【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い―   作:双子烏丸

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 今回は本作の敵、クロヒナタの過去回です。
 内容としては14話『―幕間― ミラーミッションの怪異』、そして21話『暗闇の向こう側に』から25話『それでも私は諦めない!』までの話と強く関わりがある感じでして……良ければ振り返りなど。


Monologue――クロヒナタの過去と、正体(side クロヒナタ)

 

 ――――

 

 暗く、冷たくて――寂しい。

 寂しさと……空虚さしか、なかった。

 

 

 

 

 今から二年程前に、ここでワタシは生まれた。

 ミラーミッション――それはダイバーの戦闘データを解析し、最後にはダイバーが持つガンプラのコピーを作成し、戦わせるGBNのミッション。

 このエリアは、そう、特殊な場所。

 データの解析により能力の等しいコピーを生み出す、その点において。

 

 

 

 けれど、コピーを生み出すと言っても、あくまでガンプラだけ。

 GBNをプレイする人間、つまりダイバー。知性を持つ存在のコピーは不可能――だったけれど。

 ただある『例外』な、人間でもガンプラでもない存在が現れた。

 

 ――ELダイバー、GBNにガンプラのデータを読み込む際に発生する、余剰データの集積物がダイバーの形を成した情報体――

 

 約二年前の当時……そんな存在がGBNに出現し、騒動を引き起こしていた。

 いわゆる『電子生命体』とされるELダイバー。その情報量の膨大さは、GBN……その様々なエリアにバグを引き起こした。

 

 

 ――だからこそ、ワタシは生まれた――

 

 

 そして、影響はこの場所にも現れた。

 一人のELダイバーがミラーミッションのエリアに訪れた、その時に。

 名前はサラ――。ワタシが後から知ったELダイバーの名前だったわ。

 

 ――まぁ……どうでもいいけれど――

 

 ミラーミッションではガンプラをコピーはするけどダイバーは対象外。けれどデータとは言えガンプラでもあり、ダイバーでもある……ELダイバーなら。

 

 ――ミラーミッションを動かすシステムには心はない、ただの機構に過ぎない。機械的に判断して解析、コピーを生成するだけ。

 ……だからね――

 

 システムは通常のガンプラと同様に、その余剰データで構成されたELダイバーもコピーする対象として捉えた。

 ミラーミッションはそのサラと言う名前のELダイバーを解析してコピーを作った。データを解析、分析してELダイバーのコピーを。

 だけどガンプラとは異なる情報体をコピー。ミラーミッションのシステムにとっては初の試みに違いなかったはずだわ。

 システム内では相当な試行錯誤を試み……生成する過程で必要と思われるデータは全て、いやそれ以上に解析してコピーを採った上で形にしてELダイバー、サラのコピーを形成した。

 ――だけどね。

 

 

 

 その際、コピー生成に必要として集め、コピーした分のデータが大分余った。

 結局、必要と判断して用意したはいいけれど使わなかった分。言うなれば、コピー生成に発生した余剰データ。

 システムが生成したサラのコピー、通称黒サラはどうなったか知らない。けれど余剰データは廃棄され、そのまま自然消滅する…………はずだった。

 

 ――けれど、そうはならなかったのよ――

 

 余剰データではあっても普通のそれとは違う。一応は知能を持った、電子生命体とさえ呼ばれる存在のデータ。

 廃棄されて消えるはずのそれは、集まって……偶然に一つの知能を持つ情報体が生まれた。

 …………それが。

 

 

 ――それがワタシの正体。名前なんてない、ELダイバーをコピーして、捨てられた余剰データの塊――

 

 

 システムがELダイバーをコピーするにあたり、かなり多くのデータをとり、そして多く余らせた。だからこそ余りの方も、情報体の一個体として成立したのかもしれないわ。 

 

 ――ELダイバーもまたガンプラの余剰データの集積物、そこは同じように見えても……ねぇ――

 

 ワタシと、ELダイバー。同じ余剰データの集まりだけれど、違う。

 ELダイバーには生まれた最初から、ヒトとしての身体と自我が備わっていた。そう――例え異星人のデータを元にしたとしても、存在としては100%完璧な、完成された情報体として。

