────私にとって双子の姉さんは愛する人だった。
幼い頃に母親を亡くし、男手一つで育ててくれた父親も作曲の仕事で私と姉さんをなかなか構ってくれなかった。
だからなのだろうか、私と姉さんはお互いに寂しさを埋め合うように一緒にいることが多くなった。
そのうち私と姉さんは父親と同じく曲作りに興味を示し、父親を目標として作曲に励むようになった。そしてそれを父親に聴いてもらい褒めてくれるのが何よりの喜びだった。
………しかし、CMソングのコンペのために曲作りに苦戦していた父親に私と姉さんが作った曲を聴かせてしまったことで、私達は父親を強く傷つけてしまった。
その日から私と姉さんの関係は狂っていった。
姉さんは学校にも行かず部屋に引きこもっては取り憑かれたように曲を作り続け、私は自由時間を全て潰してあらゆるものを全て身に付けた。思えば、この時からまふゆちゃんの異変にも気付けなかったのかもしれない。
そして身に付けた私は姉さんの力になろうと、そのことを打ち明けた。
しかし、返ってきた言葉は────
『私に付き纏わないで!!』
────
何故姉さんは私を拒絶したのか、その当時はわからず私は姉さんをそっとしておくことしかできなかった。
それでもいつかは私のことを必要としてくれると信じて、私は今まで以上に努力した。
………だが、何度姉さんに声をかけても結果は同じ。そのうち私は『姉さんは私を必要としていない……?』と疑心暗鬼に陥るようになった。そんな考えを否定するように、私はさらに打ち込むようになった。
そんなある日のことだ。
何気なしにネットを開いた時、『正体不明の音楽サークル』というものがネット界を賑わせていることに気がついた。
気になった私はその音楽サークルが手掛けた音楽を聴いた──────聴いてしまった。
聴き間違えるはずがなかった。
その音楽は、間違いなく姉さんが作った音楽だった。でも音楽の歌詞や絵、MVは姉さんのものじゃない。
姉さんと姉さん以外の人達が作った音楽。
その瞬間、全てを理解してしまった。
──────
何で。
ナンデ。
なんで。
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
『いらっしゃい、天音。あなたが来るのをずっと待ってた』
気がつけば、私の目の前には灰色のセカイが広がっており、真っ白な住人がその赤と青の瞳をこちらに向けていた。
これが私と『無のセカイ』とその住人である初音ミクとの出逢いだった。
………
……
…
人形展が開催されている博物館。
その展示場に併設されているお手洗い前にて、天音は双子の姉である奏と対峙していた。
「…え…あま、ね……?」
奏は天音がここにいることが信じられないといった感じで目を見開き、震える声でそう言ってくる。
「……久しぶりだね、奏」
一方の天音は至って冷静だった。しかしその声は怒りや憎しみといったあらゆる負の感情が籠められている。会いたくなかった人とこうして会ってしまったのだから、そうなるのも仕方がないだろう。
「……? ……?」
まふゆはというと二人が双子の姉妹であることを知らなかったのか、戸惑ったように天音と奏を見ている。
「珍しいじゃん。いつも部屋に引き籠ってる奏がこんなところにいるなんて」
そんな言葉が口から出るが、天音にしては珍しく棘が含まれている。いや、相手が奏だからこそ言葉が刺々しくなっているのだろう。
「あ…えっと……『望月』さんに勧められて、それで………」
そんな天音の言葉を受けた奏は自分を拒絶した時とは思えないほど弱々しく返してくる。
なるほど、まさかこんなところでかつての後輩の一人の名を聞くとは。世間は自分が思っているよりもかなり狭いらしい。
「それで『お仲間さん』と一緒にここに来たわけ、と。随分な身の変わりようだね。昔のお前からは想像できないや」
………どうやらこうして奏と向かい合っているだけでもかなりのストレスらしい。口調がかなり攻撃的なものになってきている。
このままいけば間違いなく毒を吐くだろう。そんなことを言う資格など無いというのに。
白金さんには悪いが、早々にここから立ち去らねば。
そう思いその場から立ち去ろうとしたとき────
「っ! ま、待って!!」
────奏が立ち去ろうとした天音の手を掴もうと手を伸ばしてくる。しかし………
──────パシッ!──────
突然現れたミクが天音に伸ばそうとしていた手を奏の手を払った。
『天音に触らないで』
いつもの無機質なミクであるが、その声には明らかに怒りの感情が滲み出ていた。
「え…どうしてミクがここに………」
しかし奏は手を払われたことよりも、ここに初音ミクがいることに驚いていた。それも会ったことがあるような口ぶりで。
まふゆもまたミクの姿を見て目を見開いている。
(……ああ、こいつらも
一歌だけでなく、かつての幼馴染みと双子の姉までもがまたセカイに関わっている。そのことに表には出さないが複雑な感情を抱かずにはいられない天音。
「……ミク、行くよ」
『でも……』
「私は気にしてないから」
『………わかった』
天音の言葉にミクが渋々といった感じで挙げていた手を下げる。
そしてその場から立ち去ろうとしたとき、再び奏が声をかけてきた。
「……天音。あの時のこと、まだ怒ってる………?」
「……別に。怒ってないし、かといって許す気もない。お前は私じゃなくて顔も知らない人達を選んだ。それが事実だ」
天音は振り返ることなく奏にそう告げると、足早にその場から立ち去る。
そしてあらかた見終わったであろう白金さんと合流する。
「すみません、長くなってしまって」
「いえ…大丈夫です……?」
そこで白金さんが不意に首を傾げて聞いてきた。
「…どうかしましたか?」
「……なんでもないですよ」
一瞬ピクッと肩が跳ねるが、すぐに平常心を取り戻してそう返す。
そしてそのまま博物館を出ていった。
「…………」
その帰り道に天音はまふゆに一通のメールを送っておく。まあ見ようが見まいがどうでもいいのだが。
同じ道を歩いているだけのはずなのに、帰る足はまるで底無し沼に囚われているかのように重かった。
どのルートが見たい?
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友希那ルート
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奏ルート
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まふゆルート
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一歌ルート
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BAD END