【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い― 作:双子烏丸
――――
穴の内部は真っすぐと続く洞窟だった。
一面が無数の鳥居で埋め尽くされた洞窟の中、俺はクロヒナタを追う。
〈追ってくるのが早いわねぇ。……でも〉
黒いヴィートルーガンダムの後ろ姿が見える。
けれど、クロヒナタは追ってくる俺にミサイルを放つ。
狭い中飛んで来るミサイル。俺は避け、避けきれない分はミサイルを相殺する。
「追って来たのに攻撃するのか」
〈当たり前じゃない。戦いはまだ継続しているのだから〉
そう言いながらクロヒナタのヴィートルーは再度ミサイルを放とうと腕を向ける。
けど、その前に今度は俺がミサイルポッドで反撃する。――ただし。
ミサイルは黒いヴィートルーではなく、その周囲の鳥居の壁だ。
爆発で壁は吹き飛び、弾き飛ぶ瓦礫は相手を襲う。
〈こんな小細工を……二度もっ!〉
「ヒナタなら分かるだろ。俺は頭を使うのが得意なんだ……昔から」
ダメージは大きくないけれど、それでいい。
今の攻撃でひるみ、スピードが落ちた黒いヴィートルーとの距離は縮まった。
――ここで決着をつければ――
そう思った俺はビームサーベルを抜き、クロヒナタへと迫った。
もう距離は目の前。相手は反撃しようとする素振りは見せない、もしかすると――。そう考えた時。
〈戦い方はデータを取っているのよ。……その点も含めて、ね〉
瞬間、黒いヴィートルーガンダムは弾け飛んだ。
正確にはコアガンダムが装着していたヴィーナスアーマーが、分離して飛んで来たんだ。
――!!――
アーマーはパージすればそれ自体が弾にもなる。
……しまった。勝負を焦ってこの事を失念していた。しかも至近距離で放たれた攻撃だ、俺はそれを受けてしまう。
強い衝撃が、全体を襲う。
けれど身構えたことでダメージは自分のアーマーだけに絞れた。
――けれど、こんな攻撃を受けてしまうなんて――
それから間もなくだった、俺は洞窟を抜けて別の空間へと辿り着いた。
……何本もの岩の柱が並び天井高くそびえて立つ、さっきよりも広い大空間。
――今ので俺もダメージを受けたか――
装着するヴィーナスアーマーにはいくつも傷がついた。だけど決して、無駄ではない。
――けどクロヒナタを追い込んだ。ダメージを与えて、アーマーを外させる程に――
目の前にはアーマーを脱ぎ捨てた、黒いコアガンダムの姿がある。
〈ここまで追い込むなんてさすがねぇ。さすが、本物と言うべきかしら〉
今は攻撃しようと言う動きはない。クロヒナタの言葉に俺はこたえる。
「そうだ。……それでも、まだ戦うのか」
けれどクロヒナタには諦める素振りなんて、微塵もなかった。むしろ……。
〈ふふっ、けどこんな事で勝ったと思っているの? だとするなら――どれだけおめでたいのかしら。羨ましいったらないわ〉
相変わらずの嫌味。けれど彼女は、考え直すように。
〈けれどワタシも貴方を舐めていたかもね。つまり、手加減と言うことよ。
だから……ここから少し本気を出させて貰おうかしら〉
そう言った瞬間――クロヒナタの黒いコアガンダムに異変が起こった。
身体のあちこちに画像乱れのような物が現れ、その姿、テクスチャを置き換えるように姿を変えてゆく。
画像乱れはコアガンダムの全身に広がり、段々と姿が変貌する。そして――その末に。
「コアガンダム……Ⅱか」
〈そう言うこと。これで、条件は同じと言う事よねぇ〉
コアガンダムから、俺と同じコアガンダムⅡへと変貌を遂げたコピー。……本当に何でも有りだ。
「今になって姿を変えたのか」
この変貌に唖然ともした。――だけど
