【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い―   作:双子烏丸

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Endroll 1/2 それからと、メイの邂逅(Side メイ)

 ――――

 

「本当に、ここにはいつ来ても飽きないな。

 珍しいガンプラだってあるし、バトルだけじゃないガンプラ本来の楽しみ方って言うか……ただ見て回るのもいいな」

 

 GBNのエリア、その一つでもあるぺリシアエリアの砂漠。

 砂漠に中にある中東風な町ではダイバー達の作ったガンプラが数多く展示され、エリアの特色の一つになっている。

 今、私とカザミ、それにパルの三人はぺリシアエリアにそれを見に来ていたんだ。

 

「そうだなカザミ。前来た時にはなかった、新しい作品も多くあるからな」

 

 私たちがいる広場には、幾つも展示されたガンプラが立ち並びそれに、それを観に集まっている大勢の人の姿も。

 

「ちなみにパルは何か気になった物でもあったのか。さっきから私たち以上に観ているが」

 

 どうも一番楽しんでいる感じのパルの様子。私が気になって聞いてみると。

 

「はい! 色々ある皆さんのガンプラ、どれも……その人なりの愛があるって伝わります」

 

 目をきらきらさせてそう言うパル。

 

「ちなみに今気になっていたのは、あそこのSDガンダムフォースの主人公、キャプテンガンダムのガンプラです、

 SDガンダム、やっぱり好きなジャンルですから」

 

 キャプテンガンダム、パルの視線の先にある人間大で三頭身の、科学的なアーマーを身に纏った感じのガンプラがそれだろう。

 するとカザミもこんな事を。

 

「へぇ! 確かにパルらしいと言えばパルらしいな。

 ちなみに俺はあっちのガンダムアスクレプオスも気になるな。あの完成度は旧キットと思えない、MGに匹敵する出来だぜ」

 

 カザミの言うガンダムアスクレプオスは、キャプテンガンダムの少し右横に置いてあるガンプラだ。

 被り物のようなバックパックを背に、クロ―のようなパーツが装備された大型の両肩アーマーが特徴的なガンダムアスクレプオス。確かWガンダムだったか、その外伝である「G-UNIT」と言う名前の作品に登場する機体だと聞いた覚えがある。

 

「カザミの言うガンプラも、良い出来だな。……いや、やはり全部良い物だ。

 みんながそれぞれ想いを込めて出来上がった想いの結晶。――それは同じだと分かるから」

 

 どれもみんなが丹精を込めたもの。だからこそ素晴らしいと私は思う。

 そう考えていると、ふとパルがある話を振った。

 

 

 

「そう言えば、メイさんは今日もデータの解析作業でしたよね。

 ……イヴさんを復元するための。調子はどうでしたか?」

 

 パルの言う通り、私はついさっき解析から戻って、ここぺリシアエリアで二人と合流した所だ。

 GBNでは消滅したELダイバーであるイヴを復活させようと頑張ってはいた。――けれど。

 

「状況は変わらずさ。解析、復元作業は殆ど進む経過はない。

 やはり、電子生命体の完全復元は厳しいみたいだ」

 

「そう……ですか、残念です」

 

 GBNの運営も努力はしているけれど、実際は難航以前にほぼ進んですらいないのが現状だ。

 これではまともに形になるのさえ数年、それ以前に計画そのものが頓挫する事も考えられるみたいだ。

 

「まぁ――あまり期待はしない方がいいかもしれないな。

 一度消えた物が再び戻ると言うのも、むしの良い話、何だろうな」

 

「ヒロトが話していたイヴ、もしかすると会えると思っていたんだけどな。

 でも、そう言われるとどうしても、悲しいものだな」

 

 パルもカザミも残念がっている。私も気持ちは分かる、けど――。

 

「そう悲しむ事でもない。覚えている限り、イヴはみんなの中に生きているものだ。

 本当に消えてしまう事なんて、ありはしないのだから」

 

 

 

 ……と、そうだった。

 

「ちなみにヒロト達とは、まだ会っていないのか?」

 

 私はカザミとパルに聞いてみる。どうも気になっていた事だったからだ、けれど二人の答えは。

 

「いいえ、今日はまだ。メイさんの方こそ会っていないんですか?」

 

「俺もメイと一緒かと思ったぜ。それこそ解析作業とか、ヒロトはついて来なかったのか?」

 