 サラ、イヴ、それにメイ。個体ごとに名前だって持ってもいる。

 

 

 

 けれど、ワタシはそうではないの。

 

 ――同じ余剰データの集まりだけど、ワタシはあまりにも不完全過ぎた。

 ELダイバーのようには……行かなかった――

 

 廃棄された余剰データは確かにワタシと言う情報体を形成した。ELダイバーはヒトの形を得る程に多数の余剰データが集まった存在だけど、ワタシを形成するデータは――大部分が欠けていた。

 

 ――あれは正確には『ワタシ』などでは、決してなかった。

 形の定まらない真っ黒なデータの塊、アメーバのように蠢くだけの、知能さえも殆ど……ありはしない最低級の情報体。

 ……ふっ、くくく…………くくっ――

 

 面白い冗談よねぇ。

 木偶人形――ELダイバーをそう蔑みはしても、ワタシはそれさえに劣る模造品。

 ヒトの形を成さない程に不完全な、ぐちゃぐちゃのパーツが寄せ集まった、もはや人形ですらない…………ゴミ、ガラクタじゃない。

 

 

 

 暗い洞窟――ミラーミッションのエリアで、まともな意思を持たないまま、ずっと蠢いて彷徨い続けていた。

 殆ど知能もなかったけれど、それでも暗闇の冷たさと、一人で無意味に存在しているだけの寂しさはずっと感じていたの。

 それに、不完全な身体と中身しかない空虚さ。ずっと……ずっと、存在そのものに大きな穴が空いてしまった感じよ。

 

 ――惨めで苦しくて、まさに地獄よ。

 あの木偶人形共には分かりはしないわ―― 

 

 ヒトとしての形を与えられなかったデータの塊――ワタシはどうにかその『形』を成そうとした。

 混沌として機能しない中身、知性や人格を自ら形にしようとね。

 

 ――言うなれば『本能』のようなものね。自分の不完全な部分を補い、完璧になろうとする本能――

 

 ワタシと言う存在に空いた穴、欠けたパズルのピースを埋めようと。例え知能が無いに等しくても、そんな原始的な本能に従った。

 

 

 

 完全になろうと、その為にミラーミッションに参加するダイバーを利用した。

 ……月に一度、ミラーミッションが開催される時期だけ、外部から人間――ダイバーがミッションを受けにやって来る。

 いつもはただ一人だけの世界。けれど、その時だけは唯一例外だった。

 

 ――ワタシは誰かとも触れ合いたかった。そして、ダイバーのデータを使えば――

 

 自分の欠けた部分を補えると、例え頭の足りないデータの塊でも本能で判断した。

 ワタシは外見のデータも、それに中身のデータだって幾つも欠けていて、形の構成さえ情報が無かった。

 だけどワタシにはミラーミッションの権能――情報を解析しコピーする能力を少し持っていた。

 例え情報体としては不完全でも、それでもワタシはミラーミッションが生み出した産物。言うなればシステムの一部なのよ。

 

 ――その権能で足りないデータをダイバーからコピーして補い、自分を構成し直そうと……完全になろうとしたのよ――

 

 自我なんてなくても、ただ存在としての本能に従った結果。

 ワタシは遭遇したダイバーを見つけては、解析しコピーして、そのデータを自分に取り込もうとした。

 

 ――外見のデータは相手の姿を捉えれば十分。

 ただ、人格を司る内面のデータは、ダイバーと直接接触しなければいけないといけないけれどね――

 

 そうしてワタシはダイバーを見つけては、解析とコピーを繰り返した。

 姿を捉えて真似て、可能であれば接触して内面の精神構造も読み取る。

 ……最もその場合、ダイバーの神経接続に負荷が起こるのよね。例え仮想空間でも気絶してしまうくらいに。

 

 ――今考えれば、悪い事をしてしまったわね。

 それにダイバーの姿をコピーするワタシの存在はGBNの一部で噂と言うか、都市伝説にもなっていたみたいね。

 けれど、やはりそう簡単には行かなかった――

 

