【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い―   作:双子烏丸

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黒巫女が願う、ホントウの目的(Side ヒロト)

 ――――

 

「……!」

 

 瞬間、クロヒナタが素早く操作盤に触れた。

 俺がそれを見た、まさに同時に。

 

 バキッ!!

 

 黒いジュピターヴが頭部のアーマーをパージさせ、俺のアイカメラにぶつけた!

 

 ――しまった! 目くらましなんて――

 

 心を開いたように見せかけたこと、コックピットから出て来たことで、俺は完全に油断していた。

 衝撃でブラックアウトする画面、視界が一時的に喪失する。

 この衝撃なら視界の消失もほんの一瞬程度。けれど俺と同じ実力の相手と戦っている今は、あまりにも状況が悪かった。

 

 

 

 そして二秒も経たないうちに視界は回復する。……すると同時に。

 俺の視界一杯に映るのは、正面から睨みつけるジュピターヴの顔のアップ。更にはビームサーベルを握る左手に、強い力が込められるのが伝わる。

 

〈さぁて問題、今この状況において優位に立っているのは誰でしょう?〉

 

 再びコックピットに乗り込み、通信越しで俺を嗤うクロヒナタ。

 さっきまで俺はビームサーベルを突き付けて身動きを封じていた。けれど彼女は視界を奪った一瞬で、それを握る左手首を、右手でねじり掴んで離さない。

 

 ――これではビームサーベルを押し込めなんてしない。それにクロヒナタは、依然――

 

 対して彼女のジュピターヴは俺の急所に左手に持つビームサーベル、その刃先を突きつけたままだ。

 その気になればクロヒナタは動力部を突き刺して行動不能にさせる事が……つまり、いつでも俺を倒せるんだ、彼女は。

 

〈アハハッ! 答えは……ワタシでした!

 いいえ、厳密に言えば優位どころか、この時点でもうクガ・ヒロト、貴方は敗北してしまっているのよ〉

 

 同時に黒いジュピターヴガンダムは自身の額を俺のガンプラの頭に擦り付ける。

 画面越しのクロヒナタも底意地の悪い満面の笑みを、俺へと向ける。

 

〈ねぇ、どんな気分?

 こうしてワタシに敗北した気分、是非ともご教示して頂きたいわ〉 

 

「……っ!」

 

 勝ち誇ったかのように煽る彼女。

 確かに、油断した俺が悪かった。けどそのやり方はあまりにも……。

 

「あんな手段で勝ったと言うのか。

 卑怯な不意打ちを使って、俺に」

 

 

〈戦いに卑怯も何もないわよぉ。引っかかった貴方が悪いんじゃない。

 ……でも〉

 

 

 

 クロヒナタの黒いジュピターヴは、ビームサーベルを俺のガンプラから離す。

 そして次の瞬間、足で思いっきり蹴り上げた。

 

「――くうっ!」

 

 蹴り飛ばされた衝撃が全身に走る。加えてその後、地面に叩きつけられる衝撃まで襲う。

 

 ――これは一体どう言う事だ――

 

 彼女は俺に止めを刺せたはずだ。なのに、その機会を自分から捨てた。訳が分からない。

 けど、おかげでまだ戦える。俺のジュピターヴガンダムは起き上がる。

 

「クロヒナタ……どうしてだ」

 

 しかし俺はそう聞かずにはいられなかった。

 

〈ふふっ〉 

 

 クロヒナタは含み笑いをしてみせて、答えた。

 

〈だって、クガ・ヒロトがワタシを卑怯だって、責めるからでしょ。

 だ・か・ら、優しい、優しいワタシがチャンスを与えてあげる、と言うわけなの〉

 

 さっきまで互角に渡り合っていた時と違い、今の彼女には強い余裕と慢心が感じられる。

 

 ――何だあの態度は。クロヒナタは何を考えている――

 

 見ると既に彼女の黒いジュピターヴは、俺に対してビームサーベルを構えている。マニファーユニット、ボックスビットも機体の周囲で待機していた。

 

〈さぁ? 貴方も構えなさいよ。

 せっかく仕切り直したのですもの。正々堂々、正面から戦ってあげるわ〉

 

 

 

 ……分かっているのか。俺はもうコピーとの戦いにも対応出来つつある。

 さっきのような不意打ちを受けたからこそ、クロヒナタは俺を負かす事が出来た。それに次は、あんな真似を許しはしない。

 

 ――もうクロヒナタに勝算だなんてないはずだ。それを……今度は正々堂々と戦うだと?

