ようこそ実力至上主義の奉仕部へ 作:モーブラゼロ
「皆、聞いて欲しい。特に須藤君。」
前方を見ると、教壇に平田が立って皆の注目を集めている。
須藤は名指しされたせいか、不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「今日、僕たちはポイントを得られなかった。これは非常に大きな問題だと僕は思う。卒業までゼロポイントのままだなんて、嫌だろう?」
「そんなの絶対嫌!」
「私も! 女の子は大変なんだから……!」
「俺もだぜ!」
クラスメイトの同調の声に平田は強く頷き返す。
「だからこそ、来月からはポイントを得よう。そのためにはクラス皆で団結する必要がある。授業中の私語や遅刻、携帯の使用禁止。まずはこれを徹底して行こ「は? 何でお前に指示されなきゃならないんだよ! それにだ、ポイントはすぐに変わりはしないんだろ。なら意味は無いじゃねーか!」
須藤と平田の口論が始まる。俺はこの状況下でヘイトを集める事を省みず、堂々と自分の意見を話す須藤に、無意識のうちに親近感を覚えていた。
「でも須藤君。君の…いや、皆の協力がないとポイントは取得出来ないんだ。」
これは同調圧力だ。周りが須藤を敵視している。仮に協力する気になったとしても、これでは素直に頷けないだろう。
「……勝手にしろ。けど俺を巻き込むな。じゃあな。」
平田の説得は失敗した。須藤は一方的に別れを告げると、教室から姿を消した。
「須藤くんってほんとに空気読めないよね。あ〜最悪。須藤くんがこのクラスに居なかったら、少しくらいはポイント残ってたんじゃない?」
「あれでバスケのプロを目指してんでしょ? なれるわけないのにね。」
「何であんな奴と同じクラスに……。」
……言いたい放題にも程がある。そもそも須藤は居眠りこそ多かったが、授業中に騒いだりはほとんどしていない。むしろ、今陰口を叩いた奴らの方が授業進行に大迷惑だった。雪ノ下や由比ヶ浜も流石に今の陰口には信じられない様な顔をして仰天しているようだ。
それでも彼らは自分達の事を棚に上げ、須藤にヘイトを集まらせつつある。とても胸糞が悪い。負ける事に関しては俺が最強……雪ノ下や由比ヶ浜、一色を傷つけないために封印した昔の俺が、静かに顔を出そうとしている、自分の力ではそれを止められない…もし、止められるとしたら、それは……
「ヒッキー。ヒッキー!、駄目だからね。」
「どわっ!」
「比企谷君。貴方が無理に動く必要はないわ。今貴方を止めなければまた、傷つくやり方を取る。そうなってからでは遅いの。……ただ、どうしてもというのであれば、一度持ち帰って考えましょう。」
……俺には今も雪ノ下と由比ヶ浜が居る。彼女らはだけは俺の事を肯定してくれる。
「…分かった。その、ありがとな。」
彼女達の微笑みが、その答えだ。
「比企谷君。雪ノ下さん。由比ヶ浜さん。ちょっと良いかな。」
先程綾小路と堀北に話しかけた後、少し呆然としていた平田が俺達の前にやってきた。
「放課後、ポイントをどのように増やしていけば良いのか考える会議を開きたいと考えているんだ。三人には参加して貰いたい。どうかな?」
「悪いな。」
「ごめんなさい。」
「ごめんね。」
……一斉に出された拒否に、またもや平田は呆然とせざるを得なかった。
「えっと、理由を聞いても良いかな?」
「私達は放課後別の話し合いがあるの。それに私ははっきりと物事を言ってしまうから話し合いを壊してしまうの。ねぇ、由比ヶ浜さん。」
「う、うん。ゆきのんはそうだよね。クリスマスイベントの時なんか、かおりちゃん達の方唖然としていたし。」
「「由比ヶ浜(さん)が唖然と言う言葉を知っている!?」」
「ひどい!?」
「……少しの時間でもいいし、無理に発言しなくて良いんだ。ただその場で居るだけでも十分だから。」
「申し訳ないけれど、大して何も出来ない話し合いに参加はしたくないわ。時間の無駄よ。」
「で、でも、これは僕たちDクラスにとって最初の試練だと思う。だから、「私達は私達で話し合いをするの。後でその結果を伝えるという事でいいかしら。」
流石にこれは平田が哀れで仕方がない。
それでもめげずに彼は雪ノ下に気が変わったら参加してくれと伝えると、次の生徒に会議の参加を促しに去って行った。
「……ある意味行動力は葉山以上かもしれないな。」
「そうかもしれないわね。ただ、考え方は葉山君以上に固まり過ぎていると思うわ。」
「あの、みんな仲良くって奴か?」
「ええ、平田君は恐らく総合力で見れば葉山君を越すでしょうね。ただ過去に何かがあるのか、葉山君と同じように…いや、葉山君以上に皆を同じ輪に入れる事に固執している気がするわ。」
