【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い― 作:双子烏丸
【最終章 表紙付き】それでも俺は諦めない!(Side ヒロト)
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人間になると、そうクロヒナタは言った。
その言葉の真意は俺に分からなかった。
「俺になる、だって? 一体どう言う意味だ」
〈どう言う意味って、そのままの意味よ。
ワタシがクガ・ヒロトと言う人間になる……まさに、そのままね〉
そんな事なんて出来るわけがない――。俺になるだなんて、訳が分からない。
すると……クロヒナタは淡々と続ける。
〈プログラムさえあれば、ヒトの感覚をGBN内にフィードバック出来るように……その逆の事、ヒトの感覚、精神に介入する事が出来るの。
――私はそのプログラムを作ったのよ。ミラーミッションを掌握、一エリアの膨大な演算処理能力を動員して……そこまでしてようやく、ね〉
クロヒナタが乗る黒いコアガンダムⅡは、ゆっくりと俺のもとに歩みを進める。
〈ワタシが、こうしてムカイ・ヒナタのダイバー体に憑りついているのも、プログラムの権能によるもの。
……けれど、本当の能力はただ憑りつくだけだなんて、中途半端なものではない〉
黒いコアガンダムⅡは、もう俺のすぐ目の前にいた。
俺と、クロヒナタが乗る二機のコアガンダムⅡは、まるで鏡合わせのように向かい合う。
〈そう、プログラムの真の力は、ダイバーとして存在するヒトの精神体に別の意識をダウンロードする事。
つまり……ね、ヒトの人格、魂を完全に上書きすることが出来るのよ〉
段々と、俺も分かって来た気がする。
「クロヒナタ、君はそれを俺に使うつもりか」
俺の言葉、クロヒナタはまた、にたりと笑みを浮かべた。
〈ええ。ワタシの人格でクガ・ヒロトを上書きするの。
貴方の記憶や経験はそのまま引き継がれ、ワタシはまさに、完璧な貴方になれるのよ。
そして……〉
クロヒナタの黒いコアガンダムⅡはビームサーベルを抜き、俺のコアガンダムⅡの首筋に刃先を当てる。
〈本物の貴方は――消える。
だってクガ・ヒロト、貴方の心は上書きされるのよ。パソコンでのデータだって上書きすれば元のデータなんて跡形も残らない。
人間の言葉で言うなら……いいえ、止めておくわ。言わぬが花、って事よ〉
彼女の雰囲気には慈悲なんてない。それどころか、残酷な笑みで喜々としていた。
〈でも、当然の末路じゃない。
貴方はかつて世界の何もかも、どうでもいいって、価値なんてないとも思ってたのでしょう。
もちろん……ムカイ・ヒナタの事も。
だからワタシも、貴方がどうなろうと『どうでもいい』。そしてどうでもいいと思っていた世界からも、弾かれて消えると言うわけ。
……本当に、お似合いの最後よ〉
そして黒いコアガンダムⅡはいきなりビームサーベルを俺に振り下ろす。
とっさに攻撃を受け止める。それしかない。
〈どう、自分が消えてしまうと分かって怖いでしょう?
だからあと少しだけ……抵抗する事を許してあげるわ。何しろ自分の命が懸かっているのですもの、必死に足掻いてみなさいな!〉
――俺の、命が――
クロヒナタは俺を抹消して成り代ろうとしている。どの道止めなければならない、彼女はまともじゃない!
無理かもしれない。けれど最後まで抵抗するしかない。
絶望的だけど、そうするしか……ないから。
――――
何もない広場で、剣と剣で戦う、互いのコアガンダムⅡ。
〈さぁ! 手加減はしてあげているのよ。だから頑張ってみなさい!
