【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い―   作:双子烏丸

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番外編その四 ワタシの想いと、葛藤 その2(Side クロヒナタ)

 アニマルフェスティバルの広場にいたワタシは、着ぐるみ姿のままベンチに座って沈黙する。

 

「……」

 

 あまり何かする気にも起こらない、気分が複雑すぎて。大体、どうして。

 

「どうして……まだ貴方達がワタシについて来ているの」

 

「だってさ、僕達も」

 

「助けられたままじゃ――いられないから」 

 

 ワタシの前にはさっき助けた二人、確かフィオとティオと言ったわね。しつこくワタシに付きまとっていたの。本当、嫌になるわ。

 

「そう言うのいいからワタシの前から消えてよ。フィオならまだしも、ティオ。貴方のような……ELダイバーは大嫌いなのだから」

 

 ELダイバー、GBNにて出現した電子生命体。ではあるけれど……ワタシはその存在が嫌いで堪らないの。

 

「どうして普通のダイバーとELダイバーがそっくりなのか、二人がなぜ双子の兄弟としているのか分からないわ。

 けれど、これ以上ワタシに構わないで頂戴。でないと……」

 

 けど、ELダイバーは嫌いで堪らないけど、この二人……フィオとティオ、人間と電子生命体がどうして兄弟の真似事をしているのか気にもなった。ヒトの感情で言うのならそうね、『好奇心』と言うのかしら。

 

「……けど」

 

 追い返すくらいいつでも出来る。確かに嫌いでだけれど、ようはワタシの気まぐれだわ。ここは少しだけ我慢してあげる。

 

「フィオに、ティオだったわね。

 なら――少しだけ付き合ってもらって良いかしら。GBNには慣れていなくて、ね。……楽しんでみたいのよ」

 

 ワタシの答え、二人はそれを聞いて笑顔になる。

 

〈あはっ、そう来なくっちゃね! でも……〉

 

〈そう言えば名前を聞いていなかったね。君の事、何て言えばいいのかな?〉

 

「――ワタシは」

 

 名前……ワタシの、名前。

 本当は名前なんてない、コピーされた情報の塊でしかない。今まではワタシの元になったムカイ・ヒナタ、もう一人の彼女であると名乗りはしたけれど……もはやワタシにはその資格はない。本当に名無しなのよ。

 でも、あえて名乗るなら。

 

「ワタシは……『クロ』。ただのクロと、呼んでくれて構わないわ」 

 

 ――――

 

 それからワタシ達はアニマルフェスティバルを後にして、別のエリアへと移動しようとしている所だった。

 

〈どこに行くのがいいかな。……やっぱ楽しむならまたイベントをやっているエリアや場所がいいかな、ティオ〉

 

〈フィオの案もいいね! 後さ、ミッションとか受けるのもいいかも。だってGBNと言ったらガンプラバトルって思うし、探せば面白いミッションバトルもあるはずだよ〉

 

〈うーん、迷うな。クロさんはどうしたいかな?〉

 

「……」

 

 ワタシは沈黙していた。

 

〈それにしても、クロさんのダイバー姿……ザフトのパイロットスーツに、ヘルメット。素顔は見せないんだね、どうなっているか気になるけど〉

 

「……」

 

 ティオの言葉に反応する気になれなかった。すると、今度はフィオが代わりにカバーするように話す

 

〈ああっと、もしかして今の気に障ったら、ごめん。触れちゃいけない事だったかもなのに。

 それより……クロさんが使っているガンプラはリーオーなんだね。バインダーガンの剣にクロスボーンガンダムみたいなX型のバックパック、恰好良いよ〉

 

「……それはどうも」

 

 ワタシはガンプラなんて持っていない。今使っているこのリーオーはGBN上に配備されていたリーオーNPDを一機、データを乗っ取って自分のガンプラとして登録したものよ。だってGBNではガンプラがないと不便でしょう? その際外見も元のリーオーに戻し、いくつか武装も取り付けた代物。……けれど。

 

 ――かなり気分が悪いわ。正直目茶苦茶、反吐が出る程に。

 まさか二人が、あんなガンプラを使っているなんて――

 

「褒めて頂いて光栄だけれど、残念ね。ワタシは正直……貴方達のガンプラは大嫌いよ。

 吐き気がする程悪趣味ね…………『コアガンダム』だなんて」

 

〈〈……〉〉

 

