【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い― 作:双子烏丸
まずは……現実世界での二人、告白からまだ日が経ってないある一日の話ですね
番外編その一 ヒロトのプレゼント(Side ヒロト)
今でも、ちょっと不思議な気分だ。
「――おはようヒロト!」
いつもの日常、俺が暮らすアパートの部屋を出て学校に行こうとするとヒナタが出迎えてくれた。
「ヒナタ、おはよう」
満面の笑顔で出迎えてくれる彼女に俺も、笑って返す。
「今日も学校に一緒に行こう。どんな授業があるか、楽しみだね」
いつものヒナタの明るい雰囲気。
俺はそんな彼女に――今まで、助けられた気がするんだ。
ヒナタと一緒に通学の道を歩く俺たち。
いつもの道、いつもの日常。……これまで通りの日々だけれど。
「……んっ」
「……」
通学路を歩く俺たち。けれど、その距離は今までよりも幾らか短く縮んだような感じで、互いにどうもドキドキする感じもする。
見るとヒナタの頬はいくらか赤くなっていた。それに俺も顔が火照る感じもする。多分、俺もヒナタと同じように……。
そんな中、俺の手がぎゅっと握られるのを感じた。
「えっ、ヒナタ?」
見ると隣で一緒に歩いていたヒナタが、俺の手を握って繋いでいたんだ。
「……いいかな?」
照れ恥ずかしがりながら、そう言う彼女。
「けど、今は通学中だ。……他だって見ているかもだし」
今は通学中で、道には俺たち以外にも学生の姿だってある。
同じ学校の同級生とかに、ヒナタとこうしているのを見られるのはその……恥ずかしくもあった。現に今だって微妙に、視線を感じているから。
「……だよね。ごめん」
しゅんと顔を伏せるヒナタ。どこか寂しそうに、彼女は俺から手を離そうと……。
「待ってくれ!」
瞬間、俺は離そうとしたヒナタの手を、掴んで引き戻した。
驚く彼女。俺は、相変わらず照れている……ままだったけれど。
「少しだけ……恥ずかしいけど俺も、嫌じゃないから。
だから、今日は繋いで行こう」
自分でもらしくないと分かっているし、それにどこか緊張している感じもするけど、俺は勇気を出してヒナタに言った。
彼女と繋ぐ手も、温かくて、それにドキドキする心音もかすかに伝わるのだって分かるから。
そんな俺にヒナタは、嬉しそうに表情を緩めると、一言
「ありがとう。とても――嬉しい」
――――
あれから結局学校に着くまで、俺たちは手を繋いだままだった。
不思議とまんざらでもない感じもしたけれど、でもやっぱり……それなりに恥ずかしかった。
――何しろかなり、クラスメイトにも見られていた気がするから。
だけど――
俺が手を繋いでいる間、ヒナタはずっと幸せそうで。
今までよく笑って、明るかったヒナタ。だったけれど、あんな風に幸せそうにしているのは、本当に最近になってからな気がする。
――俺とヒナタ、この前の事からかな。
あの出来事から、俺たちはただの幼なじみだけじゃなくて――
そう、あの時の『出来事』から……俺たちは。
今は学校の授業の最中。
高校二年と言う事で、大学受験だとかも視野に入れて教科も難しくなりつつある時期。
――だからこそ、もっとしっかり授業に取り組まないといけないけれど――
クラスは数学を受けている最中。机に向かって、先生の授業を聞いている。
けれど――上手く集中出来ない。今でも少しドキドキしていて、授業に集中してはいるつもりだけど、どうしても俺は。
理由はさっき手を繋いで登校した事。――も、理由の一つだけれど、もう一つあった。とても大切な……理由が。
――こんな時でも、俺はまだ。ヒナタはどうなんだろうか――
俺はそう思って、横目でちらとヒナタを見た。すると――時、同じように俺を見た彼女と視線が合った。
「――っ」
ヒナタのどきっとした顔。俺も多分、彼女と同じ顔をしたんだろうか。
俺はつい、これ以上見る事が顔を反らしてしまう。
――本当、俺たちはどうしたんだろうな。……こんなにも心が熱くて、変わってしまうなんて思わなかった――
参ったな。授業は受けていてもなかなか上手くいかない。
――幼なじみだけじゃない。恋人になって、こんなに……変わるものなんだな――
――――
「……おい、ヒロト」
休み時間に俺は、クラスの男友達と三人で話していた。
ヒナタは今、弓道部の後輩の相談に乗っているみたいで席を外している。そんな中で教室の隅で固まっての談笑だ。
「どうしたんだ?」
いきなり言われて不思議に思う俺に、二人ともニヤニヤとした顔を浮かべている。
「見たぜ! ヒナタと手を繋いで学校で通学している所を」
「それにさ、どうも少し前から二人ともドキドキしている感じだっただろ。
もしかして……ヒナタと付き合っているのか?