 成程。二人がそう思うのも無理はないか。

 

「残念だが、私もまだヒロトとは会っていないんだ。

 解析も私は一人でだ。てっきり二人といるかと思ったが、どうやら違うみたいだな」

 

 ふむ、今日も別行動か。

 確かにビルドダイバーズとして共にGBNで行動もするけれど、この頃ヒロトは少し変わったみたいだ。その理由だって……私たちは知っている。

 カザミは可笑しそうに笑うと、私に。

 

「最近だとヒロトもヒロトで、色々あるみたいだしな。――何せ」 

 

 

 

 そんな時、少し離れた左横から知った声が聞こえた。

 そこに展示されているガンプラを挟み、向こう側から聞こえる――会話は。

 

「ねぇねぇ! あのガンプラは何て言うのかな?」

 

「あれはライジングガンダム、Gガンダムのヒロイン、レイン・ミカムラが使ったガンダムさ。

 必殺技が弓での一撃、必殺必中ライジングアロー…………ヒナタに似た感じかもな、機体も、パイロットも」

 

「うん? 確かに弓は得意だけど、パイロットも私と似ているの? ヒロト」

 

「まぁね。レインはGガンダムのヒロインなんだけど、彼女は作品の主人公、ドモン・カッシュの幼なじみだったりもする」

 

「幼なじみどうし……か。私たちと同じだね!

 それで、二人はどうなるんだろう? 一緒に幸せになれていたら、いいな」

 

「それは勿論。作中では互いに好意を抱いていたし、終盤の戦いではその想いを伝え合って、最後には結ばれたんだ。…………ヒナタ?」

 

「ふぇ!!」

 

「顔が赤いけど、大丈夫?」

 

「う、うん! 大丈夫だよヒロト! 私は、平気だから。

 ただ……ドモンさんとレインさんは結ばれたんだ。私たちは恋人になれたけど、ちょっと……その」

 

「あはは、でも気持ちは分かる。

 だから良ければ……俺たちも、そうなれたらって。――まだ先の話だろうけど、いつか」

 

「っ! ヒロトってば…………本当にそう思って、くれてるの?

 私だって……本当はね」

 

 

 

 

 聞こえて来る、そんな二人の会話。

 

 ――何だろうか。上手く分からないけれど、聞いている方もドキドキしてしまうような会話をしているな。

 いや、そもそもあの二人は――

 

「よぉ、ヒロトにヒナタじゃないか! まさかここで会えるなんて思わなかったぜ!」

 

 私がそう考えていると、カザミが勝手に向かい側にいる二人の元に行って声をかけていた。

 

「あっ! ちょっと、カザミさんってば!」

 

 いきなりのカザミの行動に慌てたパルも彼の後を追う。こうなったら、私も続くしかない。

 三人とも、向かった先にいたのは。  

 

 

 

 

「まさか三人ともぺリシアエリアにいたなんて、驚いたな」

 

 そこにいたのは、さっき話していた二人。正体はやっぱり――ヒロトと、それにヒナタの二人だった。

 

「やっぱりな! 声を聞いただけですぐに分ったぜ」

 

「……敵わないな、カザミには」

 

 ヒロトのすぐ隣にはヒナタもいた。寄り添うみたいに傍に、以前と比べていくらか距離感と言うか、関係性が変わったみたいなのが私でも分かった。

 

「みんなも来てたなんて私もびっくりだよ。――もしかしてさっきの話も…………聞いて、いたの?」

 

 ヒナタも顔を赤らめ、どきどきしている感じだった。

 

「えっと……人の話し声が混じって、僕達にはあまり」

 

「何言ってるんだパル、はっきりと聞こえてたじゃないか。

 ヒロトとヒナタがライジングガンダムやGガンダムの話をしながら、ラブラブな感じだったじゃないか」

 

「カザミさん!」

 

 私から見ても、今のは余計な事を言ったカザミが悪い。

 

「やっぱり聞こえてたんだ。――ううっ、恥ずかしいよ」

 

 おかげでヒナタはもっと赤くなって下を向いてしまった。

 

「……はぁ」

 

 そしてヒロトも恥ずかしそうに、頬を赤らめて顔を横に反らしている。

 あんなヒロトの態度も、私は初めて見た気がする。

 

「カザミさん、ここは黙っている所なんですよ。デリカシーがないと言うか」

 

「悪かったって、本当に。――すまねぇヒロト、それにヒナタも」

 

