【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い―   作:双子烏丸

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―今は君だけのヒーローとして!―(Side ヒロト)

 ――――

 

〈ワタシの身体、いえ……憑りついた『私』の、ムカイ・ヒナタの身体が……言う事を…………きかないっ!〉

 

 追い詰められたクロヒナタは逆上し、黒いジュピターヴガンダムのビームライフルで生身のメイを撃とうとした。

 けれど引き金を引く瞬間に、操縦するクロヒナタの動きが止まった。――多分ヒナタが抵抗してくれたからだと、俺は思う。

 動きが止まった隙に俺のユーラヴェンガンダムはビームサーベルで、ライフルを握る黒いジュピターヴの腕を切断し、続けて動力部を貫いて停止させた。

 

 ……そして今。

 

 

 

 ――――

 

 ウォドムポッドから出て来るもう一人の、分身の方のメイ。

 メイがクロヒナタの目を欺くために、ミラーミッションのシステムを用いて作成したコピーだ。

 彼女は機体から降りると、本物のメイに近づく。

 

〈本当にそっくりですね〉

 

〈ああ。並んでいると見分けがつかないぜ〉

 

 パルとカザミ、二人がそう話すのも聞こえる。

 確かにすぐ近くの俺から見ても、本物とコピーのメイは全く同じ、瓜二つだ。

 

「お疲れ様だ、私」

 

「ああ、そちらもな」

 

 互いにそんな事を伝え、本物のメイが俺の方に視線を向ける。

 

「コピーには私のデータの一部も使っている。だから、ちゃんと元に戻さないとな。

 ……さて私たちも一つに戻ろうか。改めて私の代わりに戦ってくれて、有難う」

 

 メイはそう言って、自分のコピーと手と手を合わせる。

 瞬間メイのコピーはデータの粒子となって、霧散する。そして粒子となったコピーの欠片はメイの身体に吸い込まれて、吸収される。

 

 

 

 元の一人に戻ったメイ。

 

「これでよし、と」

 

 そう言ってメイは、自身の右横に立つ――俺へと視線を向ける。

 

「メイのおかげで、俺たちも助かった。本当に凄いよ」

 

 俺も自分のガンプラから降りてメイの傍に来ていた。

 今、俺たちが立っているのは、大破して機能を失った黒いジュピターヴガンダム……俺のガンプラのコピーの前。

 動力部は確実に破壊した。戦うどころか、もう動けもしないはずだ。

 

「けど、まさかあんな事を。メイが俺たちに秘密でこんな」

 

「やはり驚かせてしまったか。

 ……みんなに内緒で私の判断で、勝手な事をしてしまい申し訳ない。けれど、クロヒナタを止める為には、彼女が持つミラーミッションへの支配権を奪う必要もあった」

 

 メイの言う通り、クロヒナタにはミラーミッションのシステムを自在に操る力があった。

 それを使って無数のコピーガンプラを生み出してGBNを襲い、ミラーミッションのエリアまで変貌させた。そして、システムの演算能力を総動員して人の精神をハッキングして乗っ取るプログラムを作り、俺たちの戦闘を予測し上回るような……そんな離れ技まで行った。

 全てクロヒナタがミラーミッションを支配していたからこそ。

 

「電子生命体である私だからこそ、直接システムに関与して、修正プログラムによるミラーミッションの正常化、クロヒナタとの繋がりを絶つ事が出来た。

 そして私はシステムに干渉して真っ先に自分のコピーを作り、ウォドムポッドに乗せて戦いに向かわせた。囮と、そしてヒロトへの援護の為に」

 

 改めて、そこまでメイは凄い事をしたのかと、俺は思った。

 

「クロヒナタはコピーを本物の私と信じた。それに……シドー・マサキが派手に暴れて注意を惹いてくれた。おかげでシステムを奪還する最後の最後まで、私の行動は気づかれずに済んだ」

 

「シドーさんも……そんな事を」

 

 共にミラーミッションに来て、途中で一人置いてしまったシドー・マサキさん。けれど、俺たちがここで戦う間も、彼もまた全力で頑張っていたんだ。

 

「本当に、みんなのお陰だな。

 誰一人欠けたとしてもクロヒナタには勝てなかった。だからメイ、遅くなったけど俺からも、ありがとうと言わせてくれ」

 

 俺も含めて、全員の力でGBNの危機を食い止めた。

 そう、これでGBNは救った。

 

 

 

 

 

「うむ、その通りだ。……残るは」

 

 ――勿論分かっている――

 

