【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い― 作:双子烏丸
――――
俺はメイから貰った分離プログラムで、ヒナタのダイバー体に憑りつくクロヒナタを引き離そうとした。……けれど。
「させは――しないわよぉ!!」
対してクロヒナタもプログラムを、カウンターとして繰り出した。
彼女の本当の目的。俺の人格に自らを上書きするダウンロードプログラムを使って、自分自身が俺に……『クガ・ヒロト』と成り代る目的をここで果たす為に。
互いにプログラムを繰り出しての拮抗。俺はその最中――クロヒナタの記憶を垣間見たんだ。
――ミラーミッションで、ELダイバーの情報のコピーから生まれた情報生命体……それがヒナタの情報を得て誕生したのが、クロヒナタ――
「……っ」
俺とクロヒナタ、互いに身体にプログラムを受けて拮抗状態にある。
俺は右手で彼女の胸元に触れ、一方でクロヒナタは俺の喉元を左手で掴み、それぞれのプログラムを相手に流し込む。
ヒナタを分離するための分離プログラムは右手から青い輝きとして放たれ、彼女のダイバー体を乗っ取るクロヒナタを青い光の線模様となって覆う。
一方でクロヒナタも、意識を自身で上書きするダウンロードプログラムを左手から赤い輝きとなって放出、俺の身体を赤い光を放つ線模様として侵食している。
クロヒナタはヒナタの身体から切り離されないように抵抗を続ける、一方で、俺は意識を乗っ取られないように自我を維持していた。
譲る事がない――戦いの続きだ。
――やっぱり身体全体が激しく痛む。自分の意識だって、本当に消えそうになる程に――
クロヒナタも苦しそうにしながらも、俺に激しい敵意と憎悪の瞳を向ける。
「ここまで来たのよ。ワタシの最大の目的を、今果たしてあげる!」
自らも苦しいはずなのに、クロヒナタは強靭な決意は折れる事がない。
「ようやく……クガ・ヒロト、貴方の存在を奪ってみせるわ!
そして――貴方みたいな人間など、抹消する!」
「くぅっ、ああっ!」
身体を蝕む赤い線模様が、更に俺のダイバー体の侵食していくのを感じる。
更に激痛が襲い意識までも飛びかける。
「く……っ、アハハハハハハッ! もっと苦しむ顔を見せなさいよ!
クガ・ヒロト、貴方がムカイ・ヒナタを苦しめ、犠牲にしてきた分苦しみ悶えて――消えなさい!」
自分自身すら焼く程にまで激しい憎悪。
クロヒナタの過去――暗闇しかなかった彼女が見つけた光が、ヒナタだった。
ヒナタの想いが彼女にとっても宝物で、俺は結果的にそれさえも一緒に踏みにじり傷つけてしまったんだ。
――知らないうちにヒナタも、そしてクロヒナタまでも苦しめた。
あの壮絶なまでの憎悪の塊……俺が生み出したものなんだ――
「俺が……俺のせいで…………っ」
もう――自分の意識を保つのも限界が近い。
あまりの苦痛で余裕も無い中で、クロヒナタはまだ憎悪のままに俺を嗤う。
「ククククッ、クガ・ヒロトはもう限界なのかしら――ねぇ!?
でもまだ消えてもらっては困るわよ。こんなのじゃ全然足りはしない、貴方がムカイ・ヒナタに与えた苦しみに比べれば。
ワタシの苦しみさえどうって事などない。貴方も存分に味わえばいい!」
ヒナタへの強い想い。
これまでクロヒナタはずっと一人で、何も――自分の姿さえ、自我すらもなかった。けれどヒナタに出会えた事で、求めた物を全て手に入れる事が出来た。
クロヒナタには彼女が全てだった。
それ故の強烈な想い。けれどヒナタの想いが報われない事への悲しみ、それを受けてクロヒナタもまた悲しんで、怒り、更に…………憎悪まで。
「たっぷり苦しんで、苦しみ抜いてから、消えなさいよ!
