【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い― 作:双子烏丸
【第八章 表紙付き】せめて、この瞬間は(Side ヒロト)
「――ヒナタっ!」
病院に駆け込んだ俺は、彼女がいる病室へと。
「来てくれたのね……ヒロト君」
俺より先に来ていたみたいで、病室ではヒナタの母親が出迎えてくれた。
そして……。
「やっぱり、言ってた事は本当だったんだ」
病室の白いベッドには――ヒナタがまるで眠っているかのように横たわっていた。
俺はその傍に近づく。
――本当に、ただ眠っているだけみたいだ――
その表情は良い夢でも見ているかのような、気持ち良さそうな寝顔。
けれど、それでも彼女は。
「身体は何ともないのよ。けど、それなのにずっと目を覚まさなくて。
お医者さんに診て貰っても原因は分からなくて、私は……どうすれば」
傍にいた母親は、手で顔を覆ってすすり泣いていた。
きっと娘がこんな事になって辛いんだ。
「……大丈夫、ヒナタは何ともないんだ。ただ寝ているだけで……そのうち目が覚めるはず」
俺はそれくらいしか言えなかった。
でも、俺だって同じくらい心配で、こんな事になって……辛い。とにかく自分でも訳が分からない感情が胸の中で渦巻いている感じだ。
「ありがとう、ヒロト君。
それにこんな時に悪いけど――ねぇ、お願いがあるの」
「俺に出来ることなら」
「少しの間だけ、私の代わりにヒナタの事を看ていてもらっていいかしら? こんな連絡があって急いで来たから、少し用事を残して来ちゃって。
一時間もかからないと思うから、その間お願いしたいの」
それが頼み事の内容だった。
「もし……目覚めた時に誰かがいないと寂しいと思うから。それにヒロト君がいてくれた方が、ヒナタだってきっと嬉しいから」
「……分かった。俺も、今日はヒナタの傍にいたいと思っていたんだ」
俺はそう答えた。
「ありがとう、ヒロト君。
出来るだけすぐに戻って来るから、どうか宜しくね」
――――
病室では俺とヒナタとの二人きり。
だけど彼女は何も言ってくれないし、笑ってもくれない。
ただ……こうして眠っているだけだ。
――これは俺への報いなのか? ずっとヒナタの事をろくに思っていなかった、そのせいで――
こんな事さえ、つい考えてしまう。
「……ごめん、ヒナタ」
すぐ傍の彼女の寝顔を眺めて俺は謝った。
けれど眠っているヒナタには、俺の言葉なんて届いている訳がない。
――想いが伝わらないと言うのは、こんなに辛くて寂しくて……悲しい物なんだな。
ヒナタが抱えたのは、多分そんな気持ちだったのか――
でも、例えどれだけ悔やんでも……今更だ。
「やっぱり、ヒロトも来ていたんだな」
扉が開いた音がして、振り返るとそこにいたのは、さっき会ったカフェの店長だった。
「あっ……」
「ヒナタがこんな事になって驚いただろ。
私だって今になっても少し混乱しているよ。こんな、彼女の姿を見ることになるなんて」
彼もまたヒナタの姿を眺めている。
そんな店長の横顔もまた、寂しいような雰囲気だった。
「店では明るくてよく笑顔を見せてくれてくれていたんだ。
私たちも、お客さんもみんなヒナタちゃんの事が大好きで……なのに今じゃ笑ってくれはしないんだ」
俺だって同じ気持ちだ。ヒナタの笑った顔、もし叶うなら……また。
「なぁ、ヒロト」
ふいに彼は、真剣な視線を向ける。
「ヒナタちゃん、とても思い悩んでいたんだ。
ガンダムベースで偶然会って、そんな様子をしていたけど彼女は何でもないと。
でも、きっとヒロトの事で……考えていたみたいなんだ。
君は知らないと思うがヒナタちゃんはカフェでもよく君の事を話してくれた。それだけ……想っていたはずだ」
ヒナタ……やっぱり、そこまで。
俺はこの言葉につい。
「やっぱり、俺はヒナタを悲しませていたのか」
「内容は分からないさ。ヒナタちゃんは何も言っていなかったからな。
それとも、ヒロトが話してくれるのかい?」
「それは――」
とても今、人に話す勇気なんて俺にはなかった。
