【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い―   作:双子烏丸

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番外編その六 私達のドキドキ、ワクワクな宿泊旅行 その4

 

 私達は温泉街の茶屋――今で言うレストランかな。そこで昼ご飯を食べていたんだ。

 私は天ぷらとそば、ヒロトはかつ丼を頼んだの。

 

「あっさりしたのが食べたかったから、丁度良かった。そばはすっきり食べられるし、天ぷらもサクサクして美味しいよ。

 お腹も満たされるから、大満足だね」

 

「俺のかつ丼は思ったより沢山で、これなら十二分に食べ応えがある。もちろん味も上手いしな、このカツとかもジューシーでさ」

 

「そっちもたしかに、美味しそうだもんね。

 ねぇ、ヒロトのかつ丼もちょっとだけ……食べてみたいな」

 

 そう言って、彼に頼んで少しだけ食べたかつ丼も、やっぱり美味しかったな。

 

 

 

 ご飯を食べて、その後はヒロトが言っていた銭湯にも行ってみたの。

 

 ――いかにもドラマとかで見る、下町の銭湯みたいでいいよね――。

 

 青いタイルに、積まれた風呂おけ。それに奥にある温泉の壁の上には、富士山の絵が大きく描かれてもいたんだ。

 身体を洗って、温泉に浸かって心地よく感じながら、火照った顔を上にあげて絵を眺めたり。

 

 ――よく描かれているよね、凄いよ。ヒロトの方はまだ温泉に入っているのかな、それとも、もう上がっているかな?――

 

 やっぱりここも人が多いし、それに男湯と女湯はここだとしっかり別々の部屋に分かれているから、彼がどうしているか分からなかったりするんだ。だけど……。

 

 ――でもヒロトは長風呂な感じだもん。昨日も、私より後に上がって来たし。だから……もうしばらく私も入っていようかな――

 

 だって本当に心地いいから。私は縁にもたれて、それからあと少しの間、温泉を満喫したんだ。

 

 

 

 ――――

 

「仲居さんのお話通りだね。水路にも……ここの池にも金魚や、それに鯉もこうして泳いでいるから」

 

「この公園も風情がある、そんな場所だな。まるで大きな日本庭園と言った感じで、観光客も多い」

 

「やっぱり人気な名所だからかな。良い場所だし、もう少し一緒に歩いて回ろう、ヒロト」

 

 温泉街の水路に沿って観光して、今はその先にある公園に来ていたの。水路に繋がっている大きな池があって、池に架かっている橋を二人で歩いて景色を眺めたり……普通に観光しているって感じだけど、だからこそいいよね。

 それからいくらかヒロトと公園を歩いて、景色を堪能したり。

 

「相変わらず天気も良いし、日差しが温かいいね」

 

「ああ。まさに外出日和だよな」

 

 そんな風に良い気分で二人、歩いていたんだ。公園を散策しながら私はふと、視線がちょっと別のものに移る。

 

「……あっ、あそこに泳いでいる金魚、けっこう大きいよね。模様も綺麗だし」

 

 池の縁で泳いでいた大きくて、赤と白の模様がとくに綺麗な金魚。私はそれに目が入って、足を止めて見とれてしまったんだ。それにこんな事も、考えてしまったり

 

「ねぇ、こうした金魚……飼えたりしないかな」

 

「飼うって金魚をか、確かこの町の特産だったって話だよな。よく夏祭りとかで金魚すくいとかは見かけた事はあるけれど、売っているものなのか?」

 

「うーん、どうだろう。お土産屋さんとかに売っているのかな」

 

 私がちょっとそれに悩んでいたけれど、ヒロトはこんな風に、答えてくれた。

 

「なら今からお土産屋に行ってみるか? さっき途中で店があるのを見かけたから、丁度いいかなって」

 

「本当なのヒロト? 私、気付かなかった」

 