 メイも、そして俺も同じ方向に視線を向ける。

 視線の先には依然動くことのないジュピターヴガンダムのコピー。あそこにはクロヒナタが、それに彼女に憑りつかれたままの、ヒナタがいる。

 

「今度はヒナタを救う。俺の手で、救いたいんだ」

 

「ヒロトなら言うと思った。

 けれど、だ。具体的にどうやって救うか考えているのか?」

 

 そんな言葉に俺はつい動揺する。

 彼女の問いに苦し紛れに、どうにかこたえる。

 

「それは……今から説得をしてみせる。

 ミラーミッションのシステムは使えない。もう、あんなに暴れ回る事だって。だから――」

 

 けれどメイは、ゆっくりと首を横に振る。

 

「それは無理だ。恐らくヒロトも分かっているはずだろう、クロヒナタには言葉は通じないと」

 

「……」

 

「クロヒナタは私と――私に宿るイヴ、そしてヒロトを激しく憎んでいる。きっと幾ら話しても、拒絶されてしまう。

 それにだ、彼女なりの想いと信念、正義とも言えるか。ここまでの事を平気でする程に……強い。例えミラーミッションの権能を失っても、それで諦めるとは到底思えない」

 

 これだって、俺も薄々理解はしていた。

 けれど他にどうすればいい。どうやって、クロヒナタからヒナタを取り戻す。メイの言う通りミラーミッションを取り返したとしても、良い解決手段が分からずにいた。

 ……その時。

 

 

 

「だからだ、ヒロト」 

 

「えっ?」

 

 メイは俺のすぐ横に立ち、いきなり俺の右手を握り手を繋いだ。

 驚くと同時に訳が分からなかった。どうしてこんな事を……。そう思っていると、彼女は。

 

「ミラーミッションのシステムに干渉しながら、私はヒナタを救うための手段と方法も用意した。

 それには私と……ヒロトの力が必要だ」

 

 ――俺の力が、必要だって?――

 

 今度はそんな話も。上手く頭の整理が追い付かないでいた。

 けれど分かる事はある。

 

 ――メイは何か手を用意している。そして俺も、どんな手だって――

 

「ヒナタを取り戻せるなら何でもする。

 メイが用意した方法、俺に教えてくれ」

 

 メイは分かったと、返した。そして俺に……教えてくれる。

 

「うむ。どちらにもリスクが大きい方法ではある、けれど今考えられる最善の手段だ。

 ヒナタを救う方法、それは――」

 

 

 

 

 

 

 

 ――――

 

 俺は方法と、そしてすべき事をメイから聞いた。

 ……そして俺とメイは、倒れた黒いジュピターヴガンダムの上を歩く。足先から進み、向かうは機体のコックピットハッチだ。

 

「……さて」

 

 間もなくして、俺たちはコピーガンプラの腹部に立つ。

 すぐ目の前には機体胸部――コックピットハッチが見える。

 

「あそこにヒナタが――クロヒナタがまだいるのか」

 

「恐らく。あれから全く動きも、反応もない。私たちがこんなに近くまで来たのに……だ」

 

 確かにメイの言う通り、何の反応も気配もない。機体は動く事が出来ないから当然だけれど。

 

「動力は止まったから当たり前だと思う。それにクロヒナタ自身も、さっきのまま動く事が出来ないままじゃないのか」

 

 クロヒナタは戦いの最中、いきなり身体が動かなくなった。

 機体操作も出来なくなり、俺はその間に止めを刺した。最後はそれに救われたんだ。

 メイは俺に視線を向けて頷く。

 

「かもしれないな、ヒロト。

 クロヒナタは憑りついていたヒナタとの繋がりが、何らの形で不調をきたした。もしくは限界が来たのかもしれないな。

 どちらにしても今、繋がりが弱まっていると考えてもいい。だとしたら私たちもやり易いかも――」

 

 

 

「――いや、そうでもないらしい」

 

 俺は見た。機体のコックピットハッチがゆっくりと開いてゆくのが。

 これにメイも気づき、俺と彼女は身構える。

 開いたコックピットハッチ、そこから姿を見せる姿は……。

 

「ワタシの前に……現れたわねぇ。メイ、そしてクガ・ヒロトも」

 

 ハッチの縁に片足を乗せて立つクロヒナタ。彼女は俺に突き刺すような、刃物のように鋭い視線を投げかける。

 

「そうだ。お前からヒナタを取り返すために、私たちは来た。

 私たちはもちろんヒロトにとって、彼女はとても大事な存在だからだ」

 

「ククッ、クハハハハハハハハッ!」

 

