【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い― 作:双子烏丸
休日の朝、ヒロトとお出かけでもしようかなって家に誘いに行ったんだ。
だけど、今日は。
「……えっ!? ヒロトが風邪で、寝込んで?」
「ごめんなさいね、せっかく遊びに誘ってくれたのに。でも熱があって、軽い風邪みたいなんだけれど今日は一日寝込みそうな感じなの」
玄関先で迎えてくれたヒロトのお母さん。それにヒロトが風邪を引いてるって話も、心配だよ。
「風邪だなんて、大丈夫かな。良かったら私が看病でも」
寝込んでいるなら彼の看病が出来ればって。だって、私はヒロトの――。
「ふふふっ、気持ちはとっても嬉しいけど心配ないわよ。今日は休みでずっと家にいるから、私だって看る事が出来るから。それにもしヒナタちゃんに風邪が移ったら大変ですもの」
「それは……でも」
そう言われてしまうと、弱いな。後、お母さんは軽く微笑んでこんな事も。
「それにね、あの子の性格から考えても、もし自分のせいでヒナタちゃんが風邪をひいたらすごく悲しんでしまうと思うわ。
傍に居たい気持ちは分かるけど、今日は我慢して欲しいの」
「……」
残念だけど、これじゃ無理に看病するわけにはいかないから。やっぱり任せた方がいいんだよね。
「ごめんなさい。でも、ヒロトだってヒナタちゃんに本当に会いたがっていたのよ。だから……」
「いえいえ! 私は全然、ヒロトとはまた別の日に過ごせばいいですから。……でも元気になって欲しいって、お大事にって伝えてくれたら」
「もちろんよ。ヒナタちゃんがそう言っていた事、知ったらきっとヒロトも喜ぶもの」
ヒロトのお母さんの言葉、私は嬉しく思った。けれど彼と会えないのはやっぱり少し……それなりに、寂しいな。
――――
ヒロトが家で寝込んでいるから、私は一人でお出かけすることにしたんだ。
どう過ごそうか考えて……それでやって来た所は。
「今日はヒナタさん一人で、何だか珍しいかもしれませんね」
「風邪をひいちゃってね、一日は家で休んでいるんだ。本当はヒロトと一緒に来れたら良かったけれど」
「そうですか、早く体調が良くなって欲しいです。ですよねメイさん」
「ああ。ヒロトが風邪か……重くなければいいが」
GBNの、名前はエストニア・エリアだったよね。この西洋風の街中に私とパルくん、メイさんの三人でいたんだ。
「大丈夫だよメイさん。風邪は大したことはないみたいだから、一日寝ていれば平気そうだから。……でも正直私も、心配しちゃっているんだ」
看病はヒロトのお母さんがしているけれど、やっぱり気になっちゃうな。それに風邪で寝込んでいるヒロトだって私、直接様子を確認したわけでもないから、どんな感じか心配になるの。
そんな私にパルくんは優しい表情を向けてくれた。
「ヒロトさんなら平気ですよ。心配する気持ちは分かりますけれど、お母さんが面倒を看ているのでしたら、僕達はいつも通り過ごすのが一番です。
心配し続けるよりも楽しんだ方がきっと、ヒロトさんは喜んでくれるはずですから」
「ありがとうパルくん、たしかにヒロトならそう思うかも……だもんね」
彼はとても優しいって、私も分かるから。パルくんの言っている事は正しいかも、だもん。
「今出来る事はないけど、やっぱり後でお見舞いくらいは行こう。でも、そう言えば」
こうしていて一つ気になった事があったの。それはね。
「カザミさんも、今日はいないんですね。……どうしたのかな」
パルくんとメイさんはいるのに、カザミさんはここにはいないみたい。何か別の用事があるのかな。
「ああ、カザミなら一人でエルドラに出掛けて行ったぞ」
するとメイさんが質問に答えてくれた。
「話ではマイヤに会いに行くだとか、だったか。私たちも一緒にとも考えていたが、ヒロトとヒナタが一緒ではなかったから、置いて行くのも悪いと思ってな」
だから二人は。こうして待っていてくれたんだね。
「ありがとうございますメイさん、パルくんも」
「ふっ、礼には及ばないとも」
「僕も……ヒナタさんにも会いたかったですから」
二人ともそう言ってくれて優しいよね。ビルドダイバーズのみんなは、本当に。
「……では、ここからどうしようか? 二人とも休みで時間があるそうだから、一日GBNで遊んでいくのか?」
メイさんからの言葉に、パルくんは穏やかな表情のまま首を横に振ってこう答える。
「いえいえ。ヒナタさんには会ってすぐで申し訳ありませんけれど、実は僕はもうすぐお二人と別れないとですから」
「えっ? パルくん」
唐突な言葉に驚く私に彼は説明してくれた。
「実はこれからすぐ、父さん主催のパーティーに家族ぐるみで参加しないとなんです。
父さんと仲が深い、大企業の社長さんやら会長さんだとかのお偉いさん方にその家族が集まってのパーティーで……僕達が行かないと面子だったりとか色々で、出ないわけには行きませんから」
「パルくんの家族が開くパーティー……と言うことは」
パルくんはリアルでは外国の大富豪なんだよね。さっき社長さんや会長さんも来るって言ってもいたから、きっと――。
「きっと、とっても豪勢なパーティーなんだろうな」
想像するだけでも憧れちゃうな、やっぱり。
「あはは、確かに豪勢と言えば豪勢なのですが、僕の場合付き合いもありますから。色々大変なんですよね。
