【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い― 作:双子烏丸
――――
狭い道を通り、俺が乗るアースリィガンダムはようやくミラーミッションの最深部へと辿り着いた。
ここが最深部だと、はっきりした根拠はない。
けれど、ただよう空気、雰囲気で直感として感じる。
――ようやくたどり着いたのか――
先ほどより一段規模は小さいけれど広い空間。けれど他よりも薄暗く、よく見ることが出来ないでいた。
暗い中辛うじて分かるのは、俺が入って来た穴の他にも周囲にはいくつか穴が空いている事。あれもどこかに通じているのか?
――けどそれよりも――
地上からも天井からも大都市が生える反転都市、そして金属の樹々が生える鋼鉄樹海。ここまで通って来た場所はどれも奇妙な場所だった。
けれど……この場所は。
――とても冷たい、寂しい場所だ――
闇に浮かぶのは、まるで墓標のように立ち並ぶ無数の鳥居。
色は剥げ落ち、さび付き、折れて倒れているものばかり。鳥居が並ぶ中央には大きな神社、そのシルエットも見えた。
――最深部のはずなのに敵の姿はない、人の気配も。
静かすぎるんだ――
この一連の騒ぎを引き起こした黒いヒナタ――クロヒナタ。
彼女はミラーミッションの奥で待つと言った。なら、どこにいると言うんだ。
――いるとしたら中央の神社か。あの中なら――
アースリィガンダムに乗ったままでは分りはしない。敵がいないようだし、ここは機体から下りて直接探した方がいいのだろう。
地上は鳥居だらけで下りるスペースを探すのは難しい。けれどどうにか場所を見つけて、俺はガンプラを着陸させて機体から降りた。
ダイバー姿のまま、俺は空間を歩く。
左右、前後、俺の周囲には朽ちかけた鳥居、暗い中その間を進んで行くんだ。
ふとペチャリと音がする。足元には淀んだ水たまりがいくつもあって、俺の足を滲ませて濡らす。
進み、そしてたどり着いたのは、あの神社の前。
――思ったより大きいな――
アースリィガンダムから見下ろしたよりも、大きく見える神社。
ここからだとよく見える。朽ちて錆びて、黒くくすんだ姿。正面の扉はぽっかりと開いて、中の真っ暗な闇を覗かせる。
人の姿――それを探すと。
「……ヒロト」
上から声がした。
見上げると神社の屋根。そこに立つ、まるで闇を照らす太陽のように輝く白と赤の巫女服を着た少女。
そう、俺の――。
「ようやく見つけた……ヒナタ」
現実世界では昏睡状態のヒナタ。彼女の意識、ダイバーのヒナタは今目の前にいた。
屋根に立って、いつもの俺を想うように見てくれる瞳で、優しく笑いかけてくれていた。
――今度こそ、本物のヒナタだ――
彼女の姿を見てとても嬉しかった。俺はつい顔をほころばせる。
「良かった無事で! 俺はヒナタを助けに来たんだ」
「私も会いたかったの。待っていたんだよ」
やっぱり、いつもと変わりはしない。どうしてかは知らないけれどヒナタがちゃんといてくれる。それだけでも……。
「そんな所にいないで降りて来てくれ。
まだメイを助けるのと、クロヒナタを止めてGBNを救うのが残っている。
まずは俺と一緒に来て欲しい。それに全て終わったら、改めて……君に」
「待っている間、ずっとヒロトの事を思っていたんだよ。だって私の一番大切な人だから」
「もちろん! ちゃんと分かっている。
もしかして降りられないのか? なら俺が」
彼女の無事が分かった。俺はとっさに屋根にいる彼女を迎えに行くために神社へと近寄ろうとする。
「……思っていたんだ。ええ、思っていたわよぉ…………くくっ」
けど近づこうと足を数歩踏み出した瞬間、背筋が凍るような寒さを覚えた。
そして再び見上げて見えたヒナタの表情。
嗤って冷ややかに見下ろす顔は、まるで……。
――!!――
嫌な予感を感じた俺はとっさに強く飛び退いた。
同時だった。さっきまで俺ががいた位置を狙い、開いた神社の扉から強烈なビームが放たれた。
闇から放たれる、眩い閃光。
間一髪で避けてビームの直撃は防いだ。けれどビームのエネルギーは周囲を砕き吹き飛ばす程の爆発を起こす。
俺も吹き飛ばされて、鳥居の一つに強く背を叩きつけられる。
「かはっ!!」
呼吸が止まると思う程の衝撃と痛み。そう、まるで現実のような、そんな痛みだ。
そのまま地面に倒れた俺はヒナタを見た。もうさっきのような様子じゃなくて、別人のような冷酷な笑みを向けていた。
「アハハ! 上手い上手い。よく避けられたわね」
爆風に飛ばされて倒れた俺を見て、ヒナタは愉快そうだ。
「でも、ビームは避けたけど吹き飛ばされた痛み、まるで本物みたいに痛いでしょう?
