【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い― 作:双子烏丸
ヒナタと同じ記憶と姿のデータを持つ電子生命体、クロ。
彼女が乗る漆黒のアルスアースリィガンダムは──右手からビームサーベルを展開して、俺のコアガンダムⅡに肉薄する
〈さぁ! どうするかしらっ!?〉
最初から先手を打ったクロ。俺は寸前でコアガンダムⅡをコアフライヤーに変形してその場を離脱、上空を飛びながら……俺はアースアーマーを呼ぶ。
空の向こうから飛んでくる青い航空機、アースアーマーが飛来する。
飛行するアースアーマーがコアフライヤーに並んだ時に俺は、機体を再びコアガンダムⅡに変形させて──。
「コアガンダムⅡ……ドッキング・ゴー!」
俺が乗るコアガンダムⅡは分離したアースアーマーを手足、全身に纏い、コアチェンジ……アースリィガンダムに姿を変えた。そのタイミングに。
〈何が……ドッキング・ゴーよっ!!〉
すぐ背後から追いついて来たのは、クロが乗るアルスアースリィガンダム。手にビームライフルを構えて、ビーム攻撃を次々と放つ。
「っ!」
俺は上空でシールドを構えて後方からの攻撃を防御し、同時にビームライフルを構えて応戦する。……けれど、俺の射撃をクロは次々と避けて、俺に迫る。
──やはり強い、俺の実力もコピーしているだけあるのか──
彼女は以前、俺の戦闘データも取り入れていた。理論上の強さは俺と同等、と言うことにはなるけれど。
──けれどそれは、あくまで過去の俺のデータだ。今現在の俺では……ない!──
俺のアースリィガンダムは空中でターンバックして急停止、ビームサーベルを抜いてアルスアースリィガンダムに迫る。
〈!!〉
驚くクロ、同じくビームサーベルで俺の斬撃を受け止めるけれど、勢いに負けてアルスアースリィは地上に落下する。
それでも、倒れずに態勢を整えての着地。続けて追撃、落下した相手に迫り、更にビームサーベルで斬撃を放つが、今度は待ち構えたように完全に防ぎ切る。
鍔迫り合いになる中……クロは俺に言った。
〈楽に勝たせは……しないわよ。GBNにいる間、ワタシはワタシなりにガンプラバトルの腕を磨いてもみたのよ。
……貴方通りの戦い方を、そのまんま模倣するだけだとは思わないで頂戴〉
「そのようだな。……でなければ今の二撃目で、倒せていたはずだから」
かつての俺と同じ程度なら、今の斬撃で確実に倒していた……はずだ。実際俺は本気で、最初から止めを刺そうとした。
確かにクロの戦い方はデータを覚えているだけあって俺に似ていて元にしているかもしれない。けれど、より攻撃的な戦い方、微妙な癖の変化など、今は微妙に異なっていた。
言うなればただの俺の模倣ではなく、クロ独自の戦い方をしている、そう言うことだ。
〈ビルドダイバーズのクガ・ヒロト、惑星エルドラを救った……世界の救世主サマ、英雄。
……どうでも良い、くだらない事だとは思うけどねぇ、一応はそれだけの実力があるとは認めているのよ〉
ビームサーベル同士で鍔迫り合う中、俺はアースリィガンダム頭部のバルカンを放って反撃する。バルカンはこっちにしかない武装だ。アルスアースリィは後方に下がって距離をとる……と思った瞬間、機体はその大型の脚で蹴り上げを放った。
「──うっ!!」
向こうもいきなりの反撃、俺は反応に若干遅れて蹴り上げを喰らった。
下ったおかげで勢いをいくらか殺すことは出来た。直撃してもダメージは少なくて済んだ……けれど。
「まさか俺に攻撃を、直撃させて来るなんて」
〈そんな救世主サマの、貴方と戦うのですものねぇ。ワタシもそれなりに頑張らないと。
前回はミラーミッションのシステムを利用したけれど…………それも使えないならワタシ自身が実力をつけて、どうにかするしかない。…………っ!〉
途端、また画面越しに見えるクロの顔半分が苦痛で歪むのを見た。多分本人も我慢して隠そうとしている、けれど相当に痛いのをこらえているように感じた。
だけど──。
〈……負けないわ、クガ・ヒロトっ!!〉
更に一撃、二撃、三撃……。押し迫るようにビームサーベルで斬撃を繰り出して行くクロ。
本気の猛攻、そんな中で彼女は俺に言った。
〈アースアーマーだけで戦うのは大変かしら。ねぇ、自慢のプラネッツシステムはどうしたの?