……あっと、でももうそろそろ出ないと不味いかな」
パルくんは改めて一礼して、私達にお別れを言った。
「それではヒナタさん、メイさんも。僕はこれで失礼しますね。二人とも、どうか楽しんで下さい」
と言うことで、パルくんがいなくなって今は私とメイさんの二人。
「さて、ヒナタはどうする?」
メイさんに聞かれて、私は考えてからこうこたえる。
「私も、午後までくらいにしようかなって。ヒロトのお見舞いにも行きたいから。……何か買ってもいきたいな、せっかくだし」
外に出て来てもいるし、何かお土産でも買って行きたいよね。
「ヒロトのお見舞いか……そうか、分かった」
メイさんは一人頷いて、それからこう言った。
「だが、午後からと言うことはまだ時間はある。私たちでGBNを楽しむことにするか」
「うん、そうだね」
二人だけになっちゃったけど、せっかくだもん。GBNを楽しんで行こう。お見舞いも早く行きたい気持ちはあるけれど、お母さんから大丈夫って言われたから。少し時間を置いてからにした方が良いと思うし。
私がそう言うと、メイさんはうっすら、凛々しい感じで微笑んだ
「そう来なくては。……しかし、やはり二人だけと言うのも寂しいかもしれないな。どうしたものか」
メイさんも二人だけだとあれかもって、考えていたみたいなんだね。それから何故か辺りを見回して、一人納得したような顔を。
「……?」
どうしてか分からなくて首をかしげていた私に、メイさんは伝えた。
「すまないが、ちょっと待っていて貰って構わないだろうか」
「? 別に大丈夫だけど、どうして?」
「実は一人、知り合いに心当たりがある。……幸いにもこの近くにいるようだし、今から呼んで来ても構わないか?」
メイさんの知り合い……どんな人なんだろう? 私の知っている人かな、でも話を聞く限りだと、どうなんだろう。気になるかも。
「うん。メイさんの知り合いの人、私も会ってみたいから」
私の言葉に、彼女は分かったって答えると。
「少しだけ待っていてくれ、今からその人を連れて来る。……仲良くしてくれれば良いが」
そのままメイさんは、その知り合いの人を呼びに行くために何処かに行ってしまったんだ。
――――
メイさんが知り合いだって言う人を呼びに行っている間、私は建物の壁にもたれて待つ事にした。
通りを歩く多くのダイバーの人たち。パイロットスーツや制服、それにキャラクターのコスプレと言ったガンダム作品ゆかりの恰好をしていたり、獣人やエルフ、冒険者みたいなファンタジー世界みたいな姿だったり、こうしてただ眺めているだけでもとっても面白いんだ。そんな人たちや街景色、後は晴れ渡った空を眺めて戻って来るのを待って……だけど、ちょっと遅いかも。
――うーん、どうしたんだろう。少し時間がかかっているみたいだけど、何かあったのかな――
知り合いの人を連れて来るのに上手く行ってなかったり、なのかも。だとしたら悪いことしちゃったかも。
「すまない、色々あって遅れてしまった」
「……」
街の一画からやって来るメイさん。ようやく戻って来たみたい、それに左手で繋いでもう一人、一緒に誰かがいたの。
二人は私の傍に来て、メイさんは一緒に連れて来た――多分さっき話していた知り合いの人を紹介する。
「お待たせした。彼女が私の知り合いで、名前は……」
「ワタシに……名前なんて。けれど一応は、そうね――クロとでも呼べばいいわ」
メイさんの隣にいた人。それは黒いパイロットスーツにヘルメットを被った、女の子だった。
パイロットスーツの体つきから私と同じくらいの女の子みたいなのは分かるけど、でもヘルメットを被ってバイザーまで下ろしているせいで顔は分からなくてそれに、声まで普通より高音で加工されてるみたいで。……何だかちょっと、変わっている子。
「初めまして、クロさん。私はヒナタと言います。メイさんとは友達で、クロさんも知り合いだと聞きました。だから今日は私とも仲良くしてくれたら、嬉しいです」
初めて会う人だからちゃんと挨拶はしないと。クロさんは表情は分からないけど、でも優しい感じでこう返してくれた。
「ワタシの方こそ、宜しくね。こうして過ごす事になったのですから、互いに満足の行く時間を過ごしましょう。ねぇ、ム…………いえヒナタ、さん」
「?」
最後の言葉が、何だかぎこちがなくて不自然だった。……どうしてなんだろう。
だけど私たちの初対面、お互いの印象は良い感じだったの。メイさんもそれを感じとったみたいで。
「二人とも、仲が良いようで何よりだ。
どうだクロ、やはり私の言う通り、来て良かっただろう?」
メイさんはクロさんに声をかける。けれど、クロさんは彼女に対してそっぽを向いて。冷たく言い放つ。
「余計なお世話よ、メイ。それに勘違いしないで頂戴。別に貴方に言われたからではないわ。ただワタシは…………その、ヒナタさんに一度会って話をしたいと思った。たったそれだけよ」
「相変わらずだな君は。まぁ、いいとも」
知り合いだって話なのにクロさんはメイさんの事を、何だかひどく距離を取っていると言うか、嫌っているみたいな感じに見える。メイさんの方は軽い苦笑いで受け流している
みたいだけど、正直仲が良いとはあまり思えなかった。
――それにクロさんの口ぶり、私は知っている気もするの。誰かだった気がするけれど、えっと――