クガ・ヒロト! 貴方が存在する限り報われはしない。ムカイ・ヒナタよりも木偶人形ばかり思う貴方なんて!
だから――代わりにワタシが貴方になって『私』を、新しいクガ・ヒロトとしてムカイ・ヒナタを誰よりも大切にして想いを遂げさせる。
本当の意味で幸せに幸せにするのよ!!」
――ヒナタを悲しませた物を全て、特にELダイバーの存在と……何より俺を憎悪している。
強い想いがそのまま、強い憎悪に――
想いに憎悪、それによってクロヒナタは自らを支え、駆り立て、動かしている。
その気迫は何もかも焼き尽くす程に。
「君の抱えているもの、その想い……俺も分かる」
さっき俺はクロヒナタの過去と正体を垣間見た。
彼女が何故あそこまでヒナタを想うかも知っている。目の前のクロヒナタは俺への憎しみを露わにしてはいるけど、本当はただ……。
「守りたいからなんだろ。ヒナタの想いを、君にとっての宝物を。
君はその為に頑張った。たった一人で」
「っ!!」
クロヒナタは非道な行いをいくつも重ねて来た。
GTubeを悪用してみんなのガンプラをコピーしてGBNを破壊しようと、ガンプラとGBNの両方を踏みにじった。
そしてELダイバーを木偶人形と蔑んで憎み、メイとイヴを消そうともした。俺も……自分の思い出を踏みつけにされて更に、命までも狙われていた。
現に今も――俺を消して自らが『クガ・ヒロト』になろうとしている。
――だけど、俺はクロヒナタを憎む事は出来ない。その憎しみもヒナタを純粋に想い続けた結果だから――
クロヒナタは俺を見ていた。表情は更に怒りと憎悪が増し、それに……動揺まで。
「止めてよ、止めなさい…………止めろっ!
その同情の顔を、憐れむような真似を止めろって言っているのよ!!」
クロヒナタは怒りの叫びとともに右腕まで伸ばして、両手で俺の喉元を握り掴む。
「かはっ!!」
まるで喉ごと潰そうとするくらいに強く。そのせいなのか、それとも更にプログラムの侵食を受けたせいなのか、痛みとともに激しく苦しくなる。
「本当にっ、胸の中が煮え立つ程に忌々しいわね!
自分が消えようとしているのにこのワタシに同情しようだなんて!
それよりも憎みなさいよ! ワタシと同じように!」
激痛で意識が遠くなりそうになる。けれど、俺はクロヒナタ――ヒナタから目を反らさずに真っ直ぐに見つめる。
「憎めるわけがない。ヒナタを想う気持ちは俺と一緒だから。
それに彼女を救うためにここに来た。君がもう一人のヒナタだと言うなら俺は憎むのではなくて、ただ君も救いたい」
「よくも――そんな事を言うわねぇ!
それにしぶといのよ、いい加減に諦めなさいよ!
本当はムカイ・ヒナタの事を想っていないのに……想っている訳がないのに!」
拒絶。クロヒナタはそれでも、俺を激しく拒絶する。
「君はそこまで俺を憎むのか。でもそれも当然だ、憎みたいなら幾らでも憎んでいい。許してくれなくても構わない」
ここが踏ん張り所だ。痛みと苦しみを耐えて、俺は。
「けれど俺は、消えるわけにはいかない!
ヒナタと一緒にいたいから、俺に向けてくれる優しさと笑顔が……本当にかけがえのない物だから。それが分かったから――」
何としてでも持ちこたえる。そして、ヒナタのダイバー体からクロヒナタを分離させようと、プログラムを送り込む自分の右手に力を込める。
「くぅ……っ」
クロヒナタもついに限界が近いのか、追い詰められた表情で呻く。
「もう一度会って話がしたい。
今まで傷つけてしまった事を謝る。そして今度こそ伝えたい、俺のヒナタへの想いを!」
「……あり得ない! ワタシがこんな、クガ・ヒロトに圧されるなんて。……ワタシの方がずっと、貴方なんかより想いが強いはず」
次第に追い詰められて行くクロヒナタ、彼女はなおも叫ぶ。
「ふざけないで! ワタシは貴方なんかに負ける訳にはいかないのよっ!