「……それがどうした。今更コアガンダムⅡへと変わったところで、ただのコピーである事には変わりない」
〈ふふっ、そうねぇ〉
――と、今度はクロヒナタの黒い……コアガンダムⅡ。それは飛来した別のアーマー、サターンアーマーとドッキングする。
〈……まぁ細かい事なんていいじゃない。心機一転、第二ラウンドを始めましょう!〉
サターンアーマーを装着した、サタニクスガンダムのコピー。
コピーは左腕に装着したブレーカドリルを構え、俺に向かって迫る。
――いきなり攻勢か。ここは――
「――リミテッドチェンジ!」
俺は先に右腕のみサターンアーマーにチェンジする。そしてブレーカドリルの攻撃を、同じく右腕に装備されたブレーカドリルで受け止める。
「プラネッツシステムは、こう使う!」
続けてヴィーナスアーマーの左腕、そのミサイルハッチをコピーに向け、至近距離で放つ。
――けれど。
〈ふふ、そう来るだなんて、まんまじゃないの〉
黒いサタニクスガンダムの右腕。……どちらも色が黒で気がつかなかった、けれどそれだけはサターンアーマーではなくて、さっきのヴィーナスアーマーだった。
――まさか俺と同じ手段で――
クロヒナタの言う通り、どこまでも戦い方を忠実に再現している。
……そして俺が気づいた時には遅かった。彼女もヴィーナスアーマーの右腕からミサイルを、同時に放った。
放たれたミサイルは俺たちの間で衝突し合い、爆発を引き起こす。
「!!」
爆発で吹き飛ばされ、俺は迫り来る柱に衝突しそうになる。
「……まずい! コアチェンジ! ヴィーナス、トゥ、サターン!」
機体が吹き飛ばされながら、コアガンダムⅡはヴィーナスアーマーからサターンアーマーにコアチェンジ、完全にサタニクスガンダムへとなる。
そして腕のブレーカドリルを振るい、正面衝突する直前に柱を砕いて、吹き飛ぶ方向を変えて激突を避けた。
何とか無事地上に着地はした。
けれど一息つく暇なんて、与えられなかった。
俺が着地したのを見計らったかのように、空間の奥から、ヴァイスプライヤが装備された腕が飛んで来る。
展開されたヴァイスプライヤのアームユニットは俺を挟もうと迫る……けれど。
俺はすぐに横に飛び退く。
攻撃を回避し、飛んで来たヴァイスプライヤは俺のサタニクスの代わりにその背後にあった岩柱を挟み砕く。
――腕だけ飛ばしたか。けど、本体はどこにいる――
視界にはコピーの姿は確認出来ずにいた。けれど、考えさえすれば。
――相手は俺の戦い方もコピーしている。
単純に、俺自身がああした攻撃をするとすれば。……ヴァイスプライヤを飛ばし、その次に繰り出すのなら――
「――飛び退いた、背後からだっ!」
サタニクスは上半身を100度回転させてブレーカドリルを薙ぐ。
〈くぅ……っ!〉
途端に激しい衝撃がドリルを伝う。
俺の予想は当たっていた。同じくコアチェンジを済ませた黒いサタニクスが、俺に向かってブレーカドリルを振り下ろして攻撃しようとしていたんだ。
俺のタイミングも良かった。薙いだと同時にコピーの攻撃を丁度、受け止める事が出来たのだから。
奇襲が失敗したクロヒナタはすぐさま機体を跳躍させて距離を取った。
サタニクスのコピーが跳躍した先は、さっき腕ごとヴァイスプライヤを飛ばした場所。着地と同時に腕を拾うとそのままアーマーが外れていた右腕へと装着させようと。
――そっちが奇襲するのなら……お互い様だ!――
俺だってそんな暇なんて与えはしない。
この好機を逃さずサタニクスはブレーカドリルを構えて迫る。
〈そう来るって訳。でも……させないわ〉
次の瞬間黒いサタニクスは、岩柱を足で強く蹴って飛ぶ。
ヴァイスプライヤの衝突で柱は損傷していた。それにさらに強烈な蹴りの一撃……耐えられはしなかった。
