【完結】Re:Connect ―揺れ動く、彼女の想い―   作:双子烏丸

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これにて本作も本当の完結です。
一年以上かかりましたが……読んで頂き、有難うございました。


番外編最終話 後編 Connect ──from now Forever(挿絵付き)

 大人気のインターネットゲーム、ガンプラバトル・ネクサスオンライン――GBNの世界で、私たちは。

 

 

「しっかり掴まっているか? ヒナタ?」

 

 私のすぐ傍には、私の幼なじみのヒロトがいる。

 同い年の少し癖っ毛のある男の子。

 一番仲が良くて、ガンプラが好きで優しくて便りになる幼なじみで……そして、他の誰よりもずっと大切で、特別な──。

 

「──うん。ぎゅっと……掴まっているよ」

 

 コアフライヤーになって飛ぶコアガンダムⅡのコックピットの中で私とヒロト、二人で。

 GBNにもあれから大分慣れたんだ。今では一人でも当たり前のように遊べるし、ガンプラを動かすことも出来るんだ。

 けれどね、やっぱり。

 

「あのね、ヒロト」

 

「どうかしたか?」

 

 右横から抱きついている私に、ヒロトは気になった感じで声をかけてくれたの。私は彼の肩元に寄りかかって、頬っぺたをくっつける。

 

「今日は──二人で、GBN。

 やっぱり一緒がいい。ヒロトの傍が私にとって……とても心地いいの」

 

 見上げるとすぐそばにある、ヒロトの顔。今こうして、誰よりもすぐ近くに。

 

「ふふ……っ、それは良かった」

 

 彼は私にそっと、笑顔を投げかけてくれたの。それから、こう続けたんだ……ヒロトは。

 

「それに今日はこうするって、ヒナタと約束していた。

 日曜日の休みに二人で過ごそう、GBNで、それから後はリアルでも……君とデートをしようと」

 

 

 

 ……うん。今日は一日、ヒロトと二人で一緒に。

 

 ──前の日は私に用事が入っちゃってて出来なかったけど、今日はちゃんと。……昨日はヒロトもGBNに行ったみたいで、色々と楽しめたの……かな──

 

「──ここからの景色、ヒナタにも見て欲しい。とても綺麗な景色だから」

 

 あっ……と。ヒロトにばかり夢中で、つい景色をあまり見てなかったんだ。言われてみて私はモニターに映る外の景色を、見下ろすと──。

 

「ほんとに綺麗。一面桃色の……桜景色」

 

 下に広がっている景色は、一面桜の木が並ぶ綺麗な景色だったの。

 

「桜の木、と言うことはGBNのジャパンエリアかな、ヒロト?」

 

「その通り。今日はここに来てみるのが、いいかなと思った。それに──」

 

 ちょっと考える様子を見せてから、ヒロトは照れてはにかんだ顔を見せて、言ったの。

 

 

「ちょっとだけ……会う約束をした人がいる。ヒナタも、きっと驚いてくれると思う」 

 

 

 

 ────

 

 コアガンダムⅡは沢山の桜の木が並ぶ桜並木を見渡せる、小高い丘の上に着陸したの。

 

「こうしたのも、悪くないだろ?」

 

「──ヒロトってば」

 

 機体から、ヒロトは私を抱き上げて下ろしてくれた。両腕で優しく抱いて、持ち上げた……お姫様抱っこで。

 

「せっかくだからヒナタとこうしてみたいと、そう思った。

 二人で一緒に降りやすいのもあるし、それにやっぱり、良い感じがする。……こうしていると」

 

「ねぇ、重くない? その……」

 

 もちろん嬉しいけど、ドキっとしていて……ついそんな事を聞いちゃった。ヒロトは一瞬驚いたみたいだったけど、すぐに可笑しそうな表情を向けて、答えてくれた。

 

「心配ない。ここはGBNだから多少の事は苦にならない。

 それにヒナタは実際重くないし、大丈夫だと思う。良かったら今度リアルでもしてみたい……今みたいにお姫様抱っことか」

 