 ワタシの言葉に、二人は複雑な態度を見せる。

 

「そのガンプラ、クガ・ヒロトのオリジナルのコアガンダムをモデルにして作ったんでしょう? 本当、最悪だわ」

 

 

 ワタシがリーオーを使っているのに対して、二人が使っているのは、『コアガンダム』。あの男の物とは違って頭はⅩガンダム……だったかしら。それの登場機体、Gビットの頭にバックパックには一対のウィング型のバインダーを装備している。

 ティオとフィオ、二人とも同じガンプラで、色もどちらとも金色。例えモデルにして作ったものだとしても、このワタシの前にまた、コアガンダムなんて……よくも。

 

 ――あれはクガ・ヒロトと、イヴとの忌まわしい思い出の象徴――

 

「――彼女を裏切って、平気で木偶人形ごときとあんな物を作って。……醜くてたまらないわ。プラネッツシステムもそれを作ったクガ・ヒロトも…………大嫌いで、憎いのよ」

 

〈クロさん〉

 

「……」

 

 ここまで話して、自分でもはっとした。落ち着いたワタシは二人に対してこう続ける。

 

「こんな事、貴方達に言ったところで仕方ないのにね。悪い事を言ったわ」

 

〈ううん。クロさんの事、苦しめてしまった僕達も悪いから。知らなかったから、君がコアガンダムをそんなに嫌っているなんて〉

 

「でも……どう? これでワタシの事も今度こそ嫌いになったでしょう。もうワタシに構う事はない、これで――」

 

 だけどおかげでこの二人と別れるきっかけも作れた。誰かと仲良しこよしなんて柄じゃないのよ。これで別れられると、ワタシは自分のリーオーを動かし離れようとしたけれど。

 

〈〈待って!〉〉

 

 二人の乗るコアガンダムは同時に、ワタシのリーオーの片手を掴んで引き留める。

 

「えっ」

 

〈あのさ、やっぱり僕達は放っておけないよ〉

 

〈助けられた借りもそうだけど……クロさんは何だかずっと辛そうな感じだから。だからなおさら、楽しい思いをして貰いたいんだ〉

 

 二人ともそう言う。……けれど、分からない。どうしてフィオとティオはそこまで、ワタシに。

 

「ワタシに、どうして」

 

〈とにかく行こう、クロさん! 悩んでいる事なんて少しの間忘れて……〉

 

〈僕たちといる間は、楽しめるようにするからさ!〉

 

 断っても良かった。むしろ、そうするつもりだったのに。

 どうして……なのだろうか。本当に分からない、理解に苦しむ。

 

 

 

 ――――

 

 それからワタシは二人に連れられてGBNをいくらか巡った。

 街で買い物に付き合ったり、あちこちのエリアの名所を巡って、ちょっとしたイベント事に参加したりで……ティオとフィオは自分達が知っている『楽しい場所』、『楽しい事』をワタシに教えてくれた。

 

 ――本当に色々と、よく知っているものね。それに二人とも楽しそうで――

 

 ワタシに楽しい事を教えようとしてくれる、ティオとフィオ。二人も楽しんでいるみたいだけれどワタシは……そんな風にはなれなかった。楽しいだとか、嬉しいだとか、ワタシにはいまいち分からないまま。

 

 ――けれどワタシは上手く楽しめもしない。ムカイ・ヒナタの事ではない、本当にワタシ自身……自分自身の事で喜んで、楽しむ事なんて――

 

 ワタシはもう一人の『自分』だった――今でも誰より大切な人、ムカイ・ヒナタの為に全てを捧げた。彼女の為に怒り、悲しみ、そして憎んで。ワタシにはその感情ばかりなのだから。今はもう違う。結局彼女のために何一つ出来なくて、失敗して、もう一人の『ムカイ・ヒナタ』としての己である資格を無くして何者でもなくなったとしても。ワタシの在り方は簡単に変わるものではないのだから。

 

 

 

 ――――

 

「ねぇねぇ! こんなのにも乗れたりするんだ!」

 

 そう言ってティオが乗っていたのは、大きな二本足の乗り物。人一人が乗れるくらいの大きさで、多分二、三メートルくらいの全長の、モビルスーツよりもずっと小さい。

 

「これは、何?」

 

 草原の広場では今ティオが乗っているような二足歩行の乗り物をここでは乗り回せるイベントがあるらしく、近くの小屋では乗り物の貸し出しが出来るみたいで、現にティオ以外にも周囲には他のダイバーが乗り者を草原で走らせていた。