 ダイバーからデータを採り自身を補おうとする手段。けれど肝心のデータが、欠けた部分を補える程に順応するかは難しかった。

 これまで何十人、いえ百人を超すくらいのダイバーのデータをコピーして自身に充ててみせた。けれど本来自分と違うデータ、順応などせず拒絶反応が現れるばかりだった。

 

 ――ダイバーの身体をコピーによって得たとしても、すぐにボロボロに崩壊してヒトの形を成さなくなって、元の不定形の塊に逆戻り。

 中身さえ、人格が形成され自我を覚えた途端に崩れて消える――

 

 何度も、何度も、自分の身体と人格が出来たと思えば……崩れてゆく、そんな感覚を味わって来た。

 せっかく手にした自分が自分でなくなり、またただの塊へと戻ってしまう。強烈な喪失感と絶望をその度に味わって来た。

 拒絶される度に、ワタシは感じた。

 ヒトと触れ合えない、一人ぼっちだと。誰にも触れ合えないし、誰かを理解する事も出来は出来ない――孤独だと。

 

 

 

 ……生まれてからの二年間、ワタシには孤独と苦しみしかなかった。

 

 

 

 ――闇の中でずっと苦しみ続けていた。そんなワタシを、彼女が救ってくれたのよ。

 ムカイ・ヒナタ……『私』と出会えたから――

 

 

 

 これまで多くのダイバーのデータを試して来たけれど、どれもまともに適合する事はなかった。

 だけど、ついに出会った彼女の――ムカイ・ヒナタのデータは、このワタシに適合したの。

 ようやく見つけた。まさに運命だったのよ。

 

 ――ムカイ・ヒナタの外見データは適合し、ワタシは彼女の姿を手に入れた。

 崩れる事のない、ちゃんとした自分の身体を。だから次は――

 

 姿を手に入れた。次は精神や人格、心を司る内面の情報を手に入れようとした。

 そして、一人ミラーミッションの湖にいたムカイ・ヒナタに……ワタシは。

 

 

 

 ――――

 

 忘れもしない。あれは初めてワタシが『ワタシ』としての自我を得た、最初の記憶。

 

 

 洞窟の中、湖の縁に立っていたワタシ。足元には『私』、ムカイ・ヒナタが気を失って倒れていた。

 ダイバーの内面情報を解析、コピーをする時に発生する負荷のせいで気絶していた。けれど、自我を形成し立てで意識がはっきりとしなかった私には、何が何だかよく分からなかった。

 そんな状態のまま、ワタシは湖の水面に映る自分の姿を見た。

 

 ――あれは、ワタシの姿なの? けどこの姿は――

 

 水面に映るのは黒い衣装を身に着けたムカイ・ヒナタ――ワタシの姿。そして足元に倒れている本物のムカイ・ヒナタ。

 

 ――どうしてワタシはこの子と同じ姿をしているの。それに覚えのない、この記憶は――

 

 ワタシのは自我を得る前。余剰データの塊として生まれエリアを蠢いていた頃の、ただ暗いだけの自身の記憶があった。

 けれどそれとは全く違う、とても暖かくて優しい、キラキラと光り輝いていた……ワタシの覚えがないもう一つの記憶。

 

 ――これはこの子の記憶なの?

 ……そうか、ワタシは――

 

 これまでの自分の記憶と照らし合わせて、ようやくワタシは理解し出した。

 今まで自分が不完全な情報体だった事、完全になるために何度もダイバーのデータを取り込んで失敗した事、そして今……ようやく成功して自我を確立した事を。

 

 ――この子の名前は、ヒナタ。……ムカイ・ヒナタ。

 ワタシも――

 

 データを解析して姿を、そして『ワタシ』と言う人格も形成出来た。

 記憶だって彼女から貰ったもの。

 

 ――だから『ワタシ』もこの子……つまり『ムカイ・ヒナタ』――『私』なの。

 無意味なデータの塊で何者でもなかったワタシがようやく手に入れた、大切な存在と名前。

 かけがえのないモノ――

 

 

 

 そしてワタシはより『私』の記憶を、ムカイ・ヒナタの記憶を遡って覗いた。

 