 パルに諭されてカザミは謝る。

 

 

 

 ――そう、もう幾らか前になるが、ヒロトとヒナタは互いに想いを伝え合って恋人同士になったらしい。

 幼なじみとして仲が良いのは知ってはいたけれど、それからはそれ以上に二人のは親密になった感じだ。私たちもヒロトの仲間としての絆はあるけれど、それとはまた違う特別な……そんな関係に。

 

「確かに、カザミやパル、メイまでもここにいたのは俺も驚いた。

 けれど心配しなくても気にしてなんていない。……むしろ、せっかく会えてよかったって思っているんだ」

 

 そんな風に笑って言うヒロト。

 私たちだって、勿論そうだ。私はヒロトにふっと、表情を緩めて言葉をかける。

 

「ヒロト達も楽しそうで何よりだ。――もし良かったら、今から一緒に高難易度ミッションなんてどうだろうか。

 せっかくビルドダイバーズの全員が揃ったんだ。みんなで……どうだろうか」

 

 こうして揃ったのも何かの縁だ。私はそう誘ってみる。……けれど。

 

「悪いメイ。今日は一日はヒナタと二人でGBNで過ごすって約束したんだ」

 

「ねぇヒロト、気を遣わなくても私は別に大丈夫だよ。

 今日はみんなででも。……私とは後で時間がある時でも構わないよ」

 

 ヒナタは横でそう言うけれど、ヒロトは首を横に振って彼女に。

 

「気なんて遣ってない。俺が、ヒナタとそうしたいって思っているから。

 ――と言う事でみんな、また別の機会に誘ってくれたら嬉しい」

 

 ――そっか、ヒロトがそう言うのなら、これ以上引き留めるのも野暮と言うべきか――

 

「分かった。私たちは私たちで構わないとも、だからヒロト達は――」

 

 

 

 その時、私は妙な気配を感じた。

 

「……またか」

 

 それは私たちよりいくらか離れた、目立ちにくい物陰から。私は視線と気配を感じた。

 

「メイさん? どうかなさいました?」

 

 態度を気にしたパルが、横から声をかけて来た。だからとっさに私は。

 

「いや、大したことじゃない。ちょっと知り合いの姿を見た気がしただけだ」

 

 そう言ってごまかす事にした。

 

「――それじゃあ、俺たちはそろそろ行くよ。

 ヒナタと一緒に行くと決めていた場所があるから、今から」

 

「了解だ! ならまた次の機会にな、ヒロト。目一杯楽しんで来てくれよ」

 

 ヒロトとカザミはそう話す一方で、パルとヒナタも。

 

「ヒナタさんも良かったですね。

 ずっとヒロトさんの事、好きだったみたいですから。今更かもしれないですが、お幸せに」

 

「うん! ありがとうパルくん!

 やっぱり私、今がとても幸せだって……そう思うから」

 

 

 

 そして、ヒロトとヒナタの二人は一緒に、私たちの元から去って行った。

 

「ははは、何だか羨ましいな。ヒロトにはああして良い恋人が出来たなんて」

 

 カザミの言葉に、パルも頷くと。

 

「はい! ヒナタさんも、何だか凄く嬉しそうみたいでしたから」

 

「俺たちと一緒に過ごす機会は……そりゃ少し減るかもしれないけどさ。やっぱ、二人のあんな感じな所を見ていると、応援したくなっちまうよな。

 ――メイもそう思うだろ」

 

「……ああ」

 

 彼に話を振られて私もそう答える。……けれど。

 

「なぁカザミ、それにパルも」

 

「ん?」

 

「どうかしましたか?」

 

 不思議そうにする二人に、私はこう伝える。

 

「すまないが用事が出来てしまった。少し離れさせてもらって、構わないか。

 大丈夫。用事が済み次第すぐに戻って来るから」

 

 そう言えば、ミラーミッション騒動では私が勝手に出て行ったせいで迷惑をかけてしまってもいた。

 だからか、いくらか心配しているみたいだったけれど……。

 

「分かった、今回はちゃんと無事に戻って来てくれよな。

 それまで、俺たちは待っているからさ」

 

「――ありがとう」

 

 カザミも、それにパルも、私の勝手を許してくれるみたいだった。

 

「それじゃあ、私は。……すぐに戻って来るから」

 