戦いに合わせてアーマーを換装して戦うのが、クガ・ヒロトの戦闘スタイルでしょう?〉
俺とイヴで作ったコアドッキングシステムと、プラネッツシステム。様々な戦局に合わせて用意した複数のアーマーに換装して戦う、万能とも言えるシステム……だけど今回は。
「今回は使わない。君と同じように、俺もこのアースリィガンダムだけで戦う」
〈はぁ? 本気の戦いと言ったわよねぇ……ふざけているのっ!?〉
怒りに任せたビームサーベルの薙ぎ払いを、横からシールドで受け止めながら俺は続ける。
「俺は本気で戦っている。……けれど、クロの使っているアルスアースリィガンダムも、コアチェンジが出来ないはずだ。
元々はリーオーなのを無理に情報を上書きして形成したのなら、恐らくアルスアースリィガンダムの形態のままで固定されているとも思える。現にクロも……前みたいにプラネッツシステムは使っていない、そうだろう?」
〈……っ〉
苦い表情を、途端に浮かべるクロ。
〈……勘がいいじゃない。でも、そんな物などクガ・ヒロトには関係ないでしょう!?〉
「そうじゃない。本気だからこそ、俺も可能な限り君と対等の戦いをしたい。
君がプラネッツシステムを使えない、使わないのなら俺も同じ条件で戦う。そしてその上で本気を出して──君に勝つ」
哀れみや同情じゃない。俺はクロの望みに応えたい、彼女と向き合いたいと……願った結果だ。
対等な条件で、本気で戦って勝ってみせる。それに……。
──プラネッツシステムは使わない方が、今はいい。あくまで俺自身の力だけヒナタへの想いを……示す──
俺の言った事にクロは、氷のように冷ややかな視線を向けた。どこまで分かってくれたのかは、分からない。
それでも彼女は……言ってくれた。
〈勝手にするといいわ。どちらでも構うものか、それにね、勝つのはこのワタシだわ!〉
クロはビームライフルを放り、今度は左右両手からビームサーベルを展開して彼女が乗るアルスアースリィは二重に連撃を放つ。
一撃目をビームサーベルで防ぎ、その勢いを上手く利用して後方に下がって、二撃目の攻撃範囲から離れる。なおも接近しようとする相手を俺はヘッドバルカンで攪乱しながら牽制、距離を離す。
〈防戦ばかりでは勝てはしないわ。ねぇ? 本気で戦いなさい。あんな事を言ったからには……ちゃんと、ね〉
半ば苛立ちを感じるクロの声。
ビーム射撃をビームサーベルで弾きながら真正面から迫る、彼女のアルスアースリィ。俺も再度グリップを抜いて、ビームサーベルで応戦する。
「勿論本気だ! クロ!」
剣と剣、互いのビームの剣先がぶつかる度に火花が散る。
やっぱりクロ自身の実力は上がっている。なかなか、手ごわい。……けれど!