ムカイ・ヒナタはワタシが救う。救わなければ……いけないのに!」
強く切実な感情。彼女はどれだけ本気でヒナタの事を想っているのか、よく分かっている。
けれど――俺は。
「だから消える事は出来ない、消えたくなんてない!
君の想いは分かっていてもそれは譲れない。俺もヒナタを大切に想っているから。
俺は彼女を――誰よりもずっと一番に! ようやく分かった自分の想いを、裏切らないためにも!」
「!!」
その瞬間、クロヒナタの身体から一気に黒い霧のような、情報のノイズが放出された。
同時に俺の首を掴んでいた力も緩み、身体を侵食していたダウンロードプログラムも消失して線模様も消える。もちろん身体の痛みと苦しみも和らいだ。
「……はぁっ」
ようやく解放されて俺は一息つく。そして……ヒナタから分離されつつあるクロヒナタは。
「そんな――馬鹿な」
聞こえるか聞こえないか分からないくらいの呟き。最後にそんな呟きをした途端、黒いノイズは全て放出されて霧散した。
憑りつかれていたクロヒナタから、ようやくヒナタは開放された。
黒いダイバールックの衣装は赤と白に戻り、それに暗い亜麻色だった髪も元の明るい亜麻色に、元通りのヒナタの姿に戻っていた。
――ようやく俺は、ヒナタを――
元に戻ったヒナタ、けれど……身体は糸が切れたみたいに力を失って、前のめりに俺の元に倒れ込む。
「おっと」
とっさに俺はヒナタを抱き留める。彼女の表情は穏やかで胸の動悸や呼吸もしている、つまり正常な反応はしている。
――ただ気を失っているだけか。……その内意識が戻るだろうか――
そんなヒナタの姿を見つめていた。すると、そこに。
「何とかヒナタを取り戻したみたいだな、ヒロト」
俺の所にメイがゆっくりと近づく。けれど、右肩の傷は相変わらず痛々しく、左手で傷口を押さえている。
「メイ……その傷は、大丈夫なのか」
「問題ない、私は平気だとも」
メイは安心させるように俺に微笑む。
「それよりもヒナタだ。見た所気を失っているみたいだが、少し様子を見てもいいか」
「ああ」
俺が了承するとメイはそっと、抱き留めているヒナタに近づいて確認する。
「ヒナタも大丈夫、気を失っているだけだ。何しろずっと憑りつかれていたからな、意識が戻るには時間が必要なだけさ」
「……そうなのか」
「心配する事はない。今はこうだとしても彼女はすぐに元に戻る。
GBNも、そしてヒナタも救えた。今度こそ全て解決したんだ」
「……」
メイの言う通り、これで全部片がついた。GBNを救えて、それに……。
――ヒナタ、ようやく君を取り戻せた。今度こそ君を――
けど、それと同時にもう一つ、俺には心残りが。
――もう一人のヒナタ、クロヒナタは。どうなったんだ――
ヒナタから分離したクロヒナタ、彼女がどうなったか分からない。俺は……彼女に対しても、何か出来れば良かった。
――ただ強い想いの結果だった、少しでも救えれば良かったけれど――
複雑な気分だった。
「とにかく、だ。事は済んだ、私たちも早くこの場から離れるとしようか。
後の事は運営がどうにかするだろう」
「そうだな……メイ」
でも、今考えても仕方がない。
俺はヒナタを抱きかかえたまま、メイとともに倒れたジュピターヴガンダムのコピー、その上から降りる。
装甲の突起を足伝いに降りて、そのまま自分のガンプラの所に戻ろうとした。
〈はぁ、一時はどうなるかと思いましたが、良かったです〉
エクスヴァルキランダ―に乗るパルも、そんな風に話している。それにカザミも自分のガンプラに乗ったまま。
〈あの時俺たちは何も出来なかったけれど、さすがヒロト! 一件落着だな〉
〈ええ! 僕達の……大勝利ですね!〉
「ま……だ、まだ……終わらないわ」
途端、俺たちの背後、コピーである黒いジュピターヴガンダムの方から声が聞こえた。