 途端クロヒナタは上を仰ぎ、歪な高笑いを響かせる。

 

「大事ですって? それじゃあ足りないわ。誰よりも……一番じゃないと!」

 

 彼女は再び俺に殺意を向ける。

 

「だからムカイ・ヒナタを本当に一番に想うワタシが、『クガ・ヒロト』になるべきなのよ。

 直接来てくれて嬉しいわよぉ。ご丁寧に、古い貴方を抹消して、ワタシが貴方に成り代るチャンスを与えてくれたのだからねぇ」

 

「――」

 

「それに木偶人形共――メイとイヴ。今度こそここでワタシの手で、どちらとも完全消滅させてあげる。

 二人……クガ・ヒロトを含めて三人まとめてね」

 

 冷徹な言葉とともに、クロヒナタは右腕先から深紅の刃、ビームサーベルを展開する。

 ……その形状はまるで、メイのビームサーベルと限りなく似ていた。

 

「それは……メイの」

 

「ああ、ヒロトは見るのが初めてだったわね。

 ワタシはメイの戦闘データをこの身に取り入れているの。

 確かにミラーミッションのシステムは殆ど使えないけれどねぇ、それでもワタシ自身にも多少のコピー能力はある。一度取り入れた戦闘データだって、身体には残留しているのよ」

 

 メイと同等の戦闘能力を持っていると……やはり、そう言う事か。

 けれど、一方でメイは。

 

「その身体で戦うつもりか。今は動けるかもしれないが、また……さっきのように動かなくなれば、その時は」

 

「ふふふふっ。心配しなくても、もうあんな事は起こりえないわ」

 

 心なしか、クロヒナタは寂し気に笑うとともに、自分の胸に手を当てる。

 

「せっかく良い夢を見せてあげたのに、ムカイ・ヒナタはそれを拒んだ。ワタシとその想いも拒絶して抵抗した。

 …………結局、ワタシは一人ぼっちなのねぇ」

 

 垣間見た彼女の抱える孤独感。クロヒナタは敵でもあるけれど、俺はつい思う所があった。

 だけど彼女がその様子を見せたのは、一瞬。クロヒナタは再び冷たい笑みを浮かべると、続けた。

 

「だから――今度は夢も見れないくらいに、そしてワタシへの抵抗も出来ないよう、ムカイ・ヒナタの意識にはずっと深く眠って貰ったわ。

 もう何も考えたり出来ないくらい、深く。貴方達の声だって届きはしないのよ」

 

「そこまで封じ込めたのか。……これは、不味いかもしれない」

 

 メイの言葉。最後の方は小声で、傍にいる俺じゃないと聞こえないくらいだった。

 俺もそれに小声で返す。

 

「……けれどやるしかない。メイが用意した手段が、今ヒナタを救う一番の方法なのは変りないから」

 

 

 

「一体、何をコソコソと話しているのかしら?」

 

 クロヒナタはビームサーベルを構えて言った。

 

「貴方達がここに来たのはワタシにやられる為ではない。ムカイ・ヒナタを取り返す、その為に来たのでしょう?」

 

「ああ、その通りだ」

 

 俺の代わりにメイが答える。そして、彼女も薄緑に輝くビームサーベルを右腕から放ち、戦闘態勢に入る。

 

「……力づくで解決するしかない。行動不能にしてGBNに連れ帰り、そこでヒナタと切り離す手段を講じる」

 

「くくくっ、メイにしては随分脳筋な考えねぇ。

 でも戦うと言うなら――」

 

 

 

 刹那、クロヒナタは足元を蹴りメイへと迫る。

 

「全力で、相手してあげるわよぉ!」

 

 真正面からの刃の突撃、それをメイはビームサーベルを真横に構えて受け止めた。

 

「好き好んで戦うわけではない。だがっ! それが私に出来る精一杯だ!」

 

 受け止めた後、サーベルを強く振って弾く。相手は勢いに飛ばされて、離れる。

 

「そっちも離れていろ、ヒロト! この場は私とクロヒナタとの戦いだ」

 

 ――ここはメイに任せるしかない――

 

 俺は小さく頷いてこたえ後ろに下がる。メイは任せろ、そう言うかのように薄く微笑む。クロヒナタに視線を戻したのはその後だ。

 

「さぁ……この前のワルツの、続きと行きましょうか」 

 

「確かに直接戦闘は、以前ぶりだなクロヒナタ。

 つけ切れなかった決着はここで付ける!」

 

 

 

 

「それは、ワタシのセリフだわねっ!」

 