アルスアースリィは両手二本のビームサーベルで猛攻を繰り出す。
〈やられなさいっ!〉
激しくバツの字に放つ強烈な斬撃、俺はそこに隙を見つけた。攻撃を跳んで避けてそのまま、ビームサーベルを振り下ろす。
俺の一撃、アルスアースリィはそれを左肩アーマー、背部の左ウィングに受けた。よろめく相手、俺は止めを刺そうと再度ビームサーベルの、今度は腹部を狙って突きを放つ。
ただ二度目はなかった。止めの瞬間に横に飛び退くと同時に先ほど落としたビームライフルを取って、構えて放つ。
──早い!──
あそこまでとっさの行動が早いとは思わなかった。俺は後方に下がって回避したものの、アースリィガンダムの右顔半分にビームがかすった。
「く……ぅ!」
ツインアイの右目も損傷を受けてモニターがフラッシュして、一部画面が消失する。多分今ので頭部が半壊、片目も潰れて機能を失ったんだろう。でも、まだ左目は使えるなら問題はない……けれど態勢は整える必要はある。
俺はアースリィガンダムを後方に下げて相手から離れる。ビームライフルを構えエネルギーを充填、最大出力で──スペースコロニーの残骸に向けて放った。
強い一撃を受けた残骸の壁面とパーツは砕け、剥がれて辺りに落下して突き刺さる。それこそモビルスーツと同等、それ以上の大きさの破片が幾つも、俺はすぐに移動して破片の背後に身を隠す。
〈小賢しい真似を、するわね〉
そこにクロのアルスアースリィがビームライフルで攻撃を放った。けれど破片は割と丈夫なもので一撃では壊れなかった。即席の遮蔽物、それなりに耐久性はあるようだ。
俺は遮蔽物で身を隠しつつ、アルスアースリィを狙い撃つ。クロは舌打ちをしてギリギリで避けて同じくスペースコロニーの破片に隠れる。そして警戒しながら……身構えて。
〈……はぁ……っ〉
痛みをまた堪えているような、クロ。それに画面から僅かに見えた彼女の右手は何か……黒く浸食されているようにも見えて。
「本当に、大丈夫なのか? 君は──」
〈そう言う所も、大嫌いなのよ! ワタシは!〉
クロは俺に憎悪を向けて、言葉を続ける。
〈本当は……貴方なんて初めからいなければ良かった。それが叶わないならムカイ・ヒナタが貴方を嫌いになるなりして未練なく離れて、次に進んでくれたのならどんなに良かったか。
クガ・ヒロトさえいない方が、あの子はもっと良い人生を、幸せを見つけられたはずだわ。それなのに──っ!〉
彼女のアルスアースリィは破片から銃身を出し、ビームを連撃して放った。一撃は耐えてもさすがに続けては無理だった、あっと言う間に砕けて、俺は爆煙に紛れて別の破片に隠れる。
〈ずっと気に入らないのよ、貴方は!
……なのに平然とあの子と、ムカイ・ヒナタといるだけでも虫唾が走る! 貴方の存在がどれだけあの子の障害になっているかも知らずに、いかにも良い人、救世主だなんて。
良いご身分ねぇ…………何様のつもりなの?〉
「……っ」
複雑だった。以前よりも行動や態度は収まってはいても、俺の何もかもを全否定するクロヒナタ──いや、クロの心は一つも変わっていなかった。
俺へ限りない敵意と憎しみ。当然分かってはいたつもり、覚悟をしてはいたつもりではあった……けれど。
──あそこまで憎まれて、責められて。やはり俺はそこまで許されない……のか──
ヒナタと同じ顔で、瞳で……声で、あれほど憎悪を向けられている。やはり何も感じずには、いられなかった。
……それでも俺は戦う、彼女と。
スペースコロニーの破片、遮蔽物に隠れながらの射撃戦。こうした戦いは俺も得意だ。
「──そこだ!」
俺はアルスアースリィガンダムが身を隠した破片に一撃を放つ。砕けた破片、そこからアルスアースリィが姿を現して反撃を放つ。そのタイミングで俺は破片に身を隠して避ける。
「俺は、その時、その時が精一杯なだけだった。ただ精一杯で、必死に出来る事をしようとした……だけだ」
俺がクロの機体を捉えて再度射撃に出る。──が、今度は彼女と同じタイミングで、しかも距離が近い地点でライフルを構えて引き金を引いた。
同時にビームが放たれて俺達の間で、衝突。ビームのエネルギーが一瞬で混ざり、膨れ上がって大爆発を起こす。
近距離での爆発で吹き飛ぶ俺とクロの機体。飛ばされて、アースリィガンダムは荒地に倒れはしたがすぐに起き上がる。──ただ吹き飛ばされただけで大きな被害はなかった。
けれど、クロのアルスアースリィガンダムは──
──!!──
コロニーに空いた穴から閃光が見えた気がした。反射的に今の場所から飛び退いた、瞬間……そこから強力なビーム攻撃が放たれた。