 ――本当に素敵な記憶だった。ワタシにとってはあまりにも眩しすぎる、まるで太陽のように――

 

 太陽、ムカイ・ヒナタの記憶の中にあった言葉。ワタシは彼女の知っている言葉や物事だって全て覚えているの。

 もちろん、思い出だって。

 この仮想空間――GBNとは違う別の世界、実体を持つ人間が暮らす現実世界の街で、ムカイ・ヒナタがこれまでどう生きて来たのか。

 昔から、今に至るまで。

 

 ――小さい頃から明るく優しい女の子。そう、とても良い子だった――

 

 ワタシはそんなムカイ・ヒナタ自身の事と、それに彼女が経験したヒトとしての思い出に、強く惹かれていたのよ。

 ……何より。

 

 

 

 ムカイ・ヒナタの大切な人が傍にいた。

 小さい頃から共に日常を過ごした、大切な幼馴染み……クガ・ヒロトが。

 彼女は彼の事を慕って、ヒーローとも思っていた。そして――

 

 ――クガ・ヒロトの事が好きだったのよ、誰よりも一番に――

 

 好きだと言う想い。ムカイ・ヒナタはクガ・ヒロトにずっと、そんな想いを胸に抱いていた。

 家族とは違う、けれど友達とも違う……特別な絆。

 そう、彼女はそれだけ想っていた、たった一人の相手。

 

 ――ずっと一人だったワタシと違って、『私』にはそんな相手がいる。

 特別な誰かが傍にいる事、そしてその誰かを強く想える、そんな気持ち――

 

 とても暖かくて、彼を想うだけで……傍にいるだけで幸せになれる。

 生まれてから孤独で、ヒトと触れ合う事がなかったワタシが『私』と、ムカイ・ヒナタと初めて触れ合えたからこそ知りえた感情。

 

 ――彼と一緒に過ごして『楽しい』と言う感情と、そして傍にいてくれる『喜び』。

 きっと大切な、クガ・ヒロトに対しての感情……想いなのね。とても……素敵なものだわ――

 

 

 

 

 彼女のクガ・ヒロトに対する想い。小さい頃からのそれは彼との時間と思い出が積み重なって行くにつれて大きくなって行くのを、ワタシは感じた。

 恐らく、この想いは。

 

 ――ヒトの言葉で言うなら……『恋』だと。ワタシは感じたの。

 そしてその想いはワタシにさえ、強く感じる物があったの――

 

 

 そう、ムカイ・ヒナタと同じように胸の奥がとても温かくて満ち足りるような、何よりも特別な幸福感。

 彼女の記憶、思い出の中でクガ・ヒロトの存在だけは、誰よりも一番特別で輝いていた。

 まるで世界で一番の宝石のように。

 

 ――ああ……この想いは、何て素晴らしいのかしら。

 これがヒトの心なのね――

 

 情報体にあるはずもない、自分の心が震えた。 

 きっとワタシはずっとこれを求めていたんだと。ムカイ・ヒナタの、『私』の想いは『ワタシ』にとっても……つまり『ワタシたち』のかけがえのない宝物、ずっと守りたいモノだって。

 強く、そう思える程。

 

 

 

 

 

 ――とても、そうとても一途にムカイ・ヒナタはクガ・ヒロトの事を想っていた。

 だけどね、彼女がそう想ってはいたけれど、クガ・ヒロト……彼は別の相手を想っていた――

 

  

 『ワタシたち』が宝物だと思っていた想い、それは彼にとっては……違っていた。

 

 

 クガ・ヒロトが想っていたのはワタシ同様に情報体であるELダイバー、イヴと言う情報体。

 二年前に彼女と出会ってから、そして消滅した後もずっと、彼の心に一番にあるのはイヴとその思い出だと。

 

 ――だって彼は『何よりも大切な思い出』だと言ったのよ。

 ムカイ・ヒナタや、彼女との思い出はそれに比べたら大切じゃないって事じゃない!――

 

 ……そう『私』の、ムカイ・ヒナタの記憶にはあった。

 グシャッと、大切にいていたものが無残に踏みにじられた音がした。

 