でも思い出せない。こう言うのって、モヤモヤするよ。
だけどメイさんにクロさん、仲が悪そうなのは良くないって思うの。せっかく三人でいるんだから、やっぱり。
「メイさん、クロさんも」
距離がある二人。私はその間に入って、それぞれの手を握って繋ぐ。
「ヒナタ、君は」
「……貴方」
「どうしてなのか分からないけど、せっかくGBNで一緒になれたから。だから仲良くしよう、二人とも」
「「……」」
メイさん、クロさんは揃って私を見て、それから互いに顔を見合わせると。
「だそうだ。クロ、ヒナタはああ言っているが、どうする?」
「ワタシは……そう、ね」
少し間が空いた後、クロさんはメイさんと、それから私を見て言ったんだ。
「分かったわ。今のはワタシが……悪かったわ。仲良くしないとなのに、あんな態度をとってしまって」
クロさんは謝ってくれた。
変わっていて、色々気になる感じの不思議な人。だけどこうして素直に謝ってくれたんだもん、悪い人では……ないと思うんだ。
「私のお願い、聞いてくれてありがとう。クロさんは優しい人なんですね」
私はクロさんにお礼を伝えた。すると彼女は、今度は照れたようにして視線を逸らして。
「そんなつもりなんて。ワタシはただ貴方が言うのならと、たったそれだけだわ」
「ふふっ、クロさんってば」
照れているのを誤魔化すのが下手で、本当に素直なんだろうな、きっと。
それからこうして打ち解けたような感じだもん。私は二人に、こう言うんだ。
「さて、と。こうして仲良しになったんだもん。改めて三人でGBNを楽しもう!」
私の言葉にメイさんは微笑んで応えて、クロさんは……顔は分からないけど、でもきっと思いは同じだって思うから。
――初めて会う人だけど、クロさん、か。こうして会えたんだから仲良くしたいよ。友達にだって、なれたらな――
――――
そうして私とメイさん、クロさんの三人でGBNで過ごす事にしたんだ。まずは早速――
〈ふっ、これぐらいの敵ならば、造作もない!〉
メイさんの乗るガンプラ、ううん、モビルドール……って言うんだっけ。彼女そっくりの機体を使って戦うんだ。
今は高難易度ミッションの最中。宇宙空間を舞台にして次から次に現れる、色々なガンダム作品の主人公機を相手に戦っていく内容なの。
――やっぱりメイさん、強いな。主人公のガンダムを相手にあんなに戦えるなんて――
私は比較的戦いに巻き込まれないくらい離れた場所で、そんな戦いを見ていたの。
……実は私もガンプラに乗ってミッションに参加しているんだ。使っているのはライジングガンダムって言う、Gガンダムのヒロインが使っていた機体。赤と白を基調にした色と、それに一番の武器が弓なんだ。だから私に一番合うガンプラだって思って。
それにこのライジングガンダムはヒロトと一緒に組み立てて貰った、大切なガンプラ。ガンプラバトルだって彼とGBNで過ごした時に何度か教えて貰っているもん。だから戦えないことは、ないんだ。
――今は私の所には来てないけど、援護はしないと――
向こうでメイさんが戦っているのはZガンダム。戦闘機みたいな形に変形するガンダムなの。そんなガンダムとメイさんが乗るモビルドール・メイはビームサーベルを武器にして近接戦を、私は戦っているZガンダムにライジングガンダムの武器であるビームボウ――ビームを撃ち放つ弓を構えさせた。
――これでも私は弓道部、弓を扱うのは得意だから――
狙いを定めてそのまま一撃、ビームの矢を私は放った。
矢は真っすぐ飛んで、メイさんが戦っているZガンダムに命中して撃ち貫いた。
「やった! 上手く命中したよ!」
弓の一撃が命中して、それに上手く相手を倒せたことではしゃいでしまう私。メイさんも私にお礼を言ってくれる。
〈ヒナタのおかげで助かった。ありがとう、さすがだ〉
そんな風に言われると、照れちゃうよ。
「えへへっ。今の私、恰好良かったかな? ……きゃっ!!」
でも調子が良い状況は続かなかったんだ。いきなり、私が使っているガンプラに攻撃が命中して大きく揺れたの。
見ると私がいる方に別のガンダム、ガンダムSEEDのストライクガンダムがビームライフルを片手に向かって来ているのが分かったんだ、けれど……。
「うわわわ、っ」
攻撃にビクッとなって私は固まってしまう。その後シールドを構えて防御するけれど、迫って来たストライクガンダムは先に回り込んで、更にもう一撃。
「きゃああっ!!」
確かにガンプラバトルは教えてもらって出来るようにはなったけれど、でも上手いわけでは……全然ないんだ。だってGBN自体始めたのはつい最近、バトルもみんなに比べればまだ初心者みたいだから。
――どうしよう。さっきの攻撃で思うように動けないし、このままだと私――
ダメージのせいでガンプラが動かなくなって、ストライクガンダムはそんな私に、今度はビームサーベルを構えて来る。
〈ヒナタ!〉
メイさんは助けに来ようとするけど、続けて来た別のガンダムが割り込んで邪魔されてしまう。
――駄目、やられちゃう!――
もうダメだって、私はあきらめたその時に……。
〈――させはしないわ!〉
けどその瞬間だった、間に一機のガンプラが割って入って片手剣でストライクガンダムを一閃、真っ二つにした。
「あっ……」
〈貴方の事は、ワタシに――任せて頂戴〉