「いいの? 照れちゃうけど、出来るならまた……そうされたいな。

 だってこんなに、良い気持ちだもん」

 

 大好きな人からこうされて、嬉しくない女の子はいないと思うから。

 それにやっぱり、ここから見渡せる桜の景色も、とっても壮観で……夢みたいで。

 

「ヒロトに抱かれて、こうして景色を眺めるの………私、大好きだよ」

 

 

 

 私たち二人はそのまま、近くにあった小さなお茶屋でゆっくりと。

 お店の外にある席にヒロトと隣同士で座って、外を眺めながら。

 

「うーん! 良い気持ち。何を頼もうかな?

 でもお昼はピクニックだから、あんまり食べ過ぎは良くないよね」

 

 今はまだ午前中で、午後からはリアルでデート……海沿いの通りがある公園で、一瞬にピクニックをする予定なの。

 

「心配しなくても、ここで食べてもお腹は膨れない。気兼ねする必要なんて……」

 

「かもしれないけれど、やっぱり気分的な感じがしちゃって、ね。でもせっかくだし、お団子とか食べてみようかな?」

 

 良い雰囲気のお茶屋で満開な桜を見ながら。風流って、言うのかな。

 

「こうしているの、いいな。それと……」

 

 ヒロトと二人でこう過ごすのも良いけれど、でもね……。

 

「確かここで誰かと、会えるんだよね。どんな人なんだろう? 何だかワクワクしちゃうかも」

 

 会う約束を少ししているって、ヒロトは言ってたから。それもちょっと楽しみで。

 私が言うと彼は──ふっと口元に笑みを、こぼして。

 

「もうそろそろ、会えると思う。時間はもうすぐな────はずだ」

 

 ヒロトがそう言った……ちょうど、そんな時だったの。

 

 

 

 ふと足音が、左向こうの方から聞こえて来た。

 

「噂をすれば、か」

 

 ヒロトと、それに私も音がした方を見たの。そこには……黒い袴と灰色の着物を着た、時代劇の浪人さんみたいな姿のダイバーの人がいたの。

 顔は帽子、ううん、笠って言うのかな。それで隠れて見えなかったけど、でも私と同じくらいの……女の子みたいだった。

 

「──来たわよ」

 

 そのダイバーの子は私たちの所にやって来て、一言言ったの。ヒロトはその子に笑顔を向けて、言葉を返して。

 

「よく来てくれた。君に会えて……俺も嬉しい」

 

「あくまで様子を見に来ただけよ。変な勘違いは、しないで頂戴。

 構わないと言ったのはそっちよ。問題はないでしょう、ねぇ?」

 

 ……あれ? あの人の声、凄く聞き覚えがあるような。

 そう思っているとダイバーのその子は、今度は私を向いて、笠の下から見える口元にほんのり笑みを浮かべたんだ。

 

「何よりまた、会ってみたかったもの。改めて、幸せにしている貴方………と」

 

「ありがとう。でも……初めまして、かな。今日はよろしくね、お名前は───」

 

 浪人さんの姿をした子なんて初めてだから、私はどぎまぎしながら声をかけたの。

 すると相手は優しく、ちょっと可笑しそうに口を緩めて、返事を返してくれた。

 

「ふふっ、確かにこの……ダイバールックと言うのかしら。

 新しく用意したから、見覚えがないのは当然ね。……元の姿は色々と不味いし、前のパイロットスーツ姿も──やっぱり不自然で、浮いていたかもですもの」

 

 浪人さんは頭に被っていた笠の先を上げて、顔を見せた。

 私に見せた、顔。それは──。

 

 

 

「ワタシが来て、少しお邪魔かもだけど。構わないかしら? ……ムカイ・ヒナタ」

 

 それは本当に驚いた意外な人で。だけど会えて、良かったって。

 私も笑顔を、大きく投げ返して。   

 

 

「無事でいてくれて…………本当に、良かった。

 もちろん──喜んで!」

 

 

 