でないと……貴方は!〉
黒いコアガンダムⅡが振る深紅に輝くビームサーベルの刃、その軌跡が迫る。
その攻撃を俺は受け止める。――けれど、それでも俺は攻撃を防ぐだけで一杯……防戦一方だった。
――同じコピーのはずなのに太刀打ち出来ない。動きの何もかも、俺を上回って――
「どうしたら、彼女に勝てる。勝たなければ――」
〈勝てるかしらねぇ? ……果たして〉
瞬間、黒いコアガンダムⅡにようやく攻撃する隙が見えた。
クロヒナタはビームサーベルを大きく横に薙いだ。その攻撃の直後、機体の脇が空いていたんだ。
――攻撃を大きく振りすぎたな。これなら俺でも、いけるか――
ようやく見えたチャンス、逃しはしない。
俺は空いた右脇に向かってビームサーベルを薙ぐ。
あの位置なら一撃で動力を止められる。一撃さえ命中すれば。もうそれに賭けるしかないんだ。
俺のビームサーベルの剣先は黒いコアガンダムⅡに確実に迫る。あと少し……けれど。
〈残念〉
もう少しで届くはずだった。けれど、その瞬間にビームサーベルを握る右腕を、コアガンダムⅡのコピーの左足先が蹴り上げた。
蹴りを腕にくらって、ビームサーベルを手元から離してしまい、吹き飛ばされる。
〈その程度、当たると思って?〉
「俺は、俺に出来る事をするだけだ!」
まだ諦めはしない!
さっきの蹴りで吹き飛ばされたビームサーベル、そのグリップ。逆境に追い込まれても、逆にそれをチャンスにしてみせる。
俺のコアガンダムⅡは、上に飛ばされたグリップに向かって跳躍した。
そしてグリップを再び手に取り、刃先を展開、黒いコアガンダムⅡへと振り下ろす。
上からの強烈な一撃、これなら――。
けれどその瞬間、待ち構えていたように黒いコアガンダムⅡはビームライフルの銃口を俺に向けていた。
そして淡々と、謎々をするかのように、クロヒナタは尋ねる。
〈ねぇ? 何でこんな事になったと思う?
……クガ・ヒロトがビルドダイバーズの仲間と出会い、エルドラに行ったせい?〉
同時にビームライフルの一撃が俺に放たれた。
俺はビームサーベルで弾く。けれど今度はそのタイミングを見計らい、黒いコアガンダムⅡが跳躍、近接戦に切り替えてビームサーベルを構えていた。
〈それとも、GBNでイヴと出会ったせい?〉
態勢を変えた途端の斬撃、とっさにビームサーベルを展開して防ぐけれど。
「くはっ!」
不意の一撃、その衝撃は本体にも伝わりコックピットは揺れる。続けてその勢いで機体が墜落した衝撃も襲う。
墜落した俺のガンプラ、それに向かって黒いコアガンダムⅡは再びビームサーベルを展開して近づく。
〈GBNを始めた事? もっと遡ってガンプラに興味を持った事が、いけないのかしら?
いいえ、否……ノー。どれも違うわ〉
起き上がろうとする俺のコアガンダムⅡに、クロヒナタは刃を振り下ろす。
けれど攻撃の瞬間、辛うじてビームサーベルで受け止めた。
〈本当にムカイ・ヒナタにとって不幸なのは……クガ・ヒロト、貴方が彼女の幼馴染みとして存在している事そのものなのよ!〉
途端、クロヒナタの黒いコアガンダムⅡが込める力が増した。
〈きっと最初から貴方は……ムカイ・ヒナタを大して想ってなんていなかった!
だからガンプラやGBN、ELダイバー、エルドラ、ビルドダイバーズ……他ばかり大切にするのよ。ムカイ・ヒナタはクガ・ヒロトにとって大切なんかじゃないからっ!〉
「そんな事は……ない!」
〈ははっ! そればかり!〉
クロヒナタは可笑しそうに高笑いを響かせる。
〈例え大切とは思っていても、どれくらいかしらねぇ?
……一番? くくっ! そんな訳ないわよねぇ? 貴方には彼女よりも大切にしていたものは幾つもあった。
ねぇ……そうじゃないの!〉
クロヒナタは今……明確な殺意を露わにして放っていた。
さっきまでは怒りや憎悪によって覆い隠していた、俺への殺意。
〈なのに『私』、ムカイ・ヒナタは馬鹿正直に貴方を一番に想っているのよ。
昔から一緒にいた幼馴染だから、彼女にとって身近で、一番大切な存在だって思っているから。
『私』がそう一番に想って、尽くしているのですもの、その分……貴方に想われてもいいじゃない!