 訳が分からない――

 

 けれど、これは俺にとって幸いである事は確かだ。

  

「後悔するなよ」

 

 俺のジュピターヴも完全に起き上がると、同じくビームサーベルを構えて向き合う。

 

〈いい子ね。なら、次は貴方からかかって来なさいな。先手だって譲ってあげる。……ねぇ、ワタシは優しいでしょ?〉

 

「っ!」 

 

 俺は心の何処かで怒りがこみ上げそうになる。余裕とともに、俺と俺のガンプラを舐め切ったような態度に。

 

 ――クロヒナタはどこまで俺を傷つけようとするんだ――

 

 けれどすぐにその余裕を打ち砕かせて貰う。

 俺のジュピターヴは地を蹴り、コピーに迫って斬りかかる。

 出し惜しみはしない。最大出力による高加速と、そのスピードを乗せての一閃。いくら俺のコピーでもこれを受け止めるには本気を出すしかないはずだ。

 けれど、クロヒナタの表情は。

 

〈ふふ……ん〉

 

 余裕そうな、軽い笑い。そして彼女の黒いジュピターヴガンダム、そのボックスビットが飛来してビームシールドを展開して防いだ。

 

 ――何だと!――

 

 この行動に、驚いた。

 何しろ俺は避けるか、もしくはビームサーベルで防ぐと考えていた。

 高速度で繰り出される斬撃をジュピターヴで完全に防御するにはそれしかない。ボックスビットを自機の前に移動させて、ビームシールドを展開だなんて……そんな真似をする余裕なんてないはずだ。

 

 ――俺自身のガンプラのスペックは、俺が分かっている。あの斬撃に反応してボックスビットを向かわせて防ぐなんて、俺でも不可能だ。

 まるで――

 

 ……いや、それはただの予想だ。

 一瞬頭に浮かんだ馬鹿げた考え。俺はそれを振り捨てた。

 クロヒナタはあえて挑発した事で攻撃を誘導し。山を張って防いだに過ぎない。

 ただそれだけの心理的な駆け引きだ。

 

 ――それに挑発して近接攻撃を誘導したつもりらしいけれど……それだけじゃない!――

 

 俺は冷静だ。ただ力任せに斬りかかったわけではない。迫ったジュピターヴの背後に隠していたのは、二機のマニファーユニット。

 斬撃は防がれたけど相手との距離は縮めた、俺は一気に左右へと隠していたマニファーユニットを飛ばして、そして――

 

〈二時と十時の方向から、マニファーユニットによる同時攻撃……ねぇ〉

 

「!!」

 

 瞬間、左右で同時に爆発が起こった。

 俺の展開させたマニファーユニットが攻撃する前に、全く別の場所からコピーのマニファーユニットがビームを放ったんだ。

 ビームに貫かれて、あっけなく撃墜された俺のマニファーユニット。……あまりに呆気なさすぐて、現実味が沸かない程に。

 

 ――そんな、馬鹿な――

 

 

 

 そう思った瞬間だった。俺の前に立ち塞がっていたボックスビットが離れた。

 そして目の前に現れる、黒いジュピターヴの姿。

 

〈今度はワタシ直々に相手してあげるわよ。

 クガ・ヒロト、貴方にたっぷり思い知らせてあげるわ。

 ワタシには決して勝てない、と〉

 

 そして左手で持つビームサーベルを構え、右手

の平を上にして四本指を立て、くいくいと動かして誘う。

 俺に対して、そこまでか。

 

「舐めるなっ!」

 

 俺のジュピターヴは、コピーである黒いジュピターヴに直接斬りかかる。

 コピーはそれをビームサーベルで防ぐ。けれど受け止められたのなら……何度だって! 