あの場所にいたら、きっとやられていた。けど今の一撃でクロは今スペースコロニーの残骸内にいると分かった。
コロニー内部は巨大で、どこで待ち受けているか分からないけれど……行くしかない。俺はついさっきビームが放たれた大穴から、内部へと侵入した。
──クロは一体、どこに──
スペースコロニーに入り、内部を探ろうとした瞬間に再び、上からビーム射撃が襲った。
「やっぱり、待ち構えていたのか。それに真っ先に仕掛けて来るなんて」
俺のいる真上に、クロが乗るアルスアースリィガンダムが浮かんでそこにいた。
墜落でボロボロになった、広大な居住空間。周囲には建物や住居のあった名残、スペースコロニーは地面に斜め垂直に突き刺さっているせいで、空間もずっと斜め上に高く続いて……先にはコロニーの端が折れて空いた場所から外の空が見える。
──けれどゆっくり状況確認している余裕は無かった。続けて上から降り注ぐように、クロはビームを一方的に放つ。
〈守りに入っているだけでは勝てないものね。だからワタシは貴方よりも、攻めさせて貰うわ。
地の利はこちらにある。閉鎖空間で上から降り注ぐ攻撃に、反撃する余裕もないでしょう?〉
「確かに苦戦はしている。……けれど、まだやれる事はある!」
攻撃をかいくぐり、連撃の合間を狙って俺はビームライフルで狙って一撃、頭上にいるアルスアースリィガンダムに放つ。
しかしクロはそれを避ける。
〈ふっ、それがやれる事と言うわけ? 全然当たってなんて──〉
けど今のビームの一撃はブラフ、囮だ。本命はこの──シールドだ!
さっきのビームで右手に持つビームライフルに警戒させ、一方で左腕に装着したシールドを外して、続けざまにそれをアルスアースリィに目掛けて投てきを放つ。
〈何っ!?〉
不意をつかれたクロ。彼女のアルスアースリィはシールドの直撃をうけてよろめき、墜落しそうになるけれどすぐに持ち直す。
〈よくも、小賢しい手を使うっ!〉
「けれどこれで、互角だ!」
シールドを受け、態勢を崩したその隙に俺のアースリィガンダムもバーニアで跳び、アルスアースリィのすぐ直前にまで迫る。
バックパックのビームサーベルを抜刀して居合切りを放つ俺に、クロはさっき投げたアースリィガンダムのシールドを、とっさに取って防御する。
「まさか俺のシールドを使って……やるな」
〈貴方などに褒められても、不快なだけだわ〉
そのまま、俺のアースリィガンダムのシールドを構えながら、ビームライフルで反撃を繰り出す。
──今、下に居続けるのは俺が不利だ。せめて対等な条件か、それ以上は確保したい──
しかもシールドまでも奪われた、油断は出来ない。俺は下に落下しないよう、斜め急勾配になっているスペースコロニーの大地や建物を足場にしながら、より上の位置を確保しようとする。
クロも同じように、傾いた大地を上がりながらビームライフルで俺に攻撃を仕掛ける。
──シールドを取られたのは痛い。対して向こうは──
俺もビームライフルで反撃を仕掛けるが、彼女のアルスアースリィはシールドで防いで、すぐにまた攻撃に転じる事が出来る。
射撃戦で有効な防御手段を手に入れた事で、相手はより射撃に集中する事が出来る。
「やはり……厳しいか」
廃墟の建物で身を隠そうとしても、バーニアの光りで気づかれる。何より同じ位置に留まるのは危険だから、それにボロボロの建物はコロニーの破片よりずっと脆く遮蔽物にすらならない。
〈──吹き飛びなさい〉
「!!」
アルスアースリィガンダムの片手で構える銃身が展開して変形するのを見た。あれは……最大出力で放つつもりか!
そして瞬間、アルスアースリィはビームライフルを最大出力で放った。強力なエネルギーは内部表層と建物を消し飛ばしながら俺の方に。──寸前で避けはしたが、衝撃と飛び散った瓦礫の直撃を受ける。
軽いダメージに態勢が崩される一方で、クロも……。
〈しまった……わ〉
本来アルスアースリィガンダムや、俺のアースリィガンダムもだが、ビームライフルを最大出力で放つ時には両手で放つのが基本だ。
クロはそれを片手だけで無理に撃とうとした。彼女のアルスアースリィも今の一撃の反動でバランスを崩し、のけぞった。
「無理なんてするからだ!」
いち早く態勢を戻した俺は、クロのアルスアースリィガンダムに迫る。
〈ちぃっ!〉
接近する俺に再度ビームライフルを、今度は通常射撃で俺に放った。それでも、シールドがなくてもこの──ビームサーベルでも!
