【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い― 作:双子烏丸
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私は相変わらず岩に縛られ、洞窟内の空間にいた。
傍にはコアガンダムのコピーが佇み、周囲に表示される無数のディスプレイには、それぞれの場所で戦うみんなの姿が映る。
――あっちではシドーと、それに別の場所ではカザミとパルも――
あのコピーガンプラを相手にして戦闘を繰り広げている三人。そしてヒロトは、ただ一人ミラーミッションの奥へと進んでいた。
「もう間もなく、彼は最深部へと辿り着きそうね」
傍にいたクロヒナタが一言、呟くのが聞こえた。
「そうだ。みんなの想いを背負ってヒロトはここまで来たんだ。これ以上、お前に酷い事をさせないように」
私は彼女にこの事を伝える。
GBNの異常を引き起こし、私とヒナタを捕らえたクロヒナタ。彼女を止めるためにみんなはここまで頑張っている。
「そう……ね。それはクガ・ヒロトは頑張るわよねぇ。
だって貴方とイヴが私の手の内にあるのですから」
そう言ってクロヒナタは冷ややかな視線を私に向けた。
「彼にとって何よりも大切なELダイバーと、彼女が大事に思っていた世界を守るためですもの。
エルドラの時みたいに、まさに『ヒーロー』なんですから」
彼女の言葉とは裏腹に、口調と表情には強い皮肉さを感じた。
私はそれに首を横に振る。
「それだけじゃない。ヒロトはヒナタを救うためにも頑張っているんだ。
かけがえのない幼馴染みである彼女のためにも――」
「あははは……っ」
けれど私の言葉にクロヒナタは背を向けて、乾ききった笑い声を響かせる。
「『ワタシ』の、いえ『私』……ムカイ・ヒナタのためにですって?
あのクガ・ヒロトが? 面白い冗談、いいえ嫌味でも言っているつもり、ELダイバーのメイ」
「違う。私はそんなつもりじゃ」
「違わないわよ、『ワタシたち』にとっては」
相変わらず背を向けたままクロヒナタは続ける。
「クガ・ヒロトにとってはムカイ・ヒナタの存在なんて大したことはないのよ。
きっと元から。ずっと傍にいたのに、それよりイヴを選んだのだから。ヒナタを置いてまでエルドラなんて別の世界を……救おうとしたのだから
だとしても、彼女にはクガ・ヒロトが誰よりも――大切だったのよ」
瞬間、彼女は視線だけ私に向け、憎しみが混じった眼で睨む。
「貴方達ELダイバーはいつもそうよ。考えもしないでヒトから大切なものを奪って、それでも平気でいる」
「……大切なものを奪っただと」
「一体何の権利があると言うの。ワタシが生み出したガンプラのコピー、お人形と変わりはしない、紛い物の木偶人形如きが……よくも」
私とクロヒナタ、二人の間に沈黙が遮る。
彼女の抱えている闇。それは彼女自身の言う通り、私たちELダイバーによるものかもしれない。
クロヒナタだけじゃない。ヒナタが思い悩んでいたのも私たちの存在があったからなんだろう。
――もしヒロトとイヴが出会わなければ、もしかすると――
仮定なんて今更考えても仕方はない。けれど、だからと言ってクロヒナタがこんな事を続けても、誰の為になるわけでもない。
それにヒロトは、きっとヒナタの事も……。
「ヒナタを大した存在だなんて、思ってなんていない。
私たちと同じぐらい、いやそれ以上に特別な存在だって……ヒロトは思っているはずだ」
「……」
「だから頼む、ヒロトの事を信じてくれ。
ヒナタの為に復讐か、別の何かを望んでいるのか知らない。けれど――これ以上こんな事をする必要なんてないんだ。
必ずヒロトが、ヒナタを幸せにするはずだから」
それは私の、いやきっとイヴだって、ここにいたなら同じ事を言ったはずだ。
「本気でそう思っているの?」
クロヒナタは私を真っすぐに見据えて、改めて聞き直す。
「ああ」
勿論だと、迷わず答えた。
けれどクロヒナタにそれが通じたのか分からない。彼女には彼女なりの想いがある。――だから。
「貴方には……分かるわけが、ない」
クロヒナタの表情に浮かぶのは怒りに絶望……それに拒絶の感情。
その表情を見せた瞬間、彼女は指先をパチンと鳴らした。
鳴らした指に呼応するかのように、さっきまで立ったまま動きもしなかったコアガンダムのコピーが稼働する。
右手に握るビームライフルを構え、銃口を私へと狙いを定める。
「――っ!」
まさに絶対絶命だ。縛られて身動きが封じられては、逃げる事も出来はしない。
「忘れたかしら? 貴方の役割はビルドダイバーズをここまでおびき寄せるための餌。
だからその役目を終えた貴方は、とっくの昔に用済みと言うわけ」
クロヒナタは、ヒナタなら決して見せることもない残忍な表情を浮かべる。
「それに、このまま無事で済むなんて思ったの?
