────無のセカイ。何もかもが無意味で無価値、何も存在しないセカイ。
そんな救いが一切存在しないセカイに、このセカイを生み出した張本人である宵崎天音と、そのセカイの住人である初音ミクがいた。
「…………」
『…………』
二人は特に何かするわけでもなく天音は本を読み、ミクはあやとりをして遊んでいる。
今日は土曜日なため学校は休み、CiRCLEもこの前ライブイベントを開催したため本日は休業、天音も特にやることがなかったため、こうして無のセカイで暇をつぶしているわけである。
…………しかし、気になることが一つだけ。
「………ねえ、なんでここに湊がいんのさ?」
天音の言う通り、呼んだわけでもないのにどういうわけか湊友希那が無のセカイにいた。ご丁寧に小さな机と座布団も用意して。
「ミクさんにお願いして、私のスマホにも『Untitled』を入れてもらったのよ」
天音の言葉に湊がシレッとそう返してくる。曰く、『ずっと宵崎さんの音楽プレーヤーでセカイに行くわけにもいかないでしょ』とのこと。そもそもこのセカイに来る前提がおかしい。
「てか、あなたがここに来る理由なんてないでしょうが」
「来てはいけない理由もないでしょう?」
天音の言葉に湊は気にした様子もなくそう返してくる。この辺りの口の上手さはRoseliaのボーカル故なのかもしれない。
「私だってたまには誰にも邪魔されずに静かに過ごしたいものなのよ」
「それでこのセカイに来たわけと」
まあ現実世界にいれば嫌でも邪魔が入ってくる。それを考えれば天音とミク以外存在しない無のセカイなら誰にも邪魔されずに静かに過ごせる。…………これは信頼されているが故と言ってもいいのだろうか?
「………まあいいや。それで、このセカイに来てまであなたは何をやっているのさ?」
「………勉強よ」
天音の言葉に突然歯切れ悪くそう返してくる湊。
勉強…………ああ、この前の小テストの復習か。余裕で満点だったからすっかり忘れていた。湊は確かギリギリ赤点回避だったか。
「ギリギリの点数だとバンド活動に影響が出るかもしれないのよ」
「なるほど、それで予習復習をしていると」
まあこのままいけば湊は間違いなく補習組に入るだろうで、次の小テストでは絶対に好成績を取らなければならない。
『だったら自分の部屋でやればいいだろう』思ったが、湊なら自分の部屋でやっていれば気がついたら曲作りをしてましたということになりかねないので、何もないこのセカイでやることにしたのだろう。そう考えれば湊にしては良い判断だと言えるだろう。
天音はそれ以上口を開くことなく、再び本を読み始める。ミクはというと気がついたらいつのまにか八段はしごを作っていた。いつの間にそんな技を覚えたんだ。
そしてしばらくの間カリカリとシャーペンの音が響いていたが、その音が不意に鳴り止む。天音が本から顔を上げると、湊が難しい顔をして参考書を睨んでいた。
「………ちょっといいかしら?」
しばらく参考書を睨んでいた湊が不意に顔を上げて声をかけてくる。どうやら自力で解くことができないために天音の力を借りることにしたらしい。
「どこがわからんの?」
「えっと、ここなのだけれど………」
そう言って指し示した問題を見る。
確かにこの問題は一見すると難しい。しかし解き方さえわかればどうということはない。
「この問題はこの公式に問題の数字を当てはめれば解ける。やってみて」
「……あ、本当ね」
「他の問題もこの公式を使えば解けるから。またわからないところがあったら言って」
天音はそれだけ言うと、再び本を読み始める。湊は天音に教えてもらった通りに参考書の問題を解き始めた。
再び三人の間に沈黙が流れるが、不意に湊がシャーペンを走らせながら口を開き沈黙を破る。
「………燐子から聞いたわ。この前の人形展でお姉さんに会ったそうね」
「……よくわかったね。いや、あの状況なら嫌でもわかるか」
湊の言葉に天音は本のページをめくりながらそう返す。まああの状況で『赤の他人』というのは少々無理があるだろう。
「それで、どうだったの?」
「どうって何が?」
「その…ほら、あなたとお姉さんって……」
その言葉を聞いて天音は湊が言わんとすることを理解する。まあ天音からいろいろ聞いている湊がそのことが気になるのも無理はない。
「……別に、何もないよ。少し話をして終わっただけ」
天音は湊の方を向かずにそう言う。実際奏に対して言いたいこととか無かったので、少しの会話で終わっただけだ。
「………そうなのね」
湊もそれ以上は何も聞いてこず、参考書の問題を解いていく。
こうして三人は無のセカイでなんでもないただの一日を過ごしていった。
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BAD END