「『人形展』に行きたい?」
ある日の放課後のCiRCLEでのバイト中、天音は受付の仕事をしながらそう口に出す。
その言葉に頷いたのはRoseliaのキーボード担当である白金さんだ。
天音の言葉に白金さんが口を開く。
「はい……Roseliaの、衣装の参考にしたくて…それで……」
「いやまあ、それはわかったんですけど、何で私なんですか?」
「えっと…その日は皆予定があって……でも、一人だと…その…不安で……」
「それでメンバー以外で唯一の知り合いである私に声をかけてきた、と」
まあ引っ込み思案で気の小さい白金さんがいきなりクラスメイトとかを誘うのもなかなか難易度が高いだろうが、それでもこの余り物的な感じで声をかけられるのは少し複雑な気分である。
「迷惑…でしたか……?」
若干トゲのある言い方に白金さんは不安そうにそう聞いてくる。
天音はため息を吐いてから口を開いた。
「………別に迷惑なんかじゃないですよ。あまりにも珍しいから、つい勘繰ってしまっただけです」
「そうだったんですね………」
「ええ。ただその週はまだシフトが出てないので、今は何とも言えないですけど────」
「その日なら休んでもいいよー」
最後まで言い切る前に通りかかったまりなさんがそう言い放つ。
「天音ちゃんここ最近働き過ぎだし、良い機会だからお休み取って燐子ちゃんと一緒に行ってきなよー」
「……そんなに働き過ぎですか?」
「そりゃフル出勤してるからねー。ということでオーナーには私から言っておくから」
そう言ってオーナールームがある方へと歩き去っていくまりなさん。
その後ろ姿が見えなくなると、天音はため息を吐いてから口を開いた。
「……というわけで、その日は一緒に行けることになりましたので」
「ありがとう…ございます…!」
「いいですよ別に。それよりも、その人形展が開催される場所は何処ですか?」
「えっと…ここ、なんですけど……」
そう言ってスマホの画面を見せてくる白金さん。天音は白金さんのスマホの画面を覗き込み…………
「────ッ!!」
天音の表情が凍りついた。
何故なら人形展が開催される場所は────
………
……
…
数日が過ぎて日曜日。天音は外出着である加工済みフードの付いたパーカーとホットパンツ姿で駅前の広場にいた。その隣にはミクもいる。
『……天音、大丈夫? すごく顔色が悪い』
ミクが心配そうな口調でそう言ってくる。………いや、実際心配しているのだろう。それくらい今の天音の顔色は悪かった。
「……大丈夫、とは言えないね。可能性は無いに等しいけど、“アイツ”と出会す可能性だって否定できないし」
『それなら、今日は止めた方が────』
「それはしないよ。せっかく白金さんが誘ってくれたからね。白金さんを悲しませるわけにはいかないし」
弱々しくもミクに微笑みかける天音。さすがにここまで言われてしまったら何も言えないらしく、ミクは不承不承といった感じながらも黙り込んだ。
(“アイツ”は引きこもりだから家の外に出てくる可能性は皆無なはず……)
しかし、万が一にも“アイツ”と出会したら────
(……あーやめやめ。こんなことを考えるとロクなことにならん)
天音は頭に浮かんだ考えを振り払うと、フードの付け根の穴に髪を通してからフードを被る。
そしてスマホを弄りながら白金さんを待っていると────
「お待たせ…しました……!」
────清楚な服に身を包んだ白金さんが駆け足でこちらに寄ってきた。
「ん、私も今来たばかりなので大丈夫ですよ。それじゃあ行きましょうか」
「はい」
そう言って天音と白金さん(あとミク)は電車に乗り込む。
そして三駅ほど揺られて、三人は人形展が開催される美術館がある天音の地元へと降り立った。
(帰って、きたか………)
その事実に天音の心臓の鼓動が早くなる。心なしか、息苦しさも感じる。
「……? どうか、しましたか?」
「……いえ、なんでもないです。場所はわかるので案内しますよ」
首を傾げて聞いてくる白金さんに天音はそう返し、スタスタと歩き出す。
大丈夫だ。今日は”アイツ“に会いに来たわけじゃない。ただ付き添いで人形展を観に来ただけだ。だから恐れることなんて何も無い。
天音は自らにそう言い聞かせて歩き続ける。その姿を白金さんは不思議そうに、ミクは心配するように見てきていることを知りながら。
しばらく歩き続け地元でもかなり大きいスクランブル交差点へと差し掛かる。そこで信号が青になるのを待っていると────
「……白金さん?」
────ふと白金さんが後ろから声をかけられる。
後ろを向くと、そこには端正な顔立ちの髪の半分が青みがかった黒で、もう半分が淡い青色の髪の青年が立っていた。その青年は驚いたような表情で白金さんのことを見ている。
すると白金さんが急に驚いたような表情になって口を開いた。
「『冬弥』君…?」
「知り合い?」
「は、はい。幼い頃からのピアノコンクールでよく会いまして」
天音の言葉に白金さんがそう返してくる。どうやら幼い頃からの知り合いらしい。
すると『冬弥君』と呼ばれた青年が天音に気づいて、ペコリと頭を下げてきた。
「初めまして、『
「そうでしたか。私は宵崎天音と言います。白金さんとは学校が違いますけど、なんだかんだで仲良くさせてもらっています」
自分よりも頭ひとつ大きいから同い年か年上かと思ったが、意外にも後輩らしい。
しかし白金さんにこんなイケメンな知り合いがいたとは、なかなか隅におけない人物だ。