「ヒナタは公園の景色に夢中みたいだったからな。見た感じ色々ありそうだから、もしかすると金魚とかも……あるんじゃないかなって」

 

「お土産屋さん、いいね。ならヒロトの言うそこに行ってみよう。みんなの分のお土産も、一緒に買えるしね」

 

 公園はもう十分に見たから。だからお土産屋さん、今度はそっちに……ね。

 ――金魚だって、あるかどうか気になるから。

 

 

 

 ――――

 

 ヒロトに案内されて来たお土産屋さん。さっきの公園のすぐ近くにある店で、入ったら色々な物が売ってあったんだ。

 お土産用のお菓子に、物産品、後はキーホルダーやぬいぐるみとかのグッズだとかも、色々豊富な感じで見ているだけでも楽しくなる。

 

「このキーホルダーとかも可愛いね。ちょっと、欲しくなったかも」

 

「なら買って行くかい? せっかくだから良いと思う」

 

 私はヒロトと一緒にどんなのがあるか見て回ったり。後々……。

 

「――みんなのお土産とか、どうかな? ガンダムカフェの人たちにはこのクッキーにしようかな。学校のみんなには、うーん……迷うよ」

 

「俺もカザミやパル、メイに何かお土産を考えないと。二人はともかくメイには食べ物関係は厳しいし、な」

 

「でもどれも美味しそうだね、ヒロト。……自分でも食べてみたいな、なんて」

 

 そうそう、旅行にこうして行ったんだもん。みんなの分のお土産も何か買わないとね。家族や学校、アルバイト先だとかそれぞれにお土産をどうするかで悩んだけど、ヒロトと相談したりしながらで何とか決めたんだ。

 そして、もちろん――

 

 

 

「こうして見ても、煌びやかで綺麗だよね。それに泳いでいる所も、何だか可愛いし」

 

 小さい水槽の中で泳いでいる、金魚。公園の池や水路で見たものと比べると一回り小さいかもだけど、お土産屋さんにはちゃんと金魚が売っていたの。

 

「……やっぱり、いいな。家でも飼ってみたいよ」

 

 お土産やグッズもだけど、私の一番の目的は金魚なんだ。自分の家でも飼ってみたいなって、そう思って。

 

「確かに綺麗だもんな、俺もいいと思う」

 

 ヒロトも隣でそう優しく言ってくれる。私も、もう一度金魚を見つめて、ちょっとだけ考えるんだ。

 

 ――金魚……やっぱり飼いたいな。だってこんなに可愛いもん。だけど――

 

「……」

 

 でもちょっとだけ何か……その、悩んでしまう。

 

「じゃあ金魚も含めてレジに持って行こうか。もし落としたら大変だから、持って行くのは俺が――」

 

「あっ、待ってヒロト」

 

「ん?」

 

 ヒロトがそう言うのを、私は止めた。

 確かに金魚を飼いたいって思っていた。……だけど、私はね。

 

「やっぱり――止めるよ」

 

「……?」

 

 私の言葉にヒロトは、不思議そうに首をかしげていた。

 

「止めるって、一体どうして。ヒナタはあんなに買いたがっていたのに」

 

「うん。確かにそう、なんだけどね」

 

 私は水槽で泳いでいる金魚を見ながら、ヒロトにこう話したんだ。

 

「生き物、だもんね。だから……やっぱり私には、ちょっとね」

 

 生きている物を飼うって、きっと責任があるって思う。だから、考えなおして止めたんだ。私の言葉を聞いたヒロト。彼は成程って、軽く頷くと。

 

「そっか。ヒナタがそう言うなら」

 

「ごめんね、せっかくヒロトが私のために連れて来てくれたのに」

 

「大丈夫、全然構わない。お土産屋にはどの道行く予定でもあったから。……そうだ」

 

 するとヒロトはすぐ近くの棚の所に行って、ある商品を手に取って、こう言ってくれたの。

 