「――何だ!?」
俺はとっさに振り返った。すると……。
〈倒したはずのジュピターヴガンプラのコピーが……〉
〈また動き出した、だと!?〉
パルとカザミの言葉と同時に俺たちの周囲は揺れて、背後に倒れていた黒いジュピターヴが起き上がろうとするのが見えた。
「どうして今になって動き出したんだ!?」
「分からない! 俺は確かに動力部を停止させたはずだ。――いや、あれは!」
俺は気づいた。起き上がりつつある黒いジュピターヴガンダムからは暗い紫色のオーラが立ち上り、全身を包んでいるのを。
――あのオーラは覚えがある、二年前にGBNで猛威を振るった――
「ふ、ふふ……ふ。切り札で用意したブレイクデカールを再現したデータ、今が使う時よ」
再び聞こえた声、それはジュピターヴガンダムの開いたままのハッチから覗くコックピットの中から。
さっきヒナタから分離された黒いノイズがコックピットのシートに、寄り集まって人の形を形成しつつあった。
「貴方に負ける事は、ない。クガ……ヒロト」
そこにいたのは、クロヒナタの姿。彼女はノイズで全身を形成している最中、作りかけの表情で俺を睨む。
「どうして、ブレイクデカールなんて使えるんだ!? だって今はGBNで使う事は出来ないはずなのに」
ブレイクデカールは、ガンプラに張り付けてGBNにスキャンする時にシステム介入し、そのッガンプラを通常以上に強化して更に、巨大化、自動修復機能などの異常な機能まで与えるデカールの事だ。
二年前、このブレイクデカールはダイバーに出回って騒動を引き起こした。デカールは使う度にGBNのシステムそのものにまでダメージ、バグを引き起こし……GBNそのもののまで崩壊の危機にも。
「あの騒動の後、GBNにはブレイクデカールの情報を無効化する修正パッチを導入している。
なのに……どうして」
メイの言う通り、騒動が沈静化した後に、運営は二度とブレイクデカールの脅威がないように修正パッチをアップデートして無効化したはずだ。
いくらクロヒナタがデータを用意したと言っても、パッチがあるかぎり役に立つわけがない、――それなのに。
俺たちの疑問を嘲笑うように、クロヒナタは嗤う。
「実はね、ワタシがミラーミッションを掌握した時に、その修正パッチは先に抹消しておいたのよ。
この時のために。例えメイがミラーミッションを修復しても、一度消したパッチまでは元通りにはならなかったみたいねぇ」
「……くっ、してやられたか。修復プログラムはパッチの復元までは対象外……そこまでするとは」
メイは悔し気に呟く。
そしてクロヒナタが乗る黒いジュピターヴは完全に起き上がって、全身に受けた傷、更には切り落とされた両腕も瞬く間に再生して完治する。
「機体まで修復するだなんて。やはり、本当に」
機体のハッチは閉じられ、今度は機体の通信でクロヒナタは言う。
〈だから言ったでしょう。それに……ねぇ〉
同時だった、周囲の空間にヒビが入り、剥がれ崩れて崩壊し始めた。
それに呼応するかのように辺りも急に暗い闇に閉ざされ、さらに地響きまでも起こって岩壁までも崩れ出す。
壊れて行く空間の崩れ目から覗く、全くの異空間。――データの模造品だとしても、その影響力は本物のブレイクデカールと同等だ。エリアそのものにまでバグを発生させる所まで。
〈……ワタシの狙い通り。バグはエリアそのものにまで伝播し、システムを歪めているわ。
この歪み、今はミラーミッションのみで留まっているけどねぇ……くくくくっ、バグの歪みはこれから増していくのよ。
いずれこのエリアだけでは抑えられなくなる。歪みが臨界点を迎えた、その時には〉
クロヒナタは歪な嗤い声をあげて、そして言った。
〈くはははははっ……ボンッ! 歪みは一気に他のGBNのエリアまで爆発的に広がり、のみ込み、空間をシステム諸共に引き裂くの!
