いつもの部屋に
いつもと変わりのない、ある晴れた日。
DJ姿のつよしが、手作りのお菓子や、お気に入りのレコードを抱えてうたの家に遊びに行った時のこと。
煤けたインターホンを押すと、住宅街の静寂に似合わない間抜けな音が家の中から鳴り響き、ばたばたと走る足音が聞こえてくると、やけに落ち込んだ様子のうたが出迎えてきた。
土曜日だというのに、昨日と全く変わりのない、着崩した制服姿で現れたうたは、つよしと目を合わせようとせず、ただ無言でつよしを家に上げ、二階にある自室へと迎えるのだった。
普段から物憂げなうただが、どうも普段とは様子が違う。
心配したつよしが何かあったのか尋ねるが、帰ってくるのは要領を得ない生返事のみ。
気まずくなって、部屋を見渡したつよしは、あることに気がついた。
そこら中にうたの服や靴下やらが落ち、稀に下着なども落ちていて、目のやりどころにも足の踏み場にも困る散らかった部屋だが、大量のCDやレコードの入った棚だけはよく整理されている。
ここまでは普段通りのうたの部屋なのだが、一つだけ普段と異なるところが会った。
西部劇にでも出てきそうな、かなり大きなラジオ台。
その上に、なみなみと水の入れられたマグカップが置かれ、今のうたの表情のようにしおれた、もとは綺麗な赤いバラがそこに挿されている。
うたが部屋に何かを飾る、ということがまずもってかなり珍しいことなのだが、それよりも、つよしはこのバラに既視感があった。
「もしかして、僕がさしあげた薔薇を飾っていてくれたのでございますか?」
と、食い気味でうたにそう聞くと、ハッとした表情でうたの返事を待たずに、王子様みたいな格好に早着替えする。
役と口調を間違えたのだ。
突然目の前で姿を変える奇行には特になにも反応せず、うたは、申し訳なさそうにうなずく。
「あのね、あたし、つよしくんに綺麗なお花をもらったから、折角だし飾ろうと思ったの。けど、あたし、お花のことなんにもわかんないから、すぐに枯れちゃった。ごめんね、つよしくん。」
今から三日ほど前。
学校の屋上で、観客一人のためのゲリラライブを行ったつよしは、その演出という名目で、うたに薔薇を手渡すことに成功した。
今まで幾度となく、うたに花を手渡そうとしたり、髪に花を差そうとしたりしてきたつよしだが、あまりにもへっぴり腰で不自然だったため、成功したためしはなかった。
しかし、ライブのイベントの一環としてならなんでも自然にできる、という発想に至ったつよしによって、とうとう、花をうたに手渡すことができたのだった。
つまり、つよしが初めて手渡すことができた花だった、ということもあり、それが枯れているのを見て、彼は多少なりともショックを受けた。
が、それだけだった。
つよしは、うたのことをよく知っている。
うたが、うた以外のことに集中することが難しいことも、それでも人からのプレゼントは大切にすることも知っている。
つよしは、赤い薔薇を持ち歩いている。
いつでも取り出せるように、と懐に忍ばせているのだが、今日ばっかりは、お菓子の入ったバケットに挿してあった。
手渡した花のことを、うたがいたく気に入っていたことを嬉しく思ったつよしは、今度は「お菓子の飾り付け」として花をプレゼントしようとしていたのだ。
「花はいつか枯れますが、僕の恋が枯れない限り、何度だってお届けするぜ、でございます。……今度は、枯れないように、お手伝いさせてもらうぜ。」
つよしは、自分のセリフに少し赤面した。