無のセカイの一匹狼と音を奏でる者たち   作:ユリゼン

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#3 灰色のセカイ

 CiRCLEでのバイトを終えた帰り道。

 天音は学校で聴いたOWNの曲を思い返していた。

 

 「………すごかったな」

 

 正直、この一言に尽きる。

 OWNの曲は激しくありながら静かで、さながらこの世の全てを呪いながら何かを探し求めている、といった印象を受ける。

 

 はっきり言ってこれほどの才能を持った人物は他に見たことがない。下手をしたら“アイツ”以上の音楽の才能を持っているかもしれない。

 

 「………」

 

 あの音楽を聴いてからずっと身体が昂っていて落ち着かない。これは今夜は眠れるかどうか怪しい。

 

 「……久しぶりに作るか」

 

 そう心に決めていると、いつの間にか自宅に到着した。

 天音が玄関を開けて中に入ると、キッチンでミクがエプロンを着けて何か料理していた。

 

 『あ、おかえり』

 「ただいま。何作ってるの?」

 『ネギラーメン』

 

 ………相変わらずネギが好きだな。リアルネギ星人か。

 

 天音はカバンを机の上に置きブレザーを脱ぎ捨てると、ネクタイを緩めながら口を開いた。

 

 「明日、『セカイ』に行くから」

 『天音が来るなんて珍しい。何かあったの?』

 「別に何も。久しぶりに行こうと思っただけ」

 

 ミクの言葉に天音はそう返す。ほとんどその通りなので嘘は言っていない。

 

 天音はそのまま机の前に座ってボーッとしていたが、不意に口を開く。

 

 「………OWNって知ってる?」

 『オウン? ………聞いたことない』

 「そっか。いや、うん。別に大したことじゃないよ」

 『そう』

 

 それ以上ミクは何も聞いてこなかった。そこまで気になるものでもなかったらしい。

 

 

 

 そのままミクが作ったネギラーメンを食べたのだが、麺よりもネギの方の割合が多かったためにラーメンよりもネギを食べているようにしか感じなかった。

 

 

………

……

 

 

 湊友希那には気になる人がいる。それはもちろん恋愛としてではなく、興味を惹かれるという意味である。

 

 その人物の名は『宵崎 天音』。友希那の高校入学時からの同級生である。

 容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能と完璧超人でありながら、異様なまでに自己評価が低い卑屈な人。

 

 なぜ友希那がここまで気になるのかというと、彼女は友希那が今まで見てきた中でも音楽の才能がズバ抜けて高いのだ。もはや『天才』と言っても過言ではない。Roseliaの今ある全力を持ってして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それにも関わらず彼女はそれを『要らない才能』と言った。普段の友希那ならそれに怒りを感じていただろうが、彼女は心の底から本気でそう言っているように見えた。

 それだけの才能を持っていながら何故頑なに自分の才能を否定するのか、友希那は気になってしょうがなかった。

 

 そこで彼女のことを知ろうとRoseliaの六人目のメンバーに迎え入れようと何度も誘っているが、尽く断られてしまっている。それでも諦めるつもりは毛頭無いのだが。

 

 

 そんなわけで本日の授業が終わり、後は帰るだけとなった放課後。

 

 「いけない、忘れ物をしたわ」

 

 机に教科書を置きっぱなしにしていたことを思い出した友希那は、教科書を取るべく教室へと戻っていた。

 

 「………あら?」

 

 自分の机から教科書を回収して立ち去ろうとした時、友希那は宵崎さんの机に音楽プレーヤーが置きっぱなしになっているのを見つけた。まだ帰っていないのだろうか?

 

 「……そういえば宵崎さんってどんなジャンルを聴いているのかしら?」

 

 興味を惹かれた友希那は思わず宵崎さんの音楽プレーヤーを手に取る。そして入っている音楽を覗き見た。

 

 「……へえ、宵崎さんってこういうものを聴くのね」

 

 宵崎さんの音楽プレーヤーの中にはボーカロイドやゲームのサウンドトラックなどが入っていた。中にはRoseliaの曲も入っていたので、友希那の頬は緩んでしまう。

 

 その時、ふとある一曲が目に止まった。

 

 「『Untitled』……?」

 

 その曲には曲名が無く、画像も白いものだった。もしかしてダウンロードに失敗したものなのだろうか?

