【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い―   作:双子烏丸

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番外編最終話 中編 ワタシ自身にとっての決着 1/3(Side ヒロト)

 

 GBNに来た俺を出迎えてくれたのは、カザミ達ビルドダイバーズのみんなだった。

 

「おう! ようやく来たな、ヒロト!」

 

 俺の姿に気づいたカザミは俺の元に駆けて来て、親し気にポンと肩に手を置いて声をかける。筋肉質で大柄な体格のダイバールックのカザミ、こうして立つとやっぱり俺より大きいな。……リアルではそこまででもないけれど。

 

「やぁ、カザミ。俺も会えて嬉しい」

 

「ハハハ! やっぱりヒロトがいないとだもんな。もちろん、俺だけじゃないぜ」

 

 カザミに続いて向こうからはパルに、それにメイも来てくれた。

 

「ヒロトさん! こんにちは」

 

「……やぁ」

 

 パルも嬉し気に挨拶してくれる。……メイも、笑顔を俺に向けてはいたけれど。

 

 ──妙だな、雰囲気が少し思い詰めているような、複雑そうな様子に見える。

 何かあったのか、メイ?──

 

 今はカザミにパルもいる。どこかタイミングがあれば、聞いてみるのも良いかもしれない。

 

「これでビルドダイバーズ、全員そろったな! ……と言いたい所だが」

 

 改めて俺を見た後、カザミは残念そうに言った。

 

「やっぱり、ヒナタは今日は一緒じゃないのか。ちゃんと全員で集まれたら良かったけれど、用事があったのか?」

 

「ああ、部活の試合にな。俺もヒナタと来たかったけれど……」

 

「でも用事があるなら仕方ないですよ。今日は僕達四人で行きましょう?」

 

「……」

 

 口数の多い方ではないないけれど、今日はいつもよりも無口なメイ。やっぱり奇妙だ。パルもそれに気づいたみたいで。

 

「あのメイさん、やっぱり何かあったのですか?

 今日会ってから少し変でしたし、僕は心配で」

 

 心配しているパルに、メイは安心させるように話していた。

 

「心配しなくても、大丈夫だ。しかし、やはり……そうだな」

 

 と、今度は俺の方に視線を投げかけた。それから少し考える様子を見せた後、俺に──言った。

 

「ヒロト、二人で話したい事がある。もし良ければ、構わないか?」

 

「……ん? ああ、俺は別に問題はない」

 

 急だとは思ったけれど、話くらいなら全然構わないと思った。

 

「おいおい、メイ。相談があるなら俺たちだって乗るぜ?」

 

「すまないカザミ、これは二人だけの事なんだ。

 ……さて、じゃあヒロトは私と来て欲しい。大切な話だ、頼む」

 

 未だによく分からない状況とは思う。けれど、メイの言うように重要そうなのは分かる。

 だから俺は彼女の話を、聞きに行く事にした。

 

 

 

 ────

 

 GBNのロビーから離れ、俺は建物の屋上に。他にも人はいたが俺とメイは離れた場所で二人、話をする事にした。

 

「それで、俺に話したい事は……一体何なんだ?」

 

 カザミやパル達にも話さずに、俺にしか言えない事。それが何なのか自分自身気になりもしている。

 見るとメイの様子も複雑そうな様子が強く、ただならない事情を抱えているかもしれないと、そう考えた。

 

「いきなりで悪い。しかしヒロトにはどうしても、伝えないといけない事がある。……その前に」

 

 メイはそう言うと俺に対して、頭を下げる。

 

「すまない。私はヒロトに……本当ならみんなにも謝らなければならない事がある」

 

「謝るだって? 急に言われても何が何だか、説明してくれないか?」

 

 いきなり頭を下げられて謝られても戸惑うだけだ、まずは説明して欲しい。

 俺はそう伝えるとメイはそうだな、と。そして改めて話をしてくれた。

 

「私はずっと秘密にしていた事がある。ヒロトにも、カザミにパルやGBNの運営に……ヒナタにも。

 ヒロトは覚えているだろう? ミラーミッションで生まれたヒナタのコピーが起こした、あの出来事を」

 

 

 