私を助けてくれたのは、黒に近い紫色をした、リーオー。背にはクロスボーンガンダムに近い×字型のバックパックを付けて、それにバインダーガン……だよね。GBNのミッション報酬で手に入ったりする装備、それを組み替えた片手剣を装備している、ガンプラ。あれに乗って、いるのは。
「ありがとう、助かったよ。クロさんもとても強いんですね」
通信用のモニターには相変わらず黒いパイロットスーツとヘルメットを被っている、クロさんの姿があった。彼女こそ、あのリーオーに乗っているパイロットなんだ。
〈ふふっ、それほどでもないわ〉
今度は別のガンダム、νガンダムがビームライフルとそれに、専用装備のフィンファンネル――複数の遠隔操作型の射撃兵器を射出して攻撃を行う。
〈ヒナタさん、貴方を守ってみせるわ。このワタシが〉
クロさんのリーオーは、飛んで来るフィンファンネルをバインダーガンの剣先からビームを放って撃ち落とす。
「私だって、力になりたいから!」
フィンファンネルの一機が近くに迫って来るのが見えた。私はライジングガンダムの近接武器、ビームナギナタで切り落とす。
だけど、そんな後ろにνガンダム本体が回り込んでビームサーベルを振り下ろそうとする。
「っ!」
とっさにナギナタで受け止めるけれど、力が強くて押されてしまう。……だけど私だってもっと、やれるもん!
負けないようにぐっと力を込め返して、νガンダムの斬撃を弾いてそのまま、もう片腕でビームボウを持って一撃を胸元に放った。
〈やるじゃない。ヒナタさん、そんなに……自分で〉
今の私の活躍を見てクロさんは驚いたような、感心したような態度を見せたんだ。表情が分からなくてもなんとなく、でも……そんな感じが伝わった。
だから私は彼女に微笑んで、こう答えてみたの
「どうかな? 私だって、守られてばかりじゃないよ。
自分でも出来る事は、頑張りたいから」
〈…………そう〉
クロさんは一言呟いて、少し間が空いた。まるで何か思う所があるみたいに。
――クロさん、どう考えているんだろう。私にはそこまで分かる事なんて出来ないから――
やっぱり気になる人だなって、そう思っていたらクロさんは私の横に、来ると。
〈とにかく貴方は、ワタシが守ってみせるわ。ええ、ワタシが――絶対に〉
クロさんの想いは嬉しいと感じた。だけど逆に少し本気過ぎる所もあるかもって、つい……思ってしまったりも。
――――
三人でのミッション、ガンプラバトルも楽しかったな。やっぱり私には難しいミッションだったけれど、メイさんもクロさんも私の事を助けてくれて、クリア出来たから。
……でもミッションをして疲れちゃった。だからそれからはゆっくり、GBNのエリア――エストニア・エリアの街中で過ごしたの。
「どう? ここから見渡せる景色、絶景だと思わない?」
街一番の高台、その頂上から景色を一望する私たち。さっき街中も歩いたりしてお店も少し見てまわったりもしたけれど、やっぱり綺麗な景色も見所だもん。
高い塔に登って、屋上から眺める街景色。オレンジ色の屋根に石造りの風情がある、昔ながらの西洋風の街並み。何だか海外旅行気分になるよね。
「良い気持ちだな。ずっとこうして、眺めていたくなると言うか。そう思ってしまうくらいだ」
「ワタシもここには初めて来たわ。でも、ヒナタさんの言う通りね。確かに……とても良い眺めではあるもの」
メイさんも、それにクロさんも、屋上の縁に腕を乗せて景色を見下ろしている感じで。見とれているのかな、たぶん。
――あれからクロさんとも距離が縮まったって言うか、仲良くなれた感じかな。気難しい所もあるけど、優しくしてくれるから。……だけど――
だけどクロさんは、相変わらずヘルメットのままなのは変わらない。あんなのを被ったままで、ちゃんと景色は見えているのかな。
ちょっと気になったから私は彼女に聞いてみることにした。
「ねぇクロさん、せっかくだから頭のヘルメット外してみない? きっとその方が景色だってよく見えるって思うから。
それにクロさんの顔も、気になっちゃって」
「……ふふふ、そう」
私の言葉にクロさんは軽い笑い声を響かせる。それから、こう彼女は言ったの。
「心配しなくてもちゃんと見えているわ。それに、ごめんなさい。ワタシは……その、人見知りで。ヒナタさんには悪いけど素顔を見せるのは、ちょっと」
どんな素顔かちょっと見てみたかったけれど、やんわりと断られてしまった。
「謝らなくても大丈夫だよ。私の方こそ、変な事を言っちゃったかもだし」
だよね。やっぱり事情があるかもだもん、なのに気になるって理由でそんな事を聞いた私が悪いもん。
「やっぱり、優しいのねクロさんは。…………っ!」
話している途中、いきなりクロさんは左腕を押さえて、苦しそうに小さく呻くのが聞こえた。
「――クロさん? もしかして、どこか痛むのですか?」
我慢しているみたいだけど、それでも痛そうにしていたから。心配する私だったけど、クロさんは平気そうに笑って言った。
「心配しなくても。全然問題ないわ、本当に」
さっきは痛そうに見えたけど、でも今は彼女の言う通り大丈夫そうだった。もしかして私が気にし過ぎただけかも。ちょっと気になるけど、大したことじゃないのかな。
ちなみに――メイさんはそんな事に気づいてなくて、まだ風景を眺めていたの。そしてこう呟くのが聞こえたんだ。
「この景色だってそうだが、やはり綺麗なもので溢れているな。GBNと言う世界は……だからこそかけがえのない世界だ」