はてさて、どれぐらいの大被害になるかしらねぇ!〉
――何て相手だ。そこまでやるのか――
その為にクロヒナタはブレイクデカールまで再現して用意までした。ブレイクデカールで発生するバグによるGBNの大破壊。
「ただでは終わらないわ。せめて……完全破壊は出来なくても、GBNの大部分を道連れにしてあげる!」
言うなれば、これはクロヒナタ最後の悪あがきだ。
ブレイクデカールを暴走させてGBNを巻き込んで大破壊、二年前にシバがやろうとしていた事と同じ事を。
〈……っ! 本当にどうかしているぜ!
ミラーミッションの支配権もない、憑りついていたヒナタだって……。もう勝ち目がないのにどうして!〉
「本来のヒロトを乗っ取る計画も失敗した。
こんなのはただの破壊行為、無意味なだけだ。これ以上はもういいだろ」
カザミとメイの言葉にクロヒナタは憎悪をもって応える。
〈偉そうに言うんじゃないわよ。
ビルドダイバーズ! よくもワタシの計画を潰してくれたわねぇ、これがそのお返しだわ!〉
〈そんな……こんなの、無茶苦茶です〉
パルが唖然としながら呟く中、彼女は……。
〈だからねぇ、このワタシの悪あがきも止めてみなさいよ。
これは最後の挑戦よクガ・ヒロト、貴方の力、その想いを――示してみなさい!〉
「クロヒナタ、君は」
これは悪あがきなんかじゃない。彼女は俺と決着をつけるつもりだ、互いの想いを証明する――最終対決を。
「……分かった。その挑戦、俺は受けるよ」
〈ヒロト! どうしてそんな!〉
「どの道戦わなければ止められない。GBNを救うためにも俺は、それに――」
――これはクロヒナタ、彼女の想いも、そして憎しみも全て受け止めるために。
俺が出来るのは、それくらいしかないから――
俺はクロヒナタも救いたい。少しでも救いになるのなら……その手段は、最後まで戦う事くらいだ。
クロヒナタが乗るジュピターヴはそんな俺を見下ろして、通信で言う。
〈その心意気だけは、認めてあげるわよ。
さぁ、待っていてあげるから早く機体に乗りなさいな。……決着をつけてあげるわ〉
「……本気か、ヒロト」
傍にいるメイは気にするように声をかける。
「もちろんだ。俺は必ず彼女に打ち勝ってみせる。だから――」
そして、俺は気を失ったままのヒナタに視線を向ける。
――だからどうか見守ってくれたら嬉しい。……お願いだ、ヒナタ――
――――
俺はヒナタをメイに預けて、自分のユーラヴェンガンダムに乗り込む。
コックピットに座り機体を動かす。その目の前には、紫のオーラを放つクロヒナタの黒いジュピターヴガンダム。
メイ、パル、カザミのガンプラは少し離れた位置で待機。俺とクロヒナタは二人、対峙する。
〈覚悟は出来ているわよね〉
彼女は笑いもせず真剣な目で俺を見据える。
――追い詰められて、クロヒナタも覚悟をしているのか――
クロヒナタの態度の違い、俺にも分かる。
「勿論。覚悟なら最初から……済ませている」
けれどそれは俺も同じだ。クロヒナタと自分との間には、この場では何の違いもない。
抱えている想いもまた同じ、後はそれをより強く示すだけだ。
〈もう長引かせたりしない。勝負はあっと言う間、一撃で決めようじゃないの。
この――〉
次の瞬間、周囲で動かなくなっていた黒いガンダムイージスナイト、エクスヴァルキランダ―、ウォドムポッドのコピー。三機の全身までも、ブレイクデカールによる紫色のオーラが包む。
そしてイージスナイト、エクスヴァルキランダ―のパーツの一部が分離。二機の分離したパーツと、ウォドムポットの本体はクロヒナタが乗るジュピターヴガンダムのコピーへと集まる。