ひび割れ、一気に崩落する柱。そして俺はそんな中に突っ込もうとしてしまっている。
「ちいっ!」
とっさに俺は脚部のバーニアを逆方向に噴射して反対側に逃れる。
……おかげで柱の破片をサタニクスが食らうのは防げた。
けれど次は真横から。今度はこっちの番とばかりにクロヒナタのサタニクスがドリルを振るう。
俺はそれを見切って避ける。そして……代わりに背後にあった別の岩柱が身代わりになって砕けた。
〈次は貴方が、こうなる番だわ〉
クロヒナタはそれを全く意に介さずに再度、俺のサタニクスを捕らえて迫る。
突撃で迫る黒いサタニクスガンダムの、今度はクロ―として展開したヴァイスプライヤ。
……けれど。
――近接特化の技なら予測はし易い――
迫るヴァイスプライヤに対し俺はブレーカドリルで突撃を繰り出す。
〈随分杜撰な攻撃ねぇ〉
けどその攻撃はヴァイスプライヤによって引き掴まれる。だけど、そんな事は予想範囲内だ。
「悪いがそれは囮だ。本命は――」
右腕のブレーカドリルが掴まれても、左腕のヴァイスプライヤを伸ばす。そのまま――黒いサタニクスの胴体を挟もうと試みる。
――このまま一気に上半身と下半身を切断して行動不能にさせる。そうすればヒナタを傷つけることはない――
これが俺の狙いだ。
〈……やるわねっ〉
クロヒナタは開いたブレーカドリルを構えるけれど、もう遅い。
俺の攻撃の方が早く届く。防ごうとも、俺を攻撃しようとしても、彼女は間に合いはしない。
――俺の勝ちだ――
ようやくそれを確信した。
〈でも残念。これで終わるなんて、やっぱり甘いわ〉
黒いサタニクスはブレーカドリルを振った。
自分を守るためでも、俺を攻撃するためでもなく。ドリルを打った先は――すぐ足元の地面だった。
――これは!?――
ドリルで打った地面は一気にひび割れ、俺のガンプラが立つ場所まで広がる。
同時にひび割れた地面は崩れて崩落を始める。
足元には地面の感覚がなくなり立つことも出来ない。……もちろん、攻撃なんて出来る状態じゃなかった。
崩落する足場とともに、二機のサタニクスは落下する。……落下した先は。
――下にあるのは、地底湖か――
下に広がるのは、一面深い青色に染まる水面――地底湖だった。
このままでは俺たちは湖に落下する。それに、俺のブレーカドリルはヴァイスプライヤに挟まれたまま。
――二機同時に着水……間に合わないか!――
サタニクス同士組み合ったまま、間もなく俺たちは地底湖に墜落した。
――――
水飛沫とともに、視界は一面青一色へと変わる。
――水中に沈んだか。クロヒナタは、いない――
水中には彼女が乗るコピーの姿はない。
けれど、次にどう出るかは容易に想像が出来る。
――戦場が水中ならこうするはずだ。……コアチェンジ――
俺はサターンアーマーからマーキュリーアーマーへと換装、メルクワンガンダムにコアチェンジする。
――メルクワンガンダムは水中戦用だ。クロヒナタが攻撃を仕掛けるとするなら、きっと同じ姿に――
瞬間、水中を高速で進み、俺に向かって来る姿を捕らえた。
即座にメルクワンガンダムは専用装備、フィンザンバーを逆手に持ち、そして接近する影に向かって振るった。
伝わる、武器と武器とがぶつかる感覚。
「やっぱり来たか、クロヒナタ!」
攻撃をしたのは、同じくコアチェンジを済ませた黒いメルクワンガンダム――クロヒナタだった。
彼女もまたフィンザンバーで近接攻撃を仕掛けた。けれどそれが俺に防がれた途端、今度はその弾かれた勢いで離れて、今度はウォーターニードルガンを放つ。
――隙の無い二段構えと言うわけか――
けれど俺も撃たれるわけにはいかない。