 

 ────

 

 ──そうして、私たちはGBNで過ごしたの。

 何だか思ったより長く過ごしちゃった感覚だけど、それでも午前中には収まったし……とっても良い時間も、過ごせたから。

 

「GBN、楽しかったね」

 

「ヒナタと二人で……だな。俺にとっても、最高の時間だった」

 

「──うん!」

 

 力強く、私は頷いてこたえたの。

 

 

 

 GBNから出て、私はヒロトとリアルで──現実で私たちが暮らす街で、今はこうして過ごしているの。

 一日一緒に……デートの続き。街の通りを手を繋いで歩きながら、GBNでの話をしたり。それに──ね。

 

「本当に無事で安心したんだ。消えてなくてほっとしたから、私も。

 だから、あの子とも会えて……嬉しかったの」

 

 GBNでの『ある再会』の事も、凄く感激したんだ、私。

 

「ヒナタに会えて、向こうも喜んでいたはずだ。きっと」 

 

 少し考える様子を見せた後で、ヒロトはふっと軽めに笑いかけて言ったの。

 

「俺のせいかもしれないが……一緒にいれたのは少しの間で、あまり何も話さずに傍にいるくらいだった。別れる時も、さよならと一言──それだけで。

 けれど、彼女はヒナタに会いたがっていた。満足はしていたはずだ」

 

「そうかな、ヒロト?」

 

「もちろん、きっと。彼女はそれだけ君の事を……愛していると、そう思うから」

 

 そう言われて何だか嬉しい気持ちになったの。

 

「もしそうなら、いいな。……きっと」

 

 少しでもそう思ってくれたらって、願ったんだ、私も。

 ヒロトは微笑んで頷いて。それからそっと私に寄り沿って、言ったの。

 

「けれど俺は負けないくらいに。それ以上にヒナタを愛している。

 それだけはきっと、誰にも譲れない。──俺は」

 

 私に向けてくれる、優しくて、強く見つめているヒロトの眼差し。

 

 

 

 ──きゅっと、胸の中に何か感じるものがあった。でも辛くて苦しいのとは違って、とても暖かくて心地良い感触で。

 私ははにかんだ顔になって、こたえたの。

 

「好きな人に、そう言って貰えるなんて。いい気持ちだね!」

 

「それに好きな人が、いると言うのも。こうした気持ちと……想いは、やっぱり俺の最高の宝物だ」 

 

 私たちは互いに気持ちを伝え合って。それからヒロトは、にっと眩しいくらい屈託のない笑顔を向けてくれて──

 

「おっと、おしゃべりも良いけれど……ピクニックも待ち遠しい。もうそろそろ、着く頃合いか。

 ──お腹もペコペコだ。ヒナタと二人で、俺に作ってくれたサンドウィッチも早く食べたいな」

 

 気さくな言葉に、私も明るくこたえるの。

 

「だね! ヒロト!」

 

 ピクニックが今日のデートのメインだもん。サンドウィッチだって、美味しく作ったんだから!

 

 

 

 ────

 

 いつもの、街の海辺にある遊歩道。

 道脇に広がる海と、その向こうに見える街並み。通りだって広くて木々や草原、広場もあって、半分公園みたいな所で。

 

「今日もここに、やって来れたね」

 

「リアルでは割と来る場所だな。ヒナタとも昔から二人で、ここには」

 

 並んで遊歩道を歩きながら、景色を眺めながらで言葉を交わす私たち。私と、ヒロトが暮らすこの街。海の先に見える、高層ビルが立ち並ぶ大都会。……改めて考えると、良い所に住んでいるんだね。

 

「よく来る場所だけど、いつ来ても良い場所だ。

 風も心地良いし景色だって。天気も快晴で、まさにピクニック日和で」

 

 そう言って、快晴の青空を仰ぎ見るヒロト。

 

「青い空に眩しい太陽、か。やっぱり心地が良い、とても」

 

「ポカポカだもんね。……今日こうして出かけられて、良かったね」

 