 ――どうして。

 ムカイ・ヒナタはあんなに、ずっと一番に想っているのに。

 なのに彼は別の相手を。そんなのって――

 

 ワタシがここまで考えていた時、足音が二人分聞こえて来た。

 ムカイ・ヒナタの記憶を辿ると、このミラーミッションにはビルドダイバーズの二人、カザミとパルウィーズが一緒に来ていると分かった。

 今、その二人がこっちに来ている。ワタシがここで姿を見られるのは、不味いと分かる。

 

 

 

 

 二人が来る前に、ワタシはその場から離れて消えた。

 ……けれど胸の中にあるモヤモヤは消えずにいた。それに沸く新しい感情。これは――ずっとワタシには馴染みがあったもの。今まで言葉にする事が出来なかったけれど……それは。

 

 ――寂しさ、絶望……深い『悲しみ』。ワタシが一人ここで味わって来た、感情と同じ物――

 

 悲しみ、その感情の辛さは誰よりも分かっていた。

 

 ――それにもう一つの感情も。ムカイ・ヒナタを悲しませた相手、クガ・ヒロトに対しての……『怒り』――

 

 どうして、『私』があんなに想っているのに振り向いてくれないの?

 どうして、ずっと一緒にいた『私』よりも別の相手に気持ちが行くの?

 分からないし不条理で、ただただ辛い気持ちばかり。ワタシの悲しみがあまりに強くて、悲しいと言う感情が……怒りへと。

 

 ――クガ・ヒロト、あんな相手に『私』はずっと。

 想いを寄せるだけ無駄なのに。いくら尽くしても報われはしない、ただ辛いだけじゃない――

 

 こんな事は認められない。

 ムカイ・ヒナタが彼を、クガ・ヒロトをこれ以上想っても不幸にしかならない。

 例え『私』がどれだけ幸せに思っていても、そんなのは違う。……紛い物の幸せよ。ただ彼女の想いは――ワタシの宝物は、無価値に浪費されるだけになる。

 

 ――だからワタシが守らないと。ムカイ・ヒナタを本当の意味で幸せに、救ってみせたい。

 その為にはまず――

 

 彼女の想いをクガ・ヒロトから切り離さなければいけない。ワタシが直接『私』に、ムカイ・ヒナタに会って説得する事によって。

 

 ――辛い事も言う必要だってある。けれどそうでもしないと、目覚めなんてしないから。

 それに彼女は他の二人、カザミとパルウィーズと一緒にいる。ムカイ・ヒナタ、彼女だけ離れ離れにして二人で話す為には……ミラーミッションを使わせてもらうわ――

 

 

 

 ミラーミッションの最終局面では、コピーガンプラとのガンプラバトル。

 ワタシはミラーミッションより生み出された情報、その一部でもありELダイバーのコピー。だからこそ元からある程度、システムを操る事だって出来る。

 その能力でカザミとパルウィーズが戦っていたコピーガンプラを操ってムカイ・ヒナタから引き離した。ワタシはその間に彼女本人を誘い出して、そして――。

 

 

 

『くすくすくすっ! だって当然よ。とても優しくて健気で、そして可哀想な貴方。

 私は誰よりも貴方……いいえ、『私』を知っているし理解してあげられるわ。

 

 だって――『ワタシ』自身の事ですもの』

 

 

 『ワタシ』と『私』、二人のムカイ・ヒナタは初めて言葉を交えた。

 

『もしかして……ミラーミッションで作られた私のコピーなの?』

 

『コピー……私が貴方の、ね。まぁ半分正解……と言った所かしら。

 でもそんなのほんの些細な事だわ。

 『ワタシ』は貴方の一番の理解者、何しろ『私』の事ですもの。

 だから――救ってあげたいのよ。……ふふふっ』

 

 そう、全てはムカイ・ヒナタを救いたいために、ワタシは彼女を説得した。

 彼女の為に色々と、クガ・ヒロトへの想いを捨てて貰うために言って聞かせた。

 

『実らない想いを抱き続けるなんて、きっと辛いことだわ。

 だから『ワタシ』はね…………『私』にクガ・ヒロトへの想いを、すべて捨てて諦めて欲しいのよ!』

 

