無のセカイの一匹狼と音を奏でる者たち   作:ユリゼン

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#2 音楽

 羽丘女子学園に登校した天音だが、基本一匹狼である彼女は必要最低限しか誰かと一緒にはおらず、ほとんど一人でラノベを読んでいるか動画を見て過ごしている。

 一方ミクはというとふらっと教室を出ていっては、少ししたら教室に戻ってくるという行動を繰り返している。多分学校の中を探検しているのだろう。まあ人様に迷惑さえかけてくれなければいいので、天音はミクの行動に関しては放任主義である。

 

 そんなこんなで昼休みが訪れる。何故授業の場面を飛ばしたか? 特に書くことがないほど普通だからだ。

 

 天音は特等席でもある屋上の給水塔付近で購買で買ってきた弁当を食べる。その隣ではミクが図書館でちょろまかしてきたであろう本を読んでいた。

 

 「さっきまで何処に行ってたの?」

 『理科準備室。色々なものが置いてあった』

 

 天音の言葉にミクがそう返してくる。何故よりにもよってそんな魔境に行ったのか?

 

 「そう。まあ人様に迷惑をかけないよーに」

 

 そう言ってミクの口にだし巻き玉子を突っ込む。だし巻き玉子を突っ込まれたミクはそのままもぐもぐと咀嚼して飲み込んだ。その際若干表情が柔らかくなる。可愛い奴め。

 

 「あれ、宵崎先輩?」

 

 その時出入口から誰かの声が聞こえる。給水塔付近から顔を覗かせると、そこには赤いメッシュを入れたボブカットの少女がこちらを見上げていた。

 

 「誰かと思ったら不良娘か」

 「誰が不良ですか誰が」

 

 天音の言葉にムスッとした表情でそう返してくる不良娘こと『美竹 蘭(みたけ らん)』。彼女は幼馴染み五人で『Afterglow』というバンドを組んでいる。Roseliaが本格派ガールズバンドなら、Afterglowは王道ロック系ガールズバンドといったところか。

 

 「他の四人はどうした? 一緒じゃないの?」

 「つぐみは生徒会、巴はダンス部、モカとひまりは今日は別の友達と一緒です」

 「つまり美竹はボッチというわけか」

 「宵崎先輩と一緒にしないでください」

 

 失礼な。こっちはボッチじゃなくて一匹狼だ。その辺を勘違いしないでもらいたい。

 

 まあそんな冗談はともかく、天音は給水塔付近から美竹の隣へと飛び降りる。ミクも続いて軽やかに飛び降りたが、天音以外にはその姿が見えないので、ミクが天音の隣にいることにも美竹は気がついていない。

 

 そんなわけで天音は美竹と並んで弁当を食べ始める。

 

 「最近バンド活動はどう?」

 「まあ『いつも通り』ですよ」

 

 天音の言葉に美竹がそう返してくる。この『いつも通り』というのが彼女達Afterglowが掲げるものらしい。『たとえぶつかり合ったとしても、五人で一緒にバンド名を考えた日のことを思い出せますように』という願いも込められているのだとか。

 

 実に素晴らしい友情だ。少し羨ましくもある。願わくば彼女達が離れ離れにならないことを祈るのみだ。

 

 天音と姉がそうなってしまったかのように。

 

 「………お節介かもしれないけど、変化は絶対に訪れる。その時が来たら『受け入れること』も一つの選択肢だから」

 

 気がつけばポツリと言葉が漏れ出てしまっていた。

 しかし美竹は迷惑そうにするわけでもなく、素直に聞き入れていた。

 

 「……そうですね。もしその時が来たら皆で話し合って向き合います」

 「………珍しいじゃん、素直に聞き入れるなんて」

 「まあ、宵崎先輩には普段からお世話になってるんで」

 

 そっぽを向きながらそう返してくる美竹。こう素直であれば湊ともぶつかり合わないだろうに。

 

 「ちょっと待ってください。なんでそこで湊さんが出てくるんですか」

 「そのままの意味。美竹は不器用だし湊は言葉足らずだからぶつかり合うでしょうが」

 「ぬぐっ……」

 「ちなみに『美竹と湊はお似合いのカップル』ってここでは有名」

 「はぁっ!? 初耳なんですけど!?」

 「言い出しっぺは青葉である」

 「モカぁ………っ!!」

 

 天音の言葉に顔を真っ赤にして般若のような表情になった美竹は立ち上がり、ものすごい勢いで屋上から出ていく。おそらく青葉に仕返しでもするつもりなのだろう。

 

 

 ………しかし、天音には感じ取れていた。怒りの中に紛れて恥ずかしさ、そして嬉しさの『想い』が紛れていたことに。

 

 「……あの子達が『セカイ』に来ないことを祈るのみだ」

 『そうだね。『本当の想い』に気づくのは本人達の力だけがいいから』

 

