【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い― 作:双子烏丸
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「う……んっ」
ずっと、長い夢を見ていたみたいだった。
朧げに意識が戻りつつあった私は、重たい目蓋をゆっくり開こうと。
「やっと起きてくれたか、心配していたんだぞ」
目蓋を開けると、目の前には私を覗き込んでいたメイさんの顔があったんだ。
「メイ、さん。……私は」
私とメイさんがいるのはコックピットの中。多分、メイさんのウォドムポッドなのかな。
それに外の景色はどこかの洞窟の広場みたいだった。けど、とても激しい戦闘の跡があちこちにあって、大きな溝まであったんだ。
「私は一体……どうしていたの? それにここは? 今まで何があったのか、分からなくて」
あの黒いもう一人の自分――クロヒナタさんに出会ってから記憶がなくて。まるで眠ってしまったみたいに。でも、何だか不思議な夢を見た覚えもあるんだ。
夢の中ではヒロトと一緒に過ごして、でもそれはクロヒナタさんが見せてくれた幻で、彼女は……恐ろしい事を考えてもいた。
「それにメイさんの肩も。……もしかして、怪我を?」
加えて、メイさんの右肩には傷を受けたみたいに、包帯を巻きつけて治療したような痕があった。
「気にする事じゃない。確かに怪我はしたが、別に大したものではないとも」
彼女は私を安心させるように笑って、そう言ってくれるけど。
――これもクロヒナタさんがした事なら、きっと大変な事をしてしまったって思うから――
「お願い! 私が眠っている間、何が起こっていたのか教えて。
それがどんな事でも構わないから!」
どうしても知りたかった。
メイさんはどうするか悩んでいるみたいに、考えているみたいで。
「どう言えばいいだろうか、困ったな」
多分私には言いにくい感じなのかな。けど、それでも何も知らないままでいるよりは。
「ヒロトが、みんながエルドラで戦っている間も、私は長い間知らないでいたの。
……後で知る事が出来たけど、それまで私はヒロトとみんながどれだけ頑張っていたのか知らなくて。知らないって言うのがどれだけ、悲しくて寂しいか分かるから…………だから包み隠さないで全部、教えて欲しいの」
「そこまでなのかヒナタ、なら……」
メイさんの表情にはまだ躊躇いがあったけど、私の言葉に心を動かしてくれたみたいだった。
「分かった。それなら全部話す事にするよ。信じられない話で、恐らくヒナタにとってもショックを受けると思う。
けど……聞いて欲しい」
そして私にこれまで起こったことを、メイさんが知っている限りの事を教えてくれた。
――――
「――そう言う事だ」
「クロヒナタさんが……そんな」
メイさんに教えて貰った、これまでの出来事。
私に憑りついてGBNを、みんなを、それにヒロトまで傷つけていた。酷い事ばかり……して来た事を。
――それにメイさんの命を狙って、最後にはヒロトの人格まで消して自分が成り代ろうと。
あの肩の傷だって、きっとそのせいで――
「ごめん……なさい」
ただ私には、謝る事しか出来なかった。
「やはり強いショックだろうな。
けれど謝る必要はどこにもない。別にヒナタのせいじゃない、いや、誰も悪いわけでもないんだ。……クロヒナタも含めて、誰も」
「……でも」
それでも自分の知らない内に、もう一人の自分があれだけの事をしたんだと。考えただけでも複雑で堪らなかった。
「もう終わった事だ。クロヒナタはヒロトが倒した。何もかも、全て終わった」
「終わった……? なら、ヒロトは今どうしているの? ……それに」
倒したと言った、クロヒナタさんの事も気になった。
――酷い事をして来たけれど……あの人は、ただ――
これにメイさんはまた答えてくれる。
「ヒロトなら――あそこにいる。恐らくクロヒナタも」
そう言って指し示したのは、外の地面を抉った溝の中にある、すぐ傍の巨大な残骸だった。
私もその残骸が気になっていた。だって残骸の姿は……まるでヒロト達のガンプラが合体した、リライジングガンダムみたいだったから。