 ワタシはあれが何なのか、隣にいるフィオに聞いた。

 

「あれは、ほら……名前までは覚えてないけど、『Gのレコンギスタ』に出て来る二本足の小型機械さ。確か三、四話くらいに出る機体だよ」

 

「ふーん」

 

「クロさんもせっかくだから乗ってみなよ。きっと、楽しいからさ」

 

「フィオの言う通り。モビルスーツと違って風を身体に感じる気持ち、とても良いよ!」

 

「……ワタシは別に」

 

「いいからいいから! 何事も挑戦だよ、クロさん。僕は降りるからさ、ちょっとだけでも乗ってみて!」

 

 二人に半ば無理やり勧められて、ワタシはティオと入れ替わりで二足歩行機へと乗り換える。

 

「どう? クロさん、動かせそう? 何なら僕が教えようか」

 

「……必要ないわ。ELダイバーの助けなど」

 

 例え二人で行動を共にしていると言え、フィオはともかくティオは……ELダイバーへ向けるワタシの気持ちは変わらない。嫌いで憎いままなのだから。

 手なんて借りない。ワタシは一人でも十分なのだから。

 

 ――これは、ガンプラを動かすのとは少し違うわね。でも操作そのものは全然簡単そうだわ。多分……ここを、こうすれば――

 

 操作系統を確認し、ワタシは乗り物を動かす。一歩、二歩。ちゃんと自分で考えて動かして、確実に歩みを進める。

 

「すごいよクロさん。僕よりも早く操作に慣れるなんて」

 

「ふっ、ELダイバーなんかには負けないわ。ワタシにかかればこれくらい」

 

 ちょっとだけ、良い気持ちがした気がする。よく分からないけど、自分で動かせて達成感と風を感じて気持ちが良い、それに単純に……面白い、なんて。

 

「ははっ、クロさん」

 

「……どうしたのよ。そんな笑った顔で、ワタシがおかしいって訳?」

 

 見るとフィオも、ティオもワタシを見て笑顔を見せている。気になって聞くと、二人は。

 

「あのさ、さっきヘルメットのバイザーからクロさんの口元が見えたんだけどさ」

 

「ほんの少しだけど――笑ってたんだ。クロさんもあんな風に笑うんだね!」

 

「なっ!? ……えっ!」

 

 思わない言葉に、頭を強く殴られるようなショックを……驚いてしまったの。その拍子で操作を間違えて、ぐらりと揺れたかと思うとそのまま一気に右横に、二人がいる方へと傾いて倒れる。

 

「危ないわ! 二人ともっ!」

 

「うわわわっと!」

 

 フィオとティオが離れたと同時に、二足歩行機は盛大に転倒した。ワタシもその勢いで草原に投げ出されてしまう。

 

「大丈夫、クロさん! それに……」

 

「くっ……あはははははっ!」

 

 本当なら無様なはずなのに、いつの間にかワタシは大笑いしていた。何だかおかしく思えて、それでつい。

 

 ――変な感覚ね。どうしておかしいのか、分からないのに――

 

「あの、クロさん?」

 

「はは……っ、どうしたの」

 

「その、さっき倒れた拍子でクロさんのヘルメットが、外れて」

 

「!!」

 

 言われてワタシははっとした。投げ出された勢いで、頭に被っていたヘルメットが取れて素顔が露わになっていた事に、今更ながら気づいた。

 ワタシは慌てて傍に転がっていたヘルメットを手に取って被り直す。それから、後ろにいた二人に顔を向ける。

 

「……ワタシの顔、もしかして見たの」

 

 フィオとティオはワタシの質問に、揃って首を横に振る。

 

「ううん! 見てないよ、はっきりは」

 

「後ろ姿と、横顔がちらって見えたくらいだよ。でもちゃんと見えてはいなかったから。……ただ」

 

 見るとティオは、少し頬を赤くして言葉を考えているみたいだった。

 

「どうしたのよ、ティオ? 言いたい事があるなら」

 

「えっと、その……さ。クロさんの素顔、隠す程かなって。だって顔は普通の女の子って言うか……何だか素朴な感じで、可愛い女の子で。なのにどうしてずっと隠そうとしているのか、分からないよ」

 

「……関係ないわ。見たのならすぐ、忘れてしまいなさいな。別に面白い顔でもないでしょうし」

 