 

 

 

 何度も、何度も、俺はビームサーベルをクロヒナタのコピーガンプラへと振るった。

 相手は俺の全くのコピー、戦いは互角のものになる。

 そのはずだった。

 

〈随分な攻撃。お上手ねぇ〉

 

 けれど俺の斬撃は、全て軽く受け流される。

 一撃一撃に全力を込めた攻撃を、クロヒナタは涼しい表情で防ぎ、避ける。

 彼女からは攻撃を、一切する事もなく。

 

「……あり得ない」

 

 どれも動きは最小限で、それでいて確実に。同じ実力のはずなのに、さっきまでとは違い……俺たちには明らかな差がついていた。

 

 ――どうしてこんな事に!――

 

「はああっ!」

 

 再び俺はビームサーベルを一閃。今度は、右下斜めから振り上げる斬撃だ。

 

〈そんなに必死にならなくていいじゃない。しょうもない〉

 

 けれどそれよりも早く、クロヒナタは俺のジュピターヴが握る武器の根元を、強くビームサーベルで叩き伏せた。

 

「!!」

 

 たったの一撃。

 その勢いでジュピターヴガンダムはビームサーベルを手元から落としてしまう。

 そして瞬く間にクロヒナタは剣の剣先を、俺のガンプラのコックピットに向ける。

 

「……」

 

〈武器を落としてしまったわね。……早く拾いなさい〉

 

 また、俺を倒すチャンスを無視してクロヒナタは促す。こんな真似を二度までも、心が折れそうになる。

 

〈貴方とイヴとのガンプラと、プラネッツシステムはその程度なの?

 ねぇ、その――程度なの?〉

 

 けど俺は戦うしかない。でないと大事な物が否定されてしまうから。……だから。

 

 

 

 俺は落としたビームサーベルを拾い、再び戦闘態勢に入る。

 

〈良いわ。今度はもっと、本気でかかって来なさいな。ここからが……本番なのだから〉

 

 対峙する、俺とクロヒナタのジュピターヴガンダム。

 

 ――そうだ、俺がもっと本気で戦えば。俺にはプラネッツシステムがあるのだから

 決して偽物には負けない――

 

「負けて……たまるかっ!」

 

 俺のガンプラはビームサーベルを再度構えてコピーと向き合う。……けれど、ここからは!

 瞬間、今度は相手に直接向かって行くんじゃなくて、逆に後方に飛び退いた。

 そして、同時にボックスビットを二機同時に突撃させる。

 

 

 ビームシールドを展開しての突撃。黒いジュピターヴガンダムはそれに対して、同じくボックスビットにより防ぎ、マニファーユニットを回り込ませて射撃、撃破する。

 しかし、おかげで俺には時間が出来た。

 

「一気に叩き潰すっ!」

 

 俺はサタニクスガンダムへとコアチェンジさせ、続いてブレーカドリルで突撃を繰り出す。

 プラネッツシステムの装備の中でも、特に近接威力の高い一撃だ。 

 間にボックスビット、マニファーユニットが立ち塞がっても関係ない。ブレーカドリルの威力ならそれさえ粉砕してコピーに届くはずだ。

  

 ――これなら――

 

 迫る俺のサタニクスの、ブレーカドリル。これには防ぐ手段なんて。……そう思っていた。

 けれど行く手を阻んでいたボックスビットが急に散開した。その背後に見えるのはジュピターヴガンダムのコピー、のはずだった。

 けれど、その右半身は。

 

〈リミテッドチェンジ……ヴィーナスアーマー、かしら〉

 

 左半身はジュピターヴガンダムのまま。けれど、いつの間にか右半身にはヴィーナスアーマーを身に着け、半分はヴィートルーガンダムにコアチェンジしていた。

 バックパックにはミサイルポッド、ビーム砲を備え、その銃口は俺の方に。

 