――ヒロトとクロヒナタさんがあそこに――
「……もしかして、様子が気になるのか」
メイさんは不意に私に尋ねて来た。
「どうして、そんな」
「見れば分かるとも。今すぐ会いに行きたいと、そう思っている事くらい」
途端、彼女はコントロールパネルを操作すると……コックピットハッチを開いてくれた。
「ようやく目が覚めたんだ。ヒロトもきっと、ヒナタの姿を見たら安心するはずだから」
「……メイさんは?」
私が聞くと、メイさんは首を横に振ると。
「私は構わない。今はヒナタ、君一人の方が……きっと。
さぁ行くといい。――ヒロトも待っているはずだ」
私は開いたハッチから下を見下ろす。
メイさんが機体をしゃがませてくれたおかげで、地面はすぐ近く。これなら私でも降りられそう。
――私は二人に会いたい。だから――
「ありがとうメイさん。私、行って来ますね」
そう伝えると私はコックピットから降りて、ヒロトの元に向かったんだ。
――――
壊れた残骸、足場の悪い瓦礫の中を歩いて進む。
残骸の中で私はヒロトの姿を探す。すると間もなく、目の前に後ろ姿が見えた。
その後ろ姿は――ヒロトの。
――見つけた。けれど、もう一人――
けれど彼の傍には誰かもう一人、黒い人影が倒れているのが見えた。
ヒロトと、もう一人の誰か。あれは多分――
ここからだとよく見えない。私は近づいて様子を確認しようとした。
すると。
――ガチャッ、と。
私は足元の瓦礫の一つを踏みつけた時に音を立ててしまった。
途端、音を聞いたヒロトが振り返った。彼と目が合う私は……思わずこう呟く。
「ヒロト――私は」
「もう、目が覚めたのか…………ヒナタ」
私が来た事にヒロトも、驚いたみたいにそう言った。
やっと彼に会えた! 私は傍まで駆け寄って、そのまま抱きしめたいと――。
「……」
けれど、直前で私は手を止めた。
――この騒動を引き起こした原因は、やっぱり私なんだ。なのにこんな事をする資格なんて――
そう思ったから、手を止めてヒロトから一歩離れたんだ。
「私には……そんな」
――だけどその時。
「ヒナタ!!」
ぎゅっと、私の身体が強く抱きしめられる感覚を感じた。
ヒロトが私を抱きしめてくれたんだ。ぎゅっと強く、想いを感じるくらいに。
「目を覚ましてくれて良かった。本当に……ずっと、俺は君を想ってたんだ」
「私の事を、そんなに」
「……ああ」
そう言ってくれるだけで、こうしてくれているだけで、私は今幸せだった。
「くく……クク…………っ」
そんな中で、別の笑い声が聞こえて来た。
下に倒れていたもう一人。その姿は。
「起キたのね、ムカイ……ヒナタ」
倒れていたのはボロボロになったもう一人の私。
手足がそれぞれ片方ずつ無くて、顔の左半分も崩れてしまってボロボロになった私の、酷い姿。
「クロヒナタ、さん。そんなになってまで」
全身が傷だらけ、ボロボロでそれに、身体そのものが崩壊し続けている黒いもう一人の私――クロヒナタさん。
――クロヒナタさんは、ただ一人で私のために行動していた。どんなに酷い事をしたのかも、知っているけれど――
けど自分の身をこんなにしてまで、間違った方向だとしても頑張っていた。
誰にも、一番守りたかった私にも拒絶されてまで。
「私のために……ずっと」
今度は私はクロヒナタさんの元に。
そして膝をつくと、彼女とすぐ近く顔を合わせる。
「最後に『私』と、会えるナんて。嬉しいワ」
クロヒナタさんは半分崩れかけの顔を向けて、私に微笑んでみせた。声だって、調子がおかしくなっているのに。
けどこれまで見せたみたいな負の感情がこもった冷たい笑みじゃない。ごく普通の、嬉しく思った時に見せる微笑み。
憑き物が落ちたみたいな感じもあった。……それに、同時に諦めも。
「デも、ワタシは…………もう、ダメだわ
ムカイ・ヒナタだと名乗ル資格さえ……ナいのよ」
もう、諦めてしまったクロヒナタさん。どんな手段でも望みを叶えようとした強い意思は、どこにもなかった。
「……やれル事を全テしたのに、カナわなかった。完全に……ワタシはクガ・ヒロトに負けタのよ」