ニードルガンの攻撃を、俺は水中用ビットを放ち身代わりにする。
放たれた針に貫かれ、爆発するビット。そして――
――なら俺も、お返しだ――
爆発によって生じた隙に俺は黒いメルクワンに迫り、フィンザンバーで振った。
〈!!〉
驚く様子のクロヒナタ。けれど遅い。
彼女がフィンザンバーで受け止める前に、俺はその刃先を打ち砕いた。
――やっぱり同じ動きなら、それを予測して少しでも上回る行動をすればいいだけだ――
続けて頭部のバルカンを放つ。
ダメージは小さくても、バルカンの弾は黒いメルクワンに命中して怯ませる。
〈これは……状況が悪いかもね〉
ダメージを受けたクロヒナタのメルクワンガンダムは離れる。
――これは一度立て直すつもりか。けれど……逃がしはしない――
性能が同じならスピードも同じだ。俺が本気を出せば振り切れる訳がない。
一旦逃れようとする黒いメルクワンを、俺は追う。
〈しつこいっ!〉
そう言った彼女の表情には、余裕が殆ど消えていた。つまりは確実に追い詰めてはいる。この勝負……やはり貰った。
クロヒナタは再度ニードルガンを構えて、追ってくる俺にめがけて放つ。
けれどそんなもの、同じニードルガンで弾き返せばいい。
――そんな抵抗なんて、もう無駄だ――
目の前には地底湖の端となる岩壁も見える。
彼女を追い詰めたと……そう考えた時。
クロヒナタのメルクワンは、急に機体を上昇させた。
向かう先は水面。彼女は水中から脱出するつもりだ。
これは俺が阻止しようとしても間に合いはしなかった。黒いメルクワンは瞬く間に水面から飛び立ち、抜け出した。
――どうする気か知らないけれど、俺も――
続けて俺のメルクワンガンダムも水中を出た。
そして視界に入った黒いメルクワン…………いや。
クロヒナタは再びコアチェンジをして、今度はジュピターヴガンダムへと姿を変えていた。
――あれで戦うつもりなのか。俺はそう考えた、けれど……。
彼女のジュピターヴガンダムは、逃げた。
地底湖のある洞窟に空いていた穴の先へ。……また、追って行かないといけないのか。
――どの道俺は負けない。追い詰めてはいる、行けるはずだ――
もうすぐ俺は決着をつけてみせると。そう決めて、逃げた穴の先へと追って行く。
――――
俺もジュピターヴへとコアチェンジして、後を追う。
再び洞窟を突き進み追うけれど、クロヒナタが乗るコピーの姿は見えずにいた。
――ここに入って行くのは確かに見た。それに洞窟は一本道だ、見失うわけがない――
ただ、今度の洞窟は曲がり道が多い。多分俺の方からは、先を行くコピー姿は見えないだけだと思う
――クロヒナタも俺との戦いを諦めはしないはずだ。必ず決着をつけようと動く。それと――
最初は普通の洞窟ではあった。けれど、進むにつれて周囲の様子は変貌していっていた。
――岩壁は……結晶だらけだ。それも鏡みたいに反射する、あれは一体――
岩壁から生える、鏡のように反射率の高い、幾つもの結晶。
それは洞窟を進むたびに数が増えて、今では洞窟の殆どに結晶がびっしりと生えていた。
――出口も見えて来た。そしてその先にも――
辿り着いた先は……巨大な結晶がいくつも生えて、埋め尽くされた空間だった。
あの鏡のような結晶が、数え切れないほどに。俺のジュピターヴガンダムも結晶に同じ姿が反射して映る。
――まるで遊園地のミラーハウスみたいだ――
遊園地……。頭をよぎったその言葉は、ある思い出を連想させた。
――ヒナタ、俺はもっと君の事を――
そう。数日前に俺はヒナタと遊園地に行ったんだ。
あの時の彼女はとても幸せそうだった。俺とあんな風に一緒にいられて、それに自分の想いを伝えると言う、期待だってあったのだから。