〈100%ヴィーナスアーマーで無い分火力は劣るけど、これで十分〉

 

 次の瞬間、右半身とバックパックからミサイル、ビームの全弾発射が俺に向かって放たれる。

 ブレーカドリルを突き立てる前に、俺は直撃を真正面から受けた。

 ドリルを盾代わりに防いだ事とサターンアーマーの装甲は比較的分厚いお陰で、ダメージは軽くで済んだ。けれど……。

 

 ――クロヒナタのコピーガンプラは、どこだ――

 

 爆発が収まった瞬間、コピーの姿は消えていた。一体何処かと、探そうとすると同時に。

 

〈そのアーマーと装備では、動きが鈍いものねぇ〉

 

 今度は側面から数撃もの斬撃。見ると今度は左半身をマーキュリーアーマーに換装しメルクワンガンダムに。今の攻撃はその装備、フィンザンバーによるものだ。

 あの小型の武器なら一気に数撃を繰り出せる。 続けて俺は斬撃のダメージまで、このままでは……。

 

「……っ! リミテッドチェンジ!」

 

 俺もそれに対応するために両腕をマーズアーマーに。スラッシュブレイドを手に握り振るった。

 

〈遅いわ〉

 

 けれどコピーは瞬時にウラヌスアーマーにコアチェンジしてユーラヴェンガンダムへと変わる。

 俺はスラッシュブレイドを振るったけれど、相手は先に攻撃の範囲外に離れていた。更に……そこから。

 

〈ワタシは言った――クガ・ヒロトを許さないと〉 

 

 黒いユーラヴェンガンダムはビームライフルと、更にビットを射出して同時に狙い撃った。

 とっさにスラッシュブレイドで防ぐしかなかった。けれど、ユーラヴェンガンダムのビームライフルの威力がどれだけ高いかは知っている。

 

「早い!」

 

 二本のスラッシュブレイドをクロスさせてビームを受け止めたけれど、ビームの衝撃で一本はひび割れ砕けた。……さらにビットのビーム射撃の一部が腕先と足にかすって傷を受ける。

 

〈なのに何が『すまない』よ、『大切にしたい』よ。……勝手な事ばかり!〉

 

 瞬間、黒いユーラヴェンガンダムは右腕のみジュピターアーマーへと換装する。

 マニファーユニットが装備された右腕を構え、ビームを放ちながら手に握るビームサーベルを手に迫る。

 俺は使えなくなった一本を捨て、両手で無事なスラッシュブレイドの片割れを構え、放たれたビームを数発弾いた後ビームサーベルの斬撃を受け止める。

 

〈今まで他の事ばかりだったくせに、ハハッ、何を今更。

 貴方にとって一番大切な人はイヴなのでしょう? クガ・ヒロトの心を奪った……あの木偶人形。だから彼女が復活すると聞いて嬉しかったでしょう? ムカイ・ヒナタの事なんかどうでもいいくらいに。

 所詮『私』の存在なんて、元より大した存在でもなかったんでしょう!?〉

 

「違う! そんな事あるわけない!」

 

〈口先だけ! 貴方の言葉など、信じるに値しないわ!〉

 

 

 

 クロヒナタの黒いユーラヴェンガンダムの左手にはビームライフル、その銃口が俺のガンプラに向けられる。

 これには距離をとって離れるしかない、それと同時にコピーが握るビームライフルが撃ち放たれた。

 

「!!」

 

 ビームは俺のガンプラ本体じゃなく、その武器スラッシュブレイドを狙ってだった。

 直撃を受け、二本目のスラッシュブレイドもビームに貫かれて砕け散った。

 

 ――しまった!

 

 こうなった以上、俺は一旦傍の大結晶の背後に身を潜める。

 

〈ならどうしてイヴの事ばかりだったのよ? 二年間……ずっと、彼女の事をムカイ・ヒナタに話さなかったのは何故よ!