『私』からクガ・ヒロトを奪った貴方達二人を。
今度こそ消し去ってあげる、二年前のやり直しよ」
――本気で、そこまでやるつもりなのか!?――
けれど彼女の憎悪は本物だ。このままでは本当に私とイヴは、クロヒナタの手で。
「頼む、止めてくれ。
私はいい……けれどイヴは何も悪くないんだ。
ヒロトとはただ仲良くなりたかっただけ、GBNを好きなって貰いたかっただけなんだ。決してイヴは、ヒロトをヒナタから奪って独り占めにしたいなんて思ってなかった。……何も知りはしなかった。だから!」
「奪ったのよ! 彼の心を! 彼女からっ!」
クロヒナタは怒りに満ちた激情で叫ぶ。
叫びに呼応するかのように、ビームライフルの銃口がエネルギーで輝く。
「それを知らなかったですって? ふざけないでよ。
言うじゃない、『知らないことも罪』だって。知らないから、そのつもりが無かったからって……許すわけがない」
余計な事を言った。
もう、何を言っても駄目なのだろう。せめてイヴのデータは守りたいと思ったけれど、無理かも知れない。
「……ねぇ? 最後に聞いていいかしら?」
「どうした」
半分私は諦めていた。もうどちらとも助かりはしないと、投げやりになっていた部分もあった。けれど……
――今になって、一体何を聞くつもりだ――
それにクロヒナタのあの態度、私でもよく分からない。
冷たい雰囲気は相変わらず。けれどどこか、思い詰めている所があるような……そんな感じに近いだろうか。
「メイ……貴方とイヴ、どちらともクガ・ヒロトにとって大切な人。
彼が見ているのは貴方達。なら、今度こそ跡形もなく消しさえすれば『私』を、ムカイ・ヒナタを一番に見てくれるかしら。
今度こそ、彼女を一番大切な人だって…………ねぇ?」
クロヒナタの問い。その答えは言うまでもない。
けれど分かっているのはクロヒナタ本人だって、きっと同じだ。
だから、私はこう答える。
「もしそう思うのなら……撃てばいい」
短い言葉。けれど答えはそれで十分だ。
「――」
表情か変わらない。ただ彼女の纏う雰囲気は、少し揺らいだような気がした。
けれど……。
「それが、最後の言葉……でいいのかしら」
私に迫る危機は変らない。目の前にはビームライフルの銃口、エネルギーの充填は既に完了され今にも放たれそうだ。
「くっ」
せめてもの抵抗だ。けれど、もうここまでなのか。
――すまないヒロト、それにイヴ。私が不甲斐ないせいで――
ただ謝ることしか出来なかった。これが私の、私たちの最後になるのか。
自分さえ守れない、救えない。あるのはただ自分の不甲斐なさと申し訳なさで一杯だった。
ただすまないと、それしか。
けれどビームライフルは無慈悲に私に向けられたまま。
「さよなら」
エネルギーの輝きは増し、視界の先は眩い程に輝く。
そして――光が。
空間を裂くビームの輝きに、そして音。
強大なエネルギーは私をこのまま消し去ると…………そう思っていた。
けれど。
「これは――」
コアガンダムが放ったビームは私ではなく、頭上をかすめた。
真上を通り過ごしたビーム、それは後ろの岩壁に命中する。……爆発音と岩が砕ける音、爆風はここまで届いて髪が揺れる。
「……なんて、これもまた冗談よ」
クロヒナタは一言、素っ気なく伝えた。
「私とイヴを消すんじゃなかったのか」
「勿論本当に消してあげたいとも思ったわ。
けれど、まだ止めておいてあげる」
こう言って彼女は、クスリと小さく笑い声をあげる。
「さっきの答え、気に入ったから。
貴方の言う通りワタシだって分かっているのよ。
……もうクガ・ヒロトの心はイヴに取られてしまった。例えいなくなっても、きっとそれは変りはしない。取り返しは……つきなんてしない。
だって本当に大切なヒトと言うのは、いつまでもその心に残り続けるもの。
それが『ニンゲン』だと、分かるのだから」
「言ってくれる。まるで自分が人間でないみたいな、言い草だな」
「くくくくっ、そうねぇ。
ワタシは人間でもELダイバーでもない、どっちつかずの存在だから。
あるのはただ……もう一人のムカイ・ヒナタであると言う、自分だけ」
寂しいような、けれど覚悟も含まれたような言葉。そして最後に小さく、こんな呟きも。
「――けれど、それも後少し。
そうなればメイやイヴも、どうなろうと関係ない。ヒトの心がそうであるなら……ワタシは」
それはまるで、クロヒナタの心の奥底を垣間見るかのような、狂気を滲ませた呟き。
一体彼女は……。けれどそれは分からないまま、今度は私にあることをした。
「ふふっ、メイ。貴方には二つ選択肢をあげるわ」
クロヒナタがそう言うと同時に、私を拘束していたエネルギーのケーブルは消えた。
ようやく拘束から解放されて動けるようになった。でも何故。
「どうして私を開放したんだ?」
「選択肢と言ったでしょう。
一つは……このままGBNに戻ること。ここからならミラーミッションからログアウトする事が出来る、今なら特別に見逃してあげる」
あんなに憎んでいた私を見逃すと、そう言った。
「だってただ消すよりも、貴方達には壊れゆくGBNを見せた方が素敵じゃない?