 ワタシは立ち上がって、気を取り直すように二人に言った。

 

「まぁ、それなり楽しめたわ。……本当に、ね」

 

 

 

 ――――

 

 ワタシたちはまたGBNを巡った。

 フィオとティオといっしょに、またあちこち。でもそろそろ三人との旅も終わりに近い。

 

「ここが最後の場所になるかな。ローマの遺跡みたいな……ここが」

 

 辺りには石造りの遺跡の街が立ち並ぶエリア。かつて昔の街があった柱や壁の跡、中央には巨大なスタジアムのような物まである。

 

「確かコロセウム、だったっけ。それにそっくりだよ。フィオの家で写真を見た事があるよ」

 

 そう解説するティオ。情報体であるELダイバーでも、現実で行動できる器が……身体があれば現実世界でも活動が可能なのだから。 ある人間が用意したガンプラを基にした身体、『モビルドール』があれば。

 

 ――羨ましいわね。ワタシとは違って、何もかも。ELダイバー……貴方たちは――

 

「……クロさん、雰囲気が怖いけど、何かあったの?」

 

「ううん……何でもないわよ」

 

 フィオからの言葉にワタシはそう答えて胡麻化した。

 

「そう。……なら、いいけど。

 ちなみにあそこのスタジアムでは、ガンプラバトルも出来るみたいなんだって。時間があればしてみたいよね」

 

「……」

 

 僅かに気まずい空気の中、ティオはこんな提案をする。

 

「ねぇフィオ、一旦座ってゆっくりしようよ。別に歩き疲れたわけじゃないけど、少し飽きちゃって。ちょっとだけ」

 

「と言うことだけど、クロさんはどうする? あそこの倒れた柱なんか丁度三人で座れそうだし」

 

「……ワタシは別に構わないわ」

 

 素っ気なく答えるワタシ。こうしてワタシたち三人は、目の前の倒れた柱に並んで座る事になった。

 

「確かに、こうしてただ座って景色を眺めるのも、いいものだよね」

 

「だろ? フィオ。ずっとせわしなくエリアを移動して回っていたから、最後くらいただゆっくりするのも良いさ」

 

「ティオの言いたい事……分かるよ。GBNは現実だと見られない景色ばかりだから。クロさんもそう思うだろ?」

 

「かも……ね」

 

 現実世界、か。この仮想世界ではない、本当の世界。ムカイ・ヒナタの記憶でそれがどんな物なのかは知ってはいる。けれど……ワタシ自身が現実世界を見たことは一度もない。きっとこれからも無いだろう。

 

 ――GBNでさえ、こうして正体を隠し続けている日陰者。ヒトでもELダイバーでもない、まともに存在する事の出来ない異端の存在。ELダイバーでさえ実体を持つ事が出来るのに、ワタシは――

 

 そう思いを巡らせていた時、ふいにティオはこんな事を聞いてきた。

 

「ちなみにクロさんは、リアルではどんな人なの?」

 

「は?」

 

 よりによって、今ワタシにそう聞いてくるなんて。本当にELダイバーは勘がいいわね。……悪い意味で。ワタシは内心苛立つけれど、この場はそれを心の内に留めると。

 

「人にそう聞くなら……貴方たちはどうなの」

 

 逆にワタシは二人に言った。自分の本当の事を言うわけにはいかない、適当な嘘を考えつくまで時間稼ぎでもさせて貰うわ。

 

「うーん、言われて見るとまずは僕達から答えた方が良いかもね」

 

 ティオは一人頷いて納得しているかのようだった。……どうでもいいけど。

 

「リアルでの僕達の事だね。分かった、教えるよ。僕とティオは現実では――」

 

 そうフィオが話そうとした時、彼の傍から着信音のような物がした。

 

「――もしかして、ちょっといいかな」

 

 フィオは慌ててメニュー画面を開いて何か確認しているみたいで。それから、彼はワタシとティオにこう伝えた。

 

「ごめん、二人とも。今彼女から通話が入ってさ、少しだけ外れるよ」

 

 彼からの言葉、ティオはこれを聞いて僅かにしゅんとした表情をしたように見えた。けれど、すぐに笑顔になってフィオに伝えた。

 

「分かった。話が終わるまで僕達はここで待っているよ」

 

「そっか、ありがとう。……しばらくかかるかもだけど、待っていてね」

 