 天音の言葉にミクが同意する。何もセカイで見つけた想いが全て良いものとは限らない。中には更なる絶望を叩きつけられることだってある。

 

 「……もしそうなりそうだったら、手助けの一つでもするさ」

 

 

 その言葉をかき消すように、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 

 

………

……

 

 

 今日も一日終わり、後は帰るだけ………とはいかない。

 一人暮らし(ミクもいるので実質二人暮らし)している以上、家賃やら生活費を確保する必要がある。なので天音は学校が終わったらそのままバイトに直行する。

 一応仕送りはあるのだが、それには手をつけずに貯金だけにしている。理由は『“あいつ”には頼りたくない』というつまらないプライドだ。

 

 そんなわけで天音はバイト先であるライブハウス『CiRCLE』へと訪れる。ミクはやることが無いので先に帰っている。

 

 「うーっす」

 「お、待ってたよ天音ちゃん!」

 

 やる気のない返事と共に中に入れば、受付にいた先輩スタッフの『月島 まりな』が笑顔で挨拶してくる。

 彼女はどうやって生活費を稼ごうか考えていた時に勧誘してきて、家庭の事情を話せば一人暮らしでも問題無いくらいの給料を出してもらえるようにオーナーに掛け合ってくれたりと、今では天音が唯一頭が上がらない人物である。

 

 「今日の予定は?」

 「特には無いかな。あっても飛び入りの練習とか」

 「要は『いつも通り』ってことですね。わかりました」

 

 天音はそれだけ言うとスタッフルームに入り、制服からバイト用の私服に着替える。そしてかかとに届きそうなほど長い髪をポニーテールにまとめ、スタッフルームから出る。

 といっても仕事内容は基本的にスタジオの受付か外に併設されているカフェの会計くらいなものだから、やることなんてほぼ無いに等しい。なので基本的には受付に陣取って適当に何かしているだけだ。

 

 そんなわけで音楽雑誌を読んでるまりなさんの隣で、天音はスマホを弄りながら時間を潰している。

 

 (……あ、また『25時、ナイトコードで(ニーゴ)』が動画出してる)

 

 『25時、ナイトコードで』は今話題になってる音楽サークルだ。メンバーの素性も目的も謎に包まれていることが逆にファンを魅了している。

 

 「………」

 

 ────しかし、天音はこのニーゴの作曲を担当している人物だけは知っている。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

 「こんにちは」

 

 天音がニーゴの動画を眺めていると、扉が開いて湊達『Roselia』が入ってきた。

 

 「いらっしゃい。今ならどのスタジオも空いてるから」

 「ならAスタジオを借りるわ」

 

 湊の言葉に天音は棚から鍵を取り出して湊に渡す。

 すると点けっぱなしにしていたスマホを、同じ学校に通う湊の幼馴染みであるベース担当の『今井(いまい) リサ』が覗き込んだ。

 

 「あ、これってニーゴの動画?」

 「そ。新曲出したみたい」

 「へー、そうなんだ。帰ったら見てみよっと」

 「ニーゴと言えば、最近また謎に包まれた動画投稿者が現れたらしいですよ」

 

 そう口を開いたのは花咲川女子学園に通うギター担当『氷川 紗夜(ひかわ さよ)』だ。

 

 「あ! あこ知ってます! 確か『OWN(オウン)』って言いましたよね!」

 「うん……作詞・作曲から動画の製作まで…全部一人で作っちゃう『天才クリエイター』だね…」

 

 Roseliaのドラム担当にして、唯一の中学生である『宇田川(うたがわ) あこ』がそう声を上げ、キーボード担当の『白金 燐子(しろかね りんこ)』が同意する。

 

 「OWN……『自分の』、もしくは『独り』を意味する単語か」

 

 

 その時、脳裏に姉が周りを自分すらも省みずに取り憑かれたように音楽を作り続ける姿、そして姉の力になりたいが為に全てを犠牲にしてあらゆるものを取り込む自分の姿が走る。

 もしかしたらOWNの正体は────

 

 「……いや、まさかな」

 

 それはあり得ないだろう。天音は言わずもがな、姉はあんなのだが自分一人で全てできるわけではない。それに天音は天音で()()姿()()()()()()、わざわざOWNを名乗る必要性が無い。

 

 「どうかした?」

 

 天音のつぶやきが聞こえてしまったのか、湊が首を傾げながらこちらを見てきている。

 

 「なんでもないから、さっさと練習していけ。駄弁るだけなら追い出すぞ」

 

 そう言って湊達をAスタジオへと追いやる。

 そして一息吐くと、スマホを弄ってOWNとやらの曲を聴いてみることにする。

 

 

 イヤホンから流れてきた音楽は────

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