GBNがかけがえのない世界だって、メイさんの言う通りだよね。こんなに広くて、たくさん素敵なものがあるんだもん。そして、たくさんの人がここで思い出を作るから。私やみんな、……もちろんヒロトだって。
私もメイさんと同じ想いに浸っていた。けれど、一方で。
「…………ふん」
クロさんは不機嫌そうに呟くと、メイさんに対してそっぽを向いていた。
――やっぱりクロさんはメイさんと仲は良くないみたい。それに、何だか――
あの態度、単にメイさんの事だけではなくて、さっき言った言葉も気に入っていないような感じで。
GBNに対して良い感情を抱いていないと言うか、どこか嫌っているようにも思えて。
――クロさんってGBNが嫌いなのかな。……ううん、まさかね――
だってさっきもここからの景色を、良い眺めだって言ってたのに。それにGBNが嫌いな人なんて考えつかないから。
……でも、本当は一人だけ心当たりがあった。
『ワタシはね、GBNもガンプラも大嫌いなのよ。
とっても憎くて憎くて堪らないのよ』
いつか言った言葉。私のためにGBNにガンプラ、ELダイバーにそして……ヒロトの事も憎み続けていた、別の『ワタシ』の事を。
ミラーミッションで私のデータをもとに生まれた、黒い姿をした私――クロヒナタさん。彼女は彼女なりに私の事を想ってくれて、幸せにしようとしてくれた。……例えいけない事だったとしても。
私のためにビルドダイバーズのみんなと、ヒロトと本気で戦って……負けて、消滅してしまった。
やり方は間違っていて、酷い事をしたのかもしれない。だけどクロヒナタさんは、もう一人の『ワタシ』は私のために想って、真剣に向き合った結果だったんだ。
――最後は彼女なりに……救われたのかな。でもやっぱり、分からないよ――
「……ヒナタ」
一人考えこんでいたところに、メイさんが私に声をかけて来た。
「あっ、私……」
「何もないのにボーっとしていたから、気になってしまった。どうかしたのか?」
そう聞かれてどんな風に答えようか悩んだけれど。
「ちょっとだけ、考え事をつい、ね。でもそこまで大したことじゃないから……心配してくれてありがとう」
メイさんにこう答えることにした私。それに、横にいてまた景色を眺めているクロさんにちらって視線を向けてふと思ったりもした。
――そう言えば、クロさんってあの『ワタシ』と……クロヒナタさんに似ている感じがするんだ――
――――
その後も街中を三人で一緒に巡ったの。
「これは飲み物、なの?」
「そうだよ、クロさん! これはタピオカジュース、ジュースの味と一緒にモチモチした触感も味わえるんだよ」
「へぇ……これも、食べれるのかしら」
屋台でタピオカジュースを一緒に飲んだ時にはクロさん、初めてのタピオカにも戸惑ってたりしていたんだ。だから、私とメイさんは先にタピオカジュースを飲んでみたんだよね。
「ほら、とても美味しいよ。甘くてモチモチなんだ!」
「確かに、飲めばクセになる味だ、見た目こそあれかもだが、なかなか良いものだぞ?」
「――っ! 余計なお世話よ、メイ。確かに独特な見た目だけど、別に飲めないわけではないわ」
強気を見せるけれど、やっぱり緊張しながらクロさんは口元だけヘルメットから出して、恐る恐るタピオカジュースを飲んだんだ。
最初は気持ち悪いって思っていたかもだけど、一口飲んだ瞬間に驚いた感じで。
「これは……悪くないわね! 良い味、と言うのかしら」
「うんうん! まさにそれだよ。クロさんもタピオカジュース、気に入ってくれて嬉しいな!」
それにファッションショップ、お洋服屋さんにも寄ったりも。
「どうかな? この恰好、似合っているかな?」
つい色々と試着しちゃって、今度はZZガンダムに出て来る女の子、エルピー・プルさんの私服のコスプレをして試着室から出て来たの。
黒くてヒラヒラした、女の子らしい可愛い感じの衣装。外で待っていたメイさんとクロさんは、私の姿を見てこう言ってくれたんだ。
「ふむ、なかなか良いじゃないか」
「とても可愛いわよヒナタさん。その衣装も、とても良く似合っているもの」
「そうかな……ふふっ。褒めてくれると嬉しいな、やっぱり」
二人とも私が着替える度にそう言ってくれるから、喜んでしまうよね。――でもね。
「でも、せっかくだから二人も着替えればいいのに。私だけこうしているのも。楽しいけど、やっぱり恥ずかしくもなっちゃうよ」
メイさんもクロさんも、こうして私が試着する所を見るばかりで自分達は着ようとしないから。
「すまん、何だかいつもの恰好が性に合ってると言うか。あまり別のを着たいとか、そうした気持ちが薄くてな」
「ワタシはほら、このヘルメットがあるでしょう? これじゃあ何を着ても似合わないと思うもの。ごめんなさいね」
「……あはは」
二人から似た事を言われて、私はつい苦笑いしてしまう。でも、そんな私にクロさんはこう続けて言ってくれたりも
「それに、ね。自分で着るよりも何だか、こうしてヒナタさんが色々な衣装を見せてくれる方が……ワタシは良いなって、そう思ってしまうから」
そう言ったクロさん。顔は見えなくても、彼女も嬉しそうなのは……雰囲気から感じたんだ。
自分ばかり着替えるのはちょっと恥ずかしいけど、私は。
「それならもう少し、色々試着してみようかな!