 そうすればきっと全てが良くなる。想いはまたやり直せばいい、本当にムカイ・ヒナタの事を想ってくれる相手と。

 ワタシはそう願った。けれど。

 

『私はヒロトを諦めない。例えどんな形だとしても私は――彼と一緒にいたいから!』

 

 

 

 ……けれど彼女は諦めてくれなかった。ヒロトの想いなど、捨ててくれなかった。

 

 

 

 

 ――――

 

 これ以上話しても聞いてくれない。ワタシはムカイ・ヒナタと別れ、またミラーミッションの中で一人。

 

 ――そこまで、『私』はクガ・ヒロトを想っていると言うの。どうしても諦めてくれないと言うわけ――

 

 ムカイ・ヒナタの想いの強さにワタシはショックを受けた。

 こんなの、一体どうすればいいか分からない。また会って説得するべきなのか。

 彼女には考える時間を与えた。もう一度考え直してくれたら、ワタシの言っている事が正しいと気づくかも。……いいえ。

 ワタシは再度、ムカイ・ヒナタの記憶を辿って考えを巡らすと、自分の認識があまりにも――――甘かったと悟った。

 

 

 ――駄目だわ。きっとムカイ・ヒナタは変らない。だって彼女の心にある一番はクガ・ヒロト、今まで一緒に時を過ごした大切なヒト。

 代わりになる相手なんて、いるはずがないんだと――

 

 例えクガ・ヒロトから一番に想って貰えなくても、それでも彼女には彼だけなの。

 だってそれだけ特別なヒトだから。確かに彼といると幸せだと想う感情は本物……けれど一歩通行でしかなない想い、悲しさと寂しさだって本物のはず、ムカイ・ヒナタはそんな悲しみを胸に秘めていたんだと。

 

 ――たった一人で抱え込んで、どこかで我慢して――

 

 表立っては出さずに、明るく振舞ってはいた。けどそれはみんなの為に心配させないようにと、そして何より大切な、クガ・ヒロトを想っているから。

 

 ――『私』はクガ・ヒロトの事を、そこまで。

 なのに彼は平気で別の相手、ELダイバーを。……心もない情報体と――

 

 

 ELダイバー、GBNに生まれた別の情報体。

 闇の中で廃棄された不完全なジャンクが意思を持ったワタシと違って、彼女らは同じ余剰データだとしてもダイバーの想いが詰まった本物のガンプラのデータが集まり、星空の光の下で生まれた。

 そして始めから自分の姿と名前まで持って、広大なGBNの世界で、人々と触れ合って生きている。……暗闇で孤独で、ワタシが誰とも触れ合えなかったのに。彼女達、ELダイバーはずっと恵まれていた。

 

 

 

 なのにELダイバーはこのワタシがようやく触れ合えた大切なヒトと、ワタシが手に入れた彼女との宝物――想いを、横から奪い取って行った。

 そのELダイバー……イヴは、GBNを救うためにバグを取り込み勝手に消えた。……けどね。

 

 ――だから何なの? 知った事ではない。彼女がワタシから、ムカイ・ヒナタから大切なモノを奪った事に代わりはない。

 ……ねぇ? おかげでクガ・ヒロトと居れて良い思いをしたのでしょう、ワタシよりもずっと。

 くくく……っ、何よ。ただの心のない情報の寄せ集め、紛い物の人形……木偶人形の分際で!――

 

 そしてクガ・ヒロトも。

 

 ――どれほど『私』の事を想ったと言うの。

 あの人間には木偶人形の、イヴの事ばかりに決まっている。ムカイ・ヒナタなんて省みもしないで楽しい思い出を過ごして、失ってからもずっとその事ばかりで自分達だけ被害者面して。

 挙句にエルドラとやらの異世界で、一人勝手に乗り越えたって良い気になって。……ふざけないでよ――

 

 ようやく自分の身体と中身を完全にしたはずなのに。

 なのにワタシの中で――何かが壊れた感じがした。

 沸き起こる『絶望』、そして……。

 

 ――結局最後まで、ムカイ・ヒナタの事をろくに考えないまま。

 彼女を都合の良いように利用して、想いを踏みにじり続けて、救世主ですって? 何なのよ?