 何も言わずにずっとイヴばかり。『私』がどれだけクガ・ヒロトの事を思っていたか考えもせずに。イヴとガンプラ、そしてGBNばかりを大切にしていたわよねぇ。

 『私』の方がずっと長く傍にいたのに、何で貴方は……っ!〉

 

 クロヒナタは俺の隠れている大結晶諸共吹き飛ばそうと、今度は最大出力でビームライフルの一撃を放った。

 その威力で粉々に砕かれる大結晶、けれど……既に俺のコアガンダムⅡはアースリィガンダムにコアチェンジしていた。

 衝撃はシールドを構えて防いだ。しかし、続けて強烈な衝撃。――クロヒナタのコピーガンプラが激しい蹴りを直接繰り出したんだ。

 

〈そしてビルドダイバーズ。エルドラと言う異世界に行って、いつの間にか仲良しになっていると来たわ。カザミのパルウィーズ、特に……メイ!

 ムカイ・ヒナタを置き去りにして貴方はまた好き勝手な事ばかり。

 ……自分の命だって危険かもしれないって。それが分かってからも『私』に全て話したのは、最後の最後になってからだったわ!〉 

 

 クロヒナタの瞳に映る憎悪の炎は一層激しく揺らめく。

 蹴りの衝撃で態勢が崩れた俺のアースリィに、再びビームサーベルを抜き横一文字に薙ぐ黒いユーラヴェンガンダム。

 俺は飛び退けようとした。けれどとっさ過ぎた拍子で転倒し、倒れる。

 

〈別の世界を救うために、そしてかつてGBNを身を挺して救ったイヴの意思を優先して、貴方はまたムカイ・ヒナタを見捨てたのよ。

 クガ・ヒロトに何かあったら彼女がどう思うか考えてなかったの? エルドラの事を知って『私』が貴方を止めても、それを切り捨てたわよねぇ。

 どうせ自分とは関係ない世界じゃない? 本当にムカイ・ヒナタを大切だと言うなら、その願いを聞いて一緒に……傍にいたはずでしょう?〉

 

 倒れた俺のもとに、ユーラヴェンガンダムのコピーが迫る。

 そして……ククククッ、と、クロヒナタは泣きそうな顔で嗤い声を響かせる。

 

〈……ねぇ、結局ずっとそうでしょ、クガ・ヒロト。

 いつも大切に想ってくれている彼女を見ようともせずに、別の何かで後回し……二の次にしてばかりじゃない。

 何……? どうせ本当は放っておいても大丈夫だって、そこまで気にする必要はないくらいにしか……『私』の事を思ってなかったのでしょう?

 ムカイ・ヒナタは所詮クガ・ヒロトにとって価値なんて…………ククク……アハハハハ!〉

 

 彼女はそのままビームサーベルを手に、倒れたアースリィに対して何度も振るった。

 けど斬撃は直接俺に当てずに、近くの壁や水晶、地面ばかりを抉り削り火花をまき散らす。 

 

〈あハははハハッ! ははハはハははハハハ!

 ははははははははははははははハハハハハハハハハハハハハハハッ!〉

 

 狂ったように嗤いながら、当たり散らすかの如く周囲を切り裂くクロヒナタ。

 ただ、その嗤いはまるで……自分自身に対する、自虐のような。

 

〈ハハ、ははは……っ、なのに本当に哀れよねぇ。どんなに想っても見てもくれない、届きなんてするわけないのに、それでもクガ・ヒロトの事を一番に……大好きだって想いを捨てる事はないのですもの。

 どうせ、叶わない想いなら……いっそ捨ててしまえば楽なのに、ね〉

 

 嗤いも収まりつつあった彼女の両目からは、二筋の涙が流れるのが見えた。

 

 ――君は――

 

 俺には彼女に、何も言えはしなかった。

 そして完全に嗤うのを止めたクロヒナタは、画面越しの俺に対してはっきりとした敵意を、いまだに涙を流す瞳で突き刺す。

 

〈――二年間もそうだった、今になって『気持ちが分かった』? 『今度こそ大切にしたい』? そんな事を言われて響くと、真実だと思うの?