 再び、クロヒナタはメイに襲いかかる。

 同時にメイも彼女へと、一気に距離を詰めた。

 

「「はあぁぁぁっ!」」

 

 二人は同時に迫り、そして、ビームサーベルを交わせ衝突する。

 

「――うっ!」

 

 緑と赤、二つの眩い光は入り混じって、周囲に放出される。

 あまりの強く眩しい輝きに、俺は顔を反らして僅かに目を塞いでしまう。

 

 

 

 けれど、俺がそうしている間も、二人は生身での戦闘を繰り広げていた。

 機体の胸部で高速で動き、立ち回り、剣を振るメイとクロヒナタ。ビームサーベルが衝突し合う度に、激しい光が放出されて輝く。

 ……生身での戦いでメイがどれくらい強いかは知っている。今でも、彼女の動きと戦いは俺から見ても、相当に凄い。

 次々と足場を跳び周り、僅かな隙を見逃さずにビームサーベルで鋭く斬撃、突撃を繰り出す。――けれど。

 

「ふふ……ふふふっ」

 

 対してヒナタ……いや、クロヒナタの動きも、完璧にそれに対応していた。

 メイからの攻撃を防ぎ、それにメイと同等の動きに、戦いを繰り広げて襲う。

 

 ――ヒナタがあんな風に戦うなんて――

 

 痛烈に、違和感がある光景だった。クロヒナタの瞳に揺らめく憎悪。あれは本気で……メイを。

 

 

 

 戦う二人は、立ち回り移動しながら戦う。 

 今は、ジュピターヴの胸元に立つメイとクロヒナタ。緑に輝くメイの刃と、クロヒナタの深紅に輝く刃が何度も交叉する。

 二人はビームサーベルを同時に右斜めに振り下ろし、鍔迫り合う。

 

「やはり本物、やるわねぇ」

 

「当たり前だ。ここで負けるわけには――行かないのでな!」

 

「成程、へぇ」

 

 激しい近接戦での戦い。メイとクロヒナタはまた同時に後方に跳躍して一旦距離を、そして瞬時に構えて攻撃に出ようと迫る。

 クロヒナタ、今度はビームサーベルの剣先を向けての突撃。一方メイは……刃先を後方に持って来たかと思うと、一気に横に薙いだ。

 自身に迫った刃先、メイの薙ぎ払いはそれを弾く。

 ついにクロヒナタに隙が出来たんだ。

 

「もらった!」

 

 メイはそのままビームサーベルをクロヒナタに……けれど。

 

「――っ」

 

 途中、寸前で攻撃の手を止めたメイ。

 クロヒナタはそんなメイを見て嫌な笑いを浮かべたかと思うと、今度は強く蹴り上げた。

 突然の蹴り上げにメイは下がって避ける。

 

「くくっ、でもまともに攻撃なんて出来ないわよねぇ? だってこの身体は、ヒナタのものですもの」

 

「それ……はっ」

 

 メイは苦い表情を浮かべる。

 ヒナタのダイバー体に憑りついて、操っているクロヒナタ。

 システムは確かにメイによってクロヒナタの支配から逃れ、正常化はした。けれどあくまで繋がりを切断したくらいだ。エリアはまだそのままでもあるし、システム面――例えば彼女が解除したフィードバックのリミッターも、元に戻っているかの保障もない。

 加えて憑りつかれたままのヒナタを傷つければ、どうなるか全くの未知数。下手に攻撃なんて出来るわけがない。

 

「メイなら気づいていたんじゃないの? 戦い出してからずっと、ワタシに傷を与えないように無意識にブレーキがかかっていた事を」

 

 クロヒナタはニヤニヤとしながら、ビームサーベルを振り下ろす。

 その速度、鋭さはさっきよりも数段上がった。メイも寸前で防ぐ。けれど攻撃の勢いに受け止めた彼女のビームサーベルは押される。

 

「けれどワタシは、本気で貴方を消そうとしているのよ?

