【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い―   作:双子烏丸

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―ワタシは貴方を、許しはしない―(Side ヒロト)

 ――――

 

 GBN運営の指令室、それはSDガンダムフォースの舞台であるネオトピアの自衛組織スーパーディメンショナルガード――S.D.G.の本部指令室を再現したものになる。

 

 大画面のディスプレイがいくつも表示されている、広く開放的な場所。俺たちは今そこにいた。

 

「よく来てくれたね、ビルドダイバーズのみんな」

 

 俺たちを出迎えたのはGBNのチャンプでフォース『アヴァロン』のリーダー、クジョウ・キョウヤさんだった。

 キョウヤさんの他にも周囲にはS.D.G.職員のダイバールックをしたオペレーターと職員が働いている姿が見える。

 中央でその指揮をとっているのは、SDガンダム、ガンダイバーの姿をしているゲームマスター、通称GMだ。

 

「私からも礼を言う。本来なら我々運営が対処すべき事態なのに、巻き込んですまない」

 

「謝らなくても。今の状況はどれだけ大変か、カザミから聞きましたから」

 

 俺はそう彼に答えた。

 また一方でパルは何か気になる様子でGMに尋ねる。 

 

「けれどあの異常は一体何なのでしょう? 僕達もずっと訳が分からなくて」

 

 これにクジョウさんが答える。

 

「元々、今回の事件は些細なバグが原因だったのさ。あまりに些細すぎてその場所も分からない程のね。

 けれどそれが急に増大し、今の異常が発生しだしたんだ。それに……」

 

「以前から君たちの仲間、メイにバグの調査を依頼をしていたのは知っているだろうか。

 先ほど、彼女は一足先にバグの発生源を特定した。――それはミラーミッションのエリア内部。メイはバグを食い止めようと、たった一人でミラーミッションへと向かったのだ。

 それっきりだ。メイの消息はそこで途絶えてしまった」

 

 続けて話したGMは恥じているような表情を見せる。これもまた自分の責任だと、そう感じたんだろうか。

 やっぱりメイは自分だけで解決しようとして……。

 これを聞いてカザミは拳を握りしめて叫ぶ。

 

「たった一人でアイツは何やっているんだ! メイの中にはイヴだっているんだ、もし何かあったら」

 

 メイは単身ミラーミッションに向かい姿を消した。無事なのか分かりはしないし、心配だ。だけど俺にはもう一つ。

 

「メイについては分かった。けれど、ヒナタの事も。

 彼女はGBNにログインして意識を失った。丁度コピーが現れたタイミングに、何か関係があるはずだと思うんだ。

 クジョウさん、そして運営の方でも心当たりはありませんか?」

 

「それは……」

 

「……」

 

 クジョウさんもGMも途端に不穏な様子で沈黙する。

 

 ――二人ともどうしたんだ? 何か知ってはいるような感じだけれど――

 

 それでもその雰囲気、多分知っている内容は良くないものだと言うのは俺でも分かる。

 しばらくの沈黙の後、口を開いたのはクジョウさんだった。

 

「ムカイ・ヒナタはヒロトの幼馴染で、最近GBNを始めた女の子だったな」

 

「改まってどうしたんですか。でも確かにヒナタは、俺の幼馴染みだ。……大事な人なんだ」

 

 クジョウさんは、そうか――とただ一言だけ呟いた。

 

「なぁ、何か知っているなら勿体ぶらないで教えてくれよ。俺たちはヒナタの事が心配なんだ。もしメイみたいに危険な目に遭っているなら、放ってなんかおけないだろ」

 

「そうです! ヒナタさんもメイさんもビルドダイバーズの一員です。それにヒロトさんにとって二人とも大切な人ですから。だから、どんな事でもいいから教えてください。

 ねぇ、ヒロトさんも同じ思いですよね」

 

 心配に思うのはカザミやパルだってそうだ。

 俺も、パルの言葉に同意するように頷く。

 

「もちろん。だから……お願いします。例えどんな事だって構わないから、ヒナタが今どうしているのか教えて下さい」

 

 

 

 これは俺の心からの頼みだった。

 

「そこまで言うなら構わないだろう。どの道、知ることになるのだから」

 

 GMはクジョウさんにそう呟く。

 彼もまた、意を決したかのように口を開く。

 

「ムカイ・ヒナタが現実で意識を失った事は運営も把握しているんだ。以前のシドーの件もある、だからこそ目だって光らせていれば早速と言うわけさ。

 しかし今度はエルドラと言う別世界は関係ない。全てはあのミラーミッションの異常と、関わりがある事だよ。

 ただ……」

 

 再び、クジョウさんは僅かに言葉を詰まらせる。しかしすぐにまた。

 