「ところで、白金さん達はこんな所で何をしてるんですか? 確か白金さん達は花咲川と羽丘の方だったはずですが………」
「実はRoselia……あ、私が今やってるガールズバンドなんですけど、それの衣装の参考にするために人形展を観に来たんです」
「Roselia……ああ、今話題になってるガールズバンドですね。白金さんもバンドをやってるんですね」
「……? もしかして、冬弥君も何かやってるんですか?」
「ええ、『Vivid BAD SQUAD』というストリートユニットを最近組みまして」
「そうだったんですね」
思い出話に花を咲かせる白金さんと青柳さん。普段内気な白金さんがここまで明るい表情で話すとは、それだけ彼のことを信頼しているのだろう。
「あ、そろそろ行かないと。この後仲間達と練習しなきゃいけないので」
「そうなんですか。……あ、よかったら連絡先交換しませんか?」
「いいですよ」
そう言って白金さんと青柳さんが連絡先を交換する。あとなんかついでに天音も青柳さんと連絡先を交換した。
「じゃあまた」
「はい。練習、頑張ってくださいね」
白金さんの言葉に青柳さんは微笑みを浮かべながらペコリと頭を下げ、その場から立ち去る。その後ろ姿を白金さんは嬉しそうに見ていた。
「好きなんですか? 彼のこと」
「は、はいっ!? い、いえ、違います!? 私と違って信念があるから尊敬してて、それで!?」
天音の言葉に白金さんは顔を真っ赤にしながらワタワタとそう返してくる。冗談半分で言ったつもりなのだが、この反応を見る限り意外と脈ありなのかもしれない。
「そ、それよりも早く行きましょう!」
誤魔化すようにそう言ってさっさと歩き出してしまう白金さん。天音は肩を竦めてからその後を追う。
しばらく歩き続け、天音達は人形展が開催されている博物館へと到着した。
「意外と広いんですね」
「そう…ですね……あと、ちょっと人が多い………」
周囲を見回しながらそうつぶやく天音と、意外と人が多いことに縮こまる白金さん。こんな調子で衣装の参考に見回るのは大丈夫なんだろうか?
「とりあえず見回りましょうか」
「は…い……」
天音の言葉に白金さんが頷くが、何気にきゅっとパーカーの裾を掴んでくる。そんなに人が怖いのか。
しかし実際に見回り始めると白金さんは真剣な表情で展示されている人形を見ては、そのイメージをメモ帳に書き込んでいく。集中している時は人混みが気にならないらしい。
ミクはミクで物珍しいのか、人形を覗き込むように見つめたりしている。
しばらく三人で見回っていたが、不意に天音は口を開く。
「ちょっとお手洗いに行ってきます」
「わかりました」
天音の言葉に真剣な表情のままメモ帳に書き込んでいる白金さんがそう返してくる。
天音は二人から離れると、案内表示に従ってお手洗いに向かう。
「………?」
しかしお手洗いの前に辿り着いた時、その場に蹲っている人物の姿が目に入った。
(あの制服は宮女の生徒か?)
呼吸が荒いことからどうやら体調不良らしい。さすがに見て見ぬふりをするのは気が引けてしまうので、天音は蹲っている人物に声をかけた。
「あの、大丈夫ですか?」
天音が声を掛けると、その人物がゆっくりとこちらを向く。紫色の長髪をポニーテールにまとめ、光の宿らない藍色の瞳の少女の顔を見て、天音は思わず口に出してしまった。
「────『まふゆ』ちゃん?」
「……天音ちゃん……?」
蹲っていた少女はかつての同級生である『朝比奈 まふゆ』だった。
「あ、えっと……」
「……まずは場所を移動しようか」
何か言いたげだったまふゆに天音はそう声をかける。その言葉にまふゆも頷き、二人は近くのベンチに移動する。
「……久しぶりだね」
「……そうだね」
天音の言葉にまふゆがそう返してくるが、その言葉は以前と違って
しかしいきなり核心をつくわけにもいかないので、適当な話題を振ることにする。
「……最近どう?」
「……わからない。何も感じないから」
「……そっか」
まふゆの言葉に天音はそう返す。
『わからない』、『何も感じない』……それらはおそらく本心なのだろう。何が彼女を追い詰めてしまったのかはなんとなく察しがつくが、今更自分がどうこう口を出せることではない。
「今日は一人で来てるの?」
「ううん。友達?と来てる」
「何故に疑問形?」
「よくわからないから」
「そう……それで、その友達って?」
「えっと『瑞希』と『絵名』と『奏』」
最後の人物の名に天音の理解が一瞬遅れる。
『奏』……? 今、『奏』と言ったのか?
じゃあ…今この場所に“アイツ”がいるというのか?
天音が震える声でまふゆに聞こうとしたとき────
「まふゆ……っ!?」
────まふゆを呼ぶ声が聞こえてきた。
その声は天音が今までによく聞き、誰よりも知っていて、そして最も忌々しい人のものだ。
天音がゆっくりと声のした方を向くと、そこには天音よりも頭ひとつ小さく、顔が瓜二つの銀髪の少女がいた。
「……え…あま、ね……?」
その少女は天音の顔を見て目を見開き、呆然とした表情になる。
その少女に天音は冷たく、それでいて憎しみの篭った声で言った。
「……久しぶりだね、
────そこに立っていたのは、宵崎天音の全てを狂わせた双子の姉『
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BAD END