 

「その代わりと言っては何だけれど、良かったらこれを買って行かないか?」

 

 

 

 ――――

 

 買い物をして、お土産屋さんを出た私たち。

 

「ふふっ、お土産だとか色々買っちゃったね」

 

「これくらい買えばみんなの分も足りるかな。けど確かに、思ったよりも買い物をした気がするな、これは」

 

 手元にはお店で買ったお土産やグッズが入った袋を下げて、それに……ね。

 

「ヒロトの言う通り、これも可愛くていいね。それに、抱いていてフワフワで心地もいいから」 

 

 金魚は結局飼わないままだった。だけど、ヒロトからの勧めで本物の金魚の代わりに手のひらサイズのフワフワな金魚のぬいぐるみを買ったんだ。

 

「ああ。この手触りは俺も気に行ったから。ヒナタも、ぬいぐるみならいいかなと思って」

 

「うんうん、ぬいぐるみだったら私も……大丈夫だよ。ありがと、ヒロト」

 

 私に対しての優しさに、私は笑顔でお礼を伝えた。

 

「どういたしまして。それにほら、ぬいぐるみならこうして――お揃いにだって出来るから」

 

 あとね、この金魚のぬいぐるみはヒロトと一緒に二人分買ってお揃いにしてもいるんだ。それも私は嬉しく思うの。

 ヒロトは自分の金魚のぬいぐるみを見て、呟いたんだ。

 

「金魚のぬいぐるみさ、この白と赤の感じ、ダイバールックのヒナタにも似ている気もして……それもいいなって」

 

 そんな風にも彼は言ってくれた。褒めてくれているのかな、何だかそれも照れてしまうよ。私も手元にある金魚のぬいぐるみを眺めて、呟く。

 

「たしかにGBNの私に、似ているのかな?

 ……そう言えば」

 

 ぬいぐるみとはまた違うことになるけれど、私はある事に気が行ったの。

 

「空、もう夕方だね」

 

 見上げた空はいつの間にか夕暮れ色に染まりかけていて、こんなに時間が過ぎていたんだって実感する。

 

「こう過ごす時間って、何だかあっと言う間だよね。もうすぐ一日も終わりなんだね 」

 

 こう考えると寂しく思えて。でも、ヒロトはそんな私に言ってくれたんだ。

 

「たしかに、もうすぐ夜になる。けれど旅館に戻るバスの最終便は十時くらいだから、まだ色々観て回れるよ」

 

「……あっ、そうなんだ」

 

 彼はそんな所まで確認してくれてたんだ。私もちょっと時間を見てみると今は五時過ぎくらいで、ヒロトの話でなら後五時間、観光出来る時間があるって事だよね。

 

「良かった。ならもう少し、町を周れるね」

 

「ああ。ここからは温泉をメインに観光しようか。まだ三か所くらいしか入っていないから、もっとあちこち行ってみたくてさ」

 

 何だか、今日も色々と彼に助けてもらっちゃってる感じだよね。本当に、助かっているんだ。

 

「ありがとね、ヒロト。後、夜ご飯もどこかで食べたいよね。

 なら温泉にも行って、途中で良いお店があったらそこにも行っていいかな?」

 

 私からもそんな風に提案してみたの。ヒロトはもちろんと、こたえてくれた。

 

「勿論いいと思う。せっかく来たんだ、まだまだ……楽しんで行こう」

 

 ……だね。もうこんな時間だけど、それまで色々出来たもん。こうしてお土産だって。

 だから、ちゃんと最後まで――ね。

 

 

 

 

 ―――

 

 もう外は完全に夜になって、空にまん丸な満月が上る中、私はヒロトと町中を歩いている。

 

「旅館からだと見えなかったけれど、ここからだと月が見えるんだね」

 

「ああ、確かに。満月か。星も良いけれど月も……良いものだ」

 