 もちろん、忘れてなんていない。

 ミラーミッションでELダイバーの不完全なコピーが偶然に自我を得て、その後ヒナタの情報を取り込んで誕生したもう一人の黒いヒナタ……通称クロヒナタとも呼んだ。初めて得た人の、ヒナタの心と想いは彼女にとって大切な物で。

 それを守ろうと、そして彼女なりの方法でヒナタを幸せにするためにミラーミッションのシステムを乗っ取りGBNやELダイバー、そして俺に敵対して戦った。

 あのヒナタの目的は俺の身体を乗っ取り、代わりに自分が『クガ・ヒロト』として成り代ってヒナタの想いを遂げさせる事だった。けれど俺と、ビルドダイバーズのみんなの力でその目的を阻止して彼女を打倒した。……そして戦いに敗れ、消滅したはずだ。

 

「ああ。あの戦いでGBNを救い、ヒナタを取り戻した。

 ──だけどもう一人のヒナタは救えなかった。救えたかもしれないのに、今でも俺は心残りで」

 

 黒いヒナタはGBNにガンプラ、ELダイバーに……何より俺を、ヒナタ傷つけた相手として激しく憎んでいた。それでも、彼女はヒナタを想って必死だった。最後は俺の手で──互いに譲れなかったから。俺がヒナタを強く想っている、それを示すためにも……しかし。

 

「本当にあれで良かったのか。もっと俺に出来る事が、まだあったのかと今でも思う。

 けれど彼女は消えてしまった。今更……」 

 

「消えてはいない。今も、あのヒナタはGBNに存在している」

 

 ──俺はその言葉に驚いた。

 

「何だと? けど、あの時確かに身体が崩れて、消えたのをヒナタと……この目で」

 

「あれは彼女が持つミラーミッションの機能で作った、自身の偽物だ。

 本物はGBNに移り潜んでいた。……いつか立て直して逆襲するためだと本人は言っていたが、あれからヒロトと結ばれて幸せそうなヒナタを見て、本気でそうする気はないように思えた。だからクロヒナタが生きている事を秘密にして見逃していた。

 ……万が一、ヒロトやGBNに再び危険を及ぼす可能性もあるとも分かっていた。それでも私はそうしたかった、いつか彼女も分かってくれて、生まれは違うかもしれないけれど一人の生命としてGBNの世界で暮らして欲しいと願ったからだ」

 

 危険がある事を承知で見逃して、それを一人秘密にしていた。だからメイが謝ったと思うけれど、謝る必要はどこにもない。──それどころか。

 

「メイの考えは正しい。俺でもきっと、そうしていたとも思うから。

 それに……俺も安心しているんだ、あのヒナタも無事にいてくれて、良かったと」

 

 リアルでのヒナタと違い、彼女は俺を強く憎み、酷い事をした……命さえも奪おうとも。 

 それでも俺は彼女が生きてくれていた事が嬉しかった。無事でいてくれて、ほっとしたんだ。 

 

「本当に良かった。せめて彼女がこれから、幸せにになってくれたら。

 ただ……彼女からしたら、俺なんて会いたくないとは思うだろうけれど」

 

 俺はあの黒いヒナタが──恐らく、一番憎んで堪らない相手だから。そう思っていた俺に、メイは話す。

 

「──それだ。ヒロトに話したい事と言うのは」

 

「メイが話したい事と言うは、まさか」

 

 言葉で察した。そして俺の考えた事は……的中していた。

 

「ああ。話と言うのは彼女が、黒いもう一人のヒナタがヒロトに──会いたがっている事だ」

 

 

 

 ────

 

 俺は自分のガンプラ、コアフライヤーに変形したコアガンダムⅡでGBNの、広い荒地のエリア上空を飛び移動する。

 このエリアはGBNでも辺境の地域にある。だから会う場所としては、丁度いいのだろう。

 

〈こっちだヒロト、この先に彼女が待っている〉

 

 前を飛ぶのはメイのウォドムポッド。彼女が俺の道案内をしてくれている。

 

〈さっき話した通り、向こうは危害を加えないと言っていた。危険な相手だと分かっているが……真剣そうに話している彼女の様子は印象的だった。私としては信用出来ると思う。

 念のために警戒もしているが、嘘を言っている感じではなかった。本当に会いたいだけなんだろう〉

 

「今更かもしれないが、これまでにもメイは彼女と何度も会っていたのか?」

 

