────深夜、寝間着姿の天音は真剣な表情でマイノートパソコンの画面を見つめる。
カタカタとキーボードを軽快に叩く音が部屋に響く中、天音の視線がノートパソコンの画面から外れることはない。
「………よし」
そう一言だけつぶやいた天音は最後にキーボードのEnterキーを叩く。これにより天音が暇な時に行っていた作業が完了した。
「ふぅ………」
一息ついた天音はそっとノートパソコンを閉じる。そしてノートパソコンをしまってベッドに潜り込む。
『おやすみ、天音』
ベッドに腰掛けていたミクが優しい手つきで頭を撫でられ、天音の意識はゆっくりと暗闇に落ちていった。
………
……
…
現在、羽丘女子学園では『ある話題』で盛り上がっていた。
「ねえねえ、もう聴いた?」
「うん、聴いた」
「凄かったよね、アレ」
どの学年、どの教室、どのグループでも話題になるのは全て一つだけだった。
「………『JOKER』の曲、本当に凄いよね」
天才クリエイター、通称『JOKER』。
素性も、性別も、何もかもが謎に満ちた人物であり、唯一プロフィール画像が『道化師の仮面』であることから、皆から『JOKER』と呼ばれるようになった。
JOKERが作る曲は同じ天才クリエイター『OWN』と同系統である『アンダーグラウンド』だが、決定的に違うのはOWNは『この世の全てを呪いながらも何かを探し求めている』というものに対し、JOKERは『この世の全てを呪いながらもそれを受け入れている』という、真逆な方向性であることだ。
その悲壮感溢れる歌詞と音に、多くの人々は魅せられていた。
「────っ」
そして、友希那もまたJOKERの作る曲に魅せられた中の一人だった。
友希那はあまりボーカロイドやアンダーグラウンド系統の曲は聴かない方だが、JOKERの作った曲は全て聴いている。
今も席に座って一人でこの前アップされたJOKERの新曲を聴いているのだが、やはりその世界に引き込まれていた。
目の前に現れる困難や不幸に打ちのめされても尚進み続け、乗り越えようとする曲。しかし味方を変えると、それは別の人物の姿のことを言っており、
果たして、このことに気がついている人達は何人だろうか? そもそもこのことに気がついている人達はいるのだろうか?
だから友希那は凄いと思うと同時に、
ふと隣を向けば、宵崎さんは周囲のことを全く気にする様子もなく窓の外の風景を眺めていた。
(宵崎さん……)
実の父親を傷つけてしまい、力になりたかった双子の姉に拒絶され、自分の存在を『無意味で無価値』と決めつけてしまった少女。
宵崎さんと比べれば自分の音楽を否定された父親の無念を晴らそうとする自分がちっぽけな存在に思えてしまう。
しかし友希那はそれでも宵崎さんを六人目のメンバーとしてRoseliaに迎え入れたい。以前は『ただ宵崎さんのことが知りたいから』という理由だったが、今は『宵崎さんとも一緒に頂点を目指したい』という想いがある。だから友希那は宵崎さんをRoseliaに引き入れることを諦めていなかった。今日も放課後に彼女に声をかけるつもりでいる。
(それに言いたいこともあるし)
友希那がそう思うと同時にちょうどチャイムが鳴り、朝のHRの時間を告げる。
チャイムを聞いた友希那は担任の話を聞きながらも、頭の中では宵崎さんを引き入れるための方法をあれこれと考えていた。
………
……
…
真剣に考え事をしている時は時間が経つのは早いらしく、気がつけば放課後となっていた。他のクラスメイトは部活やら遊びに行くやらで教室から立ち去っており、教室には友希那一人だけが残っていた。
「宵崎さんは………」
そうつぶやきながら宵崎さんの席の方を向けば、机の上には以前と同じように音楽プレーヤーが置かれていた。どうやら『無のセカイ』に行っているようだ。
友希那はもう一度周囲に他のクラスメイトがいないことを確認すると、宵崎さんの音楽プレーヤーを手に取る。
そして『Untitled』を選択する。そして視界が一瞬白い光に満たされ────
友希那は『無のセカイ』へと訪れていた。
『あ、いらっしゃい』
友希那が『無のセカイ』に訪れると、このセカイの住人である初音ミクが出迎えるようにそう言ってくる。
「こんにちはミクさん。宵崎さんはいるかしら?」
『いるよ。ついてきて』
友希那の言葉にそう返して、ミクはスタスタと歩き始める。友希那もミクの後を追って歩き始めた。
しばらく歩き続けていると、以前と同じ場所に宵崎さんはいた。宵崎さんは以前のようにギターを弾いてはおらず、オブジェクトに腰掛けて本を読んでいた。
「……また来たの?」
足音に気がついた宵崎さんが顔を上げ、友希那の顔を見て呆れたようにそう言ってくる。
「ええ、来させてもらったわ」
「……まあ別にいいけど。ただし何もないからお菓子とかは我慢して」
そう言うなり宵崎さんは再び本を読み始める。
友希那は宵崎さんの隣に腰を下ろすと、口を開いた。
「……JOKERの新曲、聴いたわ」
「……そう」
「歌詞に込められた想いが、前に宵崎さんに聞いた時とそっくりなの。全く同じと言ってもいいわ」
「………たまたま似たような境遇の人が作っただけなんじゃないの?」
ここまで言っても宵崎さんはしらばっくれるつもりらしい。
なので友希那は単刀直入に切り込むことにした。
「……天才クリエイター『JOKER』は
「────」
その言葉に宵崎さんの本のページを捲る手が止まる。
しばらく友希那が黙って見つめ続けていると、やがて諦めたようにため息を吐いてから口を開いた。
「…………まさかあなたにバレるなんてね」
「ナメないで頂戴。私だって曲を作ったりするのよ? 人が作った曲の想いがわからないようじゃRoselia失格だわ」
宵崎さんの言葉に友希那はそう返す。とはいっても最初の方はJOKERの正体が宵崎さんだとはわからなかった。ただ、彼女の過去を聞いた上で曲を聴き直したことでJOKERの正体が宵崎さんであるという事実に辿り着いたのだ。
「でも、どうして曲を作ったりしているの? あんなに自分の才能を否定しているのに」
「別に大したことじゃないよ。『ただ作りたい』と思った、それだけのこと。そこに“アイツ”のように『誰かを救いたい』とか、『誰かを幸せにしたい』とか、そんな使命感は無い」
なんて否定しているが、友希那は宵崎さんが作った曲に籠められた本当の想いに気づいている。しかしそれを口にしたところでどうせ否定してくるだろうから、口にすることはないだろうが。
どちらにせよ、これでますます宵崎さんをRoseliaに引き入れたくなった。なんとしてでもRoseliaに引き入れなくては。
「宵崎さん、あなたに相談したいことがあるのだけれど」
「何?」
「今、新しい曲の歌詞を考えているの。でも少し行き詰まってしまって、参考までにあなたにも見てほしいの」
「………まあ、湊のお願いなら」
宵崎さんがそう言ったので、友希那は歌詞を書き込むメモ帳を取り出す。そして宵崎さんの意見を参考に新曲の歌詞を考えるのだった。
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BAD END