 私は二人にそう伝えると、離れて一人、別行動をとる。

 どうしても――気になった事があるから。

 

 

 

 ――――

 

 私はただ一人、ぺリシアエリアの町中を進む。

 大通りから、そこから狭い裏通りを抜けて私は、ある人影の後を追う。

 

 ――まだ確信はない。けれど、あれは恐らく……いやきっと――

 

 途中見失いそうになりながらも追跡を続ける。狭い通りを駆け抜けて追う道の先には、眩しい光が零れるのが見えて……その先には。

 

 ――町の外に、出て来てしまったか――

 

 通りを出た先に広がっていたのは、一面の砂漠景色。追っている間に私は、こうして町の端にまで来てしまっていたわけだ。

 けれど、町外れのせいか辺りには人の姿はない。まさかここまで来て見失ったのかと、私がそう思った瞬間。

 

 

「あらあら、こんな所にまで来るとは物好きね。まさか砂漠景色でも……見に来たわけじゃないでしょうに」

 

 声は後ろの、それに真上から聞こえた。

 振り返り見上げるとそこには――少し高い屋根に腰かけて、私を見下ろす誰かの姿があった。

 

「お前は……」

 

 ダイバールックはガンダムSEEDの一組織、確かザフトと言ったか、その黒いパイロットスーツ姿で、ここぺリシアエリアにはお世辞にも似合うと言えない格好だ。けれど体つきからして、恐らく相手は女性だと言う事くらいは分かる。

 それにこんな砂漠でもヘルメットまで被って、顔もバイザーを降ろして見えもしない。普通だったら他の個性的なダイバールックに混ざって気にも留めすらしないだろうけど、こうして見れば……どこか怪しさを感じずにはいられない。

 

「ワタシを追って来たんでしょ? 誰だか知らないけれど、ご苦労なことね。

 それで、一体何の用かしら?」

 

 声もヘルメット内に音声加工機能でも取り付けているのか、若干人工的な聞き覚えのない声だ。

 けれど、相手の言い回しは、確かに覚えがあった。それに……だ。

 

「ヒロトとヒナタの事を見ていたのは知っている。

 それも、私が気づいただけで何度も……遠くから」

 

「……気付かれないように注意はしていたけれど、よく分かったわね。

 さすが……ELダイバーは勘が良いわ」

 

「私の事は知らないと言ったのにELダイバーと気づくとは、そっちこそ勘が良いんじゃないか。

 ――本当は知っているんだろ。私の事も、ヒロトとヒナタの事も」

 

「……」

 

「あれからも二人が気になっていたんだろ。……クロヒナタ、ヒナタとは別の、もう一人の……ヒナタ」

 

 

 

 あの時ヒロトに敗れて、消滅したはずの彼女。けれど、もし本当はまだ生きているとするなら。

 

「ふっ」

  

 相手は僅かに笑い声を響かせると、両手をヘルメットにかけるとそのまま、ロックを外す音を立てて外した。

 ヘルメットから――現れた顔は。

 

「お見事、メイ。……まぁ貴方には分かって当然かも、しれないけれど」

 

 髪と瞳の色は本物より暗い、それにダイバールックのヒナタと比べて髪は短い。……そうだな、髪型は現実世界での彼女と同じ感じだろうか。けれどその顔はまさに――ヒナタそのものだった。

 

「やっぱりそうか。恐らくあの時、ヒロトとヒナタの前で消えた方は……偽物だな。

 二度も私はそれを目にしたんだ。三度目だって、あってもおかしくない」

 

 クロヒナタはふふっと微笑んで、屋根の上からひらりと飛び降りる。

 そして私の目の前に着地すると、真っすぐとこちらを見据えると。

 

「その通り。最もグランドクロスキャノンの一撃で、ワタシだって随分ダメージを受けたのよ。

 更にミラーミッションのシステムからも切り離された状態で、自分自身の持つ機能のみを使って……リライジングガンダムのコピー、その残骸のデータを変化して目くらましの身代わりを、ね。

 骨が折れたし、出来たコピーは不完全で崩壊するしかなかったけれど……消えたと見せかけるには十分だったわ」

 

「自分の消滅を偽装して、本物はGBNに潜んでいたわけか。

 やはり――」

 

 恐らくこんな事だろうと、予想はしていた。

 

「けれど、GBNに潜んでどうするつもりだった。あの事を忘れ一ダイバーとして、この世界で大人しく生きていくつもりだったのか」

 