「直接コンタクトをとったのは三度くらいだ。一回、二回目は私から、……そして三度目は向こうからやって来た。

 ヒロトと会いたいと、そう伝えに。後…………時間はもうないとも」

 

 時間がない? どう言うことかは分からない。しかしそれにしても……。

 

「カザミたちには悪い事をした。会ったばかりでいきなり分かれてしまうなんて、けれどどうしても、ヒナタの事が気になったからだ。 

 ──どっちとも。部活で今日来れなかったのが、丁度良かったかもしれない」

 

「そうだな、カザミもパルも分かってくれるだろう。これは私とヒロトの問題でもある、だから……」

 

「分かっている。俺に出来る限りの事を、彼女に。

 後悔なんてしないように、今度こそ救ってみせる」

 

 改めて決意した。俺はヒナタのヒーローだから。だからこそ、もう一人のヒナタも救いたい。

 メイはそれを聞いて、頼もしい顔を見せてくれた。

 

「ヒロトがそう言うなら、私も力になろう。

 さて、目的地も見えて来た。あそこに……待っているはずだ」

 

 

 

 荒野の中に、まるで墓標のように突き刺さるスペースコロニーの残骸。 

 俺とメイはその手前にガンプラを着陸して機体から降りる。

 

「ここはずっと前に……来たことがある、のか? イヴの手がかりを探していた時に、けれどここには何もない。

 あの、寂れたスペースコロニー以外は」

 

 降りて間近で見ると、やはり巨大な物体だ。空が殆ど隠れてしまうくらいに。けれど、あの黒いヒナタの姿は見当たらない。

 

「この荒野のエリアのスペースコロニーで待っていると。目立つ目印だ、間違ってはいないはずだけれど」

 

「ああ。エリアもここで合っている、まさか彼女の方が来ていない……のか?」

 

 俺も、メイもそう考えていた矢先だった。スペースコロニーの残骸、その中の暗闇から人影が浮かび上がって来るのが見えた。

 

「来たのね、クガ・ヒロト」

 

 灰色のマントとフードで身を隠している人物。けれどその声と、フードから辛うじて見える左半分の顔は……髪や瞳の色彩が暗い以外、ヒナタと同じもので。

 

「こんなに早く来るなんて驚きだわ。でも、おかげでワタシの時間も……間に合いそうだわ」

 

 微妙に謎な言葉。けれど俺も言葉を返す。

 

「俺に会いたいと聞いたから。それと──君の事もヒナタと、呼んでも構わないか?」

 

 俺の前にいる黒いヒナタ──彼女は、色々とヒナタ本人とは違うかもしれない。けれどもう一人の『ヒナタ』であるのも正しいと、俺は思うから。

 

「ワタシが……ヒナタねぇ」

 

 顔の右半分はフードに隠れて見えないまま。けれどそう呟いた彼女の左半分の表情は何処か物寂し気で、片目の視線を伏せていて。

 

「もうワタシにはあの子を、ムカイ・ヒナタと名乗る資格なんてない。だって救う事が出来なかったもの、クガ・ヒロト──貴方から」

 

 再び視線を上げて俺を見た瞳には、以前戦った時と変わらない、強い憎悪と敵意で一杯だった。

 前によく見せた外見上は微笑んだまま──嘲笑いながらの憎しみではない。最初から彼女の表情からも感情相応の、静かだけれど、深い憎しみが伝わる。

 メイもそれに気づいたらしく、俺を庇うように言った。

 

「まだヒロトの事をそこまで憎んでいるのか。こうして話の場に来たんだ、もう許しても構わないだろう」

 

「ええ、許してあげても構わないわよ。

 ……もしムカイ・ヒナタが貴方に費やし続けてきた時間と想い、全てを元通り彼女に返せるものなら、クガ・ヒロト」

 

「──」

 

 俺は何も言い返せなかった。

 

「そんなのヒトに、出来るわけないわよねぇ。つまり……そう言うことよ。

 後ねメイ、貴方がそんな事言えるのかしら? ワタシはクガ・ヒロトも憎いけれどメイもイヴも、ELダイバーだって嫌いで憎いのよ。まさか改心しただなんて、都合の良いことを考えていたわけではないでしょう?」

 

 けれどね──。彼女は今度は苦悩の表情を見せて、続けた。

 