 フィオはそう言い残すと、ここからいくらか離れた岩壁の向こうに消えた。 

 

 

 

 ティオとワタシ、フィオがいなくなって二人きりになっていた。

 よりによってELダイバーと二人きり、猶更気分が悪い。それなりに共に行動をしてきたけれど、だからと言ってワタシのELダイバーに向ける悪感情は変わりはしない。嫌いな物は、嫌いなのだから。

 だから、ティオが戻るまでティオとは会話する気はなかった。向こうだってワタシに話しかける事はないと、思っていたけれど。

 

「……ごめん」

 

 ふいに呟いたティオ。ごめんって、ワタシに言っているのかしら。けれど分からないのなら関わる必要はない、ワタシは無視し続ける事にした。すると彼はワタシに顔を向けて今度は、ちゃんと伝える。

 

「ごめん、クロさん。僕の事……ELダイバーが嫌いなのに、付き合わせてしまって」

 

 やっぱりティオも、自分がワタシに嫌われているとは理解していたみたいね。

 

「構わないわ。ワタシはフィオの頼みで付き合ったに過ぎないのだから。貴方じゃない……貴方なんて」

 

「……」

 

「気にする必要はない、いっそ嫌ってくれても構わないわ。……その方が楽でしょう。

 だからこれ以上ワタシに話しかけないで。フィオの手前言わなかったけれど、そろそろ貴方と過ごすのも我慢の限界なのだから」

 

 ここまで言えばもう話しかけて来ないだろうし、今後関わる気さえ起こさないと思ったから。けれど、ティオは――。

 

「僕が、ELダイバーが大嫌いなのはよく分かるよ。……だけど、それならせめて少し理由を教えて欲しいんだ。

 どうしてか全然よく分からないし、分からないまま嫌われるのは何か……凄く嫌だから」

 

 ティオの想いの告白。誰が、ELダイバーなんかの頼みなんて――そうも思った。だけど彼の言っている事自体も、間違っていないとも思った。

 

「……はぁ」

 

 深いため息をついて、ワタシはさっきからずっと見ようともしなかったティオの方に視線を向ける。

 

「だって、気持ち悪いでしょう。魂なんてありはしないデータの集積物、お人形がヒトの真似事なんてして。……いえ、それだけなら別に構わない。自分達で勝手に真似事でもしていればいいだけだから。最悪なのは――」

 

 こんな事を無関係の相手に言う事になるなんて、でも言うからには最後まで言わせて貰うわ。

 

「ヒトの真似事をして、悪意さえなく平気で本物のヒトにも介入し何もかも目茶苦茶にして行く。大切な物を奪って、苦しめて、無自覚なまま想いを踏み壊す。……ヒト同士の絆に割り込んで自分達ばかり良い思いをする、己が善性と信じて疑わない化け物よ。

 ……他の事なんか知りもしないで良い思いをして、身の程を知らないで。だから嫌いなのよ、憎いのよ。……貴方のようなELダイバーは」

 

 ELダイバーはワタシの大切な人から当たり前のように大事な物を奪った。同じ情報体であるワタシよりもずっと恵まれている上に、更にヒトから幸せを奪うのよ。

 それに、ワタシの言葉を聞いてティオは一人俯く。

 

「クロさんは、そんなに」

 

 しゅんとして、申し訳がないような態度。自分とは関係がないのに、罪悪感を感じているように。

 

「ごめん。よく分からないままだけど、僕たちELダイバーはクロさんに辛いさせてしまった事は分かるから。せめて、ELダイバーとして僕が謝りたいから……だから」

 

「く、くくくっ!」

 

 ――本当に大嫌いだわ、貴方達は!――

 

 あまりの苛立ちで、思わず声がこぼれてしまう。

 

「何謝っているのよ、貴方とは直接関係ないのに。それとも良い子ちゃんのつもり? 自分は純粋で清い存在だって。所詮は薄汚い……木偶人形ごときがっ!!」

 

 

 

 憎しみのあまりワタシは右手でティオの襟首を強く引き掴んで締め付ける。

 

「ううっ……う」

 

 上手く呼吸が出来ない感じで苦しんでいるようなティオ。逆鱗に触れてワタシを、怒らせるからよ。

 

「そう言う所が特に大嫌いなのも分からないの? ELダイバーなんでどいつもこいつも、良いヒトを真似たヒトもどきじゃない。……そうよねぇ、こうすれば本物のヒトから愛情が貰えるものね。貴方たちはずっとそうして思いを横取りし続けていたのよ。本来なら別の誰かに向けられるべき、想いだって」

 

 もう片方の左手でワタシは、ヘルメットに手をかけて外した。ワタシが貰った『ムカイ・ヒナタ』の姿、その顔で直接ティオを睨む。

 

「ワタシの顔を見なさいよ。名前も、姿も何もなかったワタシに……大切な人が与えてくれた、この顔を。とても良い子で、優しい子だったのに…………なのに貴方達ELダイバーはっ!