 だからね――〉

 

 彼女の言葉とともに、今度は左腕のみサターンアーマーにコアチェンジ。武装――ヴァイスプライヤを俺に突きつける。

 

 

 

〈だからね、クガ・ヒロト。貴方には何一つ期待なんてしない。どうしたって結局行きつく所は同じ、裏切られるしかないのだから。

 

 つまり貴方は、もう――いいのよ〉

 

 

 

 ――!!――

 

 『もういい』、それは本物のヒナタにも言われた言葉だった。

 傷つけて、悲しませて、俺が言わせてしまった一言。それをクロヒナタまでが、同じことを口にした。

 この俺に。

 

 ――俺は、決してそんなつもりはなかったんだ。ヒナタ……君を、いや君達にこんな思いをさせるつもりなんて――

 

 ヒナタと、クロヒナタ。二人の姿が俺の脳裏で重なる。そして襲う、激しい罪悪感の感情。

 

〈これで終わりかしら!? クガ・ヒロト!〉

 

「っ!」

 

 けれど、クロヒナタの叫びで我に返った。 

 俺には茫然としている暇はなかった。しかし我に返った途端に見えたのは……間近に迫ったヴァイスプライヤの姿。

 クロ―を開き迫る一撃。攻撃範囲は広く、それにさっきショックのせいで反応が遅れた。

 もうこのまま避ける暇も、防ぐ余裕もない。……だから。

 

「ドッキング解除っ!」

 

 俺は今装備しているアーマーをすべて解除して、コアガンダムⅡになって避ける。

 

 ――あの戦いの変化ぶりは何だ!? このまま戦っては駄目だ。今は離れて態勢を――

 

 そしてコアフライヤーに変形して、コピーから距離を離そうと試みる。

 

〈逃がすと……思って〉

 

 クロヒナタのユーラヴェンガンダムはビットを射出して追跡させた。

 俺のコアフライヤーはビットから逃れようと最大出力を出す。そして、結晶に阻まれながら俺は逃げる。

 

 

 

 三機のビットと、俺のコアフライヤーとの追跡戦。ビットは機体を狙いビームを放つけれど、結晶が良い遮蔽物になってくれているおかげで、まだ命中せずに逃げきれている。

 けれどビットはしつこく追跡を続ける。そんな中で、俺はあのコピーの戦いぶりについて考えを巡らせる。

 

 ――さっきまで互角、いや俺の方が優勢だったのに。

 けれど急にコピーが何もかも、上回って来た。……やっぱりそうだ――

 

 俺はビットからの射撃を避けながら、とにかく今は逃げる為に飛び回る。

 そして、俺は再びある考えが頭をよぎる。

 さっきも考えたある思い。……けれど、そうとしか考えられなかった。

 

 ――機体の動作や、プラネッツシステムの切り替えに攻撃の早さ。

 あれは、そう。……まるで俺の動きを読まれているようだ――

 

 

 

 俺がそう考えたと同時に、もう一つ気づいた事があった。

 俺を追跡して攻撃を繰り出すビット。けれど攻撃は俺が避けられる範囲の精度に留めたままだ。

 最初は遮蔽物が多いからだとも思った。しかし改めて考えれば……さっきのような的確な攻撃が出来たのに対して、このビットの攻撃はあまりにも、例え遠隔操作だとしても違い過ぎる。

 加えて、結晶にいくつも像が反射して分かりにくいけれど俺を追跡するビットは三機。そう、ウラヌスアーマーに装備された三機のビット。

 

 ――確かにウラヌスアーマーの遠隔操作ユニットはそのビットだけだ。

 けど、コピーは右腕にジュピターアーマーも装備している。……マニファーユニットごと―― 

 

 つまり遠隔操作ユニットはマニファーユニットも含めて計四機。

 残る一機は、どこに行った。……まさか!