「幸運だったな。やっぱりピクニックは、こうじゃないと、それと──」

 

 ヒロトはにこやかな表情で、ある提案をしたの。

 

「──良かったらあそこで、ほんの少しだけ座って行かないか? 歩き続けて来たから休憩も出来ればと思うし、それに……改めて二人で眺めてみたい。ここから見える街景色を」

 

 

 

 

 そう言って示したのは、海辺近くにある空いたベンチ。私は彼と一緒に座って、景色を眺めるの。

 

「私たちの街。こうして座って眺めると、もっとよく見える感じがするんだ」

 

 ベンチに腰かけて目前に見える風景。風が強くないから、波も立ってない穏やかな海。それに海の先に並んでいる街で自慢の摩天楼。……見渡すと昔に建てられた赤レンガの倉庫に、等身大のガンダム──エールストライクガンダムの像も見えたりもするの。

 

 ──街の名所だよね。……この前のデートの時はあそこにも行って、それから──

 

「やっぱり、ここからの眺めは好きだ。俺たちが暮らして来た場所がよく見渡せる、場所で」

 

「高いビルの上とかでも見渡せるかもだけど、私もここの景色の方が……何だか好きなんだ」

 

 私は彼に呟いてから、こう話も続けるの。

 

「告白したのもこの場所だったよね。私の想いを、ヒロトに。それにヒロトも私に──好きだって言ってくれたから」

 

 この場所は……もう幾らか前に、ヒロトに告白した場所でもあるの。ずっと胸に秘めていた想いを、勇気を出して。ヒロトもその時の事を振り返るように── 

 

「今まで幼馴染として長い間ヒナタといて、言うのは遅くなったかもしれない。それでも俺は決める事が出来たから。本当に大切にしたい物が何か……自分でも」

 

「私もヒロトと同じ気持ちだよ。ずっと大切な、一番の人だもん」

 

 海辺のベンチに座っている私たち。それに、今は人が少なくてこっちを見ている人もいないみたいで。

 だから私はせっかくだからって、ある事を思ったの。それにね、ヒロトも考えていたのは同じだったみたいで……すぐ横に、私に身体を寄せて伝えてくれた。

 

「あのさ、ここに来れた記念に──構わないか? ヒナタとの気持ち、想いをもっと伝え合いたい」

 

 ヒロトからのそんな言葉に、嬉しさでつい顔をほころばせながら私はこたえたの。

 

「うん、しよう。……ヒロトとなら」

 

 私も同じように身体を近づけた。

 そうして、互いにくっつきそうな距離で顔を見合わせてから────私とヒロトは、口づけを交わしたの。

 

 

「ん──」

 

「──っ」

 

 

 そっと交わした、キス。触れたヒロトの唇は暖かくて、甘くて……何より優しい感覚で。

 

 ──今日のキスも、とっても優しい。ヒロトの温もりが感じられて、こんなに私を想って、愛してくれているのが分かるもん──

 

 唇越しに伝わる愛情。ヒロトも、私を求めてくれるように唇を付けているのを感じて、それが幸せだったりもするの。

 恋人になってからヒロトと何度もして、慣れもしたし互いにキスも上手にもなった。

 だけど、この心から満たされるこの幸せな気持ちは……いつだって私にとって、最高なんだ。

 

 

 今日はいつもより、長くキスで。二人で十分に気持ちを伝え合った後、それからゆっくり唇を離して、見つめ合って。

 

「……ヒナタ」 

 

 私を見て、ヒロトが見せてくれる嬉し気な笑顔。

 

「ありがとう。やっぱり俺には君が、ヒナタがいて欲しい。これからだって、こうして」

 

 そんな言葉と、笑顔で。私も今のヒロトと心は一緒なの。

 

「うん。私ならいつだっているよ。……居たいから、ヒロトと」

 

 今、こうして心が通い合っているって感じるから。

 それが幸せなんだって、私も負けないくらい笑顔で、ヒロトに応えたんだ。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ────

 