 やはり許せない、ただでは済まさないわ。貴方たちELダイバーども全員……そしてあの男、クガ・ヒロトも!」

 

「名前も、姿もない……って。もしかしてクロさんは……僕と同じ――」

 

「ふざけないで!」

 

 怒りと憎しみのあまり、なおさら力を込めてティオの襟首を掴む。

 

「このワタシがELダイバーと同じだと言いたいわけ? どこまでワタシを怒らせれば気が済むの。――手始めにティオ、貴方をここで始末しても構わないのよ」

 

 本気でティオの事を消してしまおうとも思った。ELダイバーが憎くて、憎くて堪らなかったから。

 息が絶え絶えなティオ。けれど、それでもまだ何かを言おうとしているみたいだった。ワタシが聞いた、彼の言葉は。

 

 

 

「違う……よ。僕だって名前も……姿もなかったから。僕が……こうしていられるのは兄さんが…………フィオがいてくれたおかげだから」

 

 思いも寄らなくて、分けの分からない一言。思わず襟首を掴んでいた手も放してしまう。

 

「それって、どう言う事?」

 

 ティオは数度咳き込み、それから答えた。

 

「クロさんは気になっている感じだったよね。どうしてELダイバーの僕と、人間のフィオが兄弟として振舞っているのか」

 

 否定はしない。元々、二人と行動にしたのは兄弟として振舞っているヒトと、ELダイバーに興味があったからでもあるの。最もここまで聞く機会もなかったし、半分忘れかけてもいたけれど。

 そしてティオは自分の話を、ワタシに伝える。

 

「僕は去年にGBNで生まれたんだ。あの夜の星空の下、花畑のエリアで。多分他のELダイバーと同じように。けれど……僕の身体は不安定だった。身体を構成する情報は一つの情報体として定まる事がなくて、放っておけばまた霧散して元の無数の、ただの情報に逆戻りする寸前だったんだ。

 そんな時――フィオがエリアにやって来てた。興味本位かもだけど、崩れそうな僕に触れてくれた。おかげでフィオの情報を取り込んで僕は、彼そっくりの身体を得る事が出来たんだよ」

 

「そう言う……事」

 

 例えELダイバーとしてでも、ティオもワタシと同様に不完全な存在として誕生した。そして同じくヒトに救われて存在を得た事も……そっくりだった。

 

「生まれて初めて出会ったのがフィオ。いきなりの事で彼も驚いていた、けれど僕の姿を見て嬉しそうに抱きついて来たんだ。――『GBNで僕の弟が出来たんだ』って」

 

「弟、ねぇ。フィオの方からと言うわけ」

 

「フィオはリアルではずっと一人っ子で、弟が欲しいって憧れていたらしくて。だから僕に出会えて嬉しいって……僕も必要とされて、嬉しかったし。

 それからだったんだ。僕とフィオは兄弟としてGBNで過ごして、リアルでもフィオは僕の身元引受人として傍に置いてくれもしてくれた。僕にとって……誰より大切な人なんだ」

 

 そんな所もワタシに似ていた。ええ、悔しいけれど似ているわ。――けれど。

 

「はっ! 止めてよねそんな事。大切な人とはよく言うわ、どうせ貴方はフィオの事を独占しているだけよ。ああもずっと彼と一緒にいて……結局の所あのELダイバーと、『彼女』と同じよ。彼の心を奪って独り占めにして、リアルで想ってくれるはずの相手から引き離して……っ」

 

「悪いけどクロさん、僕の場合はその逆だよ」

 

 ティオの顔は寂しそうに、微笑みも見せていた。逆って、どう言う意味よ。

 

「フィオが今通話で話しているいるだろ。あれは……フィオの同級生の女の子なんだ。リアルでも特に仲が良い友達で、最近はGBNも始めて、よく連絡とり合ったり一緒に遊んだりしてもいる。

