ってもいた。

 

 

 ……どうでも良い世界。その中には当然、ヒナタの事さえも含まれていた。

 ヒナタは俺の事を二年間ずっと気にかけていた。なのに俺は、イヴの喪失に比べたらヒナタなんてどうでもいいと、思ってしまっていたんだ。

 

 ――やっぱり、ヒナタをイヴ程に想うことが出来てなかったんだ。それ以前に、ちゃんと向き合う事だって。俺は……酷い人間なのかもな

 だから――

 

 分かっていたからこそこれからはヒナタを大切にしようとした。多分、遊園地で告白するだろうと思って、その時には受け入れようと決めてもいた。

 

 

 

 ――けど、イヴが生き返ると知った俺は、またイヴの事を一番に考えてヒナタを――

 

 きっと俺はヒナタの心を深く、傷つけてしまった。

 

『だが、そうした感情はとてもデリケートなものだ。ヒロトの言葉そして対応次第では相手を傷つけかねないような、な』

 

 いつか言ったメイの言葉。俺がもっとちゃんと、その意味を理解してさえいれば。

 

  

 本当ならあの時告白を受け入れるべきだった。

 ……もしかすると、以前なら何の抵抗もなく告白を受け入れたのかもしれない。でも、ヒナタがあそこまで本気だと分かった今では、俺は……怖くなったんだ。

 ヒナタと同じくらい俺は彼女を想えるのか。今もイヴの事を強く想う、自分が。

 

 

 そして……。

 

 ――もしイヴとまた会えるなら、俺は彼女を選びたいと言う気持ちだって強い。

 ヒナタには悪いと思っても、イヴは俺にとってとても……特別な存在だから――

 

 我が儘かもしれないのは分かっている。けれど、俺はまだ決心ができない。選びきることが出来ないでいた。

 

 ――ヒナタとイヴ、俺はどちらかを選ばないといけない。でも俺にはまだ――

 

 この決心も覚悟も出来てはいない。

 

 

 

 そんな中で、俺はヒナタとどう接すれば良いか思い悩んでいると。

 

「――あ」

 

 目の前の海沿いの歩道、その手すりにもたれて海を眺めている人影が見えた。

 あれは……

 

 ――ヒナタもここに来ていたのか――

 

 一人で海を眺めていた、ヒナタ。

 遠くから見える彼女の背中はまるで、とても寂しげに思えた。

 

 ――遊園地であんな真似をしたせいで、俺は――

 

 ああしているヒナタに、声をかけるべきかどうかヒロトは悩んだ。

 まだどうしても話を切り出す勇気が出なかった。けれど……それでも。

 

 ――ここで言わなければ。でないと――

 

 ちゃんとヒナタと向き合わないと、ここでまた目を背けるなんていかない。

 俺は彼女に声をかけようとした。すると、ヒナタはその前に。

 

「……ヒロト、いたんだ」

 

 先にヒナタが振り向き、俺に気づいて声をかけた。見た所、様子はいつもの彼女と変わらないようだ。 

 

 ――立ち直った……のか――

 

 俺はそうも思ったけれど、どこか無理をしているような気もしないでもなかった。

 

「ああ。ここで会うだなんて偶然だな」

 

 とりあえず普通にヒナタに話しかけてみた。

 

「私は散歩でこの場所に来たんだ、気分転換に」

 

「俺も同じさ。気を紛らわすために少し散歩をして、それで……」

 

 他愛のない会話だけど、やっぱりどこかぎこちないような。そんな気がする。

 でもヒナタは、いつもと変わらない優しい表情を俺に向けている。

 

「ここは良い場所だよね。だって昔からよくヒロトと過ごした、思い出の場所だから。

 覚えてる? 小さい時には二人で遊んでまわったり、その後も散歩だったり出かけた時にはよく、ここに来たりもしたよね」

 

「覚えているよ。もちろん俺だって」

 

「……うん」

 

 昔の事を懐かしがるヒナタ。そして彼女は、俺に。

 

「私とヒロト、ここで色々な話をしたよね。学校でどんな事をしたかだとか最近見たテレビの話とか、他愛のない話がほとんどだけど、私にとってはどれもかけがえのないものなの。

 ……だってヒロトとの思い出が私には一番、大切な思い出だから」

 

「……」

 

 何も言えなかった。俺には答える資格なんてない。

 

 ――俺はイヴとの思い出ばかり、ずっと気にしていた。もちろんヒナタの思い出だって覚えているし大切にしている。けれど――

 

 俺は果たしてイヴ程に、あるいはヒナタと同じように一番にヒナタとの思い出を大切にしているのか。

 自信はなかった。多分、きっと俺は――

 