誰よりも、そう……一番に!〉
――瞬間、鍔迫り合っている中、黒いコアガンダムⅡは右膝を突き上げ、強く膝蹴りを胴体に食らわせた
〈なのにそうじゃないのよ。クガ・ヒロト!〉
「あぐうっ!!」
激しく伝わる衝撃で、俺も内部で身体を強く打ちつける。
〈ねぇ? どうして貴方みたいな人間が彼女の傍に、何で貴方なんかがムカイ・ヒナタの幼馴染みなのよ!〉
不意の膝蹴りで態勢が崩れそうになるけれど、どうにか踏ん張る。……けれど今度は、俺の頭部にコアガンダムⅡの拳が迫っていた。
〈こうなるならいっそ、貴方なんて存在なんてしなければ良かった! ――間違いなのよ、全て!〉
一撃――。拳の一撃がコアガンダムⅡの頭部に命中した。
画面がショックでスパークして乱れる。辛うじて見える黒いシルエットは、続けて俺のコアガンダムⅡに拳を握って迫り……。
〈クガ・ヒロト! 貴方が初めからいなければ、ムカイ・ヒナタはもっと色んな人と触れ合う事が出来た、もっと色んな事や体験が、世界を広げる事が出来たはずなの!
だって……とっても良い子だから。そしていつか……大切な人だって。本当の意味でムカイ・ヒナタの事を一番に想ってくれる人と出会えたはずなのに!〉
何度も、何度も、クロヒナタは黒いコアガンダムⅡで、俺のコアガンダムⅡを殴りつける。
殆どダメージなんて与えられはしない。けれど彼女はまるで行き場のない感情を叩きつけるために、あえてビームサーベルやライフルを使わず素手でじわじわ嬲るつもりだと。……そんな気がした。
負の感情だけじゃない、様々な鬱屈した感情が込められた拳による絶え間ない連撃。
俺は殆ど両腕でガードするのが一杯で、ビームサーベルやシールドを構える余裕さえ与えられはしなかった。
〈貴方はそんな彼女から、その可能性を奪っただけ! ただ中途半端な優しさで傍に置いて、都合の良い相手として踏みつけにしたの!
人生を……犠牲にしたのよ〉
クロヒナタは憎悪と殺意も放っているけれど、そう叫ぶ今はそれよりもやるせなさと絶望、強い悲しみが表に出ていた。
〈これ以上クガ・ヒロトから奪わせなんて、しない。
ムカイ・ヒナタ、『私』から……これ以上!〉
コピーガンプラで殴り続けながら彼女は憎しみで責め立てる口調に、悲しみで今にも泣き出しそうな……表情で。
そして、今度は腹部に強烈なアッパーをくらった。
「ぐう……っ」
俺のコアガンダムⅡはよろめき、数歩後ろに下がる。けれどすぐに黒いコアガンダムⅡは距離を詰め、続けて胴に連撃を叩き込む。
さっきのように腕で防御も、よろめいて態勢を崩したせいで間に合わない。
コアガンダムⅡはコピーのラッシュをもろに直撃した。
「っ! くはぁ!」
絶え間なくコックピットに届く衝撃、それは乗っている俺にも響く。
〈これで決める!〉
瞬間、クロヒナタの黒いコアガンダムⅡは、右足で強いステップを踏んで、勢いをつけて僅かに跳躍する。
全身を360度コマみたいに回して、勢いに加え回転で更に威力を倍増させた蹴り。それを――俺に目掛けて放った。
「――だはあああっ!」
全身ごと回しての回転蹴り、さっきの膝蹴りよりも桁違いに高い威力。
強烈な蹴りの一撃を受けたコアガンダムⅡは遠くに、広場の端にまで吹き飛んだ。そしてそのまま、端に生えていた結晶に叩きつけられた。
そのショックも凄まじく、俺も強くコックピットに全身を打ちつける。
「あ……っ、……くう……っ」
後頭部も強く打ち、朦朧とする意識。
身体全体だって打ちつけて痛いはず、けれど朦朧としているせいで痛みも鈍く感じる。
――機体を、動かさないと――
何とか身体を起こし、機体を動かそうとするけれど……動かない。