そう、ビルドダイバーズのお仲間を見捨てた自責に苛まれながらも、苦しみ続けるのもいいわ」
そんなクロヒナタの提案、受け入れるわけがない。
私は首を横に振る。
「自分一人助かって逃げるなど、私がすると思うか。
こうして開放したのは悪手だったな。それより今この場でお前を止めれば」
黒幕はすぐ目の前、私は右腕からビームサーベルを出すが。
「あははっ、そう来ると思っていたわ。
けれど残念。ワタシはあの時貴方が戦ったのと同じ、偽物よ。
それに仮に本物だとしても、貴方には手を出せるわけがない。だってワタシはムカイ・ヒナタを……」
あのクロヒナタもまた偽物。それに彼女の言う通り、今のままではクロヒナタを傷つけるわけにはいかない。
――何しろ、あれは――
「うんうん。やはり良い子が一番だわ。
けれど、そう言うメイには二つ目の選択肢がいいかもね」
続けてクロヒナタは、にやりとした表情で。
「実はここはミラーミッションの奥ではないの。貴方のいる場所は最深部から離れた管制室のようなもの。本物のワタシは今、最深部でクガ・ヒロトが来るのを待っている。
もし逃げるのが嫌なのなら……今から助けにでも行けばいいわ」
これが二つ目の選択肢。
彼女は面白そうな様子で続ける。
「シドー・マサキ、カザミ、パルウィーズだってそうしている。なら貴方もいた方が、面白いでしょう?
そうしたら今度こそ、ワタシの手で消し去ってあげるわよ。その覚悟があるなら、戦いに来なさい……メイ」
逃げるか、戦うか。
なら私がどうするかは決まっている。それは――。
「みんなの手で、今度こそ止めてみせる。
私の言葉は本物のお前にも届いているのだろう? ならこれが――答えだ!」
私はクロヒナタに迫り、ビームサーベルを一閃、彼女の首を切り落とした。
「首を洗って待っていろ。
必ず、お前の悪行を打ち砕く!」
首が飛び、身体と共に消滅しつつある偽物のクロヒナタ。
けれど首だけになりながら、宙で未だに笑みを浮かべる。
「そう来なくては、ね。
行くなら早くしなさい。早くクガ・ヒロトの元に辿り着かないと…………取り返しがつかない事になるかもよ」
最後に言葉を残すと、今度こそクロヒナタは消滅した。
偽物と言えど彼女の消滅とともに、コアガンダムのコピーもその姿を消した。
――さて、私も戦わないといけないな――
既にみんな戦っている。それに、彼女の目的も気になった。
クロヒナタは何か本当の目的を隠している。きっとそれは良からぬ事、今行っているGBNに対する破壊行為よりももっと、悍ましい事だと思う。
実際、目的そのものが何かは分かりはしない。けれど……絶対に止めなければ。
――今のままクロヒナタを倒せはしない。それよりもミラーミッションの異常を修復して、彼女を無力化させなければ――
その為に修正プログラムを持って来ていた。
しかし、それもいつの間にか無くなっていた。
――身に持っていたプログラムは奪われたか。やはり、見逃すわけがないか――
恐らくクロヒナタによって奪われた。
……けれど、そんな事など予想の範囲内だ。
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私は自分の機体ウォドムポッドに乗り込み、先ほどコアガンダムのビームライフルで開けられた大穴から外に出る。
出た先は、奥まで道が続く洞窟。そこには多数のコピーガンプラが待ち構えていた。
――簡単には行かせはしないか――
戦いながら進むしかない。戦って、まずは別経路でミラーミッションのシステムに干渉可能なポイントを探す。
――私が用意した修正プログラムは一つだけだと思ったか。
万一に備えウォドムポッドの中にも予備を用意しておいた。やはり、準備は周到にするものだな――
手元にあった分は奪われたが、このウォドムポッドに隠していた修正プログラムを使えば、クロヒナタによって改変されたミラーミッションは元に戻る。
彼女の支配は切り離され、これ以上何かする力を失う。
――無力化すれば、クロヒナタはただの一ダイバーと変わらない――
なるべく早く、クロヒナタに悟られない内に、そして……。
――すぐに助けに行けそうになくて悪い
けれど……どうか持ちこたえてくれ、ヒロト――