 貴方が手加減せざるを得ないこの状況――同じ実力なら、負けるわけがない!」

 

 ぎりぎりと、防いではいてもクロヒナタの紅い刃が押されて迫る。

 

〈おい、何だよこの戦い。せめて援護でも出来れば……っ〉

 

 ガンプラから戦いを見ていたカザミが、悔しそうに言うのが聞こえた。

 対してパルは。

 

〈無理です。ガンプラの攻撃では近くにいるメイさんも巻き込んでしまいます。それにあれはヒナタさんでもあるんですよ。下手に攻撃で傷つければ、どうなるか〉

 

〈俺だって分かっているさ! けど!〉

 

〈悔しいのは僕だって同じです。それでも、今出来る事はメイさんを……信じるしか〉

 

 カザミもパルも、今何もする事が出来なくて悔しい感じなんだ。

 もちろん俺だって。二人よりもずっと戦いに距離が近いのに、結局は同じく見ている事しか出来ないから。――今は。

 

 ――けれどメイは俺たちの仲間だ。きっと、メイなら――

 

 

「確かに私には、無理だ。――けど!」 

 

 とっさにメイは、瞬時に姿勢を下げて足払いをかける。

 

「はっ、小賢しいわねっ!」 

 

「私だって挫けるものか」 

 

 足払いをされ、攻撃を中断されたクロヒナタ。瞬間にメイは背後に回り込むと、ビームサーベルを解除した右腕を伸ばす。

 

「剣を振り回すだけが芸ではない。こうして……組み伏して動きを封じれば」

 

 クロヒナタの腕を掴み、続けて下に押し倒して組み伏そうとする。

 けれど、対して。

 

「……させないわよ」

 

 押し倒す動作をするよりも早く、クロヒナタは右腕を掴まれたまま身体を反転してメイに向き合う。同時に使える左腕を伸ばして襟首を掴み、そのまま……。

 

「そのままっ! 吹っ飛びなさいな!」

  

 クロヒナタは強い力で腕を振り、メイを投げ飛ばした。

 仮想空間は現実と違い、ある程度どうにでもなる。けれどヒナタがあんな事まで。

 

「ぐうっ!」

 

 飛ばされたメイはジュピターヴガンダムの上から落下しそうになる。けれど寸前で態勢を変えて速度を殺し、足で踏みとどまる。

 踏みとどまったのはジュピターヴの頭部。クロヒナタはそこに立つメイに向かって、ビームサーベルを放って襲う。

 

「やはり甘いわねぇ。おかげで!」 

 

 高速で一直線に迫るクロヒナタ。メイの直前に立つと同時に刃を、狂暴なまでに多数の突きを繰り出す。

 

「ほらほらほらっ! そんな貴方がどこまで耐えられるかしら、木偶人形っ!!」

 

 メイはクロヒナタ――ヒナタに攻撃が出来ない一方、クロヒナタは感情のままに容赦なく襲う。必然的に攻勢と防戦に分かれてしまっている、二人の戦い。

 

「まだ私を……ELダイバーを木偶人形と、嘲るのか」

 

「木偶に木偶と言って、何が悪い!」

 

 繰り出される突撃攻撃、メイは内大振りな一撃を放たれたのを見計らい、左横へと移動。対してクロヒナタも、今度はビームサーベルをその方向へと薙ぐ。

 

「私たちは木偶ではない! 心を持った一つの生命だ!」

 

 薙ぎ、振り上げ、斜めからの振り下ろしに突き。より激しい攻撃と連撃を繰り出すクロヒナタ。

 それを全て受け止めながらメイは言い返す。

 

「生命ですって? たかがガンプラの余剰データの集積物が、滅びた異星人の物真似をしている真似人形が言うか!」

 

 ELダイバーと言う存在に対する憎しみ。けれどこの憎しみを受けて、メイは……。

 

「ELダイバーに対してそこまで言うのなら、クロヒナタ、お前は一体……何だ?」

 

「ワタシはワタシよ! そして今は、もう一人の『ムカイ・ヒナタ』だわ!」

 

 怒りのまま、クロヒナタはビームサーベルを左斜めから振り下ろし、続けて鋭く斬り上げる。

 メイは最初は回避し、間髪入れずに迫る斬り上げ攻撃は、ビームサーベルで防ぐ。

 

「ミラーミッションの支配、そんな物は情報体による直接なリンクを行わなければ不可能だ。それにダイバーに対して憑りつくような……離れ業も人間に出来る事じゃない。

 木偶人形と蔑むお前こそ、やはり情報生命体、ELダイバーなのだろ」

 

「違うわ」

 

 迷わず断じるクロヒナタ。

 そして受け止められたビームサーベルを、一気に手前に――メイの方に刃先を押し込む。

 

「っ!!」 

 

 防がれても迫る刃にメイは後ろに逃れるけれど、なおもクロヒナタは追いすがり攻撃を止めない

 

「違うわ……違うっ! 一緒にするな!! 