けど――その笑顔は、もう。
――だから俺が取り戻さないと、それに――
「またヒナタの笑った顔を、見たいから」
つい一人、こんな事を呟いた。
無理して見せる笑いじゃない。ちゃんと、彼女が心から嬉しいと思って見せる……そんな笑いを。
〈それは無理よ……クガ・ヒロト〉
通信で聞こえたクロヒナタの声。
――!――
同時に左右から二機のマニファーユニットが出現し、俺に奇襲をかける。
ユニットによるビーム射撃、俺は飛び退いてかわした。
〈ふふふ……〉
結晶の影から、クロヒナタのジュピターヴガンダムが姿を現す。
「――もういいだろ」
けど俺の言葉がクロヒナタに届いたか分からない。彼女はそれに意を介す様子なんて、なかったからだ。
〈もう貴方はヒナタの笑顔を見ることはない。二度と……ええ、もう二度とね〉
再びマニファーユニットを旋回させて攻撃を仕掛ける、黒いジュピターヴ。
俺もまた避けようとした。
発射元が分かるなら……。放たれた二本のビームを余裕で交わす
……けれど。
――!――
確実に避けたはずの攻撃。けれど、避けた次の瞬間、ビームは別の角度から襲い掛かった。
間髪入れずそれも避ける。けれど一発、腕先にかすった。
――マニファーユニットから放たれた攻撃は二発だけだ。なのに――
何かあるはずだ。そう考えている間に再び攻撃が放たれる。
今度こそ何かあったか見極める。攻撃を避けて俺はその軌跡を確認する。
ビームは一直線に進み、直線上の結晶に命中した。……その瞬間。
鏡のような結晶面は、命中したビームを別方向に反射させた。
――結晶がビームを、跳ね返して――
跳ね返ったビームはまた俺に迫る。……けど今度は、簡単に避けられる。
「随分な真似をする。……けど!」
種が分かれば後は簡単だ。
俺も腕のマニファーユニットを展開して飛ばす。そしてビーム攻撃を黒いジュピターヴへと放つ。
勿論向こうだって避ける。けれど俺のビームも結晶を利用して反射させ、再度相手に向かって行った
〈……ふん〉
今度はコンテナビットを射出させ、俺のビームをシールドを展開して防いだ。
「お前に出来て、俺に出来ないわけがない。
俺が……本物なんだから」
その言葉にクロヒナタは何も言わない。ただ、口元に嗤いを浮かべているだけだった。
そして彼女のジュピターヴはビームガトリングを構えて、今度は直接俺に攻撃を繰り出す。
俺はそれを回避する。……もちろん反射も警戒して、だったけれど。
ガトリングの弾は結晶に当たると、跳ね返すことなく周囲に飛び散り、霧散した。
――弾の性質のせいか、ビームガトリングの攻撃は跳ね返せないのか。大方分かった――
俺もまたマニファーユニットとともにコンテナビットを展開する。
つまり全四機の遠隔ユニット……向こうだって、それは同じだ。
――ここからは……俺が仕掛ける番だ!――
空間を交差する幾筋ものビーム。
――どうりでクロヒナタがここに誘い出したわけだ――
黒いマニファーユニットの射撃、それを避けても結晶にビームが跳ね返り俺を襲う。
そして本体である黒いジュピターヴガンダム、あれもビームガトリングで俺を狙う。
――厄介な地形だ。だけど、対処手段は分かっている――
また放たれたビーム攻撃、だけど今度はコンテナビットのビームシールドで防ぐ。
防がれたビームはシールドに相殺されて消える、この場においては一番効率的な手段だ。
現に――
俺のマニファーユニットによる攻撃も、クロヒナタはコンテナビットのシールドで防ぐ。
――やはりこの空間を作った張本人だ。対処は熟知しているんだろう――
確かに手ごわくはある。だけど。
――俺もこれまでの戦いで、クロヒナタの……いや、俺自身のコピーとしての戦いには、十分に把握した。