 二人で空を眺めて歩いて、身体もさっき入ったばかりの温泉のせいで火照った感じで。まだホカホカだったんだ。

 

「さっきの温泉も、柚子だったっけ、それが沢山温泉に浮かんでいて香りが良かったもん。あんな温泉もあるんだね」

 

「確かにな、俺もああした温泉は始めてだ。それに別の温泉ではサウナもあったし、あれも初体験だったな。俺には……結構暑かったけれど」

 

「あそこでのサウナ、入って来たんだね。ヒロトの言う通りちょっと暑い気もしたけれど、でも、私はあれはあれでサウナって感じで、悪くなかったけどな」

 

 歩きながら私たちはここまで立ち寄った温泉の話をしたり。それにね、温泉だけじゃなくて。

 

「それにね、お腹もいっぱいで大満足だよね。温泉だけじゃなくてちゃんと美味しいレストランもあったから。

 昼ご飯が和食だったから、夕食は洋食って言う事でハンバーグ。……ハンバーグはハンバーグでも和風ソースの、少し酸味が効いて良い味だったね」

 

「夕食は俺もヒナタと同じ和風ハンバーグを頼んだけど、やっぱり美味いかったな。さすがに温泉街で完全に洋食って言うのもあれだったし、それに君とお揃いを頼むのも、良いと思ったしさ」

 

「レストランでもヒロトとこうして過ごせて、私……本当に今日は楽しかったな。……それと」

 

 今日は沢山、いろんな所を巡って楽しかったんだ。でもね、もうそろそろ。

 

「ヒロトの言っていたバスの最終便まで、もう少しだね。旅行は二泊三日だから、明日には帰らないといけないから」

 

「そうだな。考えると、何だか寂しくなる」

 

 ヒロトも私の言葉に頷く。

 もうすぐ、この楽しかった温泉街の観光も終わり。寂しく思うのは私も同じなんだ。

 

「さびしいよね、やっぱり。もっと時間があれば良かったのに、ね」

 

「仕方がないさ。それに、初めてのヒナタとの温泉街、十分楽しめたと思う」

 

「それは私もだよ。だけど、何だかつい……ね」

 

 名残惜しい感じでそう話しながら、私たちはある所に辿り着いたんだ。

 そこは、温泉街の真ん中を流れる川に架かっている大きな橋の上。――温泉街が一番良い眺めで見える、そんな所。

 

「ここからの眺め、やっぱり一番だよね。建物も灯りできらきらで、下に見える川だって夜空の星で輝いて見えるの。

 でも何よりも、川に移る大きな満月が、何だか神秘的で良いと思うんだ」

 

「月か。たしかによく映っているな。それに

昨日の時に初めてここで見た時と、全然雰囲気は違う。昼間と夜とだと、まるで別だ」

 

 橋から見渡すこの景色。ヒロトもこの景色を眺めて、感慨深げみたい。

 

「だよね。夜の温泉街の景色……ヒロトと見れて、いいんだ」

 

 そんな風にうっとりしながら思っていた私。けれど、時間はまだあと少しだけ残っているから。――だから。

 

「ねぇ!」

 

「……っと」

 

 私は傍にいるヒロトの手を繋いで、軽く引っ張って促すんだ。

 

「まだちょっと時間があるから。――だからあと一か所、温泉に行こう」

 

 せっかくだもん。あと少しでも、最後にもう一回温泉にでも行きたいって思ったの。

 

 ――実はちょっと一か所、気になっていた温泉があるんだ。でもどうするか迷って後回しにして悩んでいたけど、最後だから。もっと勇気を出さないと、ね――

 

 

 

 ――――

 

 あと少し時間があるから、最後にもう一度温泉に入りに来た私たち。

 やって来た温泉は露天風呂で、夜空が見えて開放的な空気感。温泉そのものだって良い感じなの。

 

「やっぱり良いよね、迷ったけど来て良かった。他には誰もいなくて独占出来るから」 

 