 貴方達ごとき、木偶人形ごときがっ!!」

 

 激しい憎悪とともに放たれる、再びの猛攻。

 

「確かにねぇ、ワタシは人間じゃない。貴方達同様に魂のない情報体だわ。けれどワタシはELダイバーなんかでは決してない!」

 

「情報体だと。……けれど頑なに、ELダイバーではないとは」

 

「いいわよねぇ、貴方達は。

 光の下で誕生して、ワタシにはない物を初めから持っている。――反吐が出る程恵まれているのよ!」

 

「何の話をしているんだ!?」

 

 攻防の最中に交わされる言葉。

 クロヒナタの言った事の訳分からなさは、俺だって同じだ。

 

 ――やはり分からない。情報体だけどELダイバーではない、ならELダイバーとの違いは何だ? クロヒナタの……正体は――

 

「ワタシよりも……ずっと恵まれているのに、なおもヒトから奪う! 

 貴方達木偶人形と、ワタシ、どっちが醜悪か言ってみなさいよ!」

 

 メイはまともに攻撃も出来ない。やはり、本気を出せないのが大きいんだ。

 そんな彼女にクロヒナタはビームサーベルを、今度は出力を数倍にして刃を大型化して――大きく薙ぎ払う。

 

「あれは!!」

 

 リーチの高い、デタラメな技。受け止められるわけがない。

 だからメイは大きく飛んで避けた。それでも……。

 

 

 

 

「つっ!」

 

 大型ビームサーベルの先端はメイの額をかすって、傷をつける。

 それでも彼女はどうにか、今度は機体の右肩に着地した。

 

「……貴方にはイヴのデータが一部残っている。GBNでは、残ったデータを元にして復元しようとする試みがあるみたいじゃない」

 

 クロヒナタは足場にする頭部から、右肩に立つメイを冷ややかに見下ろす。右手元にハンドガンを形成し、下にいるメイを狙って放つ。

 

「けど、やはりねぇ、させたくないわ!

 平気でムカイ・ヒナタから大切な人を奪った張本人の木偶人形め! それがのうのうと復活するかもだなんて、させてたまるものですか! 

 本当なら彼女が命懸けで守ろうとしたGBN諸共滅ぼすつもりだった。……けれど、要のミラーミッションは奪還されて、それも難しいわ。

 だから――せめてっ!」

 

 ハンドガンの射撃にメイはビームシールドで防御していた。

 

「だから私もろとも……と言うわけか。そんな事!」

 

「貴方にはそんな事だとしても!」

 

 クロヒナタはジュピターヴガンダムの頭部を蹴って胸部へと跳躍する。

 メイのいる場所とは全く違う。けれど俺がそう思ったのも、つかの間。

 飛んだのは胸部の開いたままのコックピットハッチ。続けてクロヒナタはハッチを強く、蹴った。

 

「これでっ!」

 

 頭部からハッチ、そして今度こそ――右肩に立つメイに迫った。

 

「!!」

 

 V字に高速移動して、がら空きだった右横に迫るクロヒナタ。

 右下から斬り上げられる斬撃。メイは正面に向けていたビームシールドを、攻撃が迫る右に向き直そうとする。……けれど!

 

「――しまった」

 

 シールドは確かに向けた、けれどタイミングが悪かった。

 向けた途端、突き上げられたビームサーベルは強烈にビームシールドの縁に激突する。衝撃はシールドを伝いメイまで。彼女は痛烈に態勢を崩す。

 そんなメイにクロヒナタは容赦なく追撃を仕掛ける。

 

「ELダイバーは死なない。……そうよ、だって貴方達は生命でも何でもない、ただの木偶人形ですものねぇ!!」

 

 俺から見えるクロヒナタの横顔は、強い憎悪で歪んでいた。そんな顔でビームサーベルを幾度も激しい斬撃を叩きつける。

 

「ぐぅ……っ」

 

「メイっ!!」

 

 追い詰められるメイを見て俺は思わず叫んだ。

 一度態勢を崩したメイに、それを整える事さえ許さずに次々放たれるクロヒナタの斬撃。

 ただ……受け止めて防ぐ事しか出来ずにいた。

 

「木偶人形は! ただ壊れて消えるだけよ!

 無意味に……無価値に消えればいい! 復活する可能性さえ潰してみせる、メイとともにイヴの残り一部を完全消滅させることで! 

 ここで、ワタシがっ!!」

 

 激情に駆られたクロヒナタの猛攻。俺が見てもメイには限界が来ていた。

 

「メイっ! イヴっ! そしてクガ・ヒロト!!