 

 ふと気になった友希那はその『Untitled』を再生してみる。

 しかし音楽プレーヤーからは一向に音楽が流れてくる気配はなく、ずっと無音が続いていた。

 

 「やっぱりダウンロードに失敗しただけのようね」

 

 そう結論づけて音楽プレーヤーの曲を止めようとしたとき────それは起こった。

 

 「!? 何、画面が────!?」

 

 突然音楽プレーヤーの画面が光ったかと思うと、次の瞬間友希那の視界は白い光で満たされ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつくと不思議な世界にいた。

 

 「ここは、何処なのかしら……?」

 

 そこはあたり一面灰色で、地面以外には何も存在しない世界だった。

 まるであらゆるものの存在を許さない、『無の世界』とでも言うべきだろうか。

 

 

 

 不意に背後から誰かが歩み寄ってくる足音が聞こえる。

 友希那が振り向くと、目の前に灰色のゴシック調の衣服に身を包み、白い髪をツインテールに纏めた、赤と青の瞳の少女が立っていた。

 

 「え………?」

 

 その少女を見て友希那は言葉を失う。

 それもそうだろう。多少の外見は違えど、この少女は友希那も知っているからだ。

 

 「なんで、()()()()()()()()()()()……?」

 

 そう、目の前に立っているのはボーカロイドの顔とも言うべきバーチャル・シンガー『初音ミク』そのものだ。

 

 『あなたは、誰?』

 

 目の前に立っている初音ミクは無機質でありながらも、まるで意思を持っているかのように友希那にそう聞いてくる。

 呆然としていた友希那だったが、すぐにハッとして口を開いた。

 

 「あ、えっと、Roseliaの湊友希那です。その、宵崎さんの音楽プレーヤーを聴いてたらここに………」

 『天音の知り合いなんだ。じゃあついてきて』

 

 思わず敬語になってしまったものの特に不審に思われた様子は無く、初音ミクはスタスタと歩き出す。ここが何処だかわからない以上一人でいても何もできないので、友希那は初音ミクの後を追って歩き出した。

 

 

 初音ミクの後を追って歩いていた友希那だったが、不意に口を開く。

 

 「あの、ここは何処なの?」

 『ここは『セカイ』と呼ばれる場所。このセカイを創り出した人が『本当の想い』に気づくための場所』

 

 友希那の質問に初音ミクは淡々と答えてくれるが、イマイチピンとこない。初音ミクもそれ以上は何も言わず、スタスタと歩き続ける。

 

 しばらく歩いていると、どこからともなくギターの音が聞こえてくる。彼女以外に誰がいるのだろうか?

 

 初音ミクの後を追って歩き続けていると、目の前に不思議なオブジェクトがあり、その下で宵崎さんがギターを弾いてはノートに書き込んでいた。

 

 『天音、湊さんが来た』

 「は……?」

 

 初音ミクの言葉にギターを弾いていた手を止め、宵崎さんが顔を上げる。そして友希那の姿を見ると眉を顰めた。

 

 「湊……? なんであなたがここにいるの?」

 「えっと、宵崎さんの机の上に音楽プレーヤーがあって、その中の『Untitled』っていう曲を聞いたらここにいたの」

 「………あー、そういえば置きっぱなしにしてたなぁ」

 

 友希那の言葉を聞いて思い出したようにつぶやく宵崎さん。

 今度は友希那が気になっていることを宵崎さんに聞いた。

 

 「宵崎さんはえっと、この『セカイ』って呼ばれてる場所で何してるの?」

 「見ての通りただギターを弾いてるだけ。才能はどうでもいいけど、私だって弾きたくなったら弾くから」

 「そうなの………もしよかったらここで聴いててもいい?」

 「どうぞご勝手に」

 

 友希那の言葉に宵崎さんは気にした様子もなくそう返してくる。一緒にいたはずの初音ミクは気がついたら姿を消していた。

 

 「ああ、気にしなくていいよ。普段からあっちこっちを歩き回ってる自由人だから」

 

 友希那に視線を向けることなくそう言ってくる宵崎さん。どうやら宵崎さんとあの初音ミクはお互いに気の知れた間柄らしい。

 

 そのことを少し羨ましく思う友希那だったが、それを顔に出さず適当なオブジェクトに腰を掛ける。

 

 すると宵崎さんがギターの演奏を始める。

 彼女の奏でる音色は不思議なもので、力強いと思ったら繊細なものへと変わり、激しくなったとおもったら優しいものへと変わる、まさに変化に富んでいた。

 

 (ここまでの腕を持っていながら、どうして宵崎さんは自分の才能を否定するのかしら?)

 

 そう疑問に思ったものの口には出さず、友希那はちょっとした演奏会に耳を傾けるのだった。

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