「ククククッ、まさか!」

 

 クロヒナタは可笑しそうに高笑いをすると、私を鋭く睨んで言った。

 

「ワタシはねぇ、諦めてなんていないのよ。機会を見て再び事を起こすつもりに決まっているじゃない。

 ムカイ・ヒナタを傷つけた何もかも、メイ、貴方やイヴ、ELダイバーもそして――クガ・ヒロトも、許すつもりなんてない。

 いつかまた戻って来て、その報いを受けさせてみせるわ」

 

「……相変わらず、まだそんな事を言うのか」

 

 彼女の存在は、もしかすると危険かもしれない。GBNにとっても、私たちにも。

 

「当たり前じゃないの。私はムカイ・ヒナタの事を、強く想っているのですから」

 

 クロヒナタの態度は相も変わらずだ。彼女は私に敵意を向けたまま、続ける。

 

「あまり驚いていないわよね。ワタシが生きているかもしれないと、予想をしていたんじゃなくて。……おそらく、ワタシの憎しみだって消えていない事だって」

 

「――それは」

 

「だから、ね。GBNの運営にはもう報告したかしら。

 ワタシを放っておくと危ない事だって分かるでしょう、メイ」

 

 彼女が浮かべる冷たい笑み。確かに言う通りだろう、中身は変わる事は恐らくない、それだけムカイ・ヒナタの存在は……このもう一人のヒナタにとって大きいのだから。

 最善の方法は、クロヒナタの存在していると、予測の段階でGBNの運営に報告する事。そして対策を考えて早急に彼女を捕獲――完全消滅させる事が望ましいと。

 

 

 

 彼女に言われなくても、それくらい私でも分かる。

 

 ――けれど私は――

 

「クロヒナタ、お前の事は誰にも言ってない。

 そしてこの先だって、誰にも言うつもりはない」

 

「――は?」

 

 私の言葉にクロヒナタは呆れた表情を見せた。続けて、彼女の顔には怒りまでも浮かぶ。

 

「まさか、同情をしているつもり。……ふざけないで欲しいわね」

 

「違うとも。私はただ、そうする必要なんてないと思っただけだ。

 きっともう何かに、誰かに危害を加える事はしない――だから」

 

 私にはそんな自身があった。だからこそ、クロヒナタにはこれ以上何かするつもりはない。

 

「ワタシの言った事、聞いていなかったのかしら。

 許さないと――そう言ったのよ。なのに……」

 

 彼女の想いは、私なりに分かっているつもりだ。

 

「聞いていたとも。確かにお前は憎み続けているかもしれない。

 ただ、きっと手は出すわけがない。何しろクロヒナタはこれまでヒロトとヒナタの事を見ていただけだった。何かしようとは、一切していなかったじゃないか」

 

「ははっ、おめでたいわね。

 そんなのは様子を伺って、裏で準備を進めているだとか考えられないの?」

 

 クロヒナタは私を嘲笑うようにする。けれど私はそれに、首を横に振って否定する。

 

「いいや……行動を起こす気はないはずだ」

 

「ならどうしてそこまで言えるのよ」

 

「それはお前が――ヒナタの幸せを心から望んでいるからに決まっている」

 

「っ!」

 

 途端にクロヒナタの表情に動揺が走る。私は更に……彼女にこう伝えてみせる。

 

「分かるだろう、ヒロトとヒナタの想いが通じ合っているのが。

 これまでは知らないけれど今は……これからはきっと、互いが一番の相手として――恋人として共に幸せになれるはずだ。

 だから、クロヒナタが今更何かする必要は、どこにもない」

 

 きっともう、何かするつもりはない。それでもクロヒナタは依然、余裕を保ちながら。

 

「……ふっ、そんな戯言など。

 随分と都合の良い考えだけど、本当にそんな保障でもあるわけ?」

 

「当然だ。何より――あのミラーミッション騒動で取った行動が、一番の証拠だ」

 

 

 

 ――そうだ。私には思う所がずっとあった――

 

 私はクロヒナタに言葉を続ける。

 

「お前はミラーミッションでヒロトに、私たちに挑んで来た。復讐とそして何より、ヒロトの意識を乗っ取って成り代るためにだ。

 ……ただ、ずっと私は…………疑問に思っていた」

 

「疑問、ですって?」

 