 広いお風呂に、時間のせいなのか……それとも運がとても良かったのか、他のお客さんは誰もいないの。今この温泉に入っているのは私と、そして――。

 

「まさか、こう言う所に入るなんて。……はは、驚きだ」

 

「……やっぱり恥ずかしいかな、ヒロト。でも私も…………凄くドキドキなんだ」

 

 この温泉には私とそれにヒロト、二人きりで入っているの。これまでみたいに男湯女湯で別れているんじゃなくて、同じ温泉で二人一緒、すぐ隣同士で。

 

「「………」」

 

 全裸……と言うわけではなくて、それぞれ隠すべき所はタオルでちゃんと隠している。だけど隣り合って一緒に入っているんだけど、お互いの事を直視できないでいた。

 

「それにしても混浴温泉か。まさかヒナタから、こう言う所に誘うなんて」

 

 そう言って、ヒロトがちらって視線を向けたのを感じる。……私も、少しだけ横目で彼を見て返したんだ。

 

「せっかくだから、ヒロトと一緒に温泉に入れたらって思ったんだ。…………だって、もう私たちは恋人だから、いいかなって」

 

 今までただ幼馴染みだけだったらあれかもしれないけど、今の関係ならこうして、二人一緒に温泉に入るのもありかもって思ったの。幸い他にお客さんはいないから、二人っきりで……それも良い機会だなって思ったけれど。

 

「やっぱり、こういうのって照れちゃうよね」

 

「確かにそうだな。こんなのは初めての経験だから。もちろんヒナタとも」

 

「一緒に温泉に入りたいって……私のわがままかもしれないけど。もしかして嫌とかじゃ、ないかな?」

 

 少し無理させたんじゃないかなって、私は心配したけれど、ヒロトは。

 

「ううん、そんな事はない。一緒に温泉に入るのも良い思い出だ。せっかく温泉旅行にも来たんだ、こう言うのだって悪くない。

 でもやっぱり、なかなかに照れてしまうな」

 

「……だね。ちょっと……気恥ずかしいって、言うか」

 

 正直、自分でも――タオルを巻いていてもその下は――裸で二人きりなのはちょっと、それなりには恥ずかしい。どうしても自分や、ヒロトの事を強く意識してしまうって……言うか。

 

 ――でも、ずっとこんな感じじゃダメだもんね。混浴で……ヒロトと一緒なのに、せっかくだからもう少し――

 

 私はちょっとだけ顔を向けて、彼の様子をよく見てみるの。

 温泉縁の岩場にもたれて半裸で温泉を気持ちよさそうに満喫しているヒロト。腰にタオルを巻いていて下は隠しているけど……こうしてほとんど裸で一緒に入るなんて初めてな気がする。もしかすると小さい時とかに入った事があるかもしれないけれど、でもこんな風にだなんて。

 

 ――やっぱり男の子、だもんね。身体は思っていたよりがっしりしていて、たくましいって言うのかな。……ヒロトってば、あんな風だったんだ――

 

「……ヒナタ?」

 

「あっ」

 

 そんな風にしていると、ヒロトの方も私の事を見ていて、視線が合ったんだ。

 

「――ううっ」

 

 ヒロトは今、同じように緊張している感じだけど、私の事を見てくれている。彼から視線を感じるのは嬉しくもあるけれどやっぱり少し、ううん、本当は結構恥ずかしかったりするし、もっとドキドキとしてしまう。

 思わず胸元から巻いていたタオルを少し上げたりして襟元を正すと、照れ笑いを彼に向ける。

 

「あのね、ヒロト。こんな所で自分から言うのもあれかもしれないけど、今の私って……どうかな。

 もし気に入ってくれたら、その……」

 

 自分でもいくらかどぎまぎしながら聞いてみると、ヒロトは私を改めて見ている感じで、そして。

 

「ヒナタの――今の姿、か」

 