 そうして私とヒロトは良い場所を探して、ピクニックをすることにしたの。

 今日一番の、デートの目的。ヒロトと一緒にピクニックしようって……だもん。

 

「良い感じの所だね、ここ」

 

「この場所なら景色も良く見える。場所だって広いから、他の人の迷惑にもならない。それに日差しもポカポカ……だから」

 

 遊歩道の傍にある、横に広がっている草原がある場所。私たちはその草原の上でピクニックをすることに決めたの。

 

「この草原も暖かくて気持ちいいね。それにフカフカで、まるで緑のカーペットみたい!」

 

 草原の感触、心地が良くて私はつい思いっきり寝そべってみたの。

 

「っと! ヒナタ!?」

 

「ヒロトも、ちょっとこうしてみて。とても気持ちがいいから」

 

 私が促すとヒロトも草原の上で横に寝そべってみたの。それから心地よさそうにして、隣にいる私に顔を向けると……。

 

「……うん、とても良い気持ちだ。このまま二人でここで昼寝するのも、いいかもしれない」

 

「ふふっ、そうかも! ──だけどやっぱり、今日はヒロトとピクニックがしたいんだ。

 お昼寝するならその後がいいかも、でも……」

 

「でも?」

 

 気になる様子のヒロトに、リラックスした気分でこたえたの。

 

「ちょっとだけなら、こうしているのもいいかも。だってこんなに心地がいいから」

 

 さっきもベンチでゆっくりしてたのに、また草原でもゆっくりしちゃう感じで。でもせっかくだもん、いいよね。

 

 

 

 

 ──ほんの少し、草原でそうした後。いよいよ私たちはピクニックを始めたの。

 草原を汚さないようにシートを広げて、その上で座って、バスケットを開けてサンドウィッチを食べるんだ。

 たまごサンドにハムサンド、あとデザートに生クリームとフルーツの切り身を挟んだ、フルーツサンドもあるの。ヒロトとのピクニックだから、いろんな、美味しいサンドウィッチを頑張って作って来たんだ。

 

「美味しい。ヒナタが作ってくれた、サンドウィッチは」

 

 傍でサンドウィッチを頬張って、喜んでくれているヒロト。私が作ったサンドウィッチ、気に入ってくれて良かった。

 

「まだまだあるから、沢山食べよう。じゃあ私も……はむっ」

 

 自分でもサンドウィッチを一口、とても美味しい。我ながら良い出来だよね。

 

「今食べているツナサンドも、味わい深くて好きだ。ツナの味もよく出ていると言うか。とにかくこれも美味しい。──ヒナタが作ってくれるものなら、全部」

 

「褒められると、照れちゃうな。だけど私もヒロトにそう思ってもらえるように頑張って作ったから。

 ピクニック……二人で美味しいのを食べたいもんね、やっぱり」

 

 話しながら私もサンドウィッチを一切れ食べ終わって、今度はフルーツサンドを手にとって食べてみたの。

 

「うーん! フルーツサンドは初挑戦だったけど、この組み合わせも良いかも。甘酸っぱい味がやみつきだよ?」

 

 我ながら上出来かもって、得意げに顔を向けてみた。そんな私にヒロトも見つめて応えてくれて。

 

「そうして美味しそうに食べるヒナタも、俺は好きだ。

 サンドウィッチもそうだけれど、好きな人と一緒のピクニックはこんなに……幸せで一杯なんだって」

 

 私とのピクニック、彼がこう言ってくれて私も嬉しくなるんだ。

 

 ──やっぱり来て良かった、ピクニック。またヒロトと新しい思い出が出来たもん──

 

 ふっと、そんな暖かい思いが胸にこみ上げたの。こうして……ヒロトとの思い出。もちろんこれまでだって沢山あるの。

 

 ──この海沿いの道も、小さい頃から二人でよく来たよね。遊びに来たり、学校帰りの寄り道や。ヒロトと一緒にいた思い出が沢山なの。

 どれも大切な思い出。例えば──

 

