パスパレのエアバンド炎上事件から一週間ほど経過したが、氷川妹の話によればパスパレは良い方向に変化しつつあるらしい。
当初はプロデューサーに対して文句を言っていたが、『やってみなきゃわからない』とのことで触ったこともない楽器を一から猛特訓し、なんとか演奏できるレベルにまで持ってこれ、それを機に結成間もないアイドルグループが参加するイベントに参加することになったのだとか。
しかもチケット売りも自分達の手で行ったらしい。余程の信念が無ければできないことである。
もちろん氷川妹から『観に来てほしい』と言われたが、生憎その日は少し手が離せない仕事があったので断らせてもらった。罪悪感? そんなものはその辺に捨ててきた。
後日、SNS上でパスパレは前回からは想像できないほど好印象を受けていた。これも全て氷川妹達の努力の結果だろう。
そんなわけで休日、天音は散歩がてらミクと共に外に出ていた。
『今日は何処に行くの?』
「特には決まってない。気ままに歩き回るだけ」
『そっか』
天音の言葉にミクはそれだけ返す。
何も天音は休日は一日中引き籠ってるわけじゃない。もちろん音楽に関わることをしている時は一日中引き籠ることなど当たり前だが、そうじゃなければ天音だって家の外に出たりする。
(それに
そんなことを思いながら歩いていれば、ある公園の前に通りかかる。
天音はそのまま通り過ぎようとして────思わず足を止めてしまった。
「ふふっ♪ にゃーんちゃん♪」
公園の茂みのすぐ近くのベンチに青薔薇の歌姫こと湊がいるのだが………その表情はいつもの凛々しいものではなく、普段なら絶対に見ることはないほど緩みに緩みきっていた。
その理由は至って簡単、湊のそばには公園に住み着いているであろう野良猫が二、三匹ほどおり、湊が持ってきたであろう猫缶を食べていた。
湊が猫好きなのはなんとなく知っていたが、まさかここまで猫好きだったとは思いもしなかった。
「……………………」
『話しかけないの?』
「それって遠回しに私に『死ね』って言ってる?」
人は誰しも多かれ少なかれ秘密を持っているものである。そしてそれがバレた時、知ってしまった人を忘れさせようとするものである。それが他人に知られたくないものだったら尚更だ。
そして湊の場合は普段とこの時のギャップが大きすぎる。もし天音が今見ていることに気がつけば、湊は間違いなく天音に対して暴力で解決しようとしてくるだろう。
そんな湊に声をかけるほど天音は命知らずではない。
「いいから行くよ」
天音はそう言ってミクの手を引いてその場から離れていった。
………
……
…
公園での衝撃的な光景を目撃し、気づかれる前に逃げてきた天音とミク。気がつけば時刻はすでに12時を回っていた。
「どっかで昼ご飯でも食べるか」
『うん』
天音の言葉にミクが同意する。とはいえこの辺りにはファミレスかファーストフードのどちらかしかない。なので天音は手軽に食べれるファーストフードに決め、近場にあるハンバーガーショップへと訪れた。
店の中に入れば昼ということもあり、多くの人で賑わっている。天音はミクと共にレジに並んだ。
「いらっしゃいませー! ………って『あま姉』!?」
「うん?」
ものすごく聞き覚えのある声が目の前から聞こえたのでメニュー表から顔を上げると、そこには店の制服に身を包んだ黒髪の少女が驚いたようにこちらを見ていた。
「………『一歌』?」
その少女の顔を見て、天音は眉を顰める。
そこにいたのは天音の小、中学生時代の後輩である『
一歌は天音のことを『あま姉』と呼び、実の姉のように慕ってくる。天音もまた一歌のことを妹のように可愛がっていた。まさかこんなところで再会するとは………
「なんであなたがここにいるの?」
「えっと、この春からアルバイトを始めて、それで………」
「ああ、なるほどね」
「そ、それよりもご注文は何にしますか?」
若干食い気味に聞いてくる一歌に、天音は無難なチーズバーガーを注文する。そしてチーズバーガーを受け取り、空いている席に座って食べ始める。
黙々とチーズバーガーを食べていると、一歌が制服姿のままやってきた。
「仕事はいいの?」
「う、うん。休憩をもらったから」
「そう。私が言うのもおかしいけど、座ったら?」
天音がそう言うと、一歌は大人しく天音の目の前の席に座る。するとここで初めて天音の隣に座るミクの存在に気がついた。
「……え…ミク………?」
一歌の口ぶりはまるで
「一歌、あなたセカイに関わった?」
「ど、どうしてあま姉がセカイのことを知ってるの……?」
「別に不思議なことじゃないよ。私もセカイに関わってるから」
「なるほど………?」
天音の言葉に一歌は首を傾げながらそう返す。昔と変わらず素直な性格のままらしい。
天音はそれ以上は何も聞かずにチーズバーガーを食べ続ける。すると不意に一歌が口を開いた。
「……あま姉はさ、どうして引っ越しちゃったの?」
「………別に大したことじゃないよ。自分のために生きてみようと思ったから引っ越しただけ」
一瞬『姉といたくないから』と答えようと思ったが、それを言ってしまったら一歌に要らぬ心配をかけさせてしまうので、適当な理由を言う。
「そうだったんだ………」
幸い一歌は不信感を抱くことなくそう返してくる。上手いこと誤魔化すことができたらしい。
とはいえまた聞かれるのは避けたいところなので、天音は話題を変えることにした。
「一歌の方はどうなの? 今年から宮益坂女子学園の高等部なんでしょ?」
「うん、まだ上がったばかりだからなんとも………あ、でも今年から『咲希』が復学したの」
「天馬さんが? 体調の方は良くなったんだ」
天馬さんこと『
「うん……まあね」
しかし喜ばしいことのはずなのに、一歌の表情は暗い。何か悩み事でもあるのだろうか?