あの蹴りが内部システムに響いたせいで、一時的にダウンしている。コックピット内の明かりまで消えかかって薄暗い。
けれど通信とモニターは辛うじて機能している。
〈けどワタシなら、ムカイ・ヒナタを愛することが出来る。
彼女にとって一番大切な人はクガ・ヒロトなのだから。けれど貴方が貴方である限り、想いが報われはしない……ずっとね〉
動けない俺のガンプラにクロヒナタが乗るコピーが迫る。
そして左手を伸ばし、コアガンダムⅡの頭部を鷲掴みにして無理矢理立たせる。
〈――だからこそ、ワタシが代わって『クガ・ヒロト』になるのよ。
ワタシならムカイ・ヒナタを理解出来る、想いに応えることも、見てあげる事だって。
ワタシなら…………何よりもムカイ・ヒナタを大切にしてあげられる。貴方などより遥かに――きっと〉
まるで自分が正しいと、クロヒナタは自らの意思を誇示するかのように俺に言う。
〈ワタシこそが、ムカイ・ヒナタの大切な人として傍にいるべきよ。
本当に彼女を大切に想うワタシが、クガ・ヒロトとして! 一番に愛してあげられるの!
そうすれば……必ず『私』も報われる!〉
「それは……っ」
ふいに、彼女は口元を吊り上げ、いつもの冷酷な笑みを見せる。
〈もうこんな事、ワタシは早く終わりにしたいとも思っているのよ。
だからね、本物のクガ・ヒロトに最後の、償う機会を与えてあげるわ〉
償う、機会――。クロヒナタは続ける。
〈ワタシの考えは分かったでしょう?
貴方に出来る事は、大人しくその身を捧げる事よ。
そうすれば他のコピーを止めてあげてもいい。GBNだって救われる……ククククッ、自己犠牲なんて何とも『ヒーロー』らしいじゃない?〉
「俺が、犠牲になればいいと」
それが俺の償いだと、彼女は言った。
〈……クガ・ヒロト、貴方一人の犠牲で全て救われるの。お仲間に、GBNと言う世界、そして――ムカイ・ヒナタも。
『クガ・ヒロト』はワタシがなってあげる。前よりずっと、完璧で素晴らしい貴方に。
本物はもう……ただ大人しく消えればいいの〉
「……」
俺に消えろと。それがみんなの、何よりヒナタの為になると。
そして、俺の代わりにクロヒナタが俺に、『クガ・ヒロト』となり……幸せにしてみせると言った。
――彼女はそこまでしてまで、ヒナタの事を想っている――
対して……俺は。
ヒナタに対して、あそこまで責められる程に……許されない事をしたのかもしれない。
あのクロヒナタをここまでしたのは、俺のせいでもある。俺がもっとしっかりしていたら――きっと。
「俺が消えれば。全て解決するのか?
ヒナタも……」
〈さぁ――どうするの?〉
「……」
その通りかもしれない。あのクロヒナタなら、俺としてヒナタの事を大切にする……かもしれない。
きっと誰より一番に。――けど。
「……ダメ、なんだ」
〈――は?〉
コアガンダムⅡのシステムは、回復しつつあった。
俺は機体の右手を伸ばし、頭を鷲掴みにしていたコピーの腕を、掴んだ。
手と腕に力を込め、頭を掴む腕をゆっくりと押し戻していく。
「君がヒナタの為にどれだけ想っているか、十分過ぎるくらいに分かった。
いっそ君の言う通り、消えてしまえばいいとも思った。けど……ダメだ。ヒナタは俺が、大切にしないといけないから。
……いいや。俺は――大切にしたい! ようやく気づいた、本当の意味でかけがえのない相手を!」
そう、決断した。
迷いはしない。俺はクロヒナタに自分の決意を伝える。
「俺は君を止めてみせるし、ヒナタを諦めない!
例えこれまでは違ったかもしれないけれど俺は……今度こそヒナタの想いにちゃんと向き合うと、そう決めたから!」