ミラーミッションはもうワタシの支配下。普通なら痛みのフィードバックは安全なように調整されているけれど、ここではそのフィルターは取り払っているのよ。
だから、気をつけないとねぇ」
「まさかお前は……クロヒナタか」
色も含めてダイバー姿はヒナタと全く同じ。けれどその雰囲気、表情と口調は、あのクロヒナタのものだ。
俺の問いに彼女は可笑しそうにする。
「クロヒナタねぇ。便宜上でそう呼ぶ事を許しているけれど、やっぱり失礼だと思わない?
まるで別物みたいに扱うなんて。ワタシだってムカイ・ヒナタなのに、ね」
「そんな事、俺にはよく分からない。けれど――本物のヒナタはどうしたんだ!?」
「本物ですって、クガ・ヒロト?」
これにヒナタ、いやクロヒナタなのか? とにかく彼女は俺の言葉に、大袈裟に驚いてみせた。
「あらあら! 貴方がムカイ・ヒナタなんかの事を気にするなんて、ワタシは驚きだわね。
まぁいいわ。ここまで来たのですもの、ご褒美に教えてあげる。……よく見なさい」
そう言った瞬間、急にヒナタの瞳から生気が抜ける。
……同時だった。彼女の身体から黒い靄のような、ノイズのような物が立ち昇る。
ヒナタは目の生気とともに身体からも力が抜けて、倒れそうになる。
――まずいっ!!――
彼女が立っているのは高い神社の屋上。このまま倒れたら――。
俺は危険を顧みないで駆け付けようとする。けれど、その前にあのノイズがヒナタを受け止めた。
ヒナタから出て来たノイズは人型を形成して、倒れそうになる彼女を抱き留める。
ノイズ、画像乱れのようなテクスチャで構成されるシルエット。けれどそれは徐々に人間の、それも少女のような姿を形作る。
ヒナタのような恰好と姿をした、少女の姿。
「つまりはね、こう言うことよ」
それはこの異常を起こした元凶――クロヒナタ。
クロヒナタと、ヒナタ。同じ姿をした二人は目の前で並ぶ。
意識を失ったままのヒナタを抱き留め、俺に視線を向ける彼女に、俺は。
「お前はヒナタに……取り憑いていたのか!?」
あのクロヒナタは本物のヒナタに取り憑き操っていた。様子が別人のようになったのも、現実で昏睡状態になっていたのもそのせいなのか。
「驚いたでしょ?
でもGBNはヒトの脳と機械に接続して仮想世界にダイブする、フルダイブ式のネットゲーム。
ヒトの感覚をああしてフィードバック出来るのよ。その意識だってやろうと思えば逆に外部から乗っ取るくらい、もし可能とするプログラムがあれば……出来ると思わない?
フルダイブのゲームだなんて危険が多いのよ」
得意げにそう話すクロヒナタ。
とても信じられる話ではなかった。けれど、現に目の前の様子を見た以上、信じるしかなかった。
「ヒナタの意識は、どうなったんだ」
「ふふっ、心配しなくても無事よ。
ただ今は夢を見ているだけ、とっても……良い夢を」
恐らくはそれも本当なのだろう。……それに。
「道理でヒナタとは、様子が違ったわけか。やっぱりお前はヒナタじゃなかったんだな」
「確かにしばらくはムカイ・ヒナタのダイバー体に取り憑いていたわ。
けれど、ワタシ自身も正真正銘ムカイ・ヒナタ。もう一人の『私』なのだから。
ほら? 姿だって同じでしょう?」
「馬鹿にしないでくれ。ヒナタに取り憑く事も出来るなら、その姿を真似ることだって訳ないはずだ。
――もう一度聞く、君は一体何者なんだ」
クロヒナタの正体は何なのか、未だ分からない。俺の問いに彼女は少し考えるように沈黙する。
その後だった、クロヒナタがこんな話をしたのは。
「ワタシはもう一人のムカイ・ヒナタだと、その答えでは満足しないでしょうね。
特別にこれも教えてあげるわ。ワタシが『ワタシ』になれたのはつい最近。ムカイ・ヒナタがミラーミッションをした時なの。
それ以前は何者でもなかった。そう、『何者』でもね」
「まるで意味が分からない」
要領を得ない彼女の話。けれどクロヒナタは傍のヒナタに、ふいに優しい表情を投げかけた。
「けど、そんなワタシが今は『ムカイ・ヒナタ』と言う存在になった。彼女が――何者でもないワタシにくれた存在なの。
だからワタシはムカイ・ヒナタ自身として、もう一人の『私』のためにこうしている。
ヒトと言うのは自分の幸せを願うものだから……大切に想う人の、幸せも」
そう話すとクロヒナタの姿は、また黒いノイズとして分解され、靄のようになってヒナタの周囲に纏わりついて、身体に吸収される。
途端にヒナタの身体に力が戻って生気が戻る。
――けれど途端に浮かぶのはあの冷たい笑みと、負の感情が渦巻く瞳。そして白の巫女服は黒に浸食されて、髪と瞳も暗い色へと変わる。
瞬間、空間全体から炎が上がった。
漆黒の炎は鳥居も神社も、俺たちの周囲を巻き込んで燃え広がる。そして炎を背景に、それ以上の感情の炎を瞳に浮かべながら、彼女は――。
「その為に『ワタシ』と『私』、『ワタシたち』の願い、今から叶えて見せるわ。
それ以外の何もかもを……黒い炎で焼き尽くしても」
心も姿も、もうヒナタではなく――クロヒナタへと変貌を遂げてしまったんだ。
彼女の正体は分からない。けれど少しだけ、その胸の内に秘められた想いは垣間見た気がする。
だけど今、優先するのは。
「とにかく、約束通りここまでたどり着いたんだ。ヒナタを開放してGBNへの攻撃を止めてくれ!
そしてメイも、無事なんだろ!?」
もう一人、メイの事も気がかりだ。ヒナタがどうなったのかは分かったけれど、メイは未だに分からないままなのだから。
「そう言うと思ったわ。もちろん、メイは無事よ……今の所は」
クロヒナタの言葉とともに宙にディスプレイが現れる。
「メイ!」
ディスプレイに映るのは、コピーガンプラと戦いながら道を進む、メイのウォドムポッドの姿だった。
次々とコピーを撃破して先へと進んで行くメイ。どうしてこんな事に。
「だってぇ、つまらないもの。メイにもしっかり戦って、無駄に足掻いて貰いたいものね。
みんなワタシを止めるために頑張っている。けれど助けに来るなんて期待しない方がいいわよ」
クロヒナタは歪な余裕を見せる。
「ワタシのお人形は手強いし、幾らでも生み出せるのよ。そもそも彼らの目的はみんなの足止め。最終的にはワタシとクガ・ヒロト、一対一で決着をつける為にね。
それに、もしかするとお人形達が大切なみんなをやっつけちゃうかも。フィルターは取り払ったと言ったでしょ。もしその状態でやられたら……ふふっ、安全なんて保障できないかもね」
「っ!!」
改めて俺は、俺たち全員が置かれている危機的状況を自覚する。
「後、忘れてない? こうしている間にもお人形達はGBNへの侵攻を続けているのよ。
グズグズしているとそっちもどうなる事か」
「……くっ! ならどうしたら止めるって言うんだ!」
「それはこれから。
確かにここまで来たのは褒めてあげる。けれど本当にワタシを止めたいのなら、その力を示してみなさいな」
途端、周囲が揺れたと思うと、神社の後ろ屋根が砕けた。
現れた巨大な人影。その姿は俺のガンプラ……コアガンダムのものだった。
黒いコアガンダムが握るビームライフル、さっきのビーム攻撃はきっと、それによってだ。
「ここはワタシの支配する領域。だけど、一応はGBNの領域でもある。
だから、ね。ガンプラバトルで決着をつけましょうよ、クガ・ヒロト」
「――」
ここに来て今度はガンプラバトルを挑まれる。
俺は一瞬、何て返せばいいか分からなくなった。
「なあに、簡単な事よ。
ワタシとクガ・ヒロト、一対一で戦って勝てばいいの。そしたら今稼働中のコピーガンプラを止めてあげる。
GBNの危機は消えるし、お仲間だって助かるの。ついでにムカイ・ヒナタも開放してあげる……そう、全て解決するのよ」
けれど、もしクロヒナタの言う事が本当なら。
――俺の手で全部救うことが出来る――
それにガンプラバトルで決着をつけようと言った。加えて彼女がコピーとして出したのはコアガンダムだ。何故かコアガンダムⅡではなくて、コアガンダム。
――それにガンプラバトルなら自信がある。俺のガンプラ、戦い方を真似ても、ただのコピーには負けない――
どの道クロヒナタはヒナタに取り憑いている。倒せるわけがない、それに倒したところでコピーが本当に止まるかの保障はない。
「答えを聞かせてほしいわねぇ? グズグズしていられないのは、貴方だって分かるでしょ」
――勿論だ。結局やれることは――
「答えはもちろん決まっている。
その勝負、受けて立つ。ただし俺が勝てば約束……守ってくれるだろうな」
クロヒナタは不気味な程にニッコリ笑う。
「ええ! クガ・ヒロトが勝てばね。
最も――ワタシは絶対に負けないけれど。それに、もしワタシが勝てば…………ククククッ!」
彼女の自信。加えて最後の何か含みがあるような、言葉。
俺はほんの少し怖いとも思った。だけど、それでも引くわけには、いかないから。
――――
黒い炎が辺りで燃え盛る中。
俺のアースリィガンダムと、クロヒナタが乗る黒いコアガンダムは対峙する。
〈覚悟はいいかしら、クガ・ヒロト。……さて〉
コアガンダムは高く跳躍する。
瞬間、周囲から出現するアースアーマーのパーツ。クロヒナタのコアガンダムはそれを纏い、俺同様にアースリィガンダムへとコアチェンジした。
〈コアドッキング……アースリィガンダム、と言うべきかしらね。
これで互いに同じ条件。いいえ、ワタシの方はコアガンダムだから不利かもしれないわねぇ〉
相変わらずクロヒナタの考えは分からない。
不気味だけれど、そんな心配なんて。
「そんな事、どうだっていい。
俺はただ戦って勝つだけだ」
言葉を交わすよりも、今は力を示すだけだ
俺のアースリィガンダムはビームサーベルを抜き、構えて相手を見据える。
〈あらら、つまらないわね。
まぁいいわよ。まずは互いに剣でも交わすとしましょうか。
暴力での解決は、ヒトとして野蛮かもしれないけれど〉
対してクロヒナタの黒いアースリィガンダムも同じようにビームサーベルを構える。
その構え、やはり俺とそっくりだ。
〈じゃあ――始めましょう〉
「ああ。……行こうか」
二機のアースリィガンダムは同時に地を蹴った。
互いに迫り、そしてビームサーベルの斬撃を……一気に交差させる。