彼女の黒いジュピターヴは跳躍、ジュピターアーマーを解除してコアガンダムⅡへと、それに…………イージスナイトとエクスヴァルキランダ―のパーツ、ウォドムポッドが次々と組み合わさって形作る姿は。
〈――このリライジングガンダムの一撃で、ね〉
コアガンダムⅡを核にして下半身にウォドムポッド、胴体、両腕をイージスナイトのパーツで構成、そしてエクスヴァルキランダ―の翼を備えた合体ガンプラ。
俺たちビルドダイバーズの絆と想いが集まり――あの時エルドラを救った、リライジングガンダムだ。
――黒い、リライジングガンダムなのか――
それが今、俺の前に立ち塞がっている。
〈これで決着をつけましょう。さぁ……やる事は分かるはずよ〉
「……ああ。
これが最後になるなら、終わらせるために――みんなの力を俺に貸してくれ」
俺はビルドダイバーズの仲間、メイにパル、それにカザミへと伝える。
三人は俺の言葉に信頼を預けてくれるように、頷いて応えてくれた。
〈ははっ、水臭いぜヒロト! 今更そんな事言われなくても〉
〈そうです。僕達に出来る事なら、何だって力になりたいですから。
GBNを、そしてクロヒナタさんも。あの悲しいくらいの憎しみから解放してあげて下さい〉
〈と言う事だ。あの分からず屋には……それくらいしか出来ないからな。
せめてヒロトの手で、目を覚まさせてやれ〉
カザミとパルはそう言ってくれて、そしてメイは。
〈倒すしかないのなら、彼女の想いを、どうか受け止めてくれ。
……いや、最初からヒロトはそのつもりなのだろう〉
倒すしかない、その事は俺にとっても辛い事だった。
けれど……全ては俺から始まった。だから、決着も俺の手でつけたい。
「俺にしか出来ない事だから。……クロヒナタ、彼女にしてあげられる精一杯なんだ」
〈そうか。ヒロトの想い――どうか、彼女にも伝わるように。
その為にも私たちの力を、存分に使ってくれ〉
――みんなの力を借りさせてもらう。……互いの想いの決着をつけるために――
身にまとうウラヌスアーマーを解除、俺のガンプラはコアガンダムⅡとなる。
「……リライジング――ゴー!」
そして、リライジングガンダムへの合体シークエンス。みんなのガンプラも俺の元に集まって、次々と合体する。
俺たち全員の想いが集まり、形になったのが――。
「俺の、俺たちのリライジングガンダムで……君を止める」
俺もまた、機体をリライジングガンダムへと合体させる。
俺の機体と、クロヒナタが乗る黒いリライジングガンダム。再び互いに向き合って、構えて――
〈もはや語らないわ。この一撃で――全てを決める〉
クロヒナタの黒いリライジングガンダムは構えたまま、全身にエネルギーを貯める。
そう、それは。
――リライジングガンダムの必殺技、グランドクロスキャノンか――
一撃で決めると彼女は言った。グランドクロスキャノン……その最大の技の撃ち合いで決すると。
――こうなる事は薄々想像はしていた。でも、勝負をつけるのならこれ以上はない。
その気なら俺も……応えてみせる――
俺のリライジングガンダムも同じく構えて、エネルギーを充填する。
〈――〉
「望み通り決着をつけよう。クロヒナタいや…………もう一人の、ヒナタと」
エネルギーは十分に貯めた。
俺と、クロヒナタのリライジングガンダムは同時にそのエネルギーを……必殺技、グランドクロスキャノンとして撃ち放った。
俺のリライジングガンダムと、クロヒナタのリライジングガンダム。二体から放たれたグランドクロスキャノンは――中間で激突する。