「ヒナタ、今更かもしれないけれど」

 

 一人思い返していた所、ヒロトからの突然の言葉。はっとして、ちょっと驚いてしまったりもしたけど、私は顔を向けたの。

 

「あっ!? うん、どうかした……かな」

 

 ……あはは。思い出も良いけど、今だってヒロトと居れるんだから、こうして。ちゃんと今を大切にしないと。

 気を取り直して私はヒロトと向き合ったの。すると彼は、改まったような様子で、今は私だけに目を向けて話してくれた。 

 

「──俺の傍に居てくれた。

 この街で昔からずっと、一緒に。俺とヒナタは」 

 

 そう言ったヒロト。どうしてそんな事を言ったのか分からなかったけれど、微笑んで私はもちろんって、こたえたの。

 

「……うん、私たちはここで過ごして来たんだよ。

 ヒロトとは家が隣同士の幼馴染で、学校だってこの街の小学校から一緒で、二人で沢山の時間と思い出を過ごしたの。

 前にも同じような話をしたかもだけど」

 

 話していると懐かしい気持ちになって、こんな話を自然としてしまう。

 

「前にこの遊歩道で小さい頃よく遊びに来たって、学校帰りとかも何度もよく通った事も……前にヒロトに話した事があったよね。なら、この話は覚えてる?」

 

「──なんの話かな?」

 

 興味深々なヒロト。私は自分でもあの頃の事を思い出しながら、話すんだ。

 

「中学校の頃、工作の授業が学校であった帰りに……二人でここに寄り道した時、プレゼントしてくれたよね。工作で作ってくれた、貝殻の首飾り。

 せっかくだから私に作ったって、そう言ってくれて嬉しかったのも覚えているの。それにあの時貰ったネックレスも、今でも大切に持っているんだ」

 

「俺がヒナタに……そんな、プレゼントしたのか」

 

 ヒロトは驚いたみたいに、少し目を丸くした。

 

「うん。ヒロトとの思い出は全部、私にとって大切だもん。だからちゃんと覚えているから」

 

 自信たっぷりにそう答える私。ヒロトも優しい表情になったけど、でも、その後申し訳ないように目を伏せてしまって。

 

「でも俺は……それも、忘れていたのか。

 今までは気にしてもいなかった。けれどヒナタはそれだけ想っていたのに、俺は……忘れて」

 

 何だか思い詰めてしまっている彼。──真面目だから、そう思うのは分かるけど。

 

「大丈夫だよ。昔の事はなかなか覚えてないのが、普通だって思うから。うん……仕方ないよ」

 

 私はこう伝えた。ヒロトは今の言葉に思いを巡らせて、考えているみたいで。

 そして──何か決めたような感じで、彼は。

 

「あのさ、ヒナタ」

 

「ヒロト?」

 

「もしも良かったら──俺達の思い出も、こうしてまた振り返っていきたい。ヒナタと一緒に思い出話を沢山。一度忘れてしまった君との思い出の分も、全部思い出すくらい……今度は忘れないから。

 恋人になってからの新しい思い出と一緒に、全部。俺とヒナタの、ずっと大事な宝物にしたい」

 

 

 

 

 ふわり──。私たちの間に優しい風が吹いた感じがした。

 

「宝物──私と、ヒロトの」

 

 真っ直ぐ見つめて、答えを待っているヒロト。私はにこっと、今日一番の……幸せ一杯の笑顔で答えたの!

 

「もちろんだよ! 私もヒロトと過ごした思い出の話を、もっと出来ればって……思っていたんだ」

 

 私からの答えと、笑顔に。ヒロトも喜んでくれた──微笑み顔で返してくれたの。

 

 

 

 今、こうしていられる事。ヒロトと想いが繋がった……新しい、特別な絆で繋がれた事も。

 

 

 ……今、とても幸せなんだ。

 だけど、ね。これから先はもっと幸せになれるって、私は思っているの。

 ヒロトとなら……『大好き』だと想い合える二人でなら────きっと、どこまでも。

 

 


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