 

「もしかすると、ヒナタは以前とは…………もう、違うかもしれない」 

 

 

 ――それは、一体どう言う意味だ――

 

 俺がそう思ったまさにその時、オペレーターの声が響く。

 

「失礼します! 只今通信が入りました。

 その、例の『彼女』からです」

 

 報告を聞いた途端、周囲に緊張が走る。

 それはクジョウさんとGMも。

 

「もう通信が来たのか。……ヒロト」

 

 GMは俺に視線を向けた。

 

「君はムカイ・ヒナタの事を知りたかったそうだな。

 なら説明するより恐らく、自分の目で見て貰った方が早いだろう」

 

 そしてGMはそのオペレーターに指示を出す。

 

「そう言うことだ。通信を繋ぎたまえ」

 

 指示を受けたオペレーターは頷き、手元のパネルを操作する。

 すると、指令室のディスプレイに――。

 

 

 

〈ようやくお目にかかれたわね、ビルドダイバーズ〉

 

 ずっと慣れ親しんだ声と、ディスプレイに映る姿。 

 

「ヒナタ……なのか」

 

 映っているのは、黒いダイバー姿のヒナタだった。

 色が黒へと変わっただけでその姿も声もヒナタそのもの。

 けれど――。

 

〈申し出に応じてくれて感謝するわよ。こうして三人とも連れて来てくれて、ね〉

 

 彼女の言葉にGMは不快そうに返す。

 

「申し出だと? あれだけGBNを壊して回ってよく言う。

 今更そう出られた所で……」

 

〈これはまた、随分と態度が大きいわね。

 GBNを守る側と……壊す側、そちら運営とワタシは対等なのよ。

 何ならもっとコピーガンプラ――お人形を送り込んでも構わないのよ? なのにせっかくワタシを止める機会だって、こうして与えてあげようとしているのに、ねぇ〉

 

 冷酷な笑みを浮かべている、ヒナタ。それに画面超しでも分かる程に、例え笑っていても隠しきれない程に強い、絶望や怒り、憎悪と言った負の感情。

 

 ――あれが、ヒナタだって言うのか――

 

 俺には信じられなかった。それに彼女のさっき言った言葉……『壊す側』だと。

 

「まさか、あれは全部ヒナタさんが?

 ガンプラのコピーを操って、GBNを目茶苦茶にするなんて。どうして」

 

「冗談だよな。だってヒナタがそんな酷い真似を平気でするなんて、あり得ないぜパル。

 なぁ、その悪人っぽい演技だってなかなか上手いじゃないか。けど俺の目は騙せはしないぜ」

 

 パル、カザミはディスプレイに映るヒナタの前に出る。

 けれどディスプレイの黒いヒナタは相変わらずの冷たい態度。同じ……ビルドダイバーズの仲間だろ。

 

〈あらあら、パルウィーズにそしてカザミ。

 まさかワタシ、ムカイ・ヒナタの事を忘れたわけじゃないでしょう?〉

 

 まるで嘲笑うように、ヒナタは二人を見る。

 

〈それに、どうしてこんな事をしているかですって?

 決まっているじゃない。私はガンプラもGBNも大っ嫌いなの。何もかもが虫唾が走るから、全てグチャグチャに踏みにじりたいのよ!〉

 

「そんな……嘘、ですよね」

 

〈嘘じゃないわよパルウィーズ。

 くくく……誰も彼も、貴方達も、あんなに下らないモノをよく楽しめたものねぇ。……お笑いだわ。

 そしてそれを必死で守るなんて。無駄な努力、ご苦労さまね〉

 

 GBNも、そしてそれを楽しむ人まで酷く馬鹿にする言葉と嘲る表情。あんな事、ヒナタが言う訳がない。

 

「お前が、ヒナタであるわけがない。俺の知っているヒナタは――」

 

 例え姿と声は同じでも中身は全く違う。あれはヒナタではない、得体の知れない別の『何か』だと思った。

 けれど言葉を続けようとした瞬間、その黒いヒナタは俺を鋭く睨む。

 

 

〈あら、貴方もいたのクガ・ヒロト。そんな事言わないでよ。……一応は幼馴染でしょう、ワタシたち。

 ワタシだって、ようやく会うことが出来て良かったと思っているのだから〉

 

 相変わらず笑みを浮かべているけれど、その視線は強い敵意に満ちているように感じた。

 

 

 

 俺と、そしてヒナタと、互いに合う視線。

 少しだけ、まるで今ここには俺たち二人しかいないような、そんな錯覚さえ覚えるほどに。

 