だってみんなで良いなって思える時間が過ごせるのが一番だもん!」
それにね、クロさんがああして喜んでくれた事――私も同じように喜んでもいたから。
――――
こうして楽しい時間を過ごした私達。けれど……。
――もうそろそろ、時間かも――
時間的にもGBNをログアウトして、ヒロトのお見舞いに行こうかなって考えていた私。でも、こうしてメイさんとクロさんと過ごすのも楽しくて、別れるのも名残惜しい気もしていた。
私の隣にはクロさん、それに後ろにはメイさん。三人で街の通りを歩いている所。今の時間もあるし、通りは賑わう場所みたいで私達の他にもたくさんの人でごった返している。そんな通りの道を歩きながら、私は二人に声をかけたんだ
「ねぇ、私……次の場所で最後にしようと思うの」
「あら? それはまた急じゃない、どうしてかしら」
隣を歩いているクロさんは首をかしげて、そう尋ねて来た。
「GBNは午前中くらいまでって決めてたから。ヒロトが風邪で、お見舞いにも行きたいって思っているから」
「……」
私の言葉に、彼女は少しうつむいて沈黙している。
「せっかくなのにごめんね。メイさんも、そう言うことだから……」
後ろを歩いているメイさんにも、この事を伝えて振り向いた。けど、そこにいるはずのメイさんの姿は、なぜか見えなかった。
「あ……れ?」
後ろについて来ているはずのメイさん。さけど見たときにはもう、その姿はどこにもなかった。クロさんもそれに気づいたみたいで。
「あら、いつの間にいなくなったのね。はぐれたのかしら?」
「みたいだね。……どうしよう、GBNを切り上げるにしてもお別れは言いたいから。
ねぇ、一緒にメイさんを待ってもらっても、いいかな?」
多分向こうもはぐれた事に気づいて、探していると思うから。だからどこか分かりやすい所で待っていた方がいいかなって。
「成程、ね。ワタシは構わないわ。……じゃあ待っていましょうか。ワタシとヒナタさん、二人で」
とりあえず私達は通りのベンチに座って、メイさんを待つことにした。
「……」
クロさんと一緒に座って、私はちょっと考え事。
――やっぱり不思議な人だよね。クロさんって、実際どんな人かよく分からないから――
それに今はメイさんもいなくて二人だから、彼女の事を聞くのは丁度いいかもって思った。良いチャンスだもん、少しだけ話をきいてみようかな。
「クロさん、私――」
私が口を開いた、その同時にクロさんからこんな事を。
「ねぇヒナタさん。ワタシ、貴方に聞きたいことがあるの。構わないかしら?」
向こうから先に言われて、私は僅かに驚いて固まってしまった。けれどクロさんがそう言うのなら、私は。
「うん、大丈夫ですよ。クロさんは何が聞きたいのですか?」
私もクロさんの事は気になるけど、やっぱり直接聞くのも失礼かもって思ったから。それにクロさんからの話を聞いた方でも、彼女の事を知れるかもしれないし。
「ありがとう、嬉しいわ」
彼女は一言お礼を言った後、こう聞いて来たんだ。
「メイさんから聞いたけれど、ヒナタさんには幼馴染みの、それに今は恋人になった男の子がいるみたいじゃない。名前はヒロト、だったかしら」
「そんな話も、聞いていたんだ。……うん。ヒロトは小さい頃からの幼馴染みで、最近では恋人同士として、彼と付き合っているんだ」
ヒロトの事も知っていた事に驚きながらも、私は驚いた。でもメイさんとは知り合いみたいだから、不思議はないのかな。
「やっぱりね。ワタシが聞きたいのはそのヒロトついてなの。
ねぇ、ヒナタさんは彼に出会えて幸せだって――そう心から思っているの?」
それがクロさんの聞きたい事だった。そんなのは当たり前だよ、私は迷わず答えた。
「うん、とっても! ヒロトは私にとって、一番かけがえのない大切な人だから。昔からずっと傍にいてくれて、私にもたくさん優しくして貰ったから。ヒーローなんだ、私の。
それに……色々あったかもしれないけど、私の想いに答えてくれて、恋人にもなれたもん。ヒロトがいない事なんて、考えられないよ」
「貴方は……」
表情は分からないけど、クロさんは顔を俯けて。何か思い悩みがある感じって言うか、葛藤しているみたいな感じを私はその雰囲気から覚えた。
「ワタシには、どうしてそう思えるのか分からないわ。今までずっと幼馴染みとして仲良くしているのは知っているわ。
けれどヒロトは貴方にとっての良い人とは、ワタシには到底思えないのよ。なのにヒナタさんは一緒にいて幸せだと言う、そんな想いなど、理解出来ない」
「そう……かな」
私が聞くとクロさんは、当たり前じゃないと、そう言った。