なるほど。む?過去?……
「……ヒッキー。ゆきのん。謝りたい事があるんだ。」
……今まで黙っていた由比ヶ浜が口を開いた。過去については少し気になるが、今はこっちが先だ。
「ゆきのんにはもう話したんだけどね、多分ヒッキーとゆきのんがDクラスに入れられちゃった原因って私だと思うんだ。」
「……どういう事だ?」
「ほら、実力ではかるって言ってたじゃん。せんせーが。だから、もしかしたら私が優秀じゃないから二人が一緒にDクラスになっちゃったんじゃないかなって。」
なんだそんな事か。
「それを言ったらもし、由比ヶ浜が居なければ俺や雪ノ下はクラスが離れてたぜ。なぁ、雪ノ下。」
「ええ、私と貴方が同じクラスになるなんて有り得なかったもの。むしろ、比企谷君が由比ヶ浜さんに感謝すべきよ。」
「いやなんでだよ。……まぁ、そういう事だ。三人一緒になれたのは由比ヶ浜のおかげだと思う。あまり気負うな。」
「…ヒッキー、ゆきのん、…ありがとう!!」
二年前とは違う、自分の意志を持った由比ヶ浜に思わず顔を綻ばせる。雪ノ下も、だらだらと顔が緩み切っている。
俺達は互いを信頼し合い、成長していく。
そして、慌てふためく彼等を
無意識のうちに嘲笑していた。
だが、自分達もまた驕っていた事に
この時の俺達は気づいていなかった。
「で、何なんですか、俺達を呼んだ理由って。」
放課後、雪ノ下達と寮に戻ろうとしたところ、綾小路と俺は茶柱先生に呼び出された。雪ノ下達に先に帰るよう伝え、綾小路と共に教室を出る。一瞬俺は部活の事だろうかと思ったが、綾小路は心当たりが無いらしい。MAXコーヒーを死んだ目をした綾小路に布教しながら職員室へ向かう途中、星乃宮先生に捕まる。綾小路をツンツン攻撃の犠牲にしていると、茶柱先生が星乃宮先生を追い払った。その後、職員室に入って以前部活の申請の時に使用した部屋に案内される。
部屋に入ると早速綾小路が本題に入るよう促した。
「それについてだが......二人ともこっちに来てくれないか?」
茶柱先生は指導室の中にあるドアを開く。
そこは給湯室になっていた。
「茶でも沸かせばいいんですかね? ほうじ茶でいいですか?」
「綾小路、俺にMAXコーヒーを頼む。」
「余計なことはしなくていい。後、ここにMAXコーヒーはない。……お前たちに許されているのは、私が出て来て良いと言うまでこの部屋で静かにしていることだ。勝手に出たり、騒いだりしたら問答無用で退学にする。いいな?」
茶柱先生は早口でそう捲し立てると給湯室を出てドアを閉めてしまう。訳が分からないまま、俺達は言われた通りに静かにしていた。しばらくすると指導室のドアが開く音がした。
「まぁ入ってくれ。それで私に話とは何だ? 堀北。」
堀北?どうしてここに?綾小路は眉をひそめている。
「…今朝、先生は優秀な人間から順にAクラスに選ばれたと言っていました。そしてDクラスは落ちこぼれが集まる最後の砦だと。」
「それは紛れもない事実だ。」
「…私は入学試験は殆ど解けたと自負していますし、面接でも大きなミスを犯した記憶はありません。……どうして私はDクラスに配属されたのでしょうか?」
堀北は自らが優秀で、入学試験でも確かな結果を残したという自負があるのだろう。…雪ノ下の姿が重なり、かつてのやり取りを思い出す。
そうこうしてるうちに堀北と茶柱先生は舌戦を展開し始めた。両者、一歩も引かない。そうすると今度は平塚先生との会話が頭に浮かんだ。平塚先生、結婚できたのかなぁ。…なんか寒気がする。これ以上はやめよう。
やがて、堀北が劣勢になり始めた。
「お前の学力が秀でていることは認めよう。だがな、学力に優れた者が優秀なクラスに入れると誰が決めた? 学校はそんなことは一度も言っていない。」
「っ!ですが!」
「確かに勉強が出来ることは一つのステータスだ。だがそれだけで上のクラスに配属されると思ったら大間違いだ。それに正当に評価されない状況を喜ぶ者はいないと決め付けるのは早計だな。Aクラスというのは学校からのプレッシャーや下のクラスからの妬みが強い。日々重いプレッシャーの中で生活するというのは存外大変なものだ。……それに、中には正当に評価されないことを良しとする者さえいる。」
「まさか、そんな人間がいるなんて信じられません。」
「そうか? 我がDクラスにもいるんだがね。低いレベルのクラスに割り当てられて喜んでいる変わり者がな。」
茶柱先生は含みのあることを言う。もしかしてそれって俺達の事か?