」
ある意味男子高生らしい会話。その内言われるだろうとは思ったけど、やっぱり……そう来たか。
俺は、この質問に。
「……ああ。実は、数日くらい前に告白して、それで――」
「マジかよ! 驚きじゃないか!」
すると友達の一人が、いきなり俺に肩を組んで来た。
「うわっと」
「何でもっと早く言ってくれないんだ。……水臭いじゃないかよ」
「それは……その、恥ずかしいと言うか、なかなか言える事じゃないだろ」
「気持ちは分かるけどさ、でも、とにかくおめでとうだヒロト!」
友達にそう言われて、勿論嬉しかった。けれど――俺は。
――まだ上手く、俺はヒナタに何か出来ているわけじゃないから。……だから――
俺は無意識にズボンのポケットを手で触れる。正確にはその中には、ある物を。
――だから少しだけ今俺が出来る事をしたい。ヒナタに贈りたいから、これを――
――――
それから午後からの授業も、俺たちは受けた。
相変わらずドキドキは……少し残ったままだ。何しろ今日これからヒナタに、したい事が残っている。そう考えると。
――ヒナタはもう、落ち着いているみたいだけど俺は、やっぱり――
……午後の授業も、上手く集中出来ないままだった。情けないかもだけど後でヒナタと授業の内容を復習出来ればな。
とにかく、そんな中で授業を終えて俺は教室を後にしようとする。……その前に。
「ヒナタ、一緒に帰ろうか」
俺はヒナタの所に行って、声をかける。
「ごめんね。ちょっと準備が出来てなくて、少し待っててほしいな」
彼女は机に残っていた教材と筆記用具を、いそいそと直してした。俺はそんなヒナタに……。
「それとさ、帰る前に少しだけ時間はあるか?
実はヒナタに――渡したいものが」
――――
夕暮れ時に学校の校庭端、校舎の壁の傍で……俺たちは。
「ここなら、二人になれるか。……家で渡しても良かったかもだけど」
「ううん――ここでいいの。ヒロトからのプレゼント、気になるから」
俺の目の前にいる、制服姿のヒナタは照れているようにもじもじしていた。
「でも、ヒロトが私にプレゼントを用意しているなんて、嬉しくてビックリだよ」
「ははは、ちょっとね。せっかく恋人になったんだから、記念に何かプレゼントでも出来ればなんて。
俺らしくないかもだけど」
「そんな事、ないよ。ヒロトはよく私の事を思って色々してくれたの、たくさん覚えているから
こうして……恋人になる前からずっと」
「ああ、確かにそうかもしれない。――けど」
これまではずっと、俺たちは幼馴染だった。けれど……今はそれよりももっと、特別だから。
「――とにかく、ヒナタにはこれを受け取ってほしい。気に入ってくれれば……いいけど」
俺はそう言って、ポケットから小さい紙袋を取り出してヒナタに渡した。
ヒナタはきょとんとした顔で俺から貰った紙袋を眺めている。でもとても幸せそうにしていて……彼女は。
「ヒロトからプレゼント……貰っちゃった。この関係になって初めてのプレゼント、嬉しいな!
中身が何なのかも、楽しみ」
俺から貰ったプレゼントの紙袋、それを大切そうに胸に抱き留めた。
「喜んでくれて何よりだよ。でも、良ければ袋の中身も、ここで見て欲しい」
「えっ、いいの? ……ここで?」
少し驚くヒナタに俺はもちろんと答える。
「ならヒロトの言葉に、甘えちゃおうかな。どんなプレゼントなのか気になってたもん」
ワクワクしながらヒナタは、紙袋をゆっくりと空けて、中身を取り出した。
半透明のビニールに入っていた中身……それは。
「これは、髪留め? それに……私のつけているのと、同じ」
俺がヒナタにプレゼントしたもの。それは、ヒナタが使っているものと同じ、でも全く新しいヘアピンなんだ。
「どうかな? ヒナタが使っている物に近いのを、あちこち店を探して回った。
その……さ」
今になってまたドキドキもし出して、少し言葉に詰まる。けれど俺は、こんな風に彼女に伝える。
「言っただろ、恋人になった記念に何かプレゼントでもって。
それで俺も考えて、こうしたアクセサリーがいいかな、なんて。
見ての通り今までヒナタがずっと使っていた髪留めと同じ物。ヒナタと一緒なのは前から同じだから、でも関係は新しくやり直す訳だ……これから恋人同士として。
それで…………新しく髪留めを、なんて」
そこまで言うと自分でも恥ずかしくなってしまって、俺は少しヒナタから視線を逸らしてしまう。
「はは、やっぱりこうした事、慣れないな。
もっと、ずっと上手に伝えられればいいけれど。今はこれが……精一杯だ」
こんな気分なんて初めてだった。緊張している俺だけれど、ヒナタはそんな俺にそっと微笑むと、自分の付けていた髪留めを外してポケットにしまう。
ふわっと舞う前髪。そして、俺が贈った髪留めを取り出すと、代わりに髪を留めた。
「……ふふっ、さっそくつけてみたよ。
どう? ちゃんと似合うか、ヒロトに見て欲しいな」
うながされて俺は、ちゃんと彼女に視線を向け直した。
するとヒナタは自慢げに付けた髪留めに軽く触れると、目の前でくるりと一回転した。彼女の亜麻色の髪と、制服の裾やスカートがふわりとたなびく。
それに彼女の嬉しそうな顔。俺はそんなヒナタに目を奪われていたんだ。
「どうかな。似合っているかな、ヒロト」
目を奪われて、一瞬茫然としていた。けど俺は彼女の言葉にはっとすると、とっさに。
「ああ――綺麗だ」
そんな風に答えてしまった。
勿論髪留めは似合っている。けれど今言った、『綺麗だ』って言葉は…………ヒナタの事が。
「ふふっ、嬉しいよ。それに――」
ヒナタは満足げに言うと、こんな風に俺に続けた。
「ヒロトの気持ち……いまでも十分に、伝わっているよ。もう胸の中が、一杯なくらいに!」
彼女はにこやかに、そして眩しい笑顔を見せた。
――こんなに――
ヒナタの笑顔、こんなに眩しかったなんて。今更ながらに俺は思ったんだ。
彼女の笑顔、とてもかけがえがなくて、ずっと傍で見ていたいって。
俺は――今になって、強く。
――ヒナタ、これからはもっと、君の事を――
言葉にはしなかった。けれど心の奥底で、俺はこれからのヒナタとの事に……思いを馳せた。