 僕も二人の事を見守っているんだよ。今はまだ友達くらいみたいだけど、きっといつか……友達よりもっと大切な人に、なるって思うから」

 

「……ティオは」

 

「だから僕は、応援している。フィオ――兄さんから弟として大切に想われているのは変らないから。兄さんはその子の事も好きだから、僕とはまた別の特別なヒトだからさ」

 

 ――正直、想定外だった。フィオがあんな想いでいたなんて。それに……ね。

 

「……ワタシには分からないわ。どうして、そう思えるのか」

 

「僕はティオに助けてもらった、弟として大切にしてもらって、愛されているから。だから――」

 

「そういう事じゃないわよ」

 

 忌々しいわね、とても。ワタシは言葉を続ける。

 

「ティオの言う愛って一体、何だって言うの? 

 愛は……自分にとって大切な、ただ一人に向けられるものでしょう? そうじゃない。それ以外の想いなんて……価値なんて」 

 

 今の話だとフィオが一番に想っているのはその女の子。なのにティオはそれを応援していると言う。例え大切にされていると言っても、そんなのはまやかしよ。

 ――反吐が出るわ。こんなのムカイ・ヒナタと同じじゃない。例えもっと親密な……『恋人同士』になれたとしてもクガ・ヒロトの心にはまだあのELダイバーが……イヴの事があるに決まっている。

 あの戦いでクガ・ヒロトはワタシに、ムカイ・ヒナタの事を今は一番大切に想っていると言いはした。でも、ワタシには信じられはしなかった。今、ムカイ・ヒナタは幸せで、想いだって報われてはいる。だからそのままでも良いとも僅かに思いはしたけれど、クガ・ヒロトはどうなの。イヴの事がありながら一方でムカイ・ヒナタに対してもだなんて、彼の想いは――信用できない。

 

 

 

 思いを巡らしながらワタシの心の内が苦しくなる。でも、ティオはさっきの言葉を聞いて小さく微笑みを向けた。それから、一言。 

 

「クロさんは、きっと純粋なんだね」

 

「……は?」

 

 本当に意味が分からない、理解出来ない。ティオの考えも、それにワタシが純粋だって言ったさっきの言葉も。

 

「クロさんもそんな顔をするんだ。当たり前に驚いて、今は普通の女の子みたいだよ」

 

「何を……言うの、よけいな事を」

 

 ワタシの混乱をよそに、彼はさっきの問いに答える。

 

「僕はELダイバーだから、実際にヒトについてはまだ分かっていないかもしれない。あくまで僕の考えだけれど……ヒトの心はそんな単純じゃないよ。もっと複雑で、色々あるものなんだって思うんだ」

 

「ヒトの心は、単純じゃないですって?」

 

 ティオは頷く。

 

「そうだよ、クロさん。好きだって想いも色々だよ。誰か一人を強く想うのは勿論だけど、後で何かのきっかけでそれが変化したり……他の人にだって同じか、それ以上に想いを向ける事もあるんだ。好きにしても男女とか以外にも友人愛だとか家族愛だとか様々だし、そんな沢山の『好き』も両立するんだよ。

 どの好きだって本物だし、それに――」

 

 ワタシに対して伝えたいように、顔を真っすぐ見つめて……彼は。

 

「例え前に好きになった人がいて、それから離れてしまって別の人を好きになったとしても間違いじゃないと思う。前の好きな人の事が心にあるとしても、今好きでいる人を蔑ろになんてしてない。思い出として大切にしながら、一緒にいる今の相手も特別に思える……それだって『ヒト』だよ」

 

「好きにも色々、どれも……本物」

 

 一応は同じ情報体として、それに境遇も少し似ているティオの考え。ワタシとは違う、考え。

 

「そんなのは詭弁よ、認めないわ」

 

「あくまで僕の考えだよ。ただ……そうした考えがあるのは、知って欲しかったから」

 

「下らない。知ったからと言って――ワタシは」

 

 

 

 ――――

 

「ごめん二人とも、通話が長くかかって」

 

 ワタシ達がそう話していた所に、ようやく通話を終えたフィオが戻って来た。

 

「あっ、兄さんお帰り」

 

「ただいまティオ。どうやら僕がいない間、クロさんと話していたのかな。ねぇクロさん……あれ?」

 

 フィオはワタシを見てきょとんとした顔をしている。

 