 

 ――何て馬鹿だ! 俺は――

 

 瞬間、目の前に現れた飛行物体の影。正面の砲口を俺に向けたそれは四機目の遠隔操作ユニット、マニファーユニットだ。

 

 ――逃がすつもりなんてなかった。彼女は俺を誘い込んでいた、それに、引っかかったなんて――

 

 俺が気づいた時には……もう遅かった。

  

  

 

 ――――

 

 マニファーユニットのビームは機体に直撃する。

 制御が崩れたコアフライヤーは降下し、墜落寸前にまで陥る。だから墜落するより前に機体を再変形、コアガンダムⅡになって着地する。

 

「……くっ」

 

 着地した途端、蓄積された本体へのダメージが響き、動きがぎこちなくなる。

 モニターに表示されるダメージ量も少なくない。

 

 ――やはりまずいな。それにここは――

 

 俺が辿り着いた場所は、円形に開けた広場だ。

 そこには結晶は生えてなく、上には広場と同じ規模を持つ縦穴が遥か頭上まで続いている。

 

〈ワタシは、貴方を許しも……逃がしも、しない!〉

 

 広場にはクロヒナタが乗るコピーガンプラも現れた。今度は、俺に合わせてなのか……同じコアガンダムⅡの姿で。

 にやりと、今度はたっぷりと嗜虐と悪意が込められた、愉悦の表情を俺に見せつける。

 

〈ククククッ! 良い様じゃない。コピー相手に手も足も出なくなって、もう逃げるしか出来なくなった様!〉

 

「ちぃ……っ」

 

 認めるしかない。

 原因は分からない。けれど確かにあのコピーは、明らかにオレの動きを読んでいる。

 今彼女に勝てる見込みは……ない。

 

 

 クロヒナタはそんな俺の感情に気づき、心底嬉しそうな顔を浮かべた。 

 

〈あはっ! 今、敗北を悟ったわね。

 ……どんな気持ちかしら。

 貴方とあの木偶、イヴとの大切な思い出の結晶――コアガンダムとプラネッツシステムが、たかが偽物に無様にやられて……屈辱的でしょう〉

 

「……」

 

〈無力ねぇ、クガ・ヒロト。

 偽物にさえ勝てず、GBNや仲間の危機さえ救えもしない。

 はははっ、情けないったらないわ。貴方にはお似合いだわ〉

 

 俺の心が、暗い感情で支配されていくのが感じる。

 

 ――何もかも届かない。実力も、そして俺の想いさえ。

 やっぱり俺には――

 

〈これが『ワタシたち』の復讐……いい気味だわ。でも――〉

 

 

 

 途端、クロヒナタは表情から笑みをかき消して、ある種の真剣さとも言える感情を露わにする。

 

〈名残惜しいけど、楽しい復讐劇はここらで幕引きにしないとね。

 ――ここからは『ワタシたち』の願い、『ワタシ』の本来の目的を、叶えないといけないもの〉 

 本来の――目的だって。

 

「君は、復讐が望みだったんじゃないのか」

 

〈復讐ですって?〉

 

 俺の言葉に、彼女は呆れたような顔を見せた。

 

〈ええ、そうしなければ気が済まないもの。……けどね、実際は復讐なんてしても、ムカイ・ヒナタ、彼女が幸せになれるわけなんてないのだから。

 最初から、ワタシの目的は何一つ変わりはしない。復讐なんてただの……ついでよ〉

 

 

 

 さっきまでと違う雰囲気、クロヒナタは俺に語り掛ける。

 

〈貴方も言ったわね、彼女にとっての一番を願っていると。そう願っているのは、ワタシだわ。

 ワタシの本当の目的は――〉

 

 クロヒナタが俺に明かす、その目的は……。

 

 

 

 

〈――人間になること。

 ムカイ・ヒナタにとって誰より大切な…………クガ・ヒロト、貴方と言う人間にね〉

 

 




 長かった第八章も今回で最後です。
 次回からは……最終章。あと少し、どうか宜しくお願いします。
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