 ……今更だけどこんな質問をして、自分でも後悔してしまったかも。私の姿を眺めながら段々と顔を赤らめている彼、困らせてしまったのかなって。

 でも、それから口を開いて、こんな風に言ったんだ。

 

「とっても……女の子って感じがする。もちろん良い意味で、その……セクシーで、綺麗だと思う」

 

 何だか凄くドキドキした感じでヒロトは答えてくれた。だけど、それと同時に我慢できなくなったみたいに、視線を私から外して俯く。

 

「もっと、上手く俺の気持ちを伝えられたら良かったけど、ごめん。変な感じの、ありきたりな感想で。でも今のヒナタだって、俺は――」

 

「……大丈夫だよ、ヒロト」

 

 私は隣にいるヒロトに、距離を縮めて……ぴたって、肩だとか身体が少し触れ合うくらいに。これは彼は驚いて、真っすぐ私の方に顔を向けるの。

 さっきまで横目で互いを見てばかりだったけど、今はすぐ近くで正面から、見つめ合う私たち。

 

「ヒロトが想ってくれている気持ち、伝わっているから。こうした恰好でいるのも初めてなのに、綺麗だって言ってくれて」

 

 綺麗だって言ってくれたこともだけど、想いを伝えるために頑張ってくれた事だって、私は嬉しいって思うの。あとは、もう一つ。

 

「ふふっ。それにヒロトから『女の子って感じ』だとか、『セクシー』だなんて。

 もしかすると、初めて言われたかも」

 

 本当に初めてかもしれないから。私はつい、また照れたようにして笑ってしまう。だけど、ヒロトは恥ずかしいと言うか、気まずそうに少しうつむく。

 

「やっぱり、変な事を言ってしまったな。ヒナタが女の子なのは当たり前なのに、わざわざそう言うのも失礼かもだし。セクシーだなんて……もう少しまし言い方があったかもなのに」

 

 何だか悪いと罪悪感を覚えているみたいな彼。 

 

「ううん! 私は嫌って言うわけじゃ、ないんだよ」

 

 そんなつもりじゃないんだって、両手を振って慌てて私はフォローする。ヒロトがそんな風に言ってくれたの、全然嫌じゃなくて……むしろ。

 

「――むしろね、私が一番嬉しかったのは、それなんだ」

 

「……? それって、どう言う事なんだ?」

  

 疑問に思っているみたいなヒロト。私は、軽く表情を緩めてそして、左手を伸ばして彼の右手に手を繋ぐんだ。そしてそのまま手を引いて、自分の胸元に持って行って彼の手も一緒にくっつけるの。

 

「ヒナタ!?」

 

 びっくりするヒロト。自分でも、積極的すぎるかもって思いもしたけど、つい我慢出来なくて。だってこんな風に出来るのは今が一番だって、そうも思ったから。

 胸元にくっつけた彼の手。私の体温と心臓の鼓動が、伝わっていくのを感じる。

 

「ヒロトがそんな風に意識しているのが分かって、私、すごく嬉しいし幸せなんだ。

 女の子だって――異性だって、見てくれているって事だよね」

 

「それは……その」

 

 向こうもさっきよりドキドキしているみたいなヒロト。私だって同じように、心が鼓動をうっているんだ。

 

「ただ友達ってだけじゃなくて、そうして見てくれているのかどうか、実は少し自信がなかったんだ。だから、言われて胸がドキッとして、温かくなったんだ」

 

 私はもうすぐ近くまで彼に近づいて、こう聞いてみるんだ。

 

「ねぇ、さっき言った通り私って、女の子って感じかな……ヒロト?」

 

 そんな質問に、ヒロトはまだ照れている感じだったけれど――私の目を真っすぐ見つめて、答えてくれた。

 

「――ああ。ヒナタは女の子としても魅力的だ。……とっても」

 