(もしかしてセカイと関わったのも幼馴染み絡みか?)
一歌が中学時代に幼馴染みとの人間関係で少しギクシャクしていることを天音は知っている。もしかしたらセカイと関わったのもそれが理由なのかもしれない。
とはいえほぼ無関係な天音が彼女達に口出しするのはお門違いだ。
天音は少し間を空けてから口を開いた。
「………あまり思い悩むのもダメだよ」
「え?」
「一歌は昔から少し遠慮するところがあるからさ、言いたいことがあるなら時にはガツンと言わなきゃ伝わらないこともあるってこと。私が言えるのはこれだけ」
そう言ってチーズバーガーを一口頬張る。一方の一歌はというとポカンとした表情で天音を見ていた。
そんな一歌に今まで黙っていたミクが口を開く。
『一人で全部抱え込まなくても大丈夫。あなたのセカイにいるミクが『本当の想い』を見つけられるように手伝ってくれるから』
「わ、わかった」
ミクの言葉に一歌が頷く。これなら天音が手を出さなくても大丈夫だろう。万が一一歌達のセカイのミクでも手に負えなくなったら、その時は天音がお節介を焼くことにしよう。
「じゃあ私達は帰るから、一歌もバイト頑張って」
チーズバーガーを食べ終わった天音はそう言ってプレートを持ちながら立ち上がる。
そして席から離れようとした時、後ろから一歌に声をかけられた。
「あ、あま姉………また、会えるよね……?」
「……絶対、とは言えない。でも、機会があったら会えるよ」
天音はそれだけ言うと、プレートをを片付けて店から出ていった。
………
……
…
宵崎天音が立ち去る後ろ姿を、星乃一歌はただ見ていることしかできなかった。
一歌にとって天音は実の姉のような人だ。一歌の幼馴染み達と共によく遊んだり、喧嘩した時に仲直りさせてくれたりと、すごくお世話になっていた。
それがいつからだろうか、段々と天音は
そして天音が中等部を卒業した時、天音は一歌達に何も言わずに地元から引っ越してしまった。
一歌にはそのことがショックで、さらには幼馴染み達とも少しイザコザがあったために、中等部の最後の年は暗い一年となっていた。
そして高等部に進学し、幼馴染み達との関係も修復し始めた最中、一歌はアルバイト先で偶然天音と再会した。
しかし再会した天音は自分が知っているかつての天音とは変わっていた。
なんというか、
さらには天音も一歌達と同じように『セカイに関わっている』と言った。
ミク達曰く、セカイは『本当の想いに気づくための場所』という。なら天音の『本当の想い』とは一体何だろうか?
知りたい。それと同時に
あの時、天音に一体何があったのか知りたい。
でも、それを知ってしまったら後悔してしまいそうで知りたくない。
(私は一体どうしたら………)
一歌は自分の無力さを嘆くのだった。
プロジェクトセカイより登場したのは一歌でした。
公式設定でファーストフードの店員のアルバイトをしているということなので、バイト先はガルパ内のファーストフード店にさせてもらいました。
そのためこの作品の一歌は彩と花音とは顔見知りです。ただし、バンドをやっていることはお互いに知りません。
どのルートが見たい?
-
友希那ルート
-
奏ルート
-
まふゆルート
-
一歌ルート
-
BAD END