無のセカイの一匹狼と音を奏でる者たち   作:ユリゼン

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#14 見舞い

 長かった一日が終わり、自宅へと帰っている途中の天音。

 

 (………早く帰らないとミクがまたネギをつまみ食いするな)

 

 最近ミクは料理をやめさせた分、ミクはネギを生のままつまみ食いするようになってしまった。

 直接の影響はないのだが、かといって放っておくわけにもいかないので、天音は少し頭を悩ませていたりする。

 

 

 そんなわけで歩く足を早めていると、路地裏の方から何やら騒がしい声が聞こえてくる。

 気になった天音がこっそり覗き込んでみると、青みがかった銀髪のショートカットに同じく青い瞳の少女がガラの悪い不良二人組に絡まれていた。

 

 (あの子どう見ても中学生じゃん。中学生にナンパとか何考えてるの?)

 

 不良二人組の頭の悪さに呆れながらも、天音はこっそりと二人組の背後に忍び寄る。

 そして────

 

 「えいっ」

 

 ────使うかどうかもわからなかった首トンを不良の片割れに叩き込む。それにより首トンされた不良の片割れはそのまま気を失って倒れた。

 

 「な、なんだてめえ!?」

 

 突然片割れが気絶したことに動揺した不良が天音の存在に気がつくが、天音は答えることなく問答無用で不良の顎に拳を当てる。それによりもう片割れは脳震盪を起こし、その場に崩れ落ちた。

 

 不良二人組を華麗に片付けた天音は怯えている少女に声をかける。

 

 「大丈夫ですか?」

 「は…はい…大丈夫です……」

 

 少女は怯えながらも天音の言葉にそう返してくる。どうやら傷物にされずに済んだようだ。

 

 (見覚えのない制服………学区外の中学生?)

 

 少女が纏っている制服はこの辺りでは見かけない黒いセーラー服であった。おそらく羽丘と花咲川の外の学区の中学生だろう。

 そんな彼女がなぜここにいるのか疑問に思うが…………まあ、プライベートには首を突っ込むまい。

 

 「今日はもう遅い。駅まで送るから帰った方がいいですよ」

 「はい…ありがとうございます」

 

 俯きがちにそう返してくる少女を天音は帰宅がてら駅まで送り届けた。

 

 

………

……

 

 

 ある休日、天音はミクと共に駅へと向かっていた。

 今日は大切な日であり、地元に戻らなければならない。なので朝から出かけているのだ。

 

 「あら、宵崎さん。それにミクさんも」

 

 駅へと向かって歩いていると、途中で私服姿の湊とばったり出会した。

 

 「湊か。散歩か何か?」

 「ええ、今日は練習も何もないから。二人は何処かへお出かけ?」

 「まあそんなところかな」

 

 湊の言葉に天音はそう返す。すると湊が思いついたように口を開いた。

 

 「……私も二人についていってもいいかしら? 特に行きたいところもないわけだし」

 

 湊の言葉に天音は『ふむ……』と考える。今日は大切な日ではあるが、別段誰かがついてきても困ることはない。

 天音は確認がてらミクの方を向いて聞く。

 

 「ミクはどう?」

 『私は別に構わない』

 「そう。ならついてきてもいいわよ」

 「ありがとう」

 

 ミクに確認を取った天音は湊にそう言う。そして三人で駅に向かい、そこから電車に揺られて天音の地元である街に到着する。

 

 「ここが宵崎さんの地元なのね。意外と近いのね」

 「まあ行こうと思えば実家からでも行けるけど、定期券とかがバカにならないし」

 「そうなの。それで、今日は何処に行くの?」

 『ついてこればわかるよ』

 

 湊の言葉にミクが返す。そして三人はそのまま歩き続け、たどり着いたのはこの街で一番大きい総合病院だった。

 

 「ここって………」

 「父さんが入院してる病院」

 

 湊のつぶやきに答える天音。

 そう、今日は入院している父親の見舞いの日である。普段は地元に寄り付くことすらない天音だが、こういう大事な日だけは地元に帰ってくるのだ。

 

 「……ごめんなさい。私が軽率だったわ」

 「何に謝ってるのか知らないけど、別に謝ることでもないから」

 

 湊の言葉に『気にしていない』といった感じで返すと、天音はそのまま病院内に入る。そして受付で『見舞いに来た』ということを伝え、エレベーターに乗り込んで上の階に移動し、廊下を歩いて父親の病室まで来る。

 

 「私は入ってもいいのかしら………?」

 「いいよ別に」

 

 そう言って天音は父親の病室の扉を開ける。

 病室の中にあるベッドの上には父親が横たわっており、規則正しい呼吸をしながら眠っていた。

 

 「……………」

 

 天音と奏が犯した罪の証。

 天音と奏が償い続けなければならない罰。

 天音と奏が背負い続けなければならない十字架。

 

 ここで泣き叫べば目覚めるのだろうか?

 罪を告白すれば意識が戻るのだろうか?

 いっそのこと天音がこの世から消えてしまえば、また幸せな生活を取り戻すことができるのだろうか?