視界を覆う程に眩しい極大なエネルギーが闇を切り払い、余剰したエネルギーさえ周囲で渦巻き奔流を巻き起こす。また、放つグランドクロスキャノンの凄まじい反動で踏ん張るリライジングガンダムの両足、それさえ地面を削りながらじりじりと後ろへ退って行く。
放つエネルギーは、彼女が乗るリライジングガンダムのコピーが放った漆黒のエネルギーによって壁のように阻まれる。……それどころか。
〈くう……っ〉
〈やっぱり凄い力です。遠くにいる僕達まで……吹き飛ばされそうなくらいに〉
キャノンの勢いは離れたカザミ達にも影響を与えるくらいに、強い。
――グランドクロスキャノンの強さは互角か。……違う、それ以上に――
激突し合うキャノンのエネルギーだけど、次第に、確実にクロヒナタのリライジングガンダムの威力が圧している。
――彼女のリライジングはブレイクデカールによる強化まで受けている。コピーで同等の能力に加えてデカールによる上増し、その威力はオリジナル以上か――
ブレイクデカール、それに引き起こされるバグはコピーがリライジングガンダムに合体してから更に悪化している。
エリアの崩壊は加速の一途で、空間は裂け目とひび割ればかりで、今にも崩壊しそうなくらいに。
――俺たちのリライジングガンダムが、負ける? ……いや――
この勝負は何が何でも譲れないと……そうだったはずだろ!
――力を貸してくれたみんなの為にも、GBNを守る為にも、そして――
俺はリライジングガンダムの出力を限界一杯にまで上げる。
機体そのものが危険な程の出力、けれど構わない。それでも俺は負けられないから。
――ヒナタ、君への想いをもう一人のヒナタに少しでも分かって貰うために、示すために!
何より……俺自身が!――
俺のこの想いがガンプラの力になるのなら。どうか――応えてくれ!!
それが、本当に通じたのか。
リライジングのコピーが放つグランドクロスキャノンをその瞬間、ついに押し留めた。
圧されることなく受け止めた。ブレイクデカールで強化されたコピーと、互角に持ち込む事が出来た。
――この瞬間だけでも――
機体そのものも臨界点に届きそうで、各部に負荷がかかりダメージが発生している。
このままでは危険だと、そう思った矢先。
――!!――
……同時に、クロヒナタが乗る黒いリライジングガンダムの各部が、次々と爆発するのが垣間見えた。
あの爆発とダメージ、俺の機体以上の負荷による反動だと分かる。
――そうか。ブレイクデカールで出力を上げた分、より本体にも負荷が――
クロヒナタの方こそ最初から無理をしていたんだ。
機体のダメージとともに、黒いリライジングのグランドクロスキャノンの威力も低下する。それと同じく俺の攻撃が、今度は圧して行く番だ。
彼女のコピーガンプラへと迫る、本物のリライジングガンダムのグランドクロスキャノンの勢い。
「これで……決める」
〈――〉
通信モニターには追い詰められた表情を浮かべるクロヒナタの姿。
それでも俺を見据え続け、何も言わない。……けれど次の瞬間。
〈――ふっ〉
途端に、彼女は息をついて、観念するかのように両目を閉じた。
その表情は初めて見る、もう一人のヒナタの穏やかな――。
同時にグランドクロスキャノンのエネルギーは――リライジングガンダムのコピーをのみ込んだ。
あっという間の出来事。クロヒナタを乗せたコピーは巨大なエネルギーの中に飲み込まれ、消滅した。
――――
黒いリライジングガンダムを倒したと同時に闇は晴れ、地響きと崩壊は止まった。
空間のひび割れと裂け目も何事もなかったかのように消滅していて、ブレイクデカールによる悪影響も、コピーの停止とともに消失したと分かる。
……グランドクロスキャノンの一撃は地面に深く大きな溝跡を刻み、それは広場の更に遥か奥まで、壁面や結晶まで消し飛ばしながらずっと続いていた。――そして俺は。