「――彼は貴方に相応しい人だとは思えないのよ。いえ、むしろヒロトなんて存在しない方が幸せじゃないかとも思うのよ。
きっとその方がヒナタさんだって、もっと色々な事が出来たと思うし、良い人と出会えたのかもしれないのに。ヒロトさえいなければ、そしたら……きっと」
最後には、まるで隠しきれない怒りのようなものを感じるような、クロさんの言葉。それにもしかすると――彼女は。
「ねぇ、クロさん」
複雑そうにしているクロさんに、私はある話をする事にした。
「実はね、前にもクロさんとよく似た人がいたんだよ。この世界やガンプラ、それにヒロトが私を強く悲しませているって考えて、自分でも悲しんで、怒っていた人が」
「――ヒナタ」
「でもそのせいで酷い事をして、人だって傷つけようともしたの。きっとその人も悪い事だって分かっていたんだと思うけど、それでも私の幸せを純粋に考えてくれた……結果で。
だけど、私はちゃんと幸せなんだ。ヒロトとの事だって、色々あるかもしれないけれど彼はとても優しい人で、それに繊細だから。だから一人で背負ってしまったりして、ヒロトも苦しかっただろうし、自分にも余裕がなかったと思うから。でもね、それでも私の事やみんなの事だって考えて、救おうとも頑張ったんだよ」
「どうでもいいじゃない、そんな事なんて!
それよりも、貴方自身はどうなの!? ヒロトさんが向ける貴方への想いは……本当に、満足が行くものなの。それで幸せですって、彼はその中で…………どれだけ貴方の事を想っていると言うの。例え恋人になれて仲良くしているように見えても、結局は――っ」
クロさんはまだ怒りを隠せない感じで、拳を握っていた。本人も堪えようとしているけど、やっぱりとても怒っているみたいで。
私だって気持ちは分かるから、それだけ彼女が思っているのだって。でもそれってとても苦しい事だと思うから。
だから私はクロさんに、優しく諭すように答えるの。
「そんな事なんて、ないよ」
「……」
「みんなの事もだけど、私の事もヒロトは大切に想ってくれているから。だから告白も受け入れてくれた、私を一番に想って欲しいって、ワガママだって叶えてくれたもん。
今だって彼は私の事を恋人として、特別に好きだって想ってくれているし、その想いは紛れもなく本物だって分かるから。だからとっても幸せなの。恋人になれたらって夢だったから、それが叶ったからこの幸せは私にとって間違いなくて、否定されるのは……悲しいよ」
「ワタシは――」
まだ考えている様子のクロさん。だけど、さっき見せた怒りの感情は薄らいでいた。……良かった。私も安心したよ。
「クロさんも、ヒロトと会って話をしたら、きっと分かってくれるって思うんだ。
それに彼だって想いに応えてくれたから。だからね私も……もっとヒロトの想いに応えられるように、ヒーローな彼に相応しい相手になれるように頑張らないとって!」
心からの私の言葉。つい思いっきり笑顔になって、そう言ったの。
恋人に、ヒロトにとって誰より特別な人になるって夢は叶ったから。だから次は私も、彼に相応しい人になりたいって……それがささやかな、私の夢なんだ。
「すまない、少し用事があって離れていた。一言言っておけば良かった」
そうしていると、ようやくメイさんが戻って来た。……良かった。これで一安心だよね。
「メイさんが戻って来てくれて、良かった。……私はそろそろお別れだから、お別れは言わないとって思ってたから」
「……っと、そうだったな。ヒロトのお見舞いに行くと話していたな」
メイさんの言葉に私は頷く。
「分かった。名残惜しいが、今日はこれでお別れだ。今度はビルドダイバーズ全員でGBNを満喫したいものだ、ヒロトにもよろしく伝えてくれ」
「はい! もちろんメイさんの事も、伝えますね。――クロさん」
私はベンチに座ったままのクロさんにも、声をかける。
「……」
「クロさんも今日は一緒に過ごしてくれて、ありがとう。遊んだことだって……心配もしてくれて、とても嬉しかったよ」
今日初めて出会って、GBNで一緒に過ごして良い時間が過ごせたから。だから彼女にもお礼が言いたかったんだ。
「本当に、ありがとう。それに、次会えた時も一緒に遊ぼう。だって私はまだクロさんと過ごし足りないし、話したいことだってまだたくさんあるもん。
だから…………またね、クロさん」
それに、また会いたいって思ったから。クロさんは少しの間口を閉ざしていたけれど、ほんの少しだけ笑い声をこぼすと。
「ふふ……っ。そうね、もしまた会えたのなら――ね。
さようなら、ヒナタさん。ワタシも貴方と過ごせてとても良かったわ」
彼女も私と同じ気持ちだって、安心したよ。