 

 (……アホらし)

 

 一瞬でもそう思ってしまった自分にため息を吐く。

 そんなことをしたところで父親の意識が戻らないことは自分が一番よくわかっている。

 本当ならこうして顔を合わせる資格もない。しかしそこまでヒトデナシではないので、せめてもの償いとして毎月見舞いに来ているのだ。

 

 「………帰ろう」

 「もういいの?」

 「ええ」

 

 湊の言葉にそう返し、天音は踵を返して病室を出ようと扉を開ける。

 

 そして、そこで予想外の人物と出会った。

 

 「────あ」

 「あ……?」

 

 病室の扉を開けると、そこには双子の姉の奏の姿があった。手に花束を持っていることから、どうやら奏も父親の見舞いに来たらしい。

 奏も天音がここにいるのが予想外だったらしく、目を見開いて驚いていた。

 

 「宵崎さん、そちらの方は?」

 

 すると奏のことを知らない湊がそう聞いてくる。それに対して天音は答えた。

 

 「私の双子の姉の奏。奏、こっちは私の今の同級生の湊友希那」

 「あ、えっと、宵崎奏です。いつも妹がお世話になってます」

 「いえ、私も宵崎……天音さんにお世話になってるわ」

 

 天音がお互いのことを紹介すると、奏と湊がそれぞれ挨拶する。初対面の印象は悪くないようだ。

 天音がそのまま立ち去ろうとしたとき、奏に背後から呼び止められた。

 

 「ま、待って!」

 「………何?」

 「えっと……もう、帰るの?」

 「用は済んだからね」

 

 奏の言葉にそれだけ返し、天音は二人を置いて病室を後にした。

 あれ以上奏と顔を合わせていたら、何かが噴き出してしまいそうだったから。

 

 

………

……

 

 

 (………また、謝れなかった)

 

 お父さんがいる病室から立ち去っていく妹の後ろ姿を、奏はただ見ていることしかできなかった。

 

 

 あの日、お父さんが倒れてから奏はただひたすらに曲を作り続けた。その際に今のニーゴのメンバー達と出会い、共に曲を作るようになった。

 

 ………でも、それと同時に奏と天音の間に決定的な溝ができてしまった。その理由は言うまでもなく、奏が天音のことを拒絶してしまったから。

 天音が奏のためにいろいろなことを身につけてくれたことは知っている。でも当時の奏にはそれを受け入れる余裕なんてなく、奏は天音を拒絶してしまった。

 その日から奏と天音の間に溝ができ、そして天音は奏に一言も言うことなく家から出ていってしまった。

 

 

 あの時のことを奏は天音に謝りたい。でもどのように謝ればいいのかわからない。

 だって、今の奏が何を言ったところで天音の心に届くことなんてないから。

 

 

 「……あの、大丈夫ですか?」

 

 不意に声をかけられる。声のした方を向くと、天音と一緒に来たという『湊 友希那』が心配そうにこちらを見ていた。天音と一緒にいるミクはすでに天音の後を追って立ち去っていた。

 

 「は、はい。……すみません、父の見舞いに来てもらって」

 「いえ、元を正せば私が天音さんに『ついていきたい』と言ったので………」

 

 奏の言葉にそう返してくる湊さん。それでもありがたいことには変わらない。

 それに少しだけホッと安心する。天音にお友達がいたのだから。

 

 「あの、普段の天音の様子はどうですか?」

 「そうですね……一言で言うなら『ひねくれ者』ですね。『自分の才能を生かすも殺すも自分次第』なんて言ってますから」

 

 奏の言葉に湊さんがそう返してくる。どうやら奏と仲違いして以来、身に付けた才能を他人に使うことを嫌っているようだ。

 

 「………そう、ですか」

 「ええ。でも、私は天音さんのことが気に入っていますので、いつか必ず私達のバンドに入ってもらいたいと思っています」

 「バンド……?」

 

 湊さんの言葉が気になった奏はふと湊さんに聞いた。

 

 「すみません、湊さんってバンドを組んでいるんですか?」

 「ええ、『Roselia』というガールズバンドのボーカルを務めています」

 

 その言葉に奏は驚く。

 Roseliaといえば今巷で話題になっているガールズバンドだ。メンバーのほとんどが高校生であるにも関わらず、そのレベルはプロに匹敵するほどである。

 

 そのボーカルの彼女が、まさか天音の友人だったとは………

 

 「奏さんも『25時、ナイトコードで。』という同人サークルを結成されているのですよね?」

 「!? どうして、それを………」

 「天音さんからいろいろと聞きました」

 

 奏の言葉に湊さんがそう返してくる。いろいろということは、奏が曲を作り続けることになったきっかけやニーゴの結成のことも聞いているのだろう。

 ………天音を拒絶したことも。

 

 「………ひどい姉ですよね。妹が私のために自分の時間を潰してまでいろいろなことを身につけてくれたのに、私はそれを拒絶してしまったんですから」

 「………わかりますよ、その気持ち」

 「え………?」

 「私も当初は自分の目的のためだけにメンバーを利用していただけでした。でも、ぶつかり合ってようやく分かり合うことができました。奏さんもいつかきっと天音さんと分かり合うことができますよ」

 

 不思議なことに、湊さんの言葉を聞いて奏は『分かり合うことができるかもしれない』と思った。今すぐにというわけではないが、いつかきっと天音と分かり合うことができ、あの時のことを謝ることができるかもしれないと、そう思った。

 

 「……そう、ですね。そうなるといいです」

 

 弱々しながらも奏はそう返す。

 そしてスマホを取り出して口を開いた。

 

 「………もしよかったら、連絡先を交換しませんか?」

 「ええ、いいですよ」

 

 そう言って湊さんもスマホを取り出す。そしてお互いに連絡先を交換した。

 ニーゴのメンバーと自宅に来てくれているお手伝いさん以外の連絡先を交換したのは彼女が初めてだ。そのことに奏は少し嬉しい気持ちになる。

 

 「では、私はこれで」

 「はい。ご迷惑ををおかけしますが、天音のことをよろしくお願いします」

 「わかりました」

 

 頭を下げてそう言う奏の言葉に、湊さんがそう返して病室前から立ち去っていく。

 不思議なことに湊さんと話したことで少しだけ気分が軽くなったような気がする。

 

 (何かあったら、私も湊さんの相談に乗ろう)

 

 そう決めた奏は病室の中に入っていった。

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