〈そうよねぇ、貴方にとってはムカイ・ヒナタは見返りもなく尽くしてくれる便利な存在ですもの。

 例え他の女の子と付き合って、その子をずっと想っていても。どんなに彼女の事を見てあげることをしなくても、それでも気にせず想ってくれる都合の良い存在なのでしょう?〉

 

「――」

 

〈けれど残念だったわね。もう貴方の知っているムカイ・ヒナタはもういないのよ。

 それに知ったような口を利かないで欲しいわ。 ……貴方にはそれを言う資格など、あるわけがないのだから〉

 

 とりわけ冷たい、それに憎悪まで込められて俺に発せられた言葉の数々。

 

 ――分からない。何故こうなってしまった。ヒナタは一体、どうなったって言うんだ――

 

 訳が分からないのは周りだってそうだ。

 戸惑うようにしながらも、カザミは小さく呟くのが聞こえた。

 

「今思ったんだけどさ、あの黒いヒナタ、もしかしてミラーミッションのコピーじゃないか?

 あんな得体の知れない奴、本物のヒナタなわけがない」

 

 カザミの言う通り、あれが本物なんかじゃないと俺だって信じたい。けどクジョウさんは首を横に振る。

 

「もちろんそうとも考えはした。けれど、ガンプラならまだしもダイバーのコピーなんてあり得ないのは君だって分かるだろう?

 仮にそうだとしても、あくまで忠実に再現出来るのは外見くらい。ガンプラの戦闘データとは比べ物にならない量の人の意識、その情報を完全にコピーするなんてあり得ない。

 これはカツラギさん、いや、GMのお墨付きだ」

 

 クジョウさんの話にGMも頷く。

 

「ああ、そのとおりだ。

 加えてデータを照合しても、あれは色が変わっただけで100%……ダイバーであるムカイ・ヒナタそのものだ。

 ただ、意識と肉体とのリンクが切り離されている状態だ。半電子生命体、ELダイバーに近い状態と言うべきか。

 何故こうなったのか、そして彼女の人格が豹変したのかは……私ですら訳が分からんよ」

 

 以前と別人となったのはシドーと似ていた。けど彼はアルスによって殆ど自我を失っていたのに対し、今のヒナタはまるで別人のような明確な意思がある。

 

 

 けど、俺はまだあの黒いヒナタと話が終わっていない。

 

「本物のヒナタの事、知っているんだろ? 

 もしそうなら教えてくれ。俺はヒナタに会って……伝えないといけないことがあるんだ」

 

「それにメイの事も教えてもらう! ミラーミッションに向かって行方不明になったのも、お前の仕業だろ。とにかく彼女も返してもらうぜ」

 

「……GBNをこれ以上荒らすのだって止めてください。

 もし貴方がヒナタさんなら、こんな事なんてしないはずです」

 

 俺もカザミもパルも彼女に頼むように言う。

 あの黒いヒナタ――クロヒナタの正体は、本物のヒナタなのかそれともヒナタの姿をした何かなのか、正直まだ分からない。

 けれどこの異常を起こしたのは自分だと、そう言っていた。なら――きっと。

 

〈ふふふふ……随分とせっかちなのね〉

 

 クロヒナタは含み笑いをする。そして。

 

〈でも、言われなくてもその話だってするつもりだったわ。

 運営さん達も、どうかお聞きなさいな〉

 

 

 

 彼女は本題を伝えようとする。その、内容は。

 

〈最初に言ったでしょう? 『ワタシを止める機会を与える』って。

 だってただGBNにお人形を送るのにも飽きて来たの。せっかくだから、もっとワタシは貴方達が無様に足掻くのを楽しみたいのよ〉

 

 その表情に浮かぶのは心底愉悦に満ちた歪んだ感情。

 

「一体何を考えている。我々に何をさせるつもりだ」

 

 GMはクロヒナタに聞くも、彼女はにやりと口元を上げる。

 

〈運営には何かさせるつもりはないわ、他のダイバーにだってね。

 ワタシは――〉

 

 そう言って指し示すのは、カザミとパル、そして俺だった。

 

〈ビルドダイバーズ、異世界エルドラを救った救世主サマ。

 それならこのGBNも……救えるものなら救ってみなさいよ〉

 

「俺たちに、GBNを救えと言うのか」 

 

 画面越しに俺を見下ろし、見据えるクロヒナタ。

 

〈ええ、出来るものなら。

 もしそうしたければ……ワタシが支配する領域、ミラーミッションへと来てみなさい。

 メイが侵入して以降は外部からの侵入を防ぐために封鎖していたけれど、ビルドダイバーズだけは特別に許してあげるわ。

 あと、シドー・マサキ。メイがいない代わりに彼も許すわ。エルドラを救ったメンバー、丁度いいでしょう、ねぇ?〉

 

