「ライブイベント、ですか?」
ある日のバイト中、いつものように受付でボケッとしていたら突然まりなさんからそう声をかけられる。
「そう。そもそもこのライブハウスはオーナーがこの辺りで活動しているガールズバンドを応援したくて作ったものなのは知ってるよね?」
「ええ、まあ」
「それで今度ガールズバンドを集めたイベントをやることになったの。参加資格は『ガールズバンドであること』。プロもアマチュアも問わないんだけど……」
「………ああ」
その言葉で察してしまう。
イベントを開催するにしても、肝心のバンドから応募が無ければ開催することなんてできない。しかも参加資格がガールズバンドのみだから、その幅はさらに狭まってしまう。
これが男女問わなければ多少は変わったのだろうが………
「ライブハウスの知名度もイマイチな状況じゃ、まあ当然なんだけど………」
「まあ私もここに引っ越してきてから初めて知ったぐらいですしね」
「うっ………ずいぶんと痛いところをついてくるね」
「事実を言ったまでです」
「………まあそれはともかくとして、オーナーからは『このイベントを成功させて、うちのライブハウスの目玉として今後続けていきたいから頼むよ!』って言われてるんだけど………」
「なんて無茶振りを………」
まりなさんの言葉に天音は呆れる他ない。
知名度もイマイチ、利用客もこの辺りのガールズバンドが2、3組程度の状況でライブイベントを開催など、無謀にも程がある。
「………とりあえずRoseliaやAfterglow辺りにでも声をかけときます。参加してくれるかどうかはわかりませんが」
「いやいや、その2組だけでもすごいから。というより天音ちゃんって何気にガールズバンドの知り合いが多くない?」
「まあ同じ学校ですしね。湊に至っては私をRoseliaのメンバーに引き込もうとしてきますし」
ため息まじりにそう返す天音。一体天音の何を気に入っているのだろうか?
まあそれはいいとして、とりあえず湊と美竹には参加できるかどうか声をかけておくとしよう。その他のガールズバンドは他のスタッフに任せることにする。本格的に準備が始まったらおそらく天音は一切手を離すことができなくなるだろうし。
「というわけで、先にあがります」
「はーい、お疲れ様ー」
まりなさんへの挨拶もそこそこに帰る支度をしてさっさとCiRCLEを出る。
すると何処かを彷徨いていたであろうミクがひょっこり姿を現した。
『あ、バイト終わったの?』
「まあね」
ミクの言葉にそう返して歩き出す。その途中でライブイベントを開催すること、そのためにガールズバンドを集めなければならないことをミクに話す。
「オーナーは簡単に言ってくれるけど、この辺りで活動してるガールズバンドなんて数が限られてくるし、日程が合うのかどうかもわからないんじゃ動くに動けないんだけど」
『大変だね』
「ほんとそうだよ。そもそも湊達が参加してくれるかどうかもわからんのに」
『友希那なら今セカイにいるよ』
天音の言葉にそう返してくるミク。どうも最近何かなくても湊は無のセカイに入り浸っていることが多くなってきたような気がする。
おかしい。セカイは持ち主が本当の想いに気づくための場所のはずなのに。いや、まあ天音は本当の想いに気づいていながら何もせずにただ入り浸っているだけなので、湊のことをとやかく言える立場ではないのだが。
「とりあえずセカイに行くしかないかぁ」
湊が無のセカイにいるというのなら、今から無のセカイに行けば湊に会えるということである。ならさっさと湊に会ってライブイベントに参加できるかどうか聞いた方がいいだろう。
とにもかくにも、天音は無のセカイに行くために自宅へと向かう足を早めた。
………
……
…
自宅に戻りカバンをベッドの上に放り投げてから、天音は音楽プレーヤーの中に入っている『Untitled』を起動する。
すると天音の視界が白く染まり、光が消えると天音は無のセカイにいた。
(さて、何処にいるのやら………)
同じ光景が永遠に続く無のセカイを歩いていると、いつものオブジェが乱立しているところに私服姿の湊がいた。
「あら、今日は珍しく遅かったのね」
天音に気がついた湊がこちらを向くなりそう言い放ってくる。天音はため息まじりに口を開いた。
「いや、ここは一応私のセカイなんだから。湊が当たり前のように来るのがおかしいから」
「いいじゃない、減るもんじゃないのだし」
天音の言葉も湊はどこ吹く風である。おそらく何を言っても湊がおとなしく聞き入れることはないだろう。
天音はため息を吐いてから本題に入ることにした。
「………まあいいや。それよりも湊に聞きたいことがあるんだけど」
「何かしら?」
「今度CiRCLEでライブイベントをやることになったんだけど、Roseliaは参加できる? 参加する気がないなら断ってくれてもいいんだけど」