「ああ。確かにクロヒナタ、お前は目的を果たすために本気だった。

 ――けれど一方で、その行動には無駄が多かった。

 ヒロトを乗っ取る事が一番の目的なら、どうしてビルドダイバーズの仲間も共にするのを許した。それに、彼とわざわざ一対一で戦った事だってそうだ。

 初めからヒロト一人だけ誘い出して、多数のコピーガンプラでねじ伏せれば済む事だったじゃないか」

 

「ははっ……復讐だって目的だったのよ。

 仲間を連れて来させたのだって、一対一で相手したのも…………クガ・ヒロトを苦しめるためなのだから」

 

「……だとしても、ミラーミッションを支配したのならもっと上手く出来たはずだ。

 なのに、実際はどの場面においても、ほんの僅かだけれど勝機はあった。

 私たちが相手したコピーガンプラの数も、どうにか切り抜けてヒロトの助けに向かえる程だった。例えギリギリだったとしてもみんなが全力を出せば、それを支える強い想いさえあれば、切り抜ける事が出来たんだ。だから――」

 

 そして私は、こう続けた。

 

「本当はどこかで、ヒロトに自分を打ち負かさせたかったんじゃないのか?

 彼の想いを喚起して試すために、ああまでしてしたのではないか……と」

 

 

 

「――」

 

 クロヒナタは沈黙していた。何を考えているか分からないような表情で……けれど。

 

「――勝手に、そう思っていればいいじゃない」

 

 一言だけ言うと彼女は私から背を向けた。

 ただ、『違う』とは否定しなかった。憎しみはあったとしても、もしかするとどこかで……ヒロトを信じたかったのかもしれない。

 

「クロ……いいや、ヒナタ」

 

「無理しなくてもクロヒナタ、でいいわよ」

 

 彼女は素っ気なく言うと。

 

 

「……そうね。ムカイ・ヒナタにはクガ・ヒロトと一緒にいるのが、とても幸せなのだから。

 だから――これでいいのかも、しれないわね」

 

 私に背を向けたまま、クロヒナタはほんの小さく……呟いたのが聞こえた。

 そしてほんの少し横顔をむけて、視線を僅かに私へと向けると、こう続けた。

 

「話はもう、これで終わりだわ。

 ……十分よ。ワタシは邪魔者みたいだし、そろそろ消えるとするわ」

 

「これで、さよならと言う事か」

 

 彼女は少し頷いて、再び前を向いて私から視線を外す。

 

「ええ、そう言う事よ。

 けれど忘れないで頂戴。もしまたクガ・ヒロトがムカイ・ヒナタを裏切るような真似を、傷つけでもしたなら――その時には」

 

「心配しなくても、ヒロトなら大丈夫だ。

 きっと、これからもヒナタの事を幸せにするはずだ」

 

「……私もそうだと、心から願っているわ」 

 

 一歩、二歩、そう言ってクロヒナタは砂漠へと歩みを進める。

 

「待て!」

 

 とっさに私は呼び止めた。まだ、彼女に言い残した事があったから。

 

「……」

 

「せっかくGBNに出れたんだ。だから、お前もヒナタとしてじゃない、『お前自身』として新しい生き方を見つけて欲しい。

 確かに生まれは違うかもしれない。けれど私たちは同じ、電子の世界で生きる命であることには…………変わりなんてしないのだから」

 

 これはどうしても、会って伝えたかった事だった。お節介かもしれないけれど、けれど同じ立場の命として。

 ELダイバーを憎んでいるクロヒナタ、言えば憎しみを向けられる事も覚悟していた。……けれど彼女は背を向けたまま、軽く肩をすくめただけで。

 

「まぁ――考えておくわよ」

 

 これが言い残した言葉だった。ふいに彼女の周囲に砂が大きく舞い、視界が遮られてしまう。

 砂が目に入らないように手で覆い、それが収まった瞬間には――もう姿は消えていた。

 

 

 

 ――彼女は……行ってしまったのか――

 

 少しの間、私はそこに立ち尽くしていた。けれどすぐに、ある事を思い出す。

 

 ――カザミ達も、そう言えば待たせていたな。今は早く戻った方がいいか――

 

 あまり待たせると悪い。来た道を戻ろうとしたけれど、ふともう一度振り返って、私は思う。

 

 

 ――これでみんな救われれば。それが一番、何よりだとも――

 




いよいよ次回が本編最後……完結になります。
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