「だよ……ね。ごめんねヒロト、変な話をしちゃって。

 困らせちゃって本当に……ごめん」

 

 

 

 俺の事を察したのか、ヒナタは俯いてそんな呟きをしたのを聞いた。

 

 ――違う、ヒナタが謝るなんて。本当に謝るべきなのは――

 

「謝るのは俺の方だ。遊園地での告白、ちゃんと受け止めることが出来ないで。――ヒナタを拒絶してしまって」

 

「……ヒロトが謝ることないよ。私は、全然気にしてないから」

 

 するとまた、ヒナタは明るい様子で振舞ってみせた。

 

「そんな事より、もっと楽しい話をしようよ。

 えっと、今度GBNに行った時には何をしようか。……またヒロトのガンプラバトルも見てみたいな」

 

 でも、いくら俺でも分かる。ヒナタは笑っているけど、それは自分で無理をして笑っていると。

 

「GBN、とても楽しい所だもん。

 それにイヴさんも生き返るみたいなんでしょ? そうなったらもっと賑やかになるし、もっと……楽しくなるよね。

 ヒロトだってきっとそれが……」

 

「いいんだ、無理なんてしなくて」

 

 俺はそうヒナタに伝える。これ以上俺のせいで無理はさせたくなかった。

 

「俺が謝りたいのはこれまでの事もだ。ずっとイヴばかりで、ヒナタの事をあまり見れてなかった。

 だからこそ……」

 

 ヒナタは俺を黙って見ている。

 

「あの遊園地でヒナタの想いに応いたいと思った。……けれどそれが出来なかった。

 やっぱり俺にはイヴへの想いがあるから。GBNの楽しさと大切な事を教えてくれて、かけがえのない思い出をくれた、彼女の事が……」

 

「……」

 

「だからあの時に応えられなかった。ヒナタとイヴ、俺には選びきれなくて。……今だってそうだ。

 けどヒナタをどうでもいいなんて、思っているわけじゃない。時間さえくれたら俺はヒナタの事を――」

 

 

 

 

「もう――いいの」

 

 ほんの短い、ヒナタの一言。

 

「えっ」

 

 もういい――。一体それはどう言う事なんだ。

 

「私、分かっているから。ヒロトが本当に大切に想っているのはイヴさんだって。

 一番、大切な人なんだよね」

 

 そう話すヒナタは明るく励ますような、応援するような感じで微笑みかけた。

 いつも俺がよく見慣れた彼女の表情。

 ……二年間、ずっと心を閉ざしていた俺に寄り添おうとしたヒナタの、そんな。

 

「きっと私は迷惑をかけていたんだ。ヒロトが好きなのはイヴさんだって、分かっていたのに、その間に割って入ろうとしたんだから。

 イヴさんがいない事にも安心して、自分が代わりに大切な人になりたいって。

 本当は邪魔をしていた。私はヒロトの邪魔者になっていたの」

 

「……違う。俺は――」

 

「だから、もういいの。ヒロトは無理をしていたんだよね。

 ヒロトが優しいから、その優しさに私は甘えてずっと。私こそ無理をさせちゃった。ずっと迷惑をかけて……ごめんね」

 

 ――無理なんてしてない。迷惑だなんて――

 

 俺はそれを上手く伝えようとしたけれど、その間にヒナタは背を向けて、去ろうとする。

 

「私はもう大丈夫。ヒロトのおかげだよ……今までありがとう。

 イヴさんとまた一緒になれる事だって、願っているから」

 

「――っ! 待ってくれヒナタ!」

 

 呼び止めようとした。

 けれどヒナタは俺の言葉を聞かないで、そのまま去って行った。 

 

 

 

 もうヒナタの姿は俺の目の前からいなくなっていた。

 

 ――あんなにヒナタは考えていたのか。それに――

 

 さっき話をしていた時のヒナタの表情。二年間、俺に向けてくれたのと同じ優しい微笑み。――だけど。

 

 ――背を向ける前に一瞬だけ見えたヒナタは…………泣いていた――

 

 確かに優しい表情だけど、どこか寂しくて。それにさっき彼女の目には、ほんの僅かに涙も浮かんでいるのを俺は見た。

 

 ――本当はヒナタだって辛いのに、なのにああして俺の事を想ってくれていた――

 

 今回だけじゃない。もしかすると、あの二年間だってヒナタはずっとそうだったのかもしれない。

 

 

 自分だって辛いのに。俺がイヴの事ばかりで、ヒナタには何も言わず心を閉ざしていたのに……それでも。

 

 

 ――俺は……ヒナタの事を―― 

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