「あれからGBNに潜んでいたのも、機会を見て貴方達に報復するためだったわ。けど、ワタシはずっと何も出来ないでいた。

 だって彼女は、ムカイ・ヒナタは確かに──心から幸せでいたのだから」

 

「……君は」 

 

 恐らくどこかでヒナタの事を見ていたんだと思う。俺の恋人になってからの──彼女の幸せそうにしている様子も。 

 

「前よりも、記憶にあるムカイ・ヒナタのどれよりもずっと、本当に……幸せそうに。きっとあれがワタシの望んでやまなかった、あの子の幸せだと思った。

 ……なのにどうしてかしらね。何故か喜べない。こんなにもワタシは、腹立たしくて堪らないのは。どうしていいか分からない、このぐちゃぐちゃした感情は」

 

 そしてもう一人のヒナタは、俺を強く睨んで言う。

 

「分からないわ、よりにもよってクガ・ヒロトと。貴方のような……貴方みたいな人間がどうして、ムカイ・ヒナタを幸せに出来るのよ!

 ワタシはそれが…………うう、くうっ!」

 

 感情的になった彼女は、途端に隠れて見えない顔の右半分を押さえて苦しみ出した。

 

「大丈夫か、ヒナタ!?」

 

「……っ! 寄るなっ!」

 

 心配になり近寄ろうとした俺を、激しく拒絶する。

 けど、それでもまだ苦しむ様子を見せている。一体どうしたんだ?

 

「ふざけ……ないでよ。どうせムカイ・ヒナタの事なんてろくに思いもしなかった貴方が、今になって。

 ……どうせあの子に向ける想いさえ紛い物、偽物に過ぎないのに。貴方なんて彼女の傍にいる資格なんてっ!!」

 

 感じるのは強い失望と絶望。悲しみに怒り、それに憎しみと言った負の感情も漂わせているけれど、彼女が一番心に持っているのは──絶望だ。

 

 ──最初に会った時から多分そうだった。俺がヒナタに対してこれまでしてきた……いいや、『してこなかった』事に対する途方のない絶望を。

 彼女はずっと抱えて苦しんでいた。そしてヒナタのために怒り悲しんで、憎んで──

 

 かつてGBNを巻き込んでまでの、大事まで引き起こした。

 目の前のあのヒナタはそんな絶望を向けている。彼女に何か言う資格すらないかもしれない。それでも、俺は伝えたい事がある。

 

「俺は本気でヒナタの事を愛している、心から。彼女と繋いだ手を……絆を、離したりなんてしない。

 これから先だってずっと、もっとヒナタを幸せにして行きたい。俺の想いは──嘘じゃない」

 

「……」

 

 俺の言葉は届いているのか、いないのか、睨んだまま沈黙している。

 だけど……少しの間を置いてもう一人のヒナタは口を開く。

 

 

「……やはり理解出来ないわ。でも、だからこそワタシはクガ・ヒロトに会いたかった。 理解出来ない、分からないからこそせめて…………貴方と戦うためにね」

 

 

 

 ──俺と戦うと、今度はそう言った。

 

「もう一度貴方の想いとやらを、ワタシに見せて欲しいわ。

 以前にワタシと戦った時、そしてエルドラの時のように命や世界の危機を賭けるわけでもない。……それこそGBNでありふれたただの遊びのような戦いだからこそ、全てを賭けた本気の、そんな戦いをしたいのよ」

 

 黒いヒナタはパチンと指を鳴らした。それに反応するように、彼女のすぐ傍に一機のモビルスーツが出現した。

 紫と黒を基調にしたカラーの、X型のバインダーを背部に備えたリーオー。あれは彼女が持つ機体なのか?