「やっぱり、ヒロトと戦ったんだね」
負けたと、そう彼女は言った。
「ねぇ、やろうとした事は本当なの。GBNやみんなを傷つけて、そしてヒロトを消そうとした事も」
だから私は聞いたんだ。クロヒナタさんは、ただ静かに頷く。
気づかれたからには仕方ないと、そんな感じで
「えエ、そうよ。
ワタシは貴方の悲しマせた……全テに復讐しようとした。そしテ貴方を救うために、本物の彼を消シて『クガ・ヒロト』に成り代ろうとしたの。
貴方の想いに応えてくれない……あんナ人間より、ワタシが彼になれば…………代わりに想いに応えるコトが出来ルから」
言葉を発するのも辛い感じなのに、それでも一生懸命に思いを伝えるクロヒナタさん。
私への想いは一途なんだって分かるの。でも……それでも。
「――でも、そんなの私は望んでなんていないんだよ。
誰かを不幸に、踏みつけにしてまで幸せになるなんて……嫌だから」
「ふフフっ、ムカイ・ヒナタは優しいものね」
クロヒナタさんは寂しそうに笑っている。
「分かっていたワよ。……貴方が望まない事なのは、最初から。
だケどね、優しサのせいで自分の事は後回し。みんなを、特にクガ・ヒロトの助けになろうとしていた。
デも肝心の彼は貴方を蔑ろにし続けてイた、ずっと。……優シさでは自分を救えなかった、それを許せナくて…………放っておケなかったのよ」
「――」
傍のヒロトは、彼女の言葉に複雑そうな顔で下を向いて黙っていた。
「ダからこそムカイ・ヒナタを真っ先ニ眠らセたのよ。何も知ラないうちに全てを終わラせるつもりだった……夢を見テいるうちに。
こレがワタシの考えタ一番ノ……方法よ。……例え許さレない事だとシても、貴方を救ウにはそれしか思いつカなかったのよ。
もちろん後悔だって、してイないワ」
でも――。クロヒナタさんはそう呟くと、辛そうな思いで続ける。
「無念で……無念で堪ラないワ。
あと少し、ダったのに。なのにワタシはクガ・ヒロトに負けた。
ムカイ・ヒナタ……ここまデして、結局貴方を救ウ事が出来なかっタ、何もしテあげられなかっタ。それが…………とても無念なの」
私に微笑んではいるけれど、それでも辛そうで悲しい、もう一人の私の姿。
けれど、どうして。
「どうして私のために、そんなになってまで。
酷い事までして、自分まで……こんなに傷ついて、そこまで私の事を」
聞かずにはいられなかった。
クロヒナタさん、私と同じ姿をした――もう一人の私。私のために、彼女に何かした覚えもないのに、どうしてそこまで私の事を想ってくれているのか……分からないの。
「ソれは……当たり前じゃナい」
クロヒナタさんは私の言葉に、今度はまた、さっきよりも優しく応えてくれる。
「ムカイ・ヒナタは知ラないと思うけド、ワタシは貴方に……救われタのだから。
何も無いワタシに、カけがえのない物をくれタ。暗闇にいたワタシに光を……くれたのダから
貴方と言う――ワタシにトってかけがえのない宝物……光ナの。その優しイ心も、素敵な笑顔も…………何もかもが」
彼女は私に向かって手を伸ばす。まるで離れた所にある、何か大切な物に触れたいかのように。
――私には分からない。けれど、クロヒナタさんにとってはきっと救いになっていたんだ。
だから、せめて――
私はその手を優しく握って――繋いだんだ。
するとクロヒナタさんは、とても嬉しそうに。
「ふ……ふふ、コんなワタシでも、優しくしてクれるのね。
救うどコろか、きっトまた辛い思いをさセて……シまったのに」
「……うん。だって、やった事は酷い事ばかりで、沢山の人を傷つけたんだから」
彼女のした事は良くない事ばかり。私だって辛い思いをしてしまった、けれどクロヒナタさんは……。
「でも私を想ってくれて、ずっと頑張ってくれたんだよね。
正しい方法ではなくてもその想いは本物だって分かるから、だから、ありがとう」
「エっ」
「やって来た事は悪い事でも、それでも私の事を強く想ってくれて……助けてくれようとしたんだって。
貴方の想いは――凄く嬉しいから」
私はクロヒナタさんにそう言って、笑顔を返したんだ。
だって彼女の想いは、本当に嬉しかったから。
「ムカイ……ヒナタ」