「まぁ話すのが辛いなら、無理しなくていいさ。
……けれどガンダムベースで会った後、やっぱり心配で様子を見に戻って来たんだ。そしたらこんな」
「でも、どうしてヒナタは急に意識を?」
「私もよく知らないんだ。戻って来たときには救急車で搬送されている最中だったから。
ただ、その時に周りでの話し声を聞いた限りだと、どうやらGBNのログイン中に意識が戻らなくなったって、感じだったらしい」
「――GBNで、か」
その時、俺はある考えが頭に浮かんだ。
――GBNの最中で意識を失ったって、それはまるでシドーの時と――
今更すぎるけど、ヒナタのこの状態はGBNにログインして異世界――エルドラに囚われた、シドー・マサキのそれと似ていた。
――もしかしてヒナタも似た状況に? だとしたら――
けど、俺の考え事を遮るようにある音が鳴って響く。
「おい……病室内ではマナーモードが基本じゃないのか?」
それは俺の携帯の着信音。
「ごめん、忘れていたよ」
でも相手は誰からだ? 画面を開いて確認すると、着信の相手はカザミからだった。
――あいつから、リアルで連絡をして来るなんて珍しいな。
……今は話す気分じゃない。けれどこんな事は本当に珍しいから――
「重ねてごめん。……俺、電話に出て来るから、その間ヒナタを宜しく頼む」
俺は店長に交替を頼んで、少しの間外に出た。
――――
病室を出て、俺は通話の可能な場所で電話をとった。
「もしもし、俺だ」
〈遅かったじゃないかヒロト! こっちは目茶苦茶大変なんだぜ〉
電話に出た瞬間、カザミは慌てたようにまくし立てて来た。
「……俺の方も、今大変なんだ。要件があるなら早くしてくれ」
〈何だ? 大丈夫かヒロト。その沈んだ声、まるで昔の頃みたいだ。
けど、とにかく伝えるだけは伝えておくぜ〉
そして、彼はこんな事を続けて話す。
〈今、GBNではあちこちでガンプラのコピーが発生して、暴れ回っているんだぜ。
運営や何人ものダイバー、それに俺とパルも戦ってどうにか被害を抑えているけどさ、きりがなくてキツイんだ。メイだって勝手にどこかに行って、それっきり連絡がついていない〉
「ガンプラのコピー……か、それにメイがいないのか」
俺もこの事に動揺を隠せなかった。
〈だからヒロトの力を借りたいんだ! この異変、放っておくと大変なことに……。
ちなみにヒロトは今、何が大変なんだよ?〉
カザミからの問い。
俺は、躊躇いながらも答えた。
「実は、ヒナタが倒れて病院に運ばれたんだ。ずっと意識を失ったままで、原因ははっきり分からないけど……多分GBNにログインした事にあると考えている」
自分で話す中、またある事に気づく。
カザミが話していた、GBNで起こった異常現象。もしかすると……
――ヒナタが倒れたことと、何か関係があるのか。だとしたら、やはりGBNに彼女を救う手だてがあるかもしれない――
カザミもヒナタが倒れた事を知って、言葉を詰まらせる。
〈そんな事に、なっていたのか。
だけどGBNが原因……だって? コピーが発生し出したのもついさっきだ。まさか何か関係が!?〉
俺はああと、答える。
「もしかすると、かもしれない。――だから俺もGBNに向かう。
けど……」
〈けど、何だ?〉
異変に手がかりがある以上、俺がするべき事は分かっている。
だけどその前に。
「一時間くらい時間をくれないか。
しばらくは、ヒナタの傍にいたい。母親に頼まれたし、それに俺が……どうしてもそうしたいんだ」
――――
俺はヒナタがいる病室に戻った。
「……おお! 早く戻って来たな。電話は大丈夫だったのか?」
店長の言葉に俺は頷く。
「大丈夫さ。それに、代わりに看てくれていてありがとう。
――後は俺一人でも大丈夫だから」
「そうか。
俺も店の事があるし、今日はこれで失礼するよ。
早くヒナタちゃんが目覚めるといいな」
そして二人きりになった病室。
俺は眠っているヒナタの、すぐ隣の席に座った。
――少しの間だけだけど、ちゃんと君の傍にいるから……ヒナタ――
せめてこの時は。俺はヒナタの事だけを……何よりも強く想っている。