 

「それが君の、望みなのか?」

 

「ええ、その通り。

 ワタシはガンプラなんて持っていないからねぇ、これはGBNにいるリーオーNPDの一機を拝借して、少しだけ自分用にカスタマイズした機体よ。

 でもね、さすがにこれでクガ・ヒロトと戦うのは厳しいわね。だから……」

 

 彼女は出現したリーオーの足元を、手で少し触れた。

 瞬間、触れた部分からノイズのようにテクスチャが置き換わっていき、リーオーが別の物に変形して行く。やがて変化した──それは。

 

「確か、アルスアースリィガンダム……と言ったわね。これなら貴方とも戦えるはずだわ」

 

 エルドラの戦いでアルスが、俺のコアガンダムとプラネッツシステムを模倣して作り出した機体。その一つがアルスアースリィガンダム、あのヒナタはそのデータをリーオーに上書きして──漆黒のアルスアースリィガンダムを形成した。

 

「そんな物まで……わざわざ」

 

「データの上書きは一時的なものだけれど戦うには十分。

 安心しなさい、仮に貴方が負けたところで何もしないわよ。だからワタシと戦いなさい、クガ・ヒロト。

 そうすればワタシも──今度こそ」

 

 本当に、彼女はただ戦いたいだけみたいだ。言葉よりも今はそれで……俺に出来ることであるならば。

 

「分かった。それがヒナタの望みなら、俺は戦う」

 

 それからメイにもこう伝える。

 

「メイには俺達の戦いの立会人になって欲しい。良ければ、頼めるか?」

 

「ああ。まさかこんな事になるとは驚きだが、応援している。

 ……そして出来るなら、彼女も救って欲しい。同じ電子生命体として、頼む」

 

 彼女からの願い。俺も、思いは同じだ 

 

「分かっている。俺は必ず──」

 

 もう一人のヒナタの心も、今度こそ受け止める。今の自分の想いを……届かせてみせる。

 

 

 

 ────

 

 俺はコアガンダムⅡに乗り込み、コックピットに座る。

 起動させたモニター画面に広がるのは一面の荒地と、スペースコロニーの残骸が見える。そして──

 

〈……クガ・ヒロト〉

 

 正面に向き合って立つのは、黒いヒナタが乗る漆黒のアルスアースリィガンダムの姿。

 俺は今から一対一で彼女と戦う。そして立会人であるメイはウォドムポッドに乗り、巻き込まれないように離れた場所に移動して見守っていた。通信画面には相変わらずマントとフードで身体を隠す、もう一人のヒナタの姿が映っていた。

 相変わらず突き刺すような敵意を向ける様子の彼女。画面越しに俺を睨んだまま……だけれど

 

〈ねぇ、戦う前に一言言っておくわ。

 本当は貴方などに言いたくはない、そんな言葉だけれど〉

 

「どうしたんだ。言いたい事があるなら……何でも聞く」

 

 俺も気になって言うと、もう一人のヒナタは少し沈黙した後で……一言

 

〈……こうして来てくれて礼を言うわ。ワタシとの戦いを受けてくれて、ありがとう〉

 

 今、彼女は俺に、ありがとうと言った。

 ──驚いた。だって、俺の事をあれほど憎んでいるはずなのに。

 

「……ヒナタ」

 

〈ワタシは貴方が大嫌いよ。けれど、この戦いは言うなればワタシのワガママ。

 ムカイ・ヒナタ本人にとっては意味のない、あの子の為でも、望みですらない。ただワタシがそうしたいから……戦う、突き詰めればそれだけに過ぎないのだから。

 だから、そんな戦いを受けてくれるのなら誰であろうと、礼は言うべきだと〉

 

 そして俺に、敵意はあるけれど真剣な視線を向けて……言い放った。

 

〈クガ・ヒロト、貴方はワタシをムカイ・ヒナタと半ば同一視しているようだけれど、もうそんな資格はない。

 今は、ワタシの名前はただの『クロ』。もう一人のクロヒナタとしてではなくて…………あの子を『愛している』、ただ一人のヒトとしてここにいる!〉

 

「君は、そんなに思って……まで」

 

 目の前の漆黒のアルスアースリィガンダムは、右手先からビームサーベルを形成して戦闘態勢をとる。

 彼女は──言った。

 

〈そう、だからこそワタシ自身の想いを、戦いで全てぶつけてみせる!

 貴方にも強い想いがあるのなら、今ここで……もう一度全力で証明しなさい!〉

 

 それが彼女が望む事、救うことが出来るのなら。俺がヒナタをずっと愛していると、示すために。

 

 ──ヒナタ、俺に力を貸して欲しい。彼女を救えるだけの──

 

 俺はそんな気持ちを胸に秘め……そして答える。

 

 

「──ああ。俺の想いを……クロ、君に示してみせる」

 

 

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