「説明になっていません。私がDクラスに配属されたのが事実かどうか。採点基準が間違っていないかどうか再度確認をお願いします。」
「残念だがお前がDクラスであることは揺るがざる事実だ。お前はDクラスになるべくしてなった。それだけだ。ただ、Aクラスにクラス全体で上がる事は可能かもしれんぞ。」
「DクラスがどうやってAクラスになれるというのですか!?」
「目指すだけならお前たちの自由だ。……それにしても、お前は何故Aクラスに上がることにそこまで拘る?」
「それは……。」
言いたくない事なんだろう、堀北は言葉に詰まった。
「言いたくなければそれでいい。話は終わりか?」
「…今日のところは失礼します。ですが、まだ納得していないことは覚えておいてください。」
そう言って椅子から立ち上がると、堀北は部屋を出て行こうとした。
「あぁ、少し待て。そういえば指導室にまだもう二人呼んでいたんだった。お前にも関わりがある人物だぞ。」
茶柱先生のその言葉に、堀北は大きく目を見開いた。
「!?まさか......兄さー」
「出て来い!綾小路、比企谷。」
予想外の人物の登場に堀北は戸惑っている。
「......二人とも聞いてたの?」
「聞こえてきた、が正解だけどな。」
「茶柱先生が黙って待機しろってな。」
「先生、何故このようなことを?」
堀北は大層お怒りのようだ。彼女からの恨みがましい視線に対して茶柱先生は至って涼しげに返答する。
「必要なことだと判断したまでだ。さて、いい加減お前たち二人を呼び出した訳を話そうか。」
「私はこれで失礼します。」
自分が居る意味はないと判断した堀北が部屋を出ようとする。
「まぁ待て堀北。聞いておいた方がお前のためにもなる。Aクラスに上がるためのヒントになるかもしれんぞ?」
「手短にお願いします。」
チョロい!堀北チョロい!チョロ北さんだよ!綾小路唖然としてるし。
先生は堀北が椅子に座りなおしたのを確認すると、早速本題に入った。
「さて、まずは綾小路からだ。随分と面白い奴だな。お前は。」
茶柱先生はそう言うと、ファイルから取り出した紙を数枚机に並べた。それらはこの学校の入学試験の問題だ。
「入試問題の結果は5教科全て50点。加えて今回の小テストでも同じく50点。これは一体どういう事だろうなぁ?」
「嘘……。」
……そんな事あり得るのか?入学試験は決して簡単ではなかった。もし点数を揃えるにしても相当な頭脳が必要だろう。偶然とは到底思えない。……何者なんだ、綾小路は。
しかし当の綾小路はなんてことはないと言いたげに肩をすくめた。
「偶然って怖いっスね。」
「ほう?あくまでも偶然全ての結果が50点になったと?意図的だろうに。」
「偶然ですよ。証拠は無いでしょう。そもそも、点数を操作して何の得があるんですか?」
はぐらかすような態度を取る綾小路。往生際が悪いぞ!
「憎たらしい生徒だなお前は……お前はどう思う?比企谷。」
茶柱先生は口を割らない綾小路に別路線から割らそうと思ったのか、今度は俺に話を振ってきた。答案を眺めていると、余りにも信じられない点に気が付く。
「正答率の低い問題を殆ど解答して、簡単な問題を間違ったり空白にしている。特に数学に関しては自分では訳が分からないような終盤の難問は出来ているのに序盤のが出来ていない。数学でこれは頭おかしい……。」
「たまたまですよ。別に実は天才だったとか、俺にそんな設定はないです。」
「どうだかな。私に言わせれば、お前は望んでDクラスに配属された稀な生徒。優秀であることを周りに悟らせたくないかのように見える。」
「買いかぶりですよ。俺はDになるべくしてなった。それでいいじゃないですかーー」
……何かがガラガラと崩れる音がした。
目の前のはなんだ。何者なんだ。
俺は奉仕部の一人一人ではまだしも、
三人集まれば負けるものはない、と思っていた。
しかし、目の前の綾小路という奴は
恐らく三人の力を越すだろう。
まずそれがとても恐ろしい。
そして何しろ一番に恐怖を抱くのは
綾小路の"目"だ。
入学式の時、他とは違った目をしているのには
気付いていた。
だが、未だにその無機質な目、
表情の奥を見る事が出来ない。
仮面かもしれない。
そう思い込もうとしても、
その目は嫌に澄んでいて
覗くこっちが飲み込まれそうだ。
今すぐここを出たい。
そう思う程に負ける事に耐性があった筈の俺は
凄まじい劣等感を感じていた。
「ふん、今はそういうことにしておこう。
では、次はお前だ比企谷。」
……どうやら逃してもらえないようだ。
はい、という訳で今回は無意識に他のクラスメイトを下に見始めていた奉仕部勢、そして綾小路の異常さを知り、人生で初めて劣等感を感じる八幡でした。元々このような展開はプロットにあり、無人島編で炸裂の予定でしたが、想像以上に八幡達のこき下ろしが暴走したため、中間テスト編にて解決する予定です。
また、城廻めぐりはテスト回の途中で登場予定です!