 うん――うれしいな、そう応えてくれて。本当に嬉しすぎて、どうにかなってしまうくらい。

 

「ふふっ、やっぱり温泉旅行が出来て良かった。ヒロトとこうして過ごせたから。普通だったら過ごせない、大切な時間を」

 

 感慨深くなって、ついそう呟く私。ヒロトもそれには同意見みたいで。

 

「ヒナタには感謝だな。君がくじ引きで温泉旅行を当ててくれたから、こうして素敵な時間を過ごせた。だから、ありがとう」

 

「どういたしまして。私の方こそ、一緒に旅行について来てありがとうね」

 

 そう言うと彼も笑顔を、清々しげな良い笑顔を見せてくれたんだ。そして、こんな事を。

 

「あのさ、ヒナタ。今回はたまたまだったけれど、また……君と旅行に行きたい

 同じように温泉旅行でも別の旅行とかでも構わない。二人でこうしている時間がとても良いから、何より俺自身が――ヒナタとそうしたい」

 

 ヒロトの想い。そんな言葉が聞けて、私は感激したんだ。

 ううん、それだけじゃなくて二人で旅行をした思い出もそうだけど……彼が私に向ける想いも、たくさん知ることが出来た気がするから。温泉って、まるでいつもとはちょっと違う感じで打ち解けるのかな。

 だからね――私はこんな風に、思ったの

 

 

 ――やっぱり温泉は素敵だよね。温かくて、身体までこうしてポカポカだもん。……でもポカポカなのは、温泉のせいだけかな――

 

 

 

 

 ――――

 

 ――二泊三日の、短かったかもだけど長くも思えて、楽しくて充実した旅行。

 次の日、私たちは帰りのバスと電車に乗り継いで帰って来たんだ。新幹線で街まで戻ってきて、そのまま家に。

 

「ようやく帰りついたね。やっぱり、いつもの家も落ち着くよね」

 

「そうだな。俺の家だけれど、ヒナタが落ち着ける気分なら、それに越したことはない。移動でも結構疲れたと思うから」

 

 私の家は、丁度両親が出かけていたから。だからせっかくって事で、ヒロトの家にそのままお邪魔したの。

 

「二人とも、お疲れ様。良かったら麦茶でもどうかしら?」

 

 ソファーに座ってゆっくりしている所に、ヒロトのお母さんが私たちにグラスに入った冷たい麦茶を持って来てくれた。

 

「ありがとうございます。麦茶……冷たくて、美味しいです」

 

 口にした麦茶は冷え冷えで、おいしかった。ヒロトのお母さんはにっこり笑って。

 

「ねぇ、旅行は楽しんで来たかしら? 良ければ後で、思い出話でも聞かせて欲しいわ」

 

「母さん、もう少し待っていてほしい。あとちょっとヒナタとゆっくりしてたいと、言うか」

 

 ヒロトはそうお母さんに話していた。

 

「あっと、お邪魔だったかしら。ごめんなさいね……なら、若い二人でゆっくりしてね」

 

「俺の方こそごめん。それに麦茶、ありがとう」

 

 そうしてまた二人の空気に戻る私たち。

 

 

 昔から通いなれた彼の家で、ヒロトとこうして。……私たちは旅行に行って、非日常な経験をしてきたばかり。だからかな。 

 

「ふふっ……あのねヒロト、こうしているのも、やっぱり良いよね」

 

「良いって? どう言う事かな」

 

 そう聞いてきたヒロトに、私は軽い微笑みを見せて言ったんだ。

 

「こうしていつもの所でヒロトといるのもいいなって。私、改めて思ったんだ」

 

 旅行での事ももちろん素敵だけれど。けど、旅行って言ういつもと違う経験があったから、いつもの日常もいいんだって。

 ……改めて思ったのは、そう言う事なんだ。




長かった温泉旅行回も完結です。
ここからまた、もう少し番外編が続く感じかな
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