ここからは一気に畳みかける!――
ここまで何度もコアチェンジして、動きを見せたのが俺にとって幸いした。
それにみんなも、GBNも、彼女によって苦しめられている。だからこそ……。
――この次で決着をつける。俺のコピーなら、きっと――
後は覚悟だけだ。それだって、俺はもう済ませているんだ。
――行くぞ!――
俺はビームガトリングを構えて、クロヒナタの黒いジュピターヴを狙って放つ。
これにボックスビットによるビームシールドで、相手は攻撃を防ぐ。
――まずは防いだか。そしてコピーなら今の行動を、陽動だと感じて次の攻撃を警戒する――
ならその警戒をあえて的中させる。俺はマニファーユニットを二機飛ばしてビームを放つ。
それぞれのビームは結晶を反射して、再び黒いジュピターヴに。……今度は上下別方向から同時にだ。
――ビームガトリングの攻撃でボックスビットを一機。そしてこの攻撃の片方で、もう一機防御に回す――
予想通り、二機目のボックスビットが上から迫るビーム攻撃を防ぐ。
そして――下から迫る攻撃は。
――もう身を守るものはない。となれば攻撃を後ろに避ける。そこで――
クロヒナタのジュピターヴは下からのビームを後ろに避けた。
……けれど、その背後には俺のボックスビットを二機回り込ませていた。
〈!!〉
ボックスビットは二機ともビームシールドを展開して更に、先端からビームの刃を放出する。そして――その状態で彼女のジュピターヴに突撃させた。
――こんな強引な手なんて俺は殆どしない。だから、予想は難しいだろう。いや、出来たとしても――
クロヒナタはマニファーユニットで撃ち落とそうとする。けれど全面をビームで覆うボックスビットには殆ど通用なんてしない。
攻撃をものともせずに突進するボックスビット。
今彼女の黒いジュピターヴガンダムは天井近い高所で、それに左右には結晶が阻む。
上も、左右も塞がれ、間もなく突進するボックスビットを回避するには――
――どの道下に避けるしかない。そして……次の行動は決して予想は出来ない。なぜなら――
俺はもっと――普段なら絶対しない、強引な手段に出るのだから。
――コピーだからこそ、イレギュラーな対応は困難なんだっ!――
「だああぁぁっ!」
出力全開にして俺のジュピターヴガンダムは、クロヒナタのジュピターヴガンダムに体当たりを仕掛けた。
〈よくも、あんな無茶を!〉
クロヒナタの驚く顔、防御手段もなく体当たりをするなんて、これまでのデータではなかったんだ。
つまり、狙い通りコピーの能力を一時的にも上回ったわけだ。
彼女はビームサーベルに持ち替える暇もなく、今持っているビームガトリングで止めようとする。
けど、多少のダメージなら耐えられる。攻撃を受けながら、俺は黒いジュピターヴガンダムへと、そして一気に手を伸ばし……。
〈くう……っ!〉
コピーを掴み、そのまま地上に叩きつけた。
それでも抵抗するコピー――黒いジュピターヴガンダムを組み伏す。
――コックピットをよけて、動力部の中枢のみ停止させれば――
俺はビームサーベルを抜き、刃先を細く、鋭く調整させる。そして黒いジュピターヴの本体に――
〈ははっ、やっぱり最後はそうくるわよねぇ〉
けど俺は、中断せざるを得なかった。
クロヒナタの黒いジュピターヴもまた、ビームサーベルの刃先を俺のガンプラの動力部に向けて、構えていた。
互いに刃を突き付けられる、俺たち。
こうなればどちらとも動けない。それぞれのマニファーユニット、ボックスビットも周囲で待機するしかない。
……でも、その砲口は互いの機体に向け合った状態だ。
「――」
〈――〉
それに画面越しに睨み合う俺たち。
