無のセカイの一匹狼と音を奏でる者たち   作:ユリゼン

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#8 努力

 放課後の後のバイトの時間。

 現在CiRCLEではAスタジオを借りている『Afterglow』を除いて、他の練習客はいない。そのため暇を持て余していた天音は、マイノートパソコンを開いて、カタカタとキーボードを軽快に叩いていた。

 

 Afterglowの練習をBGMにノートパソコンを弄っていたが、不意に音楽が止む。どうやら今日の練習は終わったらしい。

 天音がノートパソコンを閉じると同時にAスタジオの扉が開く。しかし出てきたのは四人だけだった。

 

 「あれ、羽沢さんは?」

 

 天音がそう聞くと、Afterglowのリーダーである美竹が口を開いた。

 

 「……つぐみはもう少し残って練習していくそうです」

 「じゃあAスタジオは延長っと………てか大丈夫なの? あなた達が出るライブイベントってもうすぐでしょ?」

 

 美竹の言葉に天音はそう返す。

 彼女達は今度『ガルジャム』というライブイベントに参加する。そのためここ最近学校帰りに練習に来ているのだが、羽沢だけはさらに遅くまで残って練習しているのだ。

 おそらくは皆の足を引っ張りたくないがための練習なのだろうが、それにしては少し異常である。

 

 「ええ……まあ」

 

 さらに天音の言葉に対する美竹の返答もいつもより歯切れが悪い。表情も何処か思い詰めているように見える。

 まるで何か悩みを抱えているように、天音にはそう見える。

 

 (かといってここで聞いても皆の前だから多分言わないだろうし………)

 

 美竹は天音の前では素直に話すことが多いが、周囲に人がいる時は話そうとしない。それが幼馴染みの前だったら尚更だ。なのでここは大人しく引き下がることにする。

 

 「……外はもう暗くなってるから早く帰りな。羽沢は家まで私が送ってくから」

 「……わかりました。お願いします」

 

 天音の言葉に美竹がそう言って頭を下げる。そして残りの三人と一緒にCiRCLEを出ていった。

 四人が出ていってロビーが天音一人だけになると、再びAスタジオからキーボードの音が聞こえてくる。どうやら羽沢が練習を再会したらしい。それを聞きながら天音は再びノートパソコンを開いてキーボードを叩き始める。

 

 そこから一時間くらい経過しただろうか、キーボードの音が止んで羽沢がAスタジオから出てきた。

 

 「あ、宵崎先輩! ありがとうございました!」

 

 羽沢はそう言って受付にAスタジオの鍵を返してくる。

 

 「ん、お疲れ様。家まで送るからちょっと待ってて」

 「そんな! 大丈夫ですし、宵崎先輩に迷惑なんてかけられないですよ!」

 「いや、むしろ帰りに何か会った時の方が迷惑になるから」

 

 天音はそう言ってノートパソコンを閉じ、控室に入る。そして制服に着替えると、学校のカバンを持って控室から出た。

 

 「ほら、帰るよ」

 「……すみません」

 

 天音の言葉に羽沢が苦笑いしながらそう返してくる。

 そしてまだ残っていたまりなさんに挨拶してからCiRCLEを出た。

 

 二人で並んで夜道を歩く中、天音は羽沢に向かって口を開いた。

 

 「……羽沢、最近無茶しすぎなんじゃないの?」

 「いえ、大丈夫ですよ! 私は皆よりも遅れてるから、その分頑張らないと!」

 

 天音の言葉に羽沢がそう返してくる。

 確かに羽沢は生徒会に実家のカフェの手伝いをしている。それを考えると美竹達よりも遅れていると言えるだろう。その分を取り戻すために頑張っているのもわかる。

 

 しかし彼女の場合はそれが度が過ぎているのだ。努力家なのは良いことだが、逆に言えば融通が利かずに頑張り過ぎているとも言える。

 少しくらいは休んだって誰も文句は言わないだろうが………

 

 (といっても素直に聞くようなやつじゃないし)

 

 そう思い、天音はため息を漏らすのだった。

 

 

………

……

 

 

 今日も今日とて社畜は働き、学生は勉強をする平日の昼休み。

 特にやることもない天音が校舎内を適当に歩いていると、生徒会室の方から何やら騒がしい声が聞こえてきた。

 

 (何だ?)