 ――挑戦を挑んでいる、と言うわけか――

 

 それは俺にも分かった。 

 

〈ミラーミッションのエリアにはワタシのお人形が多数待ち構えているわ。

 言うなればゲームみたいなものよ。貴方達はそれを突破して、ワタシの所にまで辿り着けばいいの。

 そしたらヒナタの事だって教えてあげるし、GBNへの侵攻だって止めてあげる。そして……〉

 

 

 

 クロヒナタは言うとその身を僅かに右横へとずらす。

 彼女の後ろにいたのは、石柱に縛り付けられたメイの姿だ。

 

「――メイ!!」

 

 縛られ、意識があるか分からない様子で頭を垂らすメイ。そしてその傍には一体のモビルスーツの姿も。

 あれは俺の――コアガンダムだった。

 黒い色をしたコアガンダム、あれもクロヒナタがコピーして生み出したのか。

 

〈この通り、メイだってワタシが捕らえているのよ。

 彼女も助けたいじゃない? だって大切な人なのでしょう、メイも、その中にいるイヴだって。二人ともクガ・ヒロトの本当にかけがえのない人よねぇ〉

 

「やっぱりメイは捕まってたのかよ。くそっ!」

 

「メイさん……あんな事に」

 

 カザミも、パルも、これに動揺している。もちろん俺だってそうだ。

 けれどクロヒナタの雰囲気はその残忍さを増すように、にいっと嗤う。

 

〈貴方の大切なELダイバー。でもねぇ、ワタシはGBNもガンプラも嫌いだけど、ELダイバーも大嫌いなの。

 嫌いで、憎くて、つい我慢できなくなるくらい。……だから、ね〉

 

「!!」

 

 

 

 俺の目の前で、コアガンダムはライフルの銃口を――メイに向けた。

 

〈くくくっ。だからついね、跡形も残さず消してしまいたい衝動に駆られちゃうのよ〉

 

 不快に喉を鳴らし、含み笑いをするクロヒナタ。

 

 ――あれは、そんな。また俺は――

 

 心臓の動悸が止まらず呼吸も苦しくなる。胸を押さえて俺は、冷や汗が出るような感覚を覚えながら目の前の光景を見る。

 

〈あら、どうしたのかしら? 随分苦しそうじゃない。何か嫌な事でも……思い出した?〉

 

 あの時と同じだ。

 二年前に俺が、俺のガンプラがこの手でイヴを消した時と。

 また目の前でイヴが――そしてメイまでが消されようとしている、俺のガンプラ、コアガンダムによって。

 

 ――止めろ……止めてくれ。これ以上また、俺から奪うのは――

 

 フラッシュバックする記憶、俺は……俺は。

 

〈来るなら早くした方がいいわ。でないとまた消してしまうわよ。

 自分のガンプラで、大切な――〉

 

 

「――止めろっ!!」

 

 

 俺は大声で叫んだ。カザミ達も、クジョウさんにGMも、周りの職員の視線まで一気に俺に集中する。

 でもそんなのは、構わなかった。

 

〈……ふふふ。冗談よ〉

 

 相変わらず嘲笑ったままのクロヒナタは言った。同時に、黒いコアガンダムもライフルを下におろす。

 

〈メイもイヴも、そう簡単に消せるわけがないじゃない。

 だって、貴方達を誘い出す餌で、大切な人質ですもの〉

 

 ――あんな真似をするなんて、やっぱりヒナタは……いや奴はきっと――

 

「ふざけるな! やはりお前はヒナタじゃない、お前みたいな奴が!

 これ以上ヒナタの真似事は止めろ! メイとイヴに手を出すな!

 でないと俺は……お前を許しはしない!」

 

〈アハハハハハハッ!! 今の顔、凄く良い表情だわ! これが見たかったのよ、ワタシは!〉

 

 俺の激昂に、クロヒナタは高笑いを響かせる。

 怒りの感情まで心底愉快そうにして、彼女は。

 

〈ああ、随分と楽しめたわ。

 でも今はここまでにしましょう。楽しみはもっと、後にとっておくものよ。

 さて――〉

 

 笑いをやめてクロヒナタは再び話す。

 

〈そう言うことだから、ワタシは待っているわよ。

 暗い……ミラーミッションの奥底で。止められるものなら止めてみなさい〉

 

 

 

 そして最後に彼女は俺に対して、言葉を残す。

 

〈ワタシを許さないと言ったわね、クガ・ヒロト。その言葉はそのまま返すわ。

 

 ――ワタシは貴方を、絶対に許しはしない〉 

 

 

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