 ――貴方達が憎いっ!!」

 

 クロヒナタの加える攻撃は容赦なく……本気だ。

 ついに機体右肩装甲の端にまで追い詰められたメイ。彼女は攻撃から逃れるために、機体胸部――丁度俺の目の前に跳躍して飛び移った。

 …………けれど。

 

 

 

「く――はっ!」

 

「背中を見せるなんて、愚策中の……愚策だわ」

 

 飛び移ったメイの右肩を深紅の刃が貫いていた。

 その背後には、勝ち誇った表情でビームサーベルを刺し貫く、クロヒナタの姿が。

 そして彼女は左腕にもビームサーベルを形成して止めを――。

 

「っつ!」

 

 けれど直前、メイは自力で刃を身体から引き抜く。クロヒナタが止めを刺そうとした左腕の刃を、同じく左腕でビームサーベルを放ち、払って防ぐ。

 そして二人は互いに向き合う。

 

「くくくっ、ずいぶんな傷じゃないの。

 苦しんでいるのねぇ……良い表情だわ」

 

 含み笑いをするクロヒナタ、視線の先には傷をうけて右腕をだらりと垂らしたメイの姿がある。

 深手を負いながら、無事な左腕でビームサーベルを構える。……けれど手負いでは下手に攻撃に出れずに、メイは構えを解かないままじりじりと……横ににじり動く。

 

「あら? 警戒でもしているのかしら? でも、無駄よ」

 

 一方クロヒナタもメイの動きに合わせるように、常に正面に向き合うように、同じく動く。

 

「まだ、私は負けてない。……っつ!」

 

「ELダイバーにとってはこの世界こそリアル。だから傷は、さぞ辛いでしょう」  

 

 互いに動き、今はクロヒナタの背が俺の前に見える。メイの姿は反対側、背に隠れて殆ど見えない。

 

「二度も失敗したわ。けれど、今こそ。

 憎い貴方達、メイとイヴをクガ・ヒロトの目の前で先に消滅させ……最大の絶望を与えた後に彼も消す。――やはりそれこそ、正しき罰じゃない」

 

 後ろ姿しか見えないクロヒナタ。けれどビームサーベルを構え直し、今度は冷徹にメイに止めを刺そうとするのは分かる。

 

「すぐにクガ・ヒロトも後を追わせてあげるわよぉ。

 そしてワタシは『ムカイ・ヒナタ』から……今度は『クガ・ヒロト』となる。

 あんな前のクガ・ヒロトと違い、何より一番にムカイ・ヒナタの事を想い、愛してみせるのよ

 もうこれ以上、誰にも邪魔はさせない」

 

 絶対絶命だ。

 メイも、それに俺だって。――だけれど。

 

 

 

 クロヒナタの背から、微かに見えたメイ。彼女は俺に真っすぐと視線を向けていた。

 その視線の意味は。

 

 ――分かっている。今しか……ないからっ!―― 

 

「消えなさい。……っ!」

 

「――ヒナタ!!」

 

 そう叫んで、俺は走った。

 目の前にいるクロヒナタ――ヒナタのもとに、右手を伸ばす。

 

 ――これは俺にしか出来ない事だ! そうなんだろ、メイ――

 

 

 

 

 ――――

 

 時間は少し前。俺とメイが、ジュピターヴガンダムのコピーに向かおうとする直前の出来事だった。

 

 いきなりメイは俺の右手を握った。

 そして、ある事を伝えた。

 

『ヒナタを救う方法、それは――私が用意したプログラムで、強制的にクロヒナタとヒナタを分離させる事だ』

 

 いきなりの話で、もちろん俺は驚いた。

 

『分離だって? そんな事が可能なのか?』

 

『実はな、ミラーミッションの修正のために私がシステムに干渉した際、同時にクロヒナタが開発したプログラムについても調べたんだ。

 人間の人格に憑りつき、乗っ取る事を可能とするプログラム。……あんな代物を作るなら当然、ミラーミッションを構成するシステム、演算処理能力を必要とする筈だからな』

 

 メイの考えには俺も同意だ。でないと、一個人が出来る事じゃないからだ。

 

『私の予想は的中した。システムには彼女が作ったプログラムの情報が一部残っていた。

 だから、それを元にして私はプログラムを無効にして対象を切り離す――分離プログラムを用意したんだ』

 

『それは、本当か!』

 

『ああ。最も、おかげで余計に時間も食ってしまったがな。

 ……完全に乗っ取られてしまえばどうしようもないが、今のクロヒナタみたいに、ただヒナタに憑りついている分なら何とかなるはずだ』

 

 ――良かった、これでヒナタを助ける事が出来る――

 

 俺はそう思って、表情が緩んだ。

 