クロヒナタさんの身体はもう、限界だった。
崩壊は進んでいて、今にも完全に崩れ去ってしまいそうなくらいに。
それでも、彼女の表情は――
「あはは……ありがとうっテ言われチゃったワ。
……こんナのは初めて。何だか、とてモ良いものね」
照れたようなはにかみ笑い。
まるで、普通の女の子が見せるような、そんな笑顔。心から幸せだって――ちゃんと思えるような。
「そレに――ムカイ・ヒナタの笑顔も、最後に見る事ガ出来た。
やっぱり……貴方の笑顔、何よりもズっと輝いテいて……とテも素敵なんだカら。
……それ、に」
私を見る瞳もかすんで、声もずっと弱くなっていた。
握る彼女の手からも力が失われていくのも感じる。きっと、もう。
「どうしたの。何でも聞くから、だから――」
消えないで。そう言おうとしたけれど、クロヒナタさんの崩壊もずっと進んでいて、だから言葉を止めてしまった。
……でもそんな中で、彼女は残っている力を振り絞るようにして。
「どうカお願い……優しイ貴方。
これからは、もっと……他の人だけでナく、自分の幸セも考えて欲しいノ。
たまにはワガママ言っテも良いジゃない。……本当は自分がどうしたイのか、正直ニなっても、ねェ。
ワタシはただ、貴方に幸せニ…………なって欲しイから」
最後の最後まで、ただ私の事を想ってくれる。
「――うん」
辛くて泣きそうになるけれど、それでも私は笑顔で。だって彼女には笑顔を見せたかったから。
――クロヒナタさんには。
「…………やれるわよ……ムカイ・ヒナタ、なら」
最後にクロヒナタさんは一番の、私にそっくりの満面の笑顔を見せてくれた。
そして、笑顔のまま――彼女は完全に崩れ去ってしまった。
「……」
クロヒナタさんだった黒い塵は、宙に霧散して消える。
私が握っていたはずの彼女の手、それも塵に変わって手の平から零れていく。本当に……クロヒナタさんは消えてしまったんだって。
――こんな事になるなんて、私は――
「……ヒナタ」
すると隣にいたヒロトが、私にそっと声をかけてくれた。
私も彼に顔を向けて……
「私を助けるために、頑張ってくれたんだよね。 ――ありがとうヒロト」
「何より俺がそうしたかったから。またヒナタと、一緒にいたかったから。
もしかすると、彼女の言う通り……彼女が俺として君の傍にいた方が正しいとも思った。けど、それでも俺は」
「ううん。私にはヒロトが一番だから、代わりなんて誰もいないんだから」
そう、私にはクガ・ヒロトが、誰よりも。
クロヒナタさんはヒロトに成り代ろうとしたけれど、そんなのは違うって。……でも。
「でも…………クロヒナタさんは」
私はさっきまで彼女がいた場所に、ちらっと視線を移した。
クロヒナタさんは塵になって、もうそこには誰もいない。いなくなってしまったんだ。
「これで、良かったのかな」
そう言わずにはいられなかった。私は彼女に、クロヒナタさんに何か出来たのかなって……そんな風に。
ヒロトは私に優しい表情を向けて、こう答えてくれる。
「俺たちは、きっと出来る事に最善を尽くしたはずさ。
特に、ヒナタは最初から……彼女を救っていた。君への想いが暴走はしたけれど俺がそれを止めて、そしてまたヒナタが最後に、彼女を救ったんだ」
「私に救われたってクロヒナタさんは言っていたの。
でも私は分からないんだ、何も知らないんだよ。だけど最後のクロヒナタさんは、心から笑ってくれた気がするの」
「……ああ」
ヒロトはこくり頷いた。
「俺には止められたけど、そこから先は出来なかった。
ヒナタだからこそ救う事が出来た。今度こそ心からの笑顔を取り戻せたんだ。
だからこそ最後、彼女はあんな風に笑えたはずさ」
――そうだよね、クロヒナタさんはきっと――
私は彼女にとって、出来ることは出来たんだって。そう思えたから。
「――帰ろうか、僕達の現実に。
そして彼女の事も話すよ。偽物なんかじゃない、きっと本物だったもう一人の、ヒナタの事を」
そう、ヒロトは私に言う。
「うん。色々あったけど……一緒に帰ろう、ヒロト」
私が眠っている間に起こった大事件。
それはヒロトたちみんなの――ビルドダイバーズの力で、解決したんだ。