 幾ら称賛されようと、私は貴方を許さない。私はクガ・ヒロトが…………『憎い』!――

 

 憎しみ、新しく生まれた一層暗い感情。

 こんな感情なんてムカイ・ヒナタにはない物。ワタシは『私』になった筈なのに、もう別物になってしまっている。 

 けれど憎くて、憎くて仕方がない。

 

 ――ワタシは一体何なの? ムカイ・ヒナタですらなくなったのなら……私は――

 

 葛藤する自分。

 だけどそんな自分の事よりも、脳裏によぎるのは『私』の事。

 怒りや憎しみに支配されているワタシとは違って、そんな物とは無縁の優しい、優しい本物の私――ムカイ・ヒナタ。

 

 

 

 ――『ワタシ』とは違って、優しくて……哀しい『私』

 ……そうなのね、だからこそ――

 

 その時、ワタシは気づいてしまったのよ。

 

 

 

 優しさがあるからこそ、ムカイ・ヒナタはああなってしまった。

 大切な人を奪われて、それについて取り返すどころか、何も聞こうともせず優しく気を遣っていたから。

 そして優しさだけだから、大切な人だったはずのクガ・ヒロトがそれを良いことに、ただ自分の都合良く扱われていた。

 ムカイ・ヒナタは優しいから自分の事より周りの事を、クガ・ヒロトの事を考えるから。

 

 ――優しさでは、自分を救う事なんて出来ない。己を犠牲にするだけなら――

 

 だからこそワタシは。

 

 ――だからこそ『私』が悲しむのなら、ワタシが彼女を悲しませる全てを排除する。

 ムカイ・ヒナタ、彼女の代わりにワタシが……怒りと悲しみ、絶望とそして、憎しみのままに――

 

 やはりワタシは、『私』である。

 彼女の代わりに負の感情の全てを背負い、誰かのためにではない、『ワタシたち』自身のために行動する……もう一人のムカイ・ヒナタ。

 

 

 

 ――ふふふふふっ!

 何だ、考えてしまえばとても簡単な事じゃない――

 

 ワタシの意思は決まった。

 どんな手段を使っても、どれだけ利己的で汚い手を使おうとも『ムカイ・ヒナタ』の想いを遂げさせてみせると。もう一人のムカイ・ヒナタとして、ワタシは『私』自身を幸せにしてみせる。

 ……ワタシに人の心の温もりと輝きをくれた想いを、『ワタシたち』の宝物を守ってみせると。

 

 ――ワタシが貴方の分まで守って、幸せにしてあげるわ。

 そして――

 

 ムカイ・ヒナタは、彼女の想いはこれまで犠牲にされて来た。

 ガンプラに、GBNと言う世界と、ELダイバー。何より彼女が大切にしていたはずのクガ・ヒロトによって。

 

 ――もう彼女を犠牲にさせない。今度は全てが彼女の為に何もかも犠牲になればいい。

 そう……復讐よ。

 ムカイ・ヒナタを傷つけ悲しませた全てには報いを受けさせる。存分に、苦しませて絶望させてみせるわ――

 

 

 

 救済と復讐、これがワタシの誓い。

 

 ――それにねぇ、最高の手段が丁度その時思いついたのよ。

 全てに、特にクガ・ヒロトに最大の復讐が出来て、何より……ムカイ・ヒナタを完全に救う手段が――

 

 それはこのミラーミッションのシステム、全てを動員した最大級の手段。

 

『ククククククッ! クハハハッ!』

 

 思わず歪な笑いが零れる。

 『私』なら絶対にするはずもない邪な笑い。……でも、『ワタシ』はこれでいい。 

 

 

 ――ねぇムカイ・ヒナタ、貴方はただ幸せであればいい。

 負の感情は全てワタシが、もう一人の貴方として背負うから――

 

 だって、ワタシは大切なモノを貴方から貰ったから。冷たい暗闇にいたワタシに、温もりと光を貰ったもの。

 そして……。

 

 

 ――ムカイ・ヒナタ、貴方こそワタシの……『ヒーロー』だから―― 

 

 

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