俺に、激しい怒りと悲しみ、憎悪と絶望が入り混じった感情を鋭く突き刺すクロヒナタ。
表情も、瞳も、態度も。彼女の負の感情を限りなく放っていた。
ヒナタと同じ姿で……俺に。
――思っているよりずっと辛い。ヒナタの姿で俺に対して、そこまで憎しみを向けられるなんて――
「もうここまでだ、ヒナタ」
俺はそう彼女に言った。
〈へぇ、貴方がワタシを『ヒナタ』と呼ぶなんてね。ワタシは違うと、言ったんじゃないの?〉
「それは、そうかもしれない」
画面越しに、俺はもう一人のヒナタ――クロヒナタに対して、言葉を伝える。
「けど俺は本物のヒナタに対しても、恨まれても仕方がないとも思う。
ずっと想ってくれていたのに、それにちゃんと気づくことが出来なかったんだから。知らない内に沢山傷つける事もした」
本当は直接ヒナタに謝る事だけど、彼女にも……謝らなければいけないと。
「だから君は、俺を強く憎んでいるんだ。
ガンプラやGBN……ELダイバーに対する憎しみも、全部ヒナタの悲しみからなんだろ?」
俺の問いかけ。それに、クロヒナタは俯いて呟く。
〈ええ。それらによって大切な物を、奪われたのですもの。
『私』の悲しみは『ワタシ』の悲しみ、当然じゃない〉
正体は分からない。けれどそれだけクロヒナタは、ヒナタに対する想いが強いんだ。
「だからこそ全てに復讐するために、こんな真似をしたんだと。君の気持ちも俺は分かる。
けど、その憎しみは――全て俺だけが受けるべきだ。他にまで向ける必要はない。
本当に悪い事をした。…………すまない」
彼女は悪人ではない。ただ、憎しみの感情が暴走しているだけだ。
――かつて俺も同じ思いに駆られた事がある。憎しみに囚われて、自分自身が一番辛いはずなのに、それでもどうしようもなかった――
まるで過去の俺とも似ているんだ。
だからこそ、放っておけない。俺はみんなのおかげで救われた。だから俺も彼女の心も救いたい。
クロヒナタ、彼女自身のためにも。
――ちゃんと想いを伝えれば届くはずだ――
俺のジュピターヴガンダムはビームサーベルを持っていない右手を、彼女の黒いジュピターヴガンダムへと差し伸べる。
「ここまですれば十分だ。俺だってもうヒナタと、それに君の気持ちも分かっているから。
憎しみの罰とは違う。けれど俺はその分、今度こそヒナタの事を大切にしたい。その想いだって受け止めたい」
〈……〉
「それが、ヒナタにとって一番だって俺は考えている。
君も……本当に彼女の事を想うなら」
この言葉にクロヒナタは俯いたままだった。
〈彼女にとっての一番、ねぇ〉
自分に言って聞かせるように彼女は反芻する。
そして、ゆっくりとその顔を上げる。
〈ええ。貴方の……言う通りだわ〉
クロヒナタはこう言って、優しく微笑んだ。まるでヒナタがよく俺にするかのように。
――安心した。やっぱり彼女にも伝わったんだ――
ようやく……とても良かった。
黒いジュピターヴガンダムは動きを止めたまま。
そのコックピットハッチが開き、中からクロヒナタの姿が見える。
〈クガ・ヒロト……ワタシは〉
これで全て解決する。
今暴れているコピーだって停止するはずだ。――そして。
「まずはそのコピーから、降りてくれ。その後で君が憑りついているヒナタを開放して欲しい。
誰かを憎む気持ちはよく分かるんだ。……俺への憎しみだって、すぐに消えないと思う。
仲直りとまでは言わない。けれど、頼む」
俺のジュピターヴの手の平に乗ってくれと、そう示すように差し伸べた右手を近づける。
クロヒナタはこくりと頷いてコックピットから上体を起こす。
〈ワタシ……は〉
〈――貴方を絶対に許しはしないって、言ったじゃない〉