「クロさん、頭のヘルメットを外してどうしたんだい? 何かあったの?」

 

「……!」

 

 そうだった。頭のヘルメットを、ワタシは外したままだったわ。

 

「でも、その素顔……やっぱり綺麗だよ。全然隠す必要はないのに、どうして」

 

「クロさんと話していたら、見せてくれたんだ。話では確か――」

 

「ティオ」

 

 ティオが余計な事を話す前に、ワタシは制止した。

 

「悪いけれどさっきの話は、二人だけの秘密の話よ。ねぇ……ティオ」

 

 さっきまでの話は二人だけの秘密だと。ワタシは彼に釘をさす。この事にティオも察したように。

 

「ごめん兄さん、クロさんとの秘密なんだ。ちょっと内緒の話って言うか」

 

「うーん、そう言う事なら仕方ないかな」

 

 そんな風に話すフィオとティオ。ワタシは――ヘルメットを手に取って席を立つ。そして二人に対してこう伝える。

 

「さて、と。じゃあワタシはそろそろ失礼するわ。色々と楽しかったし、話が出来て……良かったわよ」

 

 ここらでもう潮時だと。ワタシは別れを告げた。

 

「そう。クロさんが少しでもいい気持ちになれたら、僕たちも嬉しいよ。だろ、ティオ」

 

「……うん」

 

 フィオはそう言って、ティオも同意を示すように頷く。

 

「フィオも……そしてティオも、じゃあね」

 

 ワタシは軽く手を振って、二人から離れて去ろうとした。……すると後ろから、声が。

 

「クロさん!」

 

 振り向くと、呼び止めたのはティオだった。

 

「ティオ、どうしたんだい?」

 

「……」

 

 横にいたフィオは驚いたように。ワタシは――黙って。ティオはそれに構わないで、こう続けた。

 

「クロさん、君も色々と思う所はあるかもだけどさ。また――会えないかな。

 またいっしょに過ごせればって思うし、話だって……続きがしたいから」

 

「貴方は――」

 

 よくそんな事をワタシに言える。ELダイバーなど嫌いだって言うのに、それにさっきワタシがティオに言った事、した事を受けてもまだ……ああ言うの。

 

 ――本当に、ELダイバーは――

 

 心底うんざりするし、嫌になる。そうどこまでも綺麗な所も。――本当は分かっている、彼女ら、彼らには悪意なんてない事くらい。……ワタシとは違って。

 だからこそ余計に大嫌いなのよ。分かり合う気なんてない――けれど。

 

 

「ええ。もし機会があれば……ね、ティオ」

 

 つい、ワタシはこう返してしまったの。……おかしいかもしれないけれど。

 

 

 

 ――――

 

 一人、自分の乗機であるリーオーに乗り、GBNの空を飛行する。

 

「はぁ……っ」

 

 ヘルメットは外したまま。ワタシは大きく息を吐き、後ろにもたれかかる。

 

 ――どうすればいいの、ワタシは――

 

 クガ・ヒロトに敗れてから、それから彼とムカイ・ヒナタの仲が上手く行って、一度はそれで彼女が幸せならと、ただ見守ろうとも考えた。……けれどやはり認められない、許せない。

 行き場のないその怒り、憎しみ。けれどどうするにしても中途半端な気持ち。あの時には迷わずムカイ・ヒナタのために、クガ・ヒロトら憎むべき存在に対しての復讐を実行出来た。なのに今は……こうして、憎む相手の一つであるELダイバーとも慣れ合って。

 

 ――忌々しいったらないわ。だけど、どうしてか――

 

「ふ――」

 

 自分でもどうかしていると分かっていても、それでもティオとフィオといた時間……悪くはなかった部分もあると感じてしまった。ワタシがこうも思う心が、まだあっただなんて。

 

 

 傍に置いたヘルメット。ワタシはおもむろに両手でとって眺める。

 

 ――今は少しだけそっくりね、貴方に――

 

 ヘルメットのバイザーに映っているのは、うっすら微笑んでいるムカイ・ヒナタの……いいえ、その姿をコピーしたワタシの顔。けれど、不思議と見ていると、自分にはあるはずもない心が穏やかになるような。

 そんな風に、思っていると。

 

 

「――えっ?」

 

 

 ヘルメットを持ってワタシの手が、一瞬画像乱れのように、一部黒いノイズのようになってブレたのが見えた。

 

 これは……まさか。

 

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