「ああ、別に構わないわよ」
天音の言葉に湊は即答で了承する。これには天音も拍子抜けしてしまった。てっきり断られると思っていたのだから。
「どうかした? 変なことを言ったつもりはないのだけれど」
「あ、いや、てっきり断られると思ってたから、意外だなと思って」
「そうね、以前の私だったら断っていたわ。『私達の目指すものやレベルが違う』って」
「なら、どうして参加しようと?」
天音は疑問を口に出す。
先ほど湊が言った通り、Roseliaは頂点を目指して音楽活動をしている。それならRoseliaがこのライブイベントに参加するメリットが無い。
なのになぜこのライブイベントに参加するのを了承したのか、天音はそれが気になった。
「フフッ、内緒よ」
しかし湊は妖しく微笑むだけで答えようとしない。何かはぐらかされているような感じがするが、こういう時の湊は聞いても答えないことは経験済みである。
天音は聞き出すのを諦めて口を開いた。
「………じゃあ、Roseliaは参加ってことでいいんだね?」
「ええ。まりなさんによろしく伝えておいて」
「はいはい」
湊の言葉に天音は肩を竦めながらそう返す。
これによりRoseliaのライブイベントの参加が決まった。
………
……
…
Roseliaのライブイベントの参加が決まった次の日、天音は美竹がいる一年の教室へと向かっていた。
美竹達Afterglowは基本的にいろんなイベントに参加していると聞く。なら今回開催するライブイベントにも参加してくれるだろう。
とはいえそこは実際に聞いてみないとわからない。なのでこうして美竹がいる一年の教室へと向かっているのだ。
ちなみになぜリーダーの上原ではなく美竹に聞きに行くのかというと、単純な話美竹の方が話しやすいからである。
(にしても……なんかやけに視線を感じるんだけど)
そう思いながら廊下を歩く天音。
一年の教室が並ぶ廊下に来てからというもの、後輩達からの視線を感じる。それもやけに熱い視線だ。中には視線が合っただけでキャーキャー騒ぐ女子生徒もいる。
アレか? 天音がここにいることがそんなにマズイのか?
(……やば、なんか悲しくなってきた)
『あとでミクに慰めてもらおう』などとくだらないことを考えながら歩いていると、美竹がいるクラスの『1-A』に到着する。
「美竹さん、いる?」
「よ、宵崎先輩!?」
天音がノックもそこそこに教室を覗き込むと、そこには相変わらずボッチな美竹がいた。しかし美竹は天音の姿に気がつくと、なぜか驚いたような表情になる。そして突然立ち上がると、天音の手を掴んで教室を飛び出し、そのままいつもの屋上へと移動する。
「一体どうしたんですか!?」
「どうしたって、美竹さんに用があったから来たんだけど」
「いや、だったらメールとかでもいいじゃないですか!」
なぜかはわからないが、どうも美竹は天音に教室まで来てほしくなかったらしい。
しかしなぜ天音に教室まで来てほしくなかったのか、その理由がわからない。
「宵崎先輩は知らないと思いますけど、一年生の間では『憧れの先輩第一位』で有名なんですよ」
「………は? 冗談でしょ?」
「こんなことで冗談なんて言いませんよ………現に──」
そう言ってチラッと勝手口の方に視線を向ける。天音も追うようにして視線を向けると、そこには一年の女子生徒達が勝手口を少し開け、その隙間からこちらをジッと見つめていた。
「なんでまた私なんかに………」
「美人な上にミステリアスで、天才な上にそのことを鼻にかけないから、皆宵崎先輩に憧れてるんですよ」
美竹の言葉を聞いて頭が痛くなってくる天音。こっちは普通に生活してるだけなのに、なぜそんな芸能人紛いなことをされなきゃならんのだ。やるなら現役アイドルの氷川妹辺りにでもやってくれ。
「……私も宵崎先輩に憧れてるんですけど………」
「ん? なんて?」
「な、なんでもないです! それよりも一体何の用なんですか?」
美竹が小声で何か言ったようだが、聞き取れなかった上に食い気味で聞いてきたので、天音は本題に入ることにする。
「……CiRCLEで今度ライブイベントをやることになったんだけど、美竹さん達Afterglowって参加できる? できないなら無理に参加してくれなくてもいいんだけど」
「ああ、そのことですか。ひまり達にも聞いてみますけど、多分大丈夫だと思いますよ」
「ん、わかった。まりなさんに『参加できる』ってことを伝えておくね」
「はい、よろしくお願いします」
天音の言葉にペコリと頭を下げる美竹。こういうところは礼儀正しい。
まあいろいろとあったが、こうしてAfterglowの参加も決まったのだった。
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BAD END