 

 まだ春先ということもあり特にこれといった行事は無いはずだ。それに騒がしいといっても賑やかなものではなく、慌ただしいものである。

 気になった天音が生徒会室を覗き込むと────

 

 「あ、宵崎さん! 羽沢さんが倒れた!」

 「はぁ!?」

 

 三年生の先輩の言葉を聞いた天音は驚きの声を上げ、慌てて生徒会室の中に入る。

 すると天音の目に映ったのは青い顔をして床に倒れている羽沢の姿があった。

 

 「羽沢大丈夫!?」

 

 天音は倒れている羽沢に駆け寄り声をかけるが、羽沢からの返事は無い。しかし苦しんでいる様子は無いので、急病とかの可能性は低いだろう。

 

 (なら原因は過労か?)

 

 医者じゃないのでなんとも言えないが、少なくとも可能性はある。

 どちらにせよこのままにしておくわけにはいかない。天音はすぐに生徒会の役員に指示を出した。

 

 「職員室と保健室に行って先生に連絡して! あとスポーツドリンクと枕か何かを持ってきて! 早く!」

 

 天音がそう指示を飛ばすと、生徒会の役員達はようやく動き出す。

 しばらくして先生達が駆けつけ救急車を呼んだり、倒れた羽沢を楽な体勢にさせたりと対応し、駆けつけた救急車によって羽沢は病院へ搬送されていった。

 

 

 

 

 

 結論から言って、羽沢が倒れた原因はやはり過労だった。生徒会の激務に加え実家のカフェの手伝い、そしてバンドの練習と無理に無理を重ねた結果ついに身体に限界が訪れたようだ。

 そのためしばらくは絶対安静で入院することになったらしい。

 

 

 (見舞いにでも行こうかな)

 

 そう思った天音は放課後、早速羽沢が搬送された病院へと足を運ぶ。

 受付で羽沢がいる病室を聞き出し、エレベーターに乗って上の階に移動し廊下を歩く。そして羽沢がいる病室の前に到着すると、扉をノックした。

 

 「入るよ」

 「あ、宵崎先輩!」

 

 そう言いながら病室に入れば、病衣姿の羽沢がベッドの上で上半身を起こして本を読んでいた。

 

 「調子はどう?」

 「おかげさまでだいぶ良くなりました」

 「そう。それはよかった」

 

 羽沢の言葉を聞いた天音はそう言ってイスに腰掛ける。すると羽沢が口を開いた。

 

 「私が倒れちゃった時に宵崎先輩がいろいろと指示を出してくれたんですよね。すみません、ご迷惑をおかけしてしまって」

 「別に。他が動けてなかったから私が動いただけだから」

 

 羽沢の言葉に天音はそう返す。実際生徒会の役員達が慌ててただけで何もできていなかったために見てられなくなり、天音が動いただけだ。

 

 「………羽沢、厳しいことを言うけど自分の体調も管理できないようであればバンドをやっていくのは無理だよ」

 「…………っ」

 

 天音の容赦の無い言葉に羽沢は悔しそうに口を噛み締める。しかし事実として羽沢は過労で倒れているので、何も言い返すことができない。

 そんな羽沢に天音は言葉を続ける。

 

 「あなたが全部を両立させれるんだったらいいんだけど、全部を無理してやってまた倒れたら美竹達にも迷惑がかかるのはわかってるよね?」

 「………はい」

 「だったら今後どうしていくのかをしっかり考えなさい」

 

 そう言って天音はイスから立ち上がり、扉の方へと歩いていく。

 そして病室から出る前に口を開いた。

 

 「それと、さっさとあなた達の間の蟠りを無くしたら?」

 「えっ?!」

 

 天音の最後の一言に羽沢が驚いた声を上げてこちらを向いてくるが、天音は気にすることなく病室を出ていく。

 

 

 天音はAfterglowの空気が最近悪いことはなんとなく察していた。しかし一向に解決しようとしないのを見かねて、今回口出しすることにしたのだ。

 

 

 それに、羽沢を見ているとかつて“アイツ”の力になりたくて努力していた自分の姿を思い出す。

 しかし自分と彼女の決定的な違いは、羽沢は美竹達に必要とされていて、自分は“アイツ”に必要とされなかったことだ。

 

 

 

 ────だからこそ、天音は羽沢のことが()()()()()()。皆に必要とされている彼女のことが。

 

 

 (……羽沢に嫉妬したところで何かが変わるわけじゃないのに)

 

 羽沢に嫉妬している自分に対して嘲笑するようにそう思い、天音は病院から立ち去ったのだった。

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