『凄いじゃないか。ありがとうメイ、君のおかげで――』

 

『いや、喜ぶのはまだ早い』

 

 今度は苦い表情をしているメイ。

 その理由は。

 

『私が用意した分離プログラムだけれど、私には使えないんだ。

 プログラムを使うには、使用者による対象者への直接干渉が必要になる。ヒナタ、人間である彼女への干渉が』

 

『……それは』

 

『私はELダイバー、情報生命体だ。人間への干渉には人間じゃないと駄目だ。

 だからこそヒロトに……託した。右手を見てみろ』

 

 メイは俺から手を離した。

 言われた通り、俺はさっき握られた手を見た。すると……その手の平は淡く、青く輝いていた。

 

『ヒロトの手には、私が作った分離プログラムを仕込んだ。

 きっとヒナタに憑りついたクロヒナタは抵抗する。……だから私が戦って注意を逸らす、ヒロトは隙を見てその右手で直接彼女に触れてくれ。――そうすれば』

 

 俺は再び自分の右手を見た。

 

 ――この手で、ヒナタを――

 

『危険な事だとは思うけれど、頼む。

 それにヒロト、きっとヒナタは一番お前に救って欲しいと思っているはずだ。

 だってヒロトはヒナタにとって――ヒーローなんだろ』

 

 

 

 

 ――――

 

「分かっている! だからこそ俺は!」

 

 クロヒナタとの距離は目の前。

 

「ヒロトっ!!」

 

 俺に気づいたクロヒナタは憎悪の眼で睨み、ビームサーベルを一直線に伸ばす。

 その紅い刃は頬をかすり傷を作るけど、構わない。俺は伸ばした右手をクロヒナタに――そして。

 

「――これは……っ!!」 

 

 右手に触れたクロヒナタの胸元。途端、俺の手の平が強く青く、光り輝く。

 青の輝きはクロヒナタの身体にまで……彼女の頬には青い光の線模様が浮かぶ。

 

「俺の所に、戻って来てくれ! ヒナタ!」

 

「ワタシが……引き剥がされる! ムカイ・ヒナタの身体から……そんなっ」

 

 クロヒナタ――いや、ヒナタの身体から黒いノイズのような靄が徐々に放出される。

 

 ――あれがクロヒナタの本体か!――

 

 確実に身体から離れようとしている。

 

「そのまま、出て行ってくれ!」

 

「くぅ……っ!」

 

 けれどまだ身体はクロヒナタのものだ。彼女は抵抗しているのか、苦悶の表情を浮かべている。

 相手はもう余裕がない。もう少しで……。

 

 

 

 ――だけど。

 

「させは――しないわよぉ!!」

 

 瞬間にクロヒナタは左腕を伸ばし、俺の首を掴み返す。

 

「ぐっ!」

 

 今度は、掴んだ左手から赤い輝きが放たれて俺の身体に伝わる。

 ――全身に走る痛みと、意識ごと麻痺するかのような感覚。自分の左手を見るとクロヒナタのように、赤い光の線模様が浮かんでいる。……多分自分の顔にも。

 

「――まさか」

 

「分離させようとしてもそうは行かないわ! 逆にここで、クガ・ヒロト! 貴方を乗っ取ってあげるわ、ククククッ!」 

 

 クロヒナタもまた、俺に対してプログラムを用いて乗っ取ろうと仕掛けて来た。

 凄まじい執念。ここまで来てまだやるつもりなのか。

 

「ぐぅ……っ」

 

 ――意識が、飛びそうになる。そうなれば――

 

 逆に俺が乗っ取られる。そんな……訳にはいかない!

 

「俺は――譲れないんだ! 今の俺はヒナタだけの、ヒーローだからっ!!」

 

「ワタシ……だって、ワタシだって! クガ・ヒロトには絶対!!」

 

 どちらも譲れないし諦めない。ヒナタの事を、そこまでに。 

 互いの想いのぶつけ合い。それに呼応するかのように、俺の右手とクロヒナタの左手、それぞれの青と赤の輝きが増す。

 

 

 

 その――果てに。

 

 

 輝きは一気に強く、眩い程に俺たちを包む。

 視界一杯に広がる輝きで何も見えなくなる。……そして。

 

 ――何だ!? 俺の意識の中に――

 

 自分の意識に別の物が入って来るのを感じた。

 まさかクロヒナタ本人が――。そう思ったけど、違った。

 

 ――これは記憶、なのか? クロヒナタの…………記憶が――

 

 多分一瞬。それでも俺が垣間見た、記憶は……。

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