新しい友達も、こうして出来たから。胸の中の温かい感覚を感じながら私は、二人とお別れしたんだ。
――〈Side メイ〉――
ヒロトのお見舞いに行くと言うことで、ヒナタは先にGBNを出た。
その一方で――私達は。
「今日はどうだったか、クロ。……その呼び方で構わないだろう」
街中の裏路地。他にダイバーもいないこの人気のない場所で、私は今日ヒナタと共に過ごしたパイロットスーツの少女――クロと二人で話していた。
「構わないわよ。――『クロヒナタ』と呼ばれるより、そっちの方が都合いいですもの。
まぁ、所詮は便宜上の名前に過ぎないのは、変わりはないけれど」
そう言うと、クロは今まで被り続けていたヘルメットに手をかけて、頭から外す。露わになったその素顔は……ヒナタと全く同じ顔をしていた。
「まさか、このワタシを直接ヒナタさん……いえ、ムカイ・ヒナタに会わせようだなんて何を考えているの」
複雑そうな表情をクロ、ミラーミッションでヒナタのデータを元にして形作られた情報生命体、クロヒナタはそう言って見せる。
本当にたまたまだった。あの時、私とヒナタだけだと寂しいと思った時、ふと彼女がいくらか離れた場所からこっちを観察している事に気づいた。無害だから放ってはいたが、クロヒナタはたまにヒナタの事をああして見ている事があった。……そしてあの時もそうだった、だから私はそんな彼女の所に行って誘ったわけだ。
――最も、彼女は最初かなり消極的で誘い出すのには苦労したが。でも私は――
「私はただ、一度彼女と会って欲しかったと思った。ああして遠くから見ているより会って過ごした方が、今のヒナタの事を理解してくれると思っただけだ」
「……」
「どうだったか? ヒロトと共にいた時だって何度も見たはずだ、ヒナタはちゃんと、心から幸せだっただろう。
……それとも彼女が無理してああ見せていると思ったのか?」
改めて私はクロヒナタに尋ねた。彼女は思い悩むような様子でしばらく黙っていたが、諦めたようにこう呟いた。
「……いいえ。ムカイ・ヒナタはとても幸せで、満ち足りている感じだったわ。間違いなくね。ワタシだって…………それくらいは分かるわよ」
やはり、彼女なら理解していると思った。
「君がどれだけヒナタの事を想っているのか知っている。けれど、十分に分かっているだろう? 君自身が願っているように彼女は幸せに過ごしていると、そしてそれはヒロトが傍にいてくれるからこそだと言う事だって」
「それは……っ」
拳を握りしめながら、私から視線を逸らして唇を噛むクロヒナタ。口を閉ざして、答えられないまま沈黙する。私は彼女にそっと、手を伸ばす。
「なぁ、もうそろそろいいんじゃないか、今のヒナタの幸福を正直に認めても。
私達やヒロトを恨んでいる気持ちは分かる、けれどこのままでは君が苦しむだけだ。だから――」
「――ふざけないで!」
その瞬間に彼女の瞳に怒りと憎悪に燃えて、私の手を振り払って拒絶する。
「分かってはいるわよ、ヒナタが幸せな事くらい! だけど貴方達は……クガ・ヒロトは…………っ――ぐぅっ!!」
クロヒナタが激昂した途端だった、突然左腕を押さえ込んで苦しみ出した。
「こんな……時に。感情的になったせいで……うう、っ」
苦痛の表情を浮かべて、腕を押さえながら数歩後ろに下がる彼女。それに見てしまった。クロヒナタの左腕……その一部分がデータのノイズのように変化して崩れかかっているのを。
「クロ、君のその腕は、一体」
彼女の異常に私は動揺してしまう。が、それは僅かな間だけだった。腕のノイズはそれから収まり、崩れた部分も何事もないように元通りになっていた。
「……見たわね」
自身の事を知られたクロヒナタ、彼女は私を鋭く睨む。……そして。
「まぁ、いいわ。とにかく貴方の言うように付き合ってあげたのだから、もう失礼しても構わないでしょう。
今日はとても楽しかったわよ。嫌味は抜きにして、本当にね」
半ば一方的に言うとクロヒナタは、踵を返してこの場を後にしようとする。
「待ってくれ、君は!」
「時間は……限られているから。だから答えを出さないと。
何のために――ワタシは」
かすかに一人そう呟いたのが最後だった。クロヒナタの姿はそのまま路地の角へ入り、姿を消した。
私はすぐに彼女を追った。けれど入ったはずの路地を見ると、姿はもうどこにも無かった。
――消えてしまった、か――
いなくなってしまったクロヒナタ。それに最後見せたあの身体の異常と、思い詰めている様子も、気になっていた。
……私はどうすればいい。もしヒロトならこんな時に、何て言うのだろうか。
今回は区切りの関係でかなり長くなってしまいました。
次回の番外編はこのまま、看病回になる予定です。