「――ヒナタっ!」
エネルギーが削った溝跡の中に取り残された巨大な残骸の塊。既に合体を解除したコアガンダムⅡでそこに向かい、俺は機体から降りて残骸の中を探して回る。
さっきまでリライジングガンダムだった物の、残骸。俺はそれに乗っていたクロヒナタを……ヒナタとは異なる、ヒナタを。
〈……おい、こんな状態じゃ多分〉
残骸の周囲にはガンダムイージスナイト、エクスヴァルキランダ―、ウォドムポッドも待機している。
イージスナイトから通信でそう言うカザミに、俺は首を横に振って探索を続ける。
「そうかもしれない。けれど俺が……そうしたいんだ」
〈ヒロトさん……〉
パルも気にしている。俺はそんな中で、瓦礫を動かしながら残骸の山を進む。
そして、小高い残骸の山の上に立ち、見下ろした時――
瓦礫の中に半分埋まるようにして横たわっていたボロボロの姿。それを見た途端、俺は思わず愕然とした。
「俺……は、何て事を」
それはクロヒナタの姿だった。けれどその黒い巫女服はボロボロに焦げて破れ、身体までも、半分近くが既に崩壊していた。
「ア……う……」
けれど彼女にはまだ意識があった。身体は殆ど動かないけれどクロヒナタは頭部だけ辛うじて動かして、俺へと視線を向ける。
「あまり見るんじゃ……ナいわよ。見世物じャ、ナいんだから」
クロヒナタの姿はあまりに酷かった。
左足はねじれ、右足は膝先から、左腕は肩の先からは全く無くなっていた。胴体や形を残す身体にも幾つもの破片が突き刺さり、あちこちに砕けたような穴と亀裂のような物が入っている。
俺に向けられた顔も……髪もボロボロになって、顔の左半分が崩れて無くなっていた。残っている右半分の右目で俺の事を見ていたんだ。
「すまない、こんな事を。俺は――ヒナタに対して」
「何を、気にシているの。最後の決着を、つけると……ワタシが望んだコトよ」
声もまるで壊れたラジオのように、上手く発せられないでいた。
それに、こうしている今もクロヒナタの身体は崩れ続けている。
全身の傷口、亀裂から黒ずんで行き、身体がら剥がれて塵のように霧散する。自らを構成するデータそのものが、もう形を維持する事が出来なくなっているんだ。
壊れかけた顔でクロヒナタは上を仰ぎ、寂しそうな口元を見せると。
「それにねェ、結局は……ワタシは、ムカイ・ヒナタではナいのよ。
何者ですらない、生命すらないたダのデータが……ヒトの真似事をしたダケ。…………憧れてイたダケよ」
「そんな事なんてない。君はちゃんと命のある人間だ。俺にとっては確かに本物の、もう一人のヒナタなんだ」
俺はそう言うけれど、言葉が聞こえているのか聞こえていないのか、彼女は構わずに上の空でただ唯一動かせる右腕を天に伸ばす。
「…………デも、とても、トテモ、憧れていたのよ。
ムカイ・ヒナタと言うニンゲンに、その心も思い出も、とても綺麗で……温もりがアったのだから。
ワタシの……タカラモノ、ただ守りたったダケなのに」
「……」
クロヒナタにとってそれが全てだと俺は知っている。その全てを、全力で守ろうとした。……なのにその結末が。
――俺には何も言えない。言う事なんて出来はしない――
俺は彼女の想いも受け止めたくて、最後まで勝負に付き合った。けれど……結果何が出来たのだろうか。
――分からない。これ以上彼女に対して出来る事も、もうないんだ――
結局は無力だと、そう打ちひしがれていた時。
――ガチャッ。
後ろから瓦礫を踏む音がした。
誰かが来たと、俺が振り向くと……そこには。
「ヒロト――私は」
「もう、目が覚めたのか…………ヒナタ」