シールドを失って空いた左手で、俺はビームサーベルを抜いて刃先でビームのエネルギーを弾く。そしてそのまま、アルスアースリィガンダムに向けて斬撃を放つ。
対してクロは、シールドで斬撃を受け止める。
「俺は、本当に大した人間じゃない。みんながいたから、ビルドダイバーズのみんなもそうだし……イヴの事も、あったかもしれない。
けれど──ヒナタがいたから、俺の心を支えてくれたから俺は、頑張れた! だから……」
〈……そんな事なんて、ないわよ。
大切な人を自分の手で失って、さぞ罪悪感で苦しかったのでしょうね。それでも約束は忘れずにいて、想いを受け継ごうとエルドラで戦って。
自分の辛い過去からも立ち直って、世界まで救って。ああ……偉い、偉いわ〉
クロのアルスアースリィは右脚を上げてアースリィガンダムに、回し蹴りを繰り出した。俺は察知して左後方に下がろうとした……けれど、寸前に右腕を一気に伸ばしたアルスアースリィガンダムはその手からビームの刃を放つ。
〈──そして何より許せないのよ、それら全てが。貴方のその悲劇のヒーローじみた……態度も。
よく言うわ、都合よくムカイ・ヒナタの想いを利用し続けただけで、最後までろくに省みてさえいなかったのに、虫が良すぎるのよ。だってエルドラとビルドダイバーズ、何よりイヴと彼女の想い、ほとんどがそればかりだったのにねぇ〉
「……っ」
放ったビームサーベルは俺が乗るアースリィガンダムの横っ腹を……抉っていた。
〈あの子は純粋に貴方を想っていたのに、それをただ踏みにじるばかりで、応えもしなかった。あまりにも可哀そうじゃない。
それどころか、そんなムカイ・ヒナタを裏切ってクガ・ヒロトは──イヴに行った。なのに、自分の手でイヴを消したから心が傷ついた? 悲劇的だなんて……ふざけないで!
ヒーロー? 救世主? 冗談じゃない! 貴方などに人を愛する資格も、愛される資格さえ────あるものかっ!!〉
俺へ向ける、激しく強固な負の感情。怒りに悲しみと憎しみが、全て混ざったような……徹底した俺への全否定、拒絶、絶望の態度。
けれど……それで辛いのはきっと、クロ本人だと思う。
ただ悪意があって恨んでいるわけじゃない。彼女はヒナタの事を強く想って、愛している……だからこその俺への憎悪。
分かっている、俺は。
〈終わりね。このまま、真っ二つにしてあげるわ!〉
クロのアルスアースリィガンダム、そのビームサーベルは抉った脇腹から切断しようと力が籠る。
「こんな事で俺は、終わらない!」
けれどそれはさせない。俺は腹部がこれ以上切断されないよう、ビームサーベルで辛うじて受け止めた。
「強いな……クロは。それだけヒナタへの想いや、俺への怒りが強いからだって、そう思う。
けれど俺もヒナタが大好きなんだ! 今は本当に、一番好きだって言える程に!」
〈今更、都合が良すぎるわ! あのELダイバーに、イヴに心が行ったクガ・ヒロトが!
