【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い― 作:双子烏丸
――――
朧げな意識の中。
ジリリリリリ……。
「……うーん」
目覚まし時計の音がして、私はベッドから手を伸ばす。
鳴っている目覚ましを止めるとそのまま身体を起こす。窓から見える空は眩しいくらいに青くて、つい目がくらみそうになる。
――もう朝になったみたい。いつもと変わらない朝。だけど――
ちょっとだけ変な感覚がした。まだ夢の中にいるかのような、不思議な感覚。
――起きたばかりだからかな。うん、きっとそうだよね――
この感覚はきっとそうだと、私はそんな風に結論付けた。
それにいつまでも寝てられないから。
――今日は学校があるんだ。だから早くしないと――
鏡を見ると寝間着姿の私が見える。髪が寝ぐせで少しはねているから、直さないと。
でも、鏡……ミラー……。
軽く頭痛がした。
何か思い出しそうな気がする。けれどその記憶には靄がかかっている感じで。ううん、分からない。
――変な事を考えたって仕方ないもん――
だからこれ以上考えるのは止めた。……すると。
扉から軽いノックの音がした。
「もう起きたかな、ヒナタ」
ノックと一緒に聞こえる聞きなれた人の声。
それは――私の大切な人。
私は寝間着のままで扉に駆け寄って、開けると。
「良かった、ちゃんと起きていたんだ」
「うん。少し遅くなっちゃったかもだけど、ヒロト」
癖毛が特徴の、同い年の男の子。
小さい頃から家の近くで暮らしていて、一緒に過ごして来た……幼馴染み、ヒロト。そんな彼が今、私の所に来ていたんだ。
恰好はもう制服姿。もう学校に行く準備は済ませているみたい。
「起こしに来てくれて有難う。……何だか、今日は不思議と眠かったの」
ヒロトは可笑しそうに微笑みを見せてくれる。
「そんな日もあるさ。ふふっ、良い夢でも見れたのかな」
「気持ち良く眠れたよ。夢は……どうなんだろう。あまり覚えてないけど、きっと見れたんじゃないかな」
「――そっか」
私の言葉に彼は自分の事のように嬉しそうにすると、そっと私に近づいて。
「……!」
唇に触れる、ほんわりと温かくて優しい感覚。
すぐ傍にはヒロトの顔。彼は私の頬へと――キスしてくれたんだ。
私は頬が赤くなった。驚きと恥ずかしさ、けれど…………嬉しい。とても嬉しいって、そんな感情で一杯になったんだ。
「えっ、ヒロ……ト?」
キスをして、ヒロトは私と顔を合わせてはにかんだ。
「おはようヒナタ。僕だけの、眠り姫さま」
眩しいくらいの笑顔を見せる彼。それにその言葉、まるで慣れていない感じがして私の胸はドキドキする。
するとヒロトは今度はきょとんと不思議そうな視線で。
「どうしたんだ、そんな不思議そうにして。
だって俺たちは恋人同士だろ? これくらい、普通じゃないのか」
さも当然のように離す彼。そう、私とヒロトは付き合って、今は恋人同士なんだ。
私だって分かっている。けど、まだあまり実感が沸かないんだけどね。
そしてヒロトは改めて考え直すようにして。
「もしかすると少しオーバーだったか。嫌な気分にさせてしまったら、悪い」
「ううん! そんな事ないよ!
ただ、ちょっと慣れてない感じがしたから、ドキッとしただけ」
私は慌ててこう言葉を返した。
でも……恋人か。私たちは恋人同士だって、そうヒロトが言った。
何だか、いつの間にか――。そう思った。
――でもヒロトは私の事をそんなに思っていたんだ。とても――
心の奥底が満ちるような気分を感じたんだ。
「……っと、そうだった」
するとふと我に返った感じのヒロト。
「いつまでこうしている訳にはいかないんだ。そろそろ学校に、行かないとだから」
そう言われて私もはっとなる。
――あっ、忘れてた。まだ起きたままだもん、早く準備しないといけないから――
「ごめん。私、起きたばかりで。準備しないとだね、朝ごはんも食べて行かないと」
ヒロトは頷く。
「そうだな。ちなみに俺も、朝ごはんはまだ食べていないんだ。ヒナタと一緒がいいって思って。
じゃ……リビングで待っているよ。着替えを見るわけにはいかないから」
そう言うと彼は、私に微笑みかけて部屋を後にした。
改めて時計を見ると確かにもう時間は経っている。
――ヒロトも待っているし、早くしないと――
私はいつもの平日らしく学校に行く準備を始める。
――――
それから私はヒロトと朝食を済ませて家を出たんだ。
「……」
何だろう、やっぱり慣れない感じだよ。
「こうしているのもいいよな。そう、思わないか」
いつもの学校へと行く道。私たち二人は腕を組んで、ぴったりくっついて歩いていたんだ。
相変わらずヒロトは当たり前のようだけど、やっぱり私はまだちょっと変な気持ちなの。
でも……やっぱり凄く幸せな気分。
「うん。私もヒロトと同じ気持ち。とってもいいよ」
でも――。私は照れ笑いをして続ける。
「でもやっぱり慣れない感じと言うか、恥ずかしく感じちゃうんだ。だってこんな風にしていると、周りだって」
周りには同じように学校に向かう学生の姿もあるの。その中の何人か、こうしてくっついている私たちをちらちら気にして見て来るのを感じてすまう。
「ううっ……見られているのが、恥ずかしいよ」
「そっか。ヒナタはそう思っているのか」
するとしゅんとするヒロト。けれど優しい視線を私に向けて。
「けど本当にヒナタの事が大好きなんだ。
出来るだけ沢山、少しでも一緒にいたい。だから俺はこうして傍にいたかったけれど、ヒナタが困るなら……」
そう言ってヒロトは寂しそうに腕をほどいて離れようとした。だけど、やっぱり私は。
ヒロトがそうしようとするのを、私は腕も絡め直して今度はこっちの方からぐっとくっつく。
「えっ、ヒナタ?」
「……私もヒロトと一緒にいたいの。恥ずかしいけど、それよりもずっとそんな気持ちなの」
私の言葉にヒロトは少し驚いたみたいだけど、顔も赤くなった感じで。
「――俺は嬉しい。俺たち、気持ちが通じ合っているんだな……本当に」
これが当たり前なんだね、きっと。
ねぇ、ヒロト。
――――
学校では、いつものように授業を受けていたんだ。
私とヒロトは普通に授業をして、でもたまに彼から視線を感じたり……そして。
午前中最後の授業。先生が教室を出て、私たちは昼休みに。
ヒロトは今、男友達と話していている。その一方で私は……。
「お疲れ様。さっきの数学の授業は難しかったね」
授業が終わってすぐに、クラスメートの女の子が声をかけて来た。
「うん、おつかれさま」
「やっと昼休みね、ようやく一息って感じ! あっ、それとね」
クラスメートの子は笑って続ける。
「ヒナタはいいなー、ヒロト君と付き合って。
だって二人とも幼馴染みでしょ。ずっと一緒で、互いに絆が深い……とっても良いカップルだって思うの。だからうらやましいなーって」
こんな風に言われて、私は嬉しくてつい顔がほころぶ。
「ありがとう。私も、ヒロトとこんな関係になれて良かったって。前までは幼馴染み……だったのに」
――あれ、前までは?――
自分で言って少し不思議に思った。
――そう言えば私とヒロト、いつから恋人同士になったんだろう――
ヒロトとはもう付き合っているのは分かるの。幼馴染みから恋人になって、それからは……こうして。
――けど細かい記憶が思い出せない、何でだろう。
それに大切な事を忘れてしまったような――
やっぱり変だ。どうしても今の状況に、拭えない違和感をどこかで感じている。
「ヒナタ、一緒に昼ご飯にしよう」
私がこんな事を考えると、いきなりヒロトが声をかけて来た。
「あれ? さっきまで友達と話していたのに、大丈夫なの?」
「全然平気だ。だって俺にとってはヒナタと過ごすのが……何よりも大切だから」
こう話すヒロトの目に映っているのは私。そう、私だけなんだ。
――それだけで満足なんだ。細かい事なんてもう、どうでもいいくらいに――
今のヒロトは私を大切に、一番に想っていてくれる。その想いで胸は一杯で……満ち足りた感じがするの。
――とっても、まるで夢みたいに幸せだよ――