結局はあの子との思い出が何より大切なのでしょう? イヴこそが最愛の人で、一途だって、ねぇ……っ!!〉
怒りで激昂して叫んだクロ。……その瞬間に、彼女にまた異変が起こった。
〈ぐぅ……はぁ……ぁっ、うう…………っ! ああっ!!〉
見悶えして、苦痛で絶叫するクロ。何度か苦しそうにしている兆候は見た、けれど今はそれよりずっと、明らかに耐えられない程に強い苦しみだと分かる程に。
前のめりになり、僅かに見える表情も酷く苦痛に歪んで。 辛うじて両手をコントロールパネルには置いているけれど、これ以上はまともに戦えそうには……思えなかった。
頂上まであと少しだ。俺は動きが鈍ったアルスアースリィの攻撃から逃れ、そのまま上に飛んだ。
────
斜めに地面に突き刺さった、スペースコロニーの残骸の最上部……そこは長いコロニーが途中で折れ、空いた内部の空洞が穴を開けて、外縁部が円形に囲んでいる場所だった。。
俺が乗るアースリィガンダムはコロニー内部から先に脱出、外縁部に立ってクロを待ち構える。さっき受けた脇腹の傷、切断は防ぎはしたがそれでもダメージは結構大きい。でも、まだ戦えなくはない。それに……彼女の方も。
〈……はぁ……っ、は……ぁ……〉
間もなくして、アルスアースリィもコロニーの内部から最上部に出た。機体はアースリィガンダムの幾らか近くの縁に立ち、俺と向かい合う。
状況はまるで、例えるなら橋の上に二人が向き合っている感じと、言えばいいか。
「クロ、一体どうしたんだ? 言わずにはいたけれど、ずっと苦しそうにしているだろう」
顔は左半分しか見えない。けれど息遣いはまだ荒く、耐えがたい激痛で歪む……血の気の悪い表情も相変わらずだ。
〈……く……ぅ〉
フードから覗く左目で、苦痛の中、なお憎しみで睨むクロ。こんな状態でこれ以上、戦うなんて。
止めにしたい。あんな状態でいる彼女とこれ以上戦うのは、したくなかった。
「もう……ここで止めないか。俺達は十分に戦った、満足だろう?
傷だってこれだけ受けた、勝負は俺の負けだ。だからその……身体の事を。もし、何かあるなら俺やメイが力になるから──」
〈──変わりなんて、するわけないわ、何も〉
そう、クロの口元から言葉が漏れた。息も絶え絶えで、話す事さえ苦しそうな中……それでも。
〈……それがクガ・ヒロトなのでしょう?
どれだけ傍にいて思っていても返すのは形だけ、あの子の事なんて想う事はない。ただ良いように半端に扱われて、浪費させ続けるだけ。ムカイ・ヒナタが心から愛される……そんな訳なんて。
だって、今までそうだったじゃないの、貴方。本当に変われたりなどするものか〉
「言い訳かもしれないけど、言わせてくれ。──そんなつもりはなかった。
イヴとの事もまだ心のどこかである、けれどあくまで大切な想いをくれた……大事な友達としてだ。それに……想いに気づく事が出来なかったのは俺のせいだ。クロが俺をそう思って許せないのも知っている。────ただ、クロの言うようにヒナタを利用したり都合よく扱ったつもりも、蔑ろにしていた事は決してない。今までだって俺の大切な人として、ずっと思っていた」
幼なじみとしてヒナタとは、これまで一緒に居た。普通の友達よりも親密で、仲良しでもあって。
きっとかけがえのない事だと思う。けれどあまりにも日常で、当たり前で、本当はもっとどれだけ大切なものか、それにヒナタが心の奥でどう思っているか……気づけないでいた。
「色々と気が付けなかった事、それでイヴを優先していた部分があったのも本当だ。…………だから、もしそれが許せないなら、憎いのなら構わない。
──でも俺はようやく分かることが出来た。ヒナタと自分自身の想いに、俺が心からどうしたいのか。あんな事は……もうしない。今までも大切な人だった。けれどこれからは他の誰より、俺が愛している人として、ヒナタを幸せにする。…………約束するから
許せなくても、それだけは信じてくれ。そうすればクロもきっと……楽になれる」
ヒナタへの想いを示すのも、それが本物だと俺が示したいからだ。そうすれば…………きっとクロも救われると思う。
彼女は押し黙って、思いを巡らせていうように見えた。
〈随分……言うようになったわね〉
ぼそりと、クロは呟くと改めて俺を見据えた。
〈でもクガ・ヒロトを信じるなど、悪趣味な冗談……だわ。
大体ね──今更、ワタシも手遅れなのよ〉
通信画面に映る彼女は、身体を覆っていたフードとマントに手をかけて、外した。
黒い巫女服を着たヒナタの姿、ダイバールックを模倣した外見のクロ。
けれど、今の彼女の…………姿は。
「──そんな酷い状態で、俺と戦って……いたのか」
中編